ヤンデレ王子とお姉ちゃま
授業終了のチャイムが鳴り、教師が教室を去った。
各々が席を立って自由行動を始める。
その中で、クロードは手を上に上げて、背伸びをした。
「はあー。やっと昼休みだ」
「周りと学力が合わないと、授業って退屈だよね……」
隣の席に座っていたシルフィトがニヤニヤと笑って言う。
「いや、おれは勉強が好きじゃないから疲れてるだけですよ……」
クロードは苦笑いしながら言った。
「こんにちは」
教室に聞き覚えのある声が響き渡った。
クロードとシルフィトは、扉の方へ目を向ける。
そこに立っていたのは、短い白髪で左右の目の色が違う、それはそれは美しい生徒。
「わあ、綺麗な人……。誰に会いにきたんだろうね、クロ」
シルフィトが顔を赤らめながら、クロードに耳打ちする。
扉の前の綺麗な人は口を開いた。
「クロード……クロード・フィラウティアはいるかしら?」
「えっ!? クロ!?」
そう、美しいその人は、クロードの“お姉様”であった。
クロードは慌てて席を立ち、アナスタシオスに駆け寄る。
「お、お姉様! 何しに来たんだよ!」
「お昼を一緒に食べたくて誘いに来たんだけど……。いけなかったかしら」
「いけなくは……ないけど! お姉様の美しさだと目立つから!」
「く、クロ。クロ!」
シルフィトがクロードの肩をちょんちょんと突いた。
「この綺麗な人、クロのお姉ちゃまなの!?」
「はい、そうです……」
「あら、クロード。この子はもしかして、お友達かしら?」
「いや、ただのクラスメイ──」
「はい! ととと、友達、です!」
シルフィトはクロードを押し除けて前に出る。
「は、初めまして! シルフィト・ウィズダム・マニアと申します! クロのお姉ちゃま!」
「やっぱり、友達なのね!」
アナスタシオスは心底嬉しそうに笑う。
「わたくしはアナスタシア・フィラウティアよ。クロードと仲良くしてくれてありがとう。これからもよろしくね」
アナスタシオスが微笑みかけると、シルフィトは顔を真っ赤にした。
「はい! お任せ下さい!」
シルフィトの力強い肯定に、アナスタシオスは満足そうに頷いた。
「じゃあ、クロード、学生食堂に行きましょうか。ここの学食は美味しいと、アデヤ殿下に聞いたの」
「う、うん……」
アナスタシオスとクロードは廊下に出る。
「……あ、あの! 待って下さい!」
シルフィトが二人を呼び止める。
「お昼ご飯、シルもご一緒してよろしいでしょうか!?」
「えっ! 一緒に!?」
──兄さんが嫌なんじゃ……。
アナスタシオスが一人で誘いに来たということは、他の人の誘いを断ってきたのだろう。
あのアデヤが食事に誘わないことはないだろうし、他の男共だって、美人のアナスタシオスを放っておかないはずだ。
クロードはアナスタシオスの顔をチラリと見る。
アナスタシオスは優しく微笑んで、シルフィトの手を握った。
「勿論よ! 色々お話を聞かせてね、シルフィト?」
シルフィトはぱあ、と顔を明るくした。
「は、はい! クロのお姉ちゃま!」
アナスタシオスは「ふふ」と上品に笑う。
「学食に案内してくれるかしら? 転入したばかりで、場所がよくわからなくて」
「はい! こちらです!」
シルフィトは意気揚々と二人の前を歩き出す。
「……きひひ」
アナスタシオスは小声で笑った。
「あいつ、クロードと似てらあ」
「ど、何処が……?」
片や乙女ゲームの攻略対象の一人。
片やモブ中のモブ。
顔なんて雲泥の差だ。
「うーん……面食いなところ、とか?」
「それはそう」
クロードは深く頷いた。
「でも、良かったのか? おれと二人きりで食べたかったんじゃ……」
「クロードのお友達なら良い顔しなきゃな。兄ちゃ……姉ちゃんのせいでクロードが絶交されたら嫌だしよ」
──おれとシルが友達になったこと、良い作用してるな。
良かった、とクロードはホッとした。
「あ、そういえば」
シルフィトが振り返る。
「二人はどのクラブに入るか決めましたか?」
「クラブ?」
「はい! 放課後、学生達は様々な活動をするんです。活動内容はクラブ毎に違っていて。演劇クラブやピアノクラブ、お茶会クラブとかも。あ! スポーツがお好きなら、テニスクラブもありますよ!」
