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悪役令嬢♂〜彼は婚約破棄国外追放死亡の運命を回避しつつ、ヒロイン達へ復讐を目論む〜  作者: フオツグ
幼少期編 攻略対象達を攻略せよ

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ゲームの舞台へ降り立つ

 キュリオ学園入学の準備はトントン拍子に進み、入学当日を迎えた。

 学園の校門前につき、アナスタシオスとクロードは馬車を降りる。


「ようこそ、アナスタシア!」


 アデヤがキラキラと輝く笑顔で出迎えた。


「ああ、僕の女神(マ・デエス)! 君は制服を着ていても美しいんだね!」

「ご機嫌よう、アデヤ様」


 アナスタシオスはぎこちないカーテシーで挨拶をした。


「あれが噂の男爵家の娘」

「アデヤ様に色目を使ったとか……」

「身分の違いを考えなさいよね」

「髪が短いわ。まるで男みたい」

「髪は女性の命なのにねえ。下級貴族にはわからないのかしら」


 女子生徒達はヒソヒソと嫌味を言っている。


「でもわかるなあ、アデヤ殿下の気持ち。あんなに美しいなら、手元に置いておきたいよ」

「俺にもチャンスないかな……?」

「止めとけ。王子の婚約者だぞ」


 男子生徒達は鼻の下を伸ばして、アナスタシオスの美しさに身惚れていた。

 アナスタシオスは誰にも聞こえないように舌打ちをした。


「好き勝手言いやがってよ……」


──ヤバい! 兄さんがイライラしてる!

 クロードはサッとクッキーの入った小袋を差し出した。


「お、お姉様! ばあやが入学祝いにクッキーをくれたんだ! お姉様にも!」

「まあ、ありがとう、クロード。黙って独り占めしてもバレないのに。良い子ね」


 アナスタシオスはニコニコと笑う。

──ふう。何とか怒りは治ったみたいだな。

 この学園には既に攻略対象達がいる。

 彼らに悪印象を与えてはいけない。

 怒ってる姿など以ての外だ。


「さあ、僕のアナスタシア(マ・デエス)! 僕の友人を紹介するよ! こちら、シュラルドとゼニファーだ」


──出たな、攻略対象共!

