寡黙王子VS守銭奴王子!?
女性向けゲーム【キュリオシティラブ】の世界には、〝国民性〟という概念が存在する。
この世界における〝国民性〟は、その国の民が持つ特異な能力を指す。
クロードの世界の常識とは違い、それは民族的な個性に近い。
美国の民は、老いにくい体質。
天寿を全うしても若々しく美しいままの美国民は、自身の美しさに絶対的な自信を持っている。
軍国の民は、運動能力が非常に高い。
体の動かすことが好きで、鍛錬を怠らない質実剛健な戦闘民族だ。
商国の民は、直感に優れている。
自身の直感を活かし、商談を自分の良い方向に持っていくことに長けている。
聖国の民は、癒しの力を有している。
博愛教を信仰している聖国。
そこに住む人々は博愛の神から癒しの力を授る。
賢国の民は、能力を持っていない。
故に、勉学に励んだため、国民全員の知力が高い。
老いにくい美国民のアデヤが、運動能力の高い軍国民のシュラルドルフに、剣術で敵う訳がない。
そして、直感に優れた商国民のゼニファーも同じく。
シュラルドルフを相手にして、勝ち目はない。
「お手柔らかにお願いしますよ、シュラルドルフ様」
ゼニファーはシュラルドルフに笑いかけた。
「……ああ」
シュラルドルフは相変わらずの無表情で答える。
「全力で来い、ゼニファー」
無表情のはずの彼の目に、ギラギラと燃える闘争心が見えた。
ゼニファーは少し怖気付くが、覚悟を決めて顎を引く。
「……始め!」
審判の合図が飛ぶと同時に、ゼニファーが地面を蹴った。
姿勢を低くし、出来るだけ足を早く前に出す。
シュラルドルフの体が自身の剣の間合に入ると、脇腹に向かって迷いなく剣を振った。
シュラルドルフは難なく、剣でそれを受け止めた。
「やはり、真正面からは無理なようですね……!」
ゼニファーは剣を弾き、二、三歩後退する。
「……もう終わりか?」
「時には、策を練る時間も必要なのですよ」
「……戦場にそんな時間はない」
シュラルドルフが目にも止まらぬ早業で剣を振る。
ゼニファーはそれを間一髪避けた。
シュラルドルフは驚いて目を見開く。
その隙に、ゼニファーは反撃に出る。
「やあっ!」
シュラルドルフの肩に向けて剣を振った。
しかし、その剣は空を切るだけだった。
シュラルドルフは大きく後ろに下がり、距離を取る。
「カウンターさえも避けられるとは……。やはり、一筋縄ではいきませんね」
ゼニファーは自虐的に笑った。
「……まさか、俺の剣が見切られるとはな」
「いいえ。商国の王子である私が、軍国の王子である貴方の攻撃を見切れる訳がありません」
「……では、何故?」
「直感ですよ」
ゼニファーは人差し指で、自分の頭を指差した。
「次の剣が何処に来るか予測したのです」
「……商国の者は直感が鋭いんだったな」
「ええ」
ゼニファーは眼鏡を指で押し上げる。
「アデヤ様に『商国の王子の名に相応しい立ち回りで魅せるべきだ』と言われまして。直感を最大限利用した戦いをさせて頂こうかと」
「……なるほど」
シュラルドルフは剣を持ち直す。
「……アデヤはよく人を見ている」
「ええ。彼の審美眼は本当に素晴らしい。友として誇らしい……」
「……そうだな」
シュラルドルフは膝を曲げた。
「……次は、全力で行く」
「私はどんな攻撃でも避けるだけです」
シュラルドルフが地面を蹴った。
たった一歩踏み出しただけなのに、ゼニファーの直ぐ目の前まで来ている。
──早い……! やはり、軍国民は身体能力が高い!
シュラルドルフが風を裂くように剣を振る。
「くっ……!」
ゼニファーは直感で避けた。
しかし、シュラルドルフの攻撃はまだ続く。
右から左に、上から下に剣を振る。
シュラルドルフのあまりの猛攻に、ゼニファーは避け切れないことを悟り、咄嗟に自身の剣を目の前に出した。
ゼニファーの剣は弾かれ、遠くに飛んでいく。
「剣が……!」
ゼニファーの鼻の先に、剣先が向けられる。
彼の剣は遥か遠くにあり、打つ手がなくなった。
ゼニファーの負けだ。
「……私の負けです。お強いですね、シュラルドルフ様」
ゼニファーは両手を上げて降伏した。
ピクリ、とシュラルドルフの頬が動く。
「負け……」
□
──よし。怪我もなく終わった……! これで、シュラルドルフルートの断罪イベントフラグは完全に潰せた!
クロードは小さくガッツポーズをする。
「シナリオはそう簡単に変えられない……」
誰かがポツリと呟いたのを、クロードは聞き逃さなかった。
「え……?」
後ろを振り向いても、声の主は見つからない。
──今の声って……?
「なんか、様子がおかしくないかしら……?」
アナスタシオスの言葉に、クロードは視線を戻す。
「負ケ……負ケ……ウ、ウウ……」
シュラルドルフは唸り声を上げながら、フラフラとしている。
確かに、様子がおかしい。
「シュラルドルフ様? どうしたんです。具合でも悪いのですか?」
ゼニファーが問いかける。
「負ケ、ハ、許サレナイ……」
「え……」
次の瞬間、シュラルドルフはゼニファーに向かって剣を振り下ろしていた。




