監禁イベントが発生した
高等部二年生になったアナスタシア達。
それと同時に、クロードとシルフィトも高等部に上がることとなる。
……のだが、内部進学にも試験があった。
進学が危ぶまれたクロードだったが、兄アナスタシオスと友シルフィトと執事ミステールの協力を得て、無事に進学を果たした。
ちなみに、シルフィトは内部進学組トップの成績で進学した。
流石、賢国の王子は違うな、と感心した。
そして、次に何が起こるかというと──。
「クロのお姉ちゃま、シルを許して」
シルフィトの監禁イベントである。
正直、クロードはすっかり忘れていた。
普段のシルフィトが『ヤンデレ』の『ヤ』の字もないような、少々生意気なだけの子供であったが故に、油断していた。
油断も隙もない。
敵にするのも味方に置いておくのも恐ろしい。
それがヤンデレである。
「シルフィト……どうしてこんなことを?」
アナスタシオスが問うと、シルフィトは語り出した。
「あのね。クロのお姉ちゃまが意地悪されるの、黙って見てられなくて……。お姉ちゃまはずっと、ずっとずっとずっと! 死ぬまで、ここにいると約束して。そうすれば、お姉ちゃまをあの女から守れる。クロのお姉ちゃまなら、わかってくれるよね……?」
前世、アニメで見たような、ヤンデレの恍惚とした笑みをシルフィトは見せる。
──ヤンデレの好感度を上げ過ぎて、監禁イベントが発生してしまったみたいだな。うん。それは理解出来る。が。
「なんで、おれまで!?」
監禁部屋には、何故かクロードも入れられてた。
「クロのお姉ちゃまが危険なら、クロも危険でしょ?」
「いやいやいや! おれには何の害もないって! 噂の標的はお姉様だけ!」
「言い切れないでしょ? 誰にも奪わせない。シルの唯一のライバル。シルが全ての悪意から守ってあげる」
「自分の身は自分で守れるから!」
「シルより賢くなってから言ってよ。ほら、クロの勉強道具も持ってきたから」
シルフィトは勉強机の上に羽ペンや教科書やノートなどの勉強道具一式を置いた。
「シルのライバルと呼ぶに相応しい学力を身につけてね」
「嫌だぁー!」
心からの叫びだった。
「何かあったらそこのベルで呼んで。じゃあ、また来るよ」
「待っ──!」
有無を言わさず扉が閉められ、扉の外からガチャガチャと複数の鍵を閉める音が聞こえる。
「なんてこった! 兄さんが監禁されたら、おれが救い出すっていうプランが完全に崩壊した!」
クロードは頭を抱えるしかなかった。
「つうか、ここ何処なんだ? シルフィトん家?」
「シルの別荘の地下……。別荘は勉強の邪魔が入らないように僻地に建てられていて、声を上げても無駄……」
「使用人は?」
「監禁部屋に顔を出すのはシルだけだ」
ゲームの容量の関係なのか、シルフィト以外、監禁部屋に訪れる描写はない。
「ほーん。じゃ、地上にはいるんだろうな」
「多分。シルは王族だから、いないなんてことはないと思う。でも、助けてくれるかあ? シルの家に仕えてるんだぞ?」
使用人は雇われの身。
雇い主には逆らえない。
王族に仕えているなら尚更だ。
「ああ、もう! どうしたら良いんだ!?」
「まあ、落ち着けよクロード。とりあえず、探索しねえ? 監禁部屋、一部屋じゃねえみてえだぜ?」
アナスタシオスはニヤリと笑いながら、扉を指差した。
「探検なんて何年振りだァ? わくわくすんなあ」
「この状況でわくわく出来るのは兄さんだけだろうな……」
クロードはため息をついた。
部屋は四部屋あった。
勉強机やソファなどが置かれた共用スペース。
大きな浴槽が完備されたシャワールーム。
広いトイレ。
キングサイズのベッドと様々な洋服が詰め込まれたクローゼットのあるベッドルーム。
「高級ホテルか?」
「豪華だなあ」
「こんな部屋、前世でも今世でも泊まったことないぞ……」
ゲームの背景の絵で見たときも「監禁部屋とは思えない煌びやかさだ」と思ったが、いざ閉じ込められてみると、全く違う感想を抱く。
「王族って凄い……」
「もっと凄えのはネズミっ子一匹通す気がねえってことだ」
アナスタシオスはシルフィトが鍵を閉めた扉をコンコンと叩く。
内部の扉とは違う堅牢な扉。
ここから出すつもりはない、という意志を強く感じる。
「地下だから窓もないし、換気口は小さ過ぎて通れないし……」
「もう一つ扉があんぞ」
「え?」
監禁部屋の一番端に、ポツンと一つ、扉があった。
「こんな扉、ゲームの背景には描かれてなかったはずだけど……」
「なんか真新しいし、最近取り付けられたみてえだな」
アナスタシオスが扉を開ける。
そこには上へと続く階段があった。
「おっ? 階段だ! 上に続いてる!」
「行ってみよう!」
二人は階段を駆け上がる。
階段に一番上につくと、部屋があった。
クロード達が上がってきた階段以外に他の部屋に続く通路はない。
部屋の真ん中には大きなベッドが一つ。
天井から光が差し込んでいる。
「眩しい……」
「天窓から空が見えるな。この部屋だけ地上に繋がってるってこった」
「なんで寝室が二つあるんだ……?」
「あれだ。姉と弟とはいえ、男女二人だから、寝室を分けたんだな。ゲームじゃ、主人公一人だったから、突貫工事で取り付けたとか」
「なるほどな」
アナスタシオスはベッドに倒れ込み、大の字に寝そべった。
「ありゃあ、届かねえわな」
そう言って、天を仰ぐしかなかった。




