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短編

作者: 坂本

 今日は旅行に来た。そして、雨が降っていた。

 天気予報は何度も確認した。今日のことを楽しみにして何度も何度も。それこそ毎日二回は確認していたのに……

 雨雲レーダーで検索してみると、私がいる街は二時間程度雨の予報になっている。

 旅行といえど行き先は決めてない旅である。高校の先生が言っていたんだ。

 「僕は旅に行くときは観光地とかを調べてから行くんじゃなくて現地の人におすすめを聞いて回るんだ。だってそのほうが生の意見を聞けるでしょ?旅行サイトで調べてみてもいいんだけど、そうしたら旅先周辺に精通している人が書いているとは限らないじゃない」

 私もそうしたいところだけど一日の日帰り旅行でそんなことは流石にしてられない。だからせめて現地まで行くときは可能な限り歩いていくし、道に迷ったときには携帯で調べるのではなく人に聞くようにしている。


 私にも旅をするときの決め事があるのだ。

 「旅をするときは必ず現地のものに触れること。目で見て鼻で嗅ぎ耳で聞いて足で踏みしめる。そしてせめて一食はその地元の特産のものや、有名なものがなければチェーン店ではない店に入る」

 それが私の所論。


 その論に則って私はバスや電車を使わずに5,4kmを歩く。心は既に疲れているけれど。

 きっと明日は筋肉痛だな。はぁ……憂鬱だなぁ……。

 そんな気分だった。

 これから頑張って歩こうと決意して約十分。この雨のせいで足を止めてしまった。

 春先だからいつ雨が降っていても仕方がないことではあるけど、旅路で出くわすとさすがに少しだけ気持ちが萎えちゃうな……

 旅に出るときには方位磁針と折りたたみ傘は絶対に持っていくようにしてる。だから今の私は雨への抵抗もできる。けど脆弱な私の傘じゃ対抗できないくらい雨が強すぎる。

 早くにでもお店に入りたい。スカートが半分くらい濡れてしまった頃に私は思った。

 異郷の地で道に迷ってしまってはいけないと思って大きな道しか通っていないから、きっとご飯屋さんとかはあると思うけれど……なかったらどうしよう。

 そんな矢先、想定とは裏腹にごはん屋さんの看板が少し先にあった。見た感じチェーン店って感じでもないし、いいかもしれない。

 近くに寄るとどうにも中華料理屋さんらしい。

 台湾ラーメン、八宝菜、簡単なサラダ、それと一杯のご飯。

 これだけ入って700円。このお店近所に欲しい……

 店に入り一人と合図をする。すると店長らしき体の大きな男性が私を席に連れて行ってくれた。

 店内の装飾はいかにも中国の文化を取り入れたというようなものばかりだった。ツボはあるし簾には昔の格言のようなものも書いてある。机には金色の玉もついているし龍だって飾られている。

 どこのお店ですかと言われると一目で中華料理屋さんだとわかる、そんな店内だった。

 注文をして料理を五分ほど待つ。ジャケットを脱ぎ、疲れ切った体を背もたれに委ねる。深い息をついて気持ちを落ち着ける。ふぅ……流石に少し疲れた。

 五分もするとランチが届いた。

 お箸を横に持ち、割る。

 いただきます。

 まずは初めましての台湾ラーメン。私はラーメンを食べるとき、いつもスープからと決めているのです。と、いうことでレンゲをとる。

 口に含んでわかる。これは今まで食べてきたどのラーメンとも違う。醤油ベースのようだったから、こってり至上主義の私からしたら写真を見たときは、こってりじゃないのかと思ってしまったがこれを食べてみてわかる。

 このラーメン、美味しい。

 あっさりではあるがニラなどによりしっかりパンチも効いている。後ろにあった魔法の調味料をかけると更に美味しくなった。ラベルには塩と書いてあった。

 八宝菜の方には家では入らない食材も入っており、名前がわからない。コリコリしていて美味しい。

 店に来て気づいたことなんだけど、外で食べると中華のものには薬っぽい風味があるっぽい。これは今回だけでなく、以前に家族でお高めな飲茶を食べに行ったときにも感じたけど少しだけ薬っぽい風味があった。全体的な味は好きなのだけどこの風味だけはまだ慣れていないので苦手だ。

 ラーメン、お米、野菜、お米、八宝菜、お米、ラーメン、ラーメン、野菜、お米のように小学校で習った三角食べというものを今でも実行する優等生なのだ。

 しっかり満腹、そしてお財布にも優しい。そんな良い料理でした。

 ごちそうさまでした。

店に入り約30分。2時間続くと言われていた雨は既にやんでいた。レーダーを見るとまだこれから先も雨が降ると載っていたが、今行かなければきっとこれからも雨が降る。そう思い会計をして店を出た。


