双子として生まれた二人
ミステールがフィラウティア家の執事見習いになってから数日後。
アナスタシオスとクロードはゼニファーに招待され、商国に来ていた。
話はおそらくミステールのことだろう。
兄にはミステールの事情を話してある。
ゲームの世界であることは伏せ、毒殺未遂があったことだけを伝えた。
だから、アナスタシオスも呼ばれた理由はわかっている。
「お招き頂きありがとうございます、ゼニファー王子」
軽く挨拶をした後、ゼニファーに促され、二人は椅子に腰掛ける。
「まず始めに。この部屋は防音設備が整えられています。我々が話さない限り、外部に漏れることはありません」
──つまり、他言無用、ということか。
クロードとアナスタシオスはそう理解して、「わかりました」と頷いた。
それを見て、ゼニファーも頷く。
「アナスタシア嬢、クロード殿」
次に彼は頭を下げた。
「ミステールを保護して下さってありがとうございます」
クロードは目を丸くした。
「え……保護? それってどういうことですか?」
「……貴女方には多大なる迷惑をお掛けしています。全てを、お話しなければなりませんね」
そう言って、ゼニファーは語り出した。
商国には、二人の王子がいる。
先見の眼を持つ奔放な第一王子、ミステール・ウィッシュ・プラグマ。
突出した能力はないが、国の将来を憂う第二王子、ゼニファー・ホープ・プラグマ。
二人は一卵性の双子であり、歳の差も外見の差もほとんどない。
いつからか、ミステールを次期王に推す派閥と、ゼニファーを次期王に推す派閥に分かれていた。
「最近、ゼニファー派の者が過激な手段を取るようになりました。そのことは、ミステールも気づいていたはず。なのに、あいつは……何もしなかった」
ミステールはゲームの重要人物だ。
ゲームが始まる前に死ぬことはないと、高を括っていたんだろう。
しかし、それはこの世界がゲームだと知っていない人にとって、危機感が薄いと思われても仕方がない。
「だから、口外されることのないこの部屋で、話をしました」
□
「『二人きりで話したい』……しかもこの防音部屋でなんて、随分と情熱的だな。ゼニファー?」
ミステールはニヤニヤと笑った。
「私の話を聞いてくれ、ミステール! ゼニファー派の人間が不審な動きをしているんだ! 今直ぐ避難してくれ!」
「地獄へか?」
「はぐらかさないでくれ! 私は真剣なんだ! 君には未来が見えてるんだろう!? ゼニファー派の人間が君を殺そうとしている!」
「……君は、そんなことを素直に言う人間じゃあないだろう」
ミステールはティーカップを煽る。
そして、目を細めた。
──……なんだ?
ミステールはティーカップをそっと置いた。
「毒を盛ったな?」
「……え?」
「未来が見えた。君がこの紅茶に毒を盛った」
──ミステールが未来を見誤った? いや、でも……この勘違いは利用出来る。
ゼニファーは直感的にそう思い、ごくりと唾を飲み込んだ。
「──そうだ。私が毒を盛った」
嘘をついた。
ここも、安全な場所ではないことを知らせるために。
「……そうか」
ミステールは立ち上がる。
「君の望み通りにしてやる。僕は王位継承権を放棄する」
「……え?」
「さようなら。次期王ゼニファー・ホープ・プラグマ。僕の知らないところでお幸せに」
□
「私は王位なんていらない。ミステールを一時的に避難させたかっただけでした」
ゼニファーは頭を抱えた。
「それがまさか、王位継承権を放棄するなんて!」
「ちょ、ちょっと待って下さい! ゼニファー王子はミステール王子に毒を盛ってなかったってことですか……?」
「当たり前だ! ミステールは不気味だけど、嫌いだった訳じゃない! 大人達は私達を会わせないようにしていた。でも、私は……いつか、二人手を取り合って、我が国の民を救うと信じていた!」
真に迫るゼニファーの姿に、クロードは意見する。
「ならば、その話を直接すべきです! 今直ぐ、ミステールに!」
「……もう、良いのです」
「え……?」
「私はあいつに毒を盛る未来があったのでしょう。そして、私が彼に毒を盛るような人間だと思われていた」
ゼニファーは悲しげに目を伏せる。
「『二人手を取り合って』なんて、所詮、私の妄想にすぎなかったのです」
──運命を……変える。それを一番信じていなかったのは、ミステール自身だったんじゃないか。
クロードは落胆した。
ミステールはシナリオを知っていたのに、運命を変えなかったことに。
「妄想ではありませんわ」
アナスタシオスが口を開いた。
「……アナスタシア嬢?」
「わたくしは、ミステール王子の姿を初めて見ましたわ。初めて見た彼は、執事見習いの仕事を楽しそうにしていました。メイド長に時折怒られもしていましたね」
「……あいつが怒られるなんて、想像も出来ません。あいつには未来が見える。怒られる未来は避けられるはず……」
「彼は預言者を辞めたのでしょう」
「どうして……?」
「それは、貴方がよく知っているのでは?」
生まれたときから財政難で、王族であるのに苦しい生活をしていた。
周りの大人達は双子の兄弟に会うことのを良しとせず、引き離した。
息苦しい王族の生活。
──ミステールもそう考えていたとしたら?
「何かと理由をつけ、王位争いから逃れたかったのか……?」
アナスタシオスはため息をついた。
「……王族のことは、男爵令嬢のわたくしにはわかりません」
そう接続して、続けた。
「この部屋での話は、話さなければ誰にも伝わらない。貴方が毒を盛ったことも、貴方がそれを認めたことも」
「ええ」
「それが答えなのでは?」
「……どういう……」
「ミステール王子も貴方と同じ考えだったのでしょう」
『いつか、二人手を取り合って、我が国の民を救う』──。
「しかし、周りがそれを許さず、二人を争わせるのなら……」
ゼニファーはハッとする。
「……まさか、私に王位を譲る口実だったと……?」
「……何度も言いますが、わたくしはミステール王子のことを知りません。一番近くにいたゼニファー王子がどう捉えるか、それが重要です」
アナスタシオスはそう言って、席を立った。
「ゼニファー王子」
クロードが去り際に言う。
「ミステールはフィラウティア家にいます。いつでも、いらして下さい」
□
ゼニファーと話した後、アナスタシオスとクロードは馬車に乗り込んだ。
揺れる馬車の中、クロードは話し出す。
「兄さん、ミステールと話したことあるんだな」
「は? ねえよ。面識すらねえ」
「え? じゃあ、なんでミステールの考えがわかったんだ?」
「だから、知らねえって言ってんだろ。想像だ、想像。弟のいる兄の気持ちならわかるって話だ」
「……はあ。兄さんは凄いな」
アナスタシオスは「だろ?」と自慢げにニヤニヤと笑った。
「ま、田舎の貧乏男爵家に当主争いなんてないからな」
──それこそ、ゲームの中での話だ。
クロードは能天気にそう思った。
「あったんだけどな……」
アナスタシオスはポツリと呟いた。
「え? 何?」
「……何でもねえよ!」
アナスタシオスは誤魔化すようにクロードの頭をぐしゃぐしゃと撫でた。
「ゼニファー王子、ミステールに会いに来るかな……」
「さあな」
遠くなっていく商国を見ながら、クロードは二人の仲が良くなることを願うしかなかった。