──そういえば、ゲームにもあったな。クラブ活動。
【キュリオシティラブ】で、学園に入学した主人公は、いずれかのクラブ活動に入るか、校内バイトをするか選ぶことになる。
演劇クラブにはアデヤ。
剣術クラブにはシュラルドルフが、それぞれ所属している。
乗馬クラブに入ってる攻略対象もいた。
ちなみに、ゼニファーは校内でバイトをしているため、クラブには所属していない。
「シルフィトはどのクラブに入ってるの?」
「シルは勉強があるから入ってなくて……。でもでも! 案内は出来ますよ! クラブのパンフレットは読み込みましたから!」
「じゃあ、お願いしようしかしら。ね、クロード?」
クロードはシルフィトに尋ねる。
「迷惑じゃないですか? 勉強があるんでしょう?」
「勉強はいつでも出来るから!」
アナスタシオスは首を傾げた。
「クロード、なんでシルフィトに敬語なの? 二人は友達でしょ?」
「そ、そうだよ、クロ! 友達なんだから、敬語じゃなくて良いよ!」
シルフィトが慌てて言う。
──シルが敬語じゃないと不敬って言ったんじゃないか……。
クロードは呆れたが、話を拗れさせたくないため黙っておいた。
□
その日の放課後。
演劇クラブ、ピアノクラブ、お茶会クラブ、テニスクラブと、シルフィトにお勧めされたクラブを中心に見学して行った。
「演劇クラブの人もピアノクラブの人もお茶会クラブの人もテニスクラブの人も! みーんな感じ悪かったですね!」
シルフィトは不満そうに頬を膨らませる。
確かに、クラブ見学中、嫌な雰囲気はあった。
アナスタシオスを見てくすくすと笑ったり、かと思えば、面と向かって嫌味を言われたりした。
クロードも気に食わなかったが、アナスタシオスに制止され、何も言い返せなかった。
「仕方ないわ。わたくし達は地方の下級貴族の子。そもそも、ここに通えないはずの人間だもの」
「身分なんて関係ないですよ。ここは、身分どころか、出身さえ気にしない学園なんですから」
「みんな、シルフィトみたいな考え方だったら良いのにね……」
よよよ、とアナスタシオスは悲しい素振りを見せる。
シルフィトは目を泳がせて、かける言葉を探していた。
「く、クロのお姉ちゃま! 何か困ったことがあったら、シルに言って下さい! 力になりますからね!」
「ありがとう。シルフィトは優しい子ね」
「え、えへへ……」
シルフィトはへにゃりと笑った。
「今日は案内してくれてありがとう。とても楽しかったわ」
「えっ、もう終わり?」
クロードは思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。
「あら、クロード、他に気になるクラブがあったの?」
「いや、乗馬クラブは見なくて良いのかな、って」
アナスタシオスは学園に来る前から、乗馬が好きだった。
そして、クロードはキュリオ学園に乗馬クラブがあることを知っている。
乗馬クラブに所属している攻略対象がいたから間違いない。
「お姉様、乗馬好きだっただろ?」
「でも……クロードが嫌でしょう」
「え? おれ?」
「落馬して、怖い思いしたじゃないの」
「……あ」
──そうだった。それでおれ、生死を彷徨ったんだ……。
クロードは自分のことなのにすっかり忘れていた。
「おれが乗る訳じゃないしなあ。それともお姉様、馬が嫌いになった? あんなに好きだったのに、ごめん」
「違うのよ。貴方は悪くないの」
「だったら、見に行こう! 見に行くだけ! な!」
クロードはアナスタシオスの目を見て訴える。
アナスタシオスは少し戸惑っていたが、諦めたようにため息をついた。
「……そうね。シルフィト、乗馬クラブに案内してくれるかしら?」
シルフィトは不思議そうな顔をする。
「構いませんけど……良いんですか? 揉めてたみたいですけど……?」
「揉めてた訳じゃないの。わたくしが臆病になっていただけ」
アナスタシオスが笑うと、シルフィトは怪訝そうな顔で「わかりました」と言うと、歩き出した。