 クロードは身構える。


「……シュラルドルフ・ジーグ・ストルゲだ。よろしく」


 攻略対象の一人、軍国の第一王子シュラルドルフ・ジーグ・ストルゲ。

 血のように赤い、ベリーショートの髪。

 夕日を見つめるような橙色の瞳。

 今は大人しく可愛らしい見た目だが、彼は将来、立派な美丈夫へと変貌する。

──あまりにも無愛想で無口だから、何処かロボっぽいんだよなあ……。

 シュラルドルフルートに進むには【体力】というパラメーターを厳重に管理する必要がある。

 【体力】はヒロインが勉強したり、美を磨いたり、校内バイトをしたりすることで減っていく。

 休息というコマンドを選択すると回復する。

 ある程度イベントをこなすと、シュラルドルフとの決闘イベントが発生する。


『……手合わせ願おう』


 決闘イベントは、決まってその言葉から始まる。


「ひえー! 決闘イベント来た! 何回すりゃ気が済むんだ、この冷血漢! 最後にセーブしたのいつだっけ!?」


 前世ではその言葉に何度も震え上がったものである。

 その決闘イベントのとき、体力がないとヒロインは死に、デッドエンド。

 コンティニューからやり直しだ。

──女性向け恋愛シミュレーションで、ヒロインを本気で殺す攻略対象とか、マジであり得ない……。ヒロインの座を兄さんには奪わせるなら、体力上げは必須だ。

 しかし、そこは心配していない。

 アナスタシオスは家で読書するより、野山を走り回る方が大好きな、根っからのアウトドア派だ。

 体力はクロードよりある。


「ゼニファー・ホープ・プラグマと申します。貴女がアナスタシア嬢。アデヤ王子から聞いた通り、お美しい方ですね」


 そして、もう一人の攻略対象、商業国の第二王子ゼニファー・ホープ・プラグマ。

 空色の髪に、草原を映したような瞳。

 大きな丸眼鏡をかけており、右側だけ結んだ三つ編みと左目の下のほくろがセクシーな、知的クール系の美形。

 性格は、良く言えば倹約家、悪く言えばケチ。


『こんなに高価なもの、頂けるんですか? 感謝致します! 貴女とは良い関係でいたいものですね』


 高価なものをプレゼントすると喜ぶ、女性向けゲームにあるまじき銭ゲバなキャラクターである。

 ゲーム内通貨【ゼニー】が彼の好感度を左右する。

 ゼニファーを攻略するには、校内バイトで金を稼がなければならない。

──お金ならおれが校内バイトで稼げば良い。兄さんには、他のパラメーターを上げることに専念して貰おう。


 二人とも、アデヤの良き友人である。

 彼らは将来、悪女アナスタシアから友人アデヤを救うべく、主人公(ヒロイン)と共に行動を起こす。

──つまり、敵だ。


「えーと。そちらは従者の?」


 ゼニファーがクロードを見ながら言った。

──はは。従者じゃないんだけど……。

 クロードは困ったように頭を掻く。


「まあ、なんて失礼な。この子はわたくしの弟ですわ」

「おっ、弟ぉ!?」


 驚きのあまり、ゼニファーの丸眼鏡がずり落ちる。

 すかさず、眼鏡のつるを掴んで、元の位置を戻す。


「ぜ、全然に似てない……」

「ええ。わたくしに似ず、可愛いでしょう?」


 アナスタシオスはクロードを抱き締めた。

 クロードは照れ臭くて、アナスタシオスを押し返す。


「お、お姉様、人前では止めてくれ……」

「あら、恥ずかしいの? 可愛いわね」


 アナスタシオスはクロードの頭を優しく撫でた。


「……仲が良いんだな」


 ぼうっと突っ立ったままのシュラルドルフがぽつりと呟いた。


「ふん! どうせ、貴女もアデヤ様の地位が目当てで近づいたんでしょう。私はそれをどう言うのか知っています。〝政略結婚〟というのですよね」

「あら、政略結婚の何がいけないのかしら?」


 アナスタシオスは怪しく笑う。


「え……」

「結婚は愛があるか否かではなく、双方の合意があるか否かではなくて?」

「な……!」


──不味い!

 ゼニファーは金にがめつくありながら、友人アデヤを大事に思う一面もある。

 だからこそ、アナスタシア断罪イベントを起こすのだ。

──アデヤを利用していると思われたら、悪い印象を与えてしまう!


「そうですよ! 二人が愛し合っているのなら、他の人達が色仕掛けしたと言われようが、政略結婚だと言われようが、顔目当てと言われようが、関係ないです! ね! お姉様!」

「え? ええ、そうね……」


 クロードの勢いに気圧され、アナスタシオスは頷いてしまった。


「ゼニファー、僕のアナスタシアは悪いことはしないよ。美しい君達の争いはあまり見たくないんだ」

「……まあ、アデヤ王子が納得しているのなら、これ以上の口出しはしませんが」


 ゼニファーは三つ編みの髪をいじり、口を尖らせながら言った。

──ゼニファーも美しい判定なのか。まあ、じゃなきゃ、仲良くしないよな。アデヤの性格的に……。


「ごめんね、アナスタシア。ゼニファーが悲しいことを言って」

「構いませんわ」


 と言いつつ、アナスタシオスは怒っている様子だった。


「ぜ、ゼニファー王子は友達思いなんですね!」


 すかさず、クロードがそうフォローする。


「友……っ!? いえ、そんなんじゃないですから! 私は利益になり得ないことはしませんからっ!」

「フォローしたのになんで否定するんです!?」


──そういえばこいつ、ツンデレ属性だったっけ? め、面倒臭え~……。

 クロードは呆れた。


「……そろそろ、時間だ」


 シュラルドルフが言う。


「そ、そうですね。授業に遅れてしまいます。アナスタシア嬢、弟君。教室にご案内します」


 王子達三人が歩き出す。

 すると、シュラルドルフの懐から何か小さいものが落ちた。


「あ、シュラルドルフ王子。何か落ちましたよ……」


 落ちたものを手に取ってみて、クロードはぎょっとした。

 それは小さな歯車だった。


「ああ、すまない」


 シュラルドルフは真顔で受け取ろうとする。


「……あ、あの!」

「……どうした」

「シュラルドルフ様はロボットなんですか?」

「ブフッ!」


 アナスタシアとゼニファーが同時に吹き出した。


「くく……。クロード、絵本の読み過ぎよ。シュラルドルフ様は、何処からどう見ても人間じゃないの! ……ふふ」

「笑い過ぎですよ、アナスタシア嬢。ひひひ」


 ゼニファーは眼鏡に指を添え、ぷるぷると震えていた。


「……これは懐中時計の歯車だ」


 シュラルドルフはポケットから懐中時計の残骸を取り出して、クロードに見せた。


「……先程、落としてバラバラになってしまった」

「あ、そうなんですね! すみません。失礼なこと聞いてしまって!」

「……構わない」


 ひとしきり笑ったゼニファーは、涙を指で拭いながら言う。


「シュラルドルフ様、やはり無愛想なのが、こういった誤解を招いてしまうのでしょうね。少し笑顔の練習をしては如何です?」

「……検討しよう」


 シュラルドルフの表情から、感情は全く読めない。

──怒ってるよな、多分……。悪印象を抱かせないようにと言いながら、おれが抱かせてどうする!

 クロードは一人自分を責めた。

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