剣術大会イベント発生!
学園入学から数週間経った。
平穏な日々が続いていたある日、夜の秘密のお茶会をしていたときのこと。
「今週末、【剣術大会】があるらしいぜ」
アナスタシオスはそう話を振った。
「剣術大会……」
──確か、ゲーム本編にもそういうイベントがあったな。
クロードは記憶を手繰りながら話を聞く。
「年に一度、学年で誰が一番剣術に長けているかを競うんだってよ」
「負けたら終わりのトーナメント戦?」
「そうそう。よく知ってんなあ」
ゲーム本編では誰を応援するかを選択し、個別イベントが始まる。
──そういえば、幼少期、シュラルドルフがアデヤに剣術大会で大怪我を負わせたってエピソードがあったっけ。
二人は剣術大会の一回戦目で当たった。
そのとき、アデヤは剣を握れなくなるほどの大怪我を負ってしまう。
以降、彼は剣術大会に参加しない。
この事件がきっかけで、シュラルドルフとアデヤは疎遠になる。
だが、シュラルドルフはアデヤをずっと気にかけていた。
怪我をさせてしまった故、後ろめたさから避けていただけだった。
そのことが、シュラルドルフの個別イベントで語られる。
『アデヤが困っていたら必ず助ける。そう、密かに誓っていた。今がそのときだ。アナスタシアから、アデヤを救い出す。協力してくれないか』
そして、シュラルドルフルートのアナスタシア断罪イベントに繋がる……。
──……アデヤが大怪我を負わなければ、シュラルドルフに断罪されないのでは?
主人公がどのルートに進むかわからない以上、全てのルートのフラグを潰していかなければならない。
──まあ、まだ一回戦でアデヤとシュラルドルフが戦うとは決まってないし……。
「第一回戦はアデヤとシュラルドが戦うんだってよ」
「──イベント発生すんじゃねえか!」
突然叫んだクロードに、アナスタシオスは目を丸くした。
「いきなり、大声出してどうしたよ、クロード? 学校のイベントだけど……?」
「いや、ごめん。こっちの話……」
──どうしようどうしよう! 断罪イベントに繋がる要因は可能な限り消していきたいけど、どうすりゃ良いんだ!?
そうクロードが考えていると、アナスタシオスは楽しそうに笑った。
「楽しみだなあ、クロード」
アナスタシオスの言葉に、クロードはハッと我に返る。
「そういえば、兄さんは剣が好きだったな。昔はよく木の棒でチャンバラごっこしてたっけ」
「楽しかったよな! お袋にゃあ『危ねえから二度とすんな』って怒られたけど」
──そうか。〝アナスタシア〟になってから、兄さんは剣すら握れないでいるんだよな……。
アナスタシオスはかなり剣の扱いが巧かった、と思う。
将来はイケメンの騎士になるんだろう、と前世の記憶を取り戻す前のクロードは思っていた。
──……おれが兄さんに出来ることは、死亡フラグをへし折ることだ。
クロードはグッと拳に力を入れた。
□
校庭では、剣術大会に向けて、剣の練習をする男子生徒が大勢いた。
その中に、アデヤとゼニファーもいた。
二人は練習用の剣を持ち、対面していた。
「はあっ!」
アデヤが剣を横に薙ぎ、ゼニファーの剣に叩きつける。
「うわ!」
ゼニファーの手から剣が溢れ、剣が地面を滑った。
「流石、アデヤ様。素晴らしい剣の腕ですね。やはり、私では練習相手にもなりませんか」
「何を言う。ゼニファーが練習したいと言ったんじゃないか」
「ははは。そうでしたね」
ゼニファーが落とした剣を拾う。
「このままではトーナメントを勝ち進んでも、アデヤ様に負けてしまいますね」
「まずは一勝、確実に、だろう? 美しい君には美しい剣技が似合う。剣術大会までの期間で、君に美しい剣技を授けよう」
「はい。指導をお願い致します、アデヤ様」
笑い合う二人に、クロードは歩み寄った。
「お疲れ様です。アデヤ殿下、ゼニファー王子」
彼は二人に水の入った水筒を差し出す。
「ん? 君は……誰だっけ?」
「アナスタシア嬢の弟君ですよ、アデヤ様」
「……ああ! 弟君!」
婚約者の弟を覚えていないアデヤに、ゼニファーはやれやれと首を振った。
「ありがとうございます、弟君。丁度、喉が渇いていたところです」
そう言いながら、ゼニファーは二人分の水筒を受け取った。
しかし、ゼニファーが水筒をアデヤに渡すこともなく、彼自身が口をつけることもなかった。
二人は王子だ。
毒味のされていない飲み物は飲まないように言われてるんだろう。
だが、クロードにとって、それはどうでも良いことだった。
水筒を持ってきたのは、話しかけるきっかけに過ぎなかったから。
「殿下も剣術大会に参加されるのですね」
「ああ、勿論。美国の王子として、美しい戦いをするつもりだ」
「そうですか……」
クロードは大きく息を吸って、声を出す。
「アデヤ殿下!」
「なんだい?」
クロードは練習用の剣を差し出す。
「あなたに決闘を申し込みます。おれが勝ったら、剣術大会の出場を辞退して頂きたいのです」
アデヤは眉を顰めた。
「……理由を聞いても?」
「アナスタシアお姉様は、荒事が何よりも嫌いです」
大嘘である。
アナスタシオスは荒事が大好きだ。
クロードは続けて言った。
「愛しているアデヤ様が、試合とはいえ、怪我をするかもしれない戦いに身を投じると、お姉様は心を痛めてしまいます。ですから、辞退して頂きたいのです」
「なるほど。僕のアナスタシアのためだと」
「はい。お姉様のためです」
クロードの真剣な表情で言った。
しかし、アデヤはそんな彼をフッと笑った。
「僕は怪我をするような、醜い戦いはしないさ」
「お相手は軍国のシュラルドルフ王子! 怪我をしない保証はありません!」
食い下がるクロードに、アデヤはため息をついた。
「わかった。その勝負を受けよう」
「アデヤ様!」
ゼニファーが叫ぶ。
「大会前の身、怪我をすればそれこそ!」
「問題ないよ」
アデヤは剣を舞うように弄ぶ。
「僕の素晴らしい剣技を見せてあげよう。そして、その心配は杞憂だったと証明しようじゃないか」




