ヒロインの目的とは?
アナスタシオスの寝室で行われる秘密のお茶会にて。
クロードが攻略対象に行なった聞き込みの情報をアナスタシオス達に共有した。
アナスタシオスは「ご苦労さん」とクロードに労いの言葉をかけた。
「レンコの奴、手当たり次第に攻略対象の好感度をあげようとしているみてえだな」
「やっぱり、そう思うよな……」
レンコはそれぞれの攻略対象に接触し、親密イベントを無理矢理進めようとしているように思えた。
「だけど、レンコの好感度は全員プラマイゼロ。上手くいってないみたいだね」
ミステールはティーカップに紅茶を淹れながら、そう言った。
「ミステールはレンコと攻略対象の好感度が見れるんだったな」
「僕はいつでも見れるよ。攻略対象であり、サポートキャラでもあるからね。お代を頂ければいつでも共有致しますよ」
ミステールは親指と人差し指をくっつけて丸を作り、金のポーズを取った。
クロードは呆れた顔をする。
「お前、最近ゼニファーに似てきたな……」
「商国の人間なのでね」
「双子だからだろ」
「そうかな? ……そうかも?」
クロードの言葉に、ミステールは嬉しそうに笑った。
「ミステール、お前に接触はないか?」
「避けることは簡単だけど。会わないのも可哀想だからね。会ってあげたよ」
それを聞いて、クロードは恐る恐る聞いた。
「ど、どうだった?」
ミステールは手で口を覆った。
「……あれは、危険だね。あまりにも非常識で無礼なんだけど……何故か、可愛らしいと思えてしまう」
「可愛らしい!? あれが!? 兄さんの方が余程良いだろ!?」
「不思議なことにね。どうしても憎めないんだ」
非常識で無礼だが、周囲の人間はそれを好意的に捉えてしまう。
不自然なほど、主人公に都合の良い状況。
クロードはそれを何と言うか知っていた。
「〝主人公補正〟って奴か……」
アナスタシオスが首を傾げる。
「なんだぁ? その〝主人公補正〟って。前世の言葉か?」
クロードは「そうだ」と頷いた。
「物語の主人公って異様に強かったり好かれたりすることが多いだろ? 前世ではそれを〝主人公補正〟って呼んでたんだ」
「つまり、主人公様は何をやっても許されるってことかぁ? 狡ぃな」
「主人公って大体そんなもんだぞ」
アナスタシオスは唇を前に突き出して、「狡ぃ、狡ぃ」と文句を垂れる。
──わかる……。主人公って狡いよな。
英雄の血を引いていたり、強い能力を持っていたり、友人に恵まれていたり……。
クロードも狡いと思うし、その分憧れた。
「ナーシャ坊ちゃんは彼女に会って何も感じませんでした?」
ミステールがアナスタシオスにそう尋ねる。
「俺ぇ? 俺は別に……」
アナスタシオスはハッと顔を上げた。
「いや、ちょっと待て。あれがもしかして……?」
「何かありましたか」
「あいつと話してると妙にイラついたっつうか……。だから、そんなつもりなかったのに煽っちまったんだよな」
その話を聞いて、クロードもハッとする。
「主人公に嫌がらせするように、シナリオの強制力が働いている……?」
その事実に、クロードは顔がサッと青くなる。
「つっても、我慢出来ない程じゃねえ。クロードの話を聞いてなきゃヤバかったかもなァ」
アナスタシオスはクッキーを齧った。
「しっかし、気付かない内に操られるってのは気分の良い話じゃねえな……」
「全く以って、その通りです」
ミステールは頷いて、アナスタシオスに同意する。
「主人公補正があるなら厄介だね。攻略対象達の好感度は今ところ上がってないけど、これからどうなるかわからない」
「好感度を上げない方法ってないのか……?」
「彼女が選択を間違えたら上がることはないけど、彼女はこの世界のことを知ってる。正しい選択をし続けるだろうね」
「ぐぬぬ……」
クロードは悔しそうに唸った。
「つうかよお、レンコは最終的に誰と結ばれる気なんだ? 六人の王子の中の誰か一人を選ぶんだろ?」
「多分そのはず。おれはシナリオの最後を知らないから、確定的なことは言えないけど」
「レンコの奴は誰を選ぶつもりなんだろうな。俺ぁ全く見当がつかねえんだけどよ。落とせそうな奴を探してるみたいで気色悪ぃぜ」
「誰目当てなのかわからないと、誰ルートの対策を取れば良いかわかんないよな……」
そこで、クロードはふと思い出し、ミステールに目を向けた。
「……なあ、ミステール? このゲームってさ、ハーレムエンドとかある?」
「『はーれむえんど』? 何だそりゃ」
「複数の攻略対象と結ばれるエンディングのことをそう言うんだ。女性一人に対して、男性複数人だと、逆ハーレムって呼ばれる」
「ぎゃくはーれむ……レンコが言ってた『ぎゃくはー』って、この略語か?」
「きっとそう」
クロードは再度ミステールに目を向ける。
「で、どうなんだ、ミステール?」
「はっきり言うけど、逆ハーレムエンドはないよ。攻略対象の内、好感度が一番高くて、重要イベントをこなした人物と結ばれる仕組みだ」
「じゃあ、六人の中から必ず一人に絞られるんだな。それが誰かは……」
「まだわからねえ、と」
アナスタシオスはごくごくと紅茶を飲み干した。
「まあ、レンコを邪魔をしないようにすれば、向こうも攻撃してこないだろ! アデヤが欲しけりゃくれてやるから、さっさと言えよな、レンコ!」
そう叫んで、空になったティーカップをソーサーの上に投げるように置いた。




