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悪役令嬢♂〜彼は婚約破棄国外追放死亡の運命を回避しつつ、ヒロイン達へ復讐を目論む〜  作者: フオツグ
幼少期編 攻略対象達を攻略せよ

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24/79

決別

 ゼニファーとのお茶会から一週間後のことだった。

 その日は雨が強く、クロードは寮にある自分の部屋で、ベッドに寝そべりのんびりとしていた。

──兄さんが遊びに来ないかなあ。そろそろ顔が見たいけど……。

 そのときタイミングよく、コンコン、と扉がノックされた。

 兄の来訪だと思ったクロードは飛び起き、扉に向かっていく。

 鍵を開け、扉を開いた。


「……え?」


 扉を叩いたのはアナスタシオスではなかった。

 ゼニファーと同じ顔だが、眼鏡をかけていない。

 ミステールだった。

 彼が全身から水を滴らせながら、そこに佇んでいる。


「み、ミステール……王子! どうしたんです!? そんなずぶ濡れの格好で!」

「入れてくれ……」


 ミステールは弱々しくそう言った。

 クロードは扉を大きく開き、彼を中に招き入れる。


「一体何が……いや! とりあえず、お風呂に入りましょう! このままでは風邪を引いちまう! ……ばあや! メイばあや、来てくれ!」

「どうしました、坊ちゃま?」


 ひょっこりと奥の部屋からメイばあやが現れる。


「お風呂の用意を頼めるか!?」


 メイばあやはずぶ濡れのミステールを見て、目を見開く。

 彼女は直ぐに状況を察したようだった。


「お任せを」

「着替えはおれのお古で良いか……。あ、あと、温かい飲み物も用意して。ベッドの準備も!」


 クロードとメイばあやは慌ただしくミステールを出迎えた。


 □


 入浴して、クロードの古着に着替えたミステールを、クロードのベッドに案内した。

 クロードがマグカップに入れたホットミルクを差し出すと、ミステールは震える手でそれを受け取った。

 一口飲むと、「ホッ」と安心したように息をつく。


「ミステール王子、体調はどうです?」

「大分温まったよ。ありがとう」


 ミステールは力無く笑う。


「一体何があったんですか」

「それは……」


 ちらり、とミステールは後ろで控えてるメイばあやに目を向けた。

 クロードはその視線の意図を察した。


「ごめん、ばあや。二人きりで話がしたいんだ」

「承知致しました。何かありましたらお申し付け下さい」


 メイばあやは一礼すると、寝室を出た。


「これで良いか?」


 クロードがそう聞くと、ミステールは頷きとも項垂れとも取れるように、下を向く。


「……毒を盛られた」

「毒!? 医者を呼ばないと……!」

「未遂で終わったから問題ないよ」


──商国の王子に毒を盛るなんて、未遂でも重罪じゃ……?

 そう思ったが、まずはミステールの話を聞くことにした。


「問題ないなら、なんで俺のところに来たんだ?」

「君にしか話せないことがあった」

「……ゲームの話、か」


 ミステールは頷いた。


「……この世界はゲームだ。どれだけ足掻いてもシナリオ通りに進む。僕は〝ミステール・ルダス〟になる運命だ」


 ミステール・ルダス。

 ゲーム本編開始前、変わる名前。


「僕は王位争いのため、双子の兄弟に毒を盛られる運命にある」

「双子の兄弟って……ゼニファー!? ゼニファーに毒を盛られたのか!? 何かの間違いじゃないのか!?」

「ゼニファーは僕の紅茶に毒を盛り、僕がそれを指摘したら白状した。事実だよ」

「そ、そんな……」


 ゼニファーはミステールと協力したいと語っていた。

──それが、何故。毒を盛ったんだ……?


「僕が愚かだった。アナスタシアの死を回避するべく起こした君の行動が、運命を変えつつあると知って。僕も運命を変えられると思ってしまった」

「シナリオ通りだったのか、毒を盛られるのは」

「そうさ。そして、僕は王位継承権を放棄。度々学園に訪れる神出鬼没の商人ミステール・ルダスとなる」

「そんな……」


 ミステールは目頭を指で押さえた。


「わかっていたのに、やはり辛いものだね。兄弟に命を狙われるのは……」


 初対面のときの不気味さはなく、ただ世界に絶望する、一人の少年がそこにいた。

 ああ、そうか、とクロードは納得する。

──ミステールもまた、運命に抗いたかったんだな。

 気持ちは痛いほどわかる。

 血を分けた兄弟から命を狙われるなんて、想像を絶する苦しみだろう。

 兄弟が死ぬこと以上に……。

──おれが、ミステールにしてやれることはないか?


「ミステール、ウチの執事にならないか」

「……へ?」


 ミステールがぽかんと口を開けて、間抜けな声を出す。


「ほら、ここなら衣食住整ってるし。王族の婚約者の家ってことで、待遇も悪くないし。代わりに、兄さんの運命を変えるのに協力してくれたら……なんて」

「なんだ。結局それが目的なんだ?」

「下心はある……けど! お前を助けたいのは本当だぞ!?」


 クロードは真剣な表情を作る。


「お前の運命を変えたいんだよ。商人ミステール・ルダスになる運命を」

「……そうだね」


 ミステールはフッと笑うと、窓の方を見た。


「執事も、悪くないかもな」


 朝から続いていた雨は止み、雲間から太陽が顔を覗かせる。


 □


「クロードくん! 匿ってくれよ!」


 ミステールがクロードの部屋に飛び込んできて早々に、そう叫ばれた。

 突然のことで唖然とするクロードを放っておき、ミステールは机の下に身を隠した。


「おい、ミステール。匿うって誰から……」

「──こら! ミステールさん!」


 メイばあやの怒号が聞こえて、クロードも思わず机の下に隠れた。

 メイばあやは暫く部屋の中を探し回ったあと、「必ず見つけますからね!」と言って部屋を出て行った。


「お前、何したんだよ! ばあや、滅茶苦茶怒ってんじゃん!」

「ちょっとサボっただけさ」

「見習いがサボってんじゃねえ!」


 ミステールが王位継承権を放棄し、ずぶ濡れになりながらクロードの元に訪れたその後。

 ミステールはフィラウティア家の執事見習いとなった。

 そして、古株のメイド、メイばあやの元で仕事をしている。


「メイさんの説教は長いからさ。本当に困っちゃうよね。クロードくんも大変だったんじゃないの?」


 と言いつつ、ミステールは何だか嬉しそうだ。


「え。おれ、ばあやに説教されたことないけど……」

「え? もしかして、僕だけ……?」

「──見つけましたよ、ミステールさん?」


 机の下を覗き込むメイばあやと目が合い、クロードは思わず「ひっ」と悲鳴をあげてしまう。


「ゲッ! メイさん!」

「ばあやを出し抜こうなんて、十年早いですよ?」


 メイばあやはミステールの耳を掴み、引っ張った。


「痛い! 痛いよ、メイさん!」


 メイばあやはクロードに頭を下げる。


「……クロード坊ちゃま、お騒がせ致しました」

「いや、大丈夫。ミステールのこと、みっちり叱ってやってくれ」

「クロードくん!?」


 ミステールは信じられない、というような目で、クロードを見つめた。


「クロード《《坊ちゃま》》でしょう! 全く。親しいのは良いことですが、礼儀はちゃんとしないといけませんよ! ミステールさんはいつも……」


 ぐちぐちと、メイばあやはミステールに説教を始めた。

──……なんか、メイばあや、生き生きしてるな。

 早く部屋から出て行って欲しい、とクロードは思いつつ、何だか楽しそうな二人を眺めた。

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