望んだ未来になった……のか?
商国から帰ってきて早々に、クロードはミステールを自室に呼び出した。
人払いを済ませ、部屋で二人きりになると、毒殺未遂の真実をミステールに打ち明けた。
「嘘……?」
「ああ。ゼニファーが毒を盛ったという話は嘘だった」
ミステールは肩をすくめて笑う。
「……そんなはずはないよ。あのティーカップには絶対……」
「お前がシナリオ通りになるんだと、思い込んだからじゃないのか」
ミステールはすっと笑みを消す。
「あの防音室に呼び出して、二人きりで話したいなんて、僕を毒殺するイベントとしか考えられない」
「シナリオ上ではそうだったかもしれない。でももう、シナリオから大分外れてるだろ」
「それは……」
「〝アナスタシア〟は周囲に当たり散らしたりしないし、シュラルドルフがアデヤを怪我させることもなかっただろ」
クロードがそう言うと、ミステールは黙りこくった。
──世界は変わりつつあることを、ミステールは認めたくないんだろう……。
ミステールは今まで、未来視──シナリオの知識を頼りに生きてきた。
シナリオから外れた瞬間、今までわかっていた未来がわからなくなる。
誰だって、これからどうなるかわからないのは不安になるものだ。
──だからといって、ゼニファーの本当の気持ちから、目を逸らして貰っちゃ困る。
「ゼニファーは『ミステールに危険を知らせ、避難させたかっただだけだ』と言ってたぞ」
「嘘だ……。だって、僕を逃すだけなら、もっと良い方法があったはずだろう?」
「それは……」
確かにそうだ。
しかし、それには理由があると、クロードは思っている。
「……多分、シナリオの強制力が働いたんだと思う」
「シナリオの強制力だって?」
「アデヤが剣術大会出場を辞退したのにも関わらず、シュラルドルフは暴走しただろ? この世界は、ある程度、シナリオをなぞるように進もうとするのかもしれない」
今回の件もそうだ。
ミステールの「シナリオ通りに進むだろう」という異常な思い込みと、ゼニファーの不用意な発言。
特に、後者のゼニファーの発言は明らかにおかしい。
ゼニファーは「ミステールとの関係を改善したい」と言っていた。
そのはずなのに、「毒を盛った」と嘘をつくなんて、いくらミステールを避難させたかったとはいえ、矛盾している。
「第一、ゼニファーが何を言ってもお前は取り合わなかったんだろう? だから、荒療治に出るしかなかったんだ。きっと」
「……向こうも同じさ。僕がいくら『大丈夫だ』って言っても『ここは危険だ。避難しろ』の一点張りだった」
「お前に死んで欲しくなかったからだよ。お前はゲーム本編まで何があっても死なないことを知ってるから、ドンと構えていたんだろうけど。知らない人から見ると、危機感がないって思うだろ」
──おれも立場が同じだから、ゼニファーの気持ちがわかるなあ。
双子の兄弟のミステールを生かしたい片割れのゼニファー。
兄のアナスタシオスを生かしたい弟のクロード。
兄弟を助けたいと思う気持ちは同じだ。
「もう一度、ゼニファーとよく話してみろよ。ゼニファーの好きなマカロンでも手土産にしてさ」
「……そんな機会、もうないよ。僕はもう平民、ゼニファーは王族だ。身分が違う。向こうも僕と話したくないだろうし」
「そんなこと……」
話の途中で、コンコン、と扉をノックする音が聞こえた。
続いて、メイばあやの声が聞こえてくる。
「お話の最中すみません。少しよろしいですか?」
ミステールは椅子から腰を上げた。
「ああ、良いよ、メイさん。たった今、話が終わったところさ」
「ミステール、まだ話は──」
ミステールはクロードの言葉を待たずに、部屋の扉を開けた。
メイばあやが扉の前にいた。
彼女はミステールの顔を見て、優しく微笑んだ。
「ミステールさん、お客様ですよ」
「僕に?」
メイばあやの後ろにミステールと同じ顔をした少年が立っていた。
ゼニファーだ。
ミステールはギョッとして、一歩足を引いた。
「ぜ、ゼニファー……!?」
「や、やあ、ミステール。久しぶりだな。息災だったか?」
ゼニファーがぎこちなく挨拶する。
ミステールはばつが悪そうに顔を逸らした。
クロードはそんな二人を見て、思わず笑みが溢れた。
「ゼニファー王子、ミステール、おれ達は席を外します。どうぞ二人でゆっくり話して下さい」
クロードはそう言って、メイばあやを連れて部屋を離れた。
その後、二人がどんな話をしていたのかはわからない。
ただ、話を終えて部屋から出てきた二人が、何処かすっきりとした顔をしていて、良い話が出来たのだろうとは予想出来た。
ゼニファーは王位を継承することを決めたらしい。
「商国は私に任せて下さい」
去り際、ミステールに笑顔でそう言っていた。
ミステールは国に帰らず、フィラウティア家の執事見習いのままとなった。
たまに、ゼニファーが会いに来る。
そのとき、ミステールが何か助言をしてるらしい。
「望み通り、『二人で手を取り合って』……って感じだな」
──ミステールが大分楽してる感じもなくはないけど……。
ミステールに何か叱りつけるメイばあやと、楽しそうに追いかけっこをしているミステールを見ながら、クロードはそう思った。




