表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢♂〜彼は婚約破棄国外追放死亡の運命を回避しつつ、ヒロイン達へ復讐を目論む〜  作者: フオツグ
幼少期編 攻略対象達を攻略せよ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

27/79

シナリオの強制力

 クロードがアナスタシオスと学園の廊下を歩いていたとき、後ろから声をかけられた。


「ナーシャ姫、クロードの坊」


 振り返ると、長髪の少年ラヴィスマンがひらひらと手を振っていた。


「あら、ラヴィ様。ご機嫌よう」

「ご機嫌よう。聞いたぞ。何やら、商国の双子の仲を取り持ったとか……。あの二人の不仲は気になっておったから、本当に良かったのう」

「それはクロードが頑張ったおかげですのよ」

「いやいや!」


 クロードが慌てて口を挟む。


「お姉様がゼニファー王子にガツンと言ってくれたからだよ! お姉様のおかげ!」

「ミステールの心を動かしたのは貴方でしょう? 何でもかんでもわたくしのせいにしないの」


 言い合っている二人を見て、ラヴィスマンは「仲が良いのう」と微笑んだ。


「剣術大会でのシュラルドルフの暴走を止め、商国の双子のわだかまりをも解かした。その姿はまるで【博愛の聖女】のようじゃの」

「なっ……!」


【博愛の聖女】はゲームの主人公(ヒロイン)の二つ名だ。

 この世界では重役よりも重要な女の子。

 その子を殺害しようとした罪で、悪役令嬢アナスタシアは国外追放されてしまう。

──まさか、聖国の王子自ら話し出してくれるとはな。詳しく聞いておかなければ!


「……【博愛の聖女】って、愛により世界を救う女性のことですよね」

「よく知っておるのう、クロードの坊。すっかり忘れ去られておると思っておったぞ。ここ数十年、新しい聖女は現れておらんからの」

「あの。【博愛の聖女】って何なんですか? 愛により世界を救うって、一体どういうことなんですか?」


 クロードがそう聞くと、ラヴィスマンは目を伏せた。


「……【博愛の聖女】は世界の軸じゃ」

「軸……?」

「軸がなければ世界は回らぬ。この世界は聖女の愛で回っておるのじゃ」


 クロードは顎に指を当てて考える。

──プレイヤーがいなければ、ゲームは始まらないってことか? でも……。


「……聖女がいなくても、こうして世界が回ってるじゃないですか?」

「……おるぞ」

「え?」


 ラヴィスマンはフッと笑った。


「聖国の王妃……それが、今の世界を回している【博愛の聖女】じゃ」

「聖国の王妃が……!?」

「見たことはないじゃろうて。聖国の王族はなかなか姿を現さぬ」


 アナスタシオスは「そういえば」と思い出したように言った。


「ラヴィ先輩も最初は身分を秘匿しておりましたわね」

「そなた達には秘密に出来なかったがのう」


 ラヴィスマンは笑った。


「次に目にかかれるのは、新しい【博愛の聖女】誕生のときじゃろうな」

「それっていつです?」

「さあのう。今の軸が外れてからじゃろうか」

「軸が外れる……それって」


 ラヴィスマンは微笑むだけで、それ以上は言わなかった。

──もしかして、前の【博愛の聖女】である聖国の王妃が亡くなって……新しい聖女が現れるのか?

 「軸が外れる」というラヴィスマンの発言と、意味深な笑みは、暗にそうだと言っているようだった。

──だとしたら、聖国の王妃の命を救えば、兄さんが【博愛の聖女】をいじめることはなくなるのでは!?

 死因は他殺か、事故か、病気か。

 把握する必要がある。


「あの! 聖国の王妃様は今どうされているんですか? お元気ですか?」


 クロードがそう聞くと、先程まで笑っていたラヴィスマンの目が一気に冷え切る。


「……何故、そんなことを聞くのじゃ?」

「え? えと、【博愛の聖女】のことをもっとよく知りたくて……」

「ただの好奇心か。……まあ、良いじゃろう」


──なんか、変なこと聞いたか……?

 ラヴィスマンは悲しそうに目を伏せる。


「……彼女は老衰しておってな。外には出て来れぬのじゃ。しかし、【博愛の聖女】は確かに存在しておるよ」

「老……衰……」


 それは、抗えない死である。

 いくら治癒能力を持つ聖国の者でも、老衰は治せない。

 つまり、新しい【博愛の聖女】の誕生は免れない。

──大丈夫。シナリオ通りになんかにさせない。運命は少しずつ、変わってるんだから……。


「──アナスタシア嬢、クロード殿!」


 ゼニファーがバタバタと三人の元に駆け寄ってきた。


「ゼニファー王子、どうしたんです? そんなに急いで……」

「大変です! アデヤ様が──!」


 ゼニファーの話を聞いて、クロードは顔から血の気が引くのを感じた。


 □


 クロードとアナスタシオスは保健室へと飛び込んだ。

 保健室の白いベッドにアデヤが座っていた。


「殿下……! 怪我をなさったと!?」


 アナスタシオスはアデヤに駆け寄る。


「いやあ。ははは。醜いところを見せてすまないね」


 クロードはアデヤの腕に巻かれた包帯を見て、更に顔色を青くした。

──そんな、まさか、あの傷の位置は……!

 それは、剣術大会でシュラルドルフに負わされるはずの傷の位置だった。


「……すまない」


 ベッドの横にいたシュラルドルフが、アデヤに向かって頭を下げた。


「気にすることじゃないさ、シュラルド。あれは避けようのない事故だったし。君を庇ったのは僕の意思さ」


 アデヤはからからと笑う。


「……あの、一体、何があったんですか」


 クロードが震える声でそう聞く。


「剣が飛んできたんだ」

「剣が……?」

「そう、シュラルド目掛けて飛んできてね。どうやら、廊下で剣術の訓練をしていた生徒がいたらしくてね。剣が手からすっぽ抜けたんだって」


 アデヤはへらへらと、能天気に笑う。


「僕はシュラルドを庇って、この通り、負傷してしまったのさ」

「そんな……偶然がある訳……」


 クロードの手が震えた。


「その傷、かなり深そうですけれど。日常生活に支障はありますの?」


 アナスタシオスが尋ねる。


「生活する分には問題ない。ただ……」

「『ただ』?」

「……剣はもう振れないだろうと」

「そん、な……」


 クロードは呆然と、アデヤの傷を見つめることしかできなかった。


「……本当に、すまない」


 シュラルドルフはただただ謝る。

 これで、シナリオ通りになった。

 アデヤはシュラルドルフのせいで、剣を握れなくなる。

 シュラルドルフはそのことに後ろめたさを感じて、疎遠になる。

 そして、断罪イベントの際、アデヤを救うことに尽力する……。

──これが、シナリオの強制力……。

 クロードは暫くその場から動けなかった。


 その様子を、アナスタシオスはじっと見つめていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