 これからあと2,8km。まだ半分も歩いていないなんて信じられない。

さっきまで雨が降っていたせいか街は霧で覆われていた。私にはこれを文字起こしするほどの語彙力がないのが悔やまれる。写真で撮っても上手く撮れない。現地で景色を見て興奮して刺激を得る。それも旅の醍醐味というものだろう。

 私はまだ歩く。歩いて歩く。どこまでもどこまでも。そう遠くは無いところまで。

 レーダーの予報通り、歩き始めて10分ほどでまた雨が降り出した。折り畳み傘を持ってはいたけどそれでもまだ防げない。傘が折れそうなほど風は吹くし絞れるくらいスカートが濡れた。明日は風邪ひきコースですね。これ。

 まだまだ歩くどこまでも。とことこと。

 歩いていると見えてきた大きなお城。結婚式などに使用するであろう大きなお城。もしも今日が結婚式の日取りであったなら私はとても笑顔でいたでしょう。だって始まりが最悪ならこれからの生活はこれ以上のものになるじゃない?

 私が今日歩いているのはただの一般風景なのだ。だからただの公園もあるし廃墟のような家もある。更には根っこが壁まで伝ってきている家やトタンや鉛の屋根の家もある。きれいな都市部だけじゃない、実際の生活を覗き見するのも旅の楽しさなのです。

 私が住んでいるところは少し都会よりなところだからこういう場所はとても心休まる。空気がきれいなのだ。

 まだもう少し歩く。もうすぐだ。足音がコッコッとなる。

町並みを眺めているとカバンに入っている携帯が震えていた。

 「もしもし。あ、みこと?良かった出た〜。さっきまで何回かかけたけど出なかったからどうしたのかなって思っちゃったよ。あ、そうそうそれでね私達仲良し四人で春休みに旅行行こうかなって思ってるんだけど予定開いてる?」

 「私はもしかしたら無理かも。春休み結構遊びに行ったりするから……ちょっと予定表送るね」

 「なにこれ。え、予定多……殆ど開いてないね」

 「そうなんだ。これまで誘われるたびにOKって言ってたらこんな感じになっちゃって」

 「これなら春休み無理かも。もう一回考えてみるね。多分GW辺りになると思うから、そっちは開けといてほしいな。日帰り京都だからそんなにお金も日程もかからないと思うから。じゃあまたね」

 ピロンといって通話が落ちる。うわ、四回くらいかかってきてるじゃん。なんで気づかなかったんだろ。

 にしても京都旅行かぁ。あのメンバーで集まったのは小学校卒業のときに行ったきりだから六年ぶりに遊びに行くのか。小学校のときには東大寺とか五重塔とか、京都の伝統のある

建造物にはあまり興味がなかったけど今は結構興味があるから楽しみだ。

 そうやってぼーっと歩いてると次第に緑が増えてきた気がする。そろそろ神社かなと思って周りを見渡すと「結城神社まであと100m」という標識が見えた。ようやくたどり着いたんだと思うと急に体が軽くなってきた。もう少し私が元気ならここから走っていっても良かったんだけど、それほどにはもう体力がないんだ。少しずつ雨がおさまってきた気がする。

 おそらくは関係ないんだろうけど神社に近づいて雨が弱まりだすなんて、神聖な何かがあるとしか思えない。

 「ようやくついた〜〜」

 つい声に出してしまった。あまり人がいなかったのが幸い、今になって顔が赤くなってきた。

 5,4kmを歩き切った。そう。私はやり遂げたのだ。頑張った。この一年間で一番頑張ったことと私は胸を張って言える。

 目的地に選んだのは梅が有名らしい結城神社である。電車でのアクセスがとても悪く歩くことにしたんだけど今更ながら後悔している。もう足がパンパンだよ。

 表には梅が数本あり、裏に拝観料を払うことで見れる梅まつりが開催されている。

 梅をじっくり見たのは人生で初めてだった。これまでにも福岡に家族で旅行に行ったときに軽くみたことはあったけどその時の私には興味がなかった。だからしっかり見たいと思って見るのはこれが初めてだ。

 疲れた体で見た満開の梅はとてもきれいだった。春の代名詞といえば私の中では十八年間ずっと桜だった。梅なんてありえないとさえ思っていた。けどどうだ。この景色を見ればどんな人だって桜よりも梅のほうがいいと思うだろう。それほどまでにきれいな景色だった。

 桜はうすピンク。梅は濃いピンク。桜はコーヒーを飲みながら見たく、梅はお茶を飲みながら見たいと思わせる景色だ。

 さっきまで雨が降っていたからか梅が若干傾いている。

 これがしだれ梅。

 空が晴れていき日が差し込むようになり更に梅が輝くようになっていった。


 神社を一通り回ってからおみくじを見つけて引いてみた。後でいいやと思って開封していないおみくじは未だにジャケットの中だ。


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