第6話 外
あれから30分位走ってようやく3番出口に着いた。思ったより遠かった。
流石に不人気出口なだけあって周囲には誰もおらず複数ある窓口が1か所しか開いていないにもかかわらず、すんなり外に出られてしまった。
この出口は、元々は隣町に繋がる街道が通っていたのだが、何年か前に大型の魔獣がやってきて町の結界を崩壊してしまったらしい。
一応町の周りを取り囲んでいた物理的な障壁によって町の住民が避難する時間は稼げたので幸いさほどの人的被害は無かったのだが、住民は周辺の街への移住を余儀なくされた。この街にも何百人単位で移り住んでいる。
ユージレン君の記憶によるとその時、大型魔獣と戦ったのが貴族様が独占している魔導鎧 Magic Armorと呼ばれる魔力で動く機械の鎧らしい。
大きいものから小さいものまで各種あるらしいのだが、一番ポピュラーなのが高さおおよそ20m位でお腹の中に人が乗り込んで操作するHMA(Heavy Magic Armor)なのだそうだ。
そのほかには、アシストスーツのごつくなったようなLMA(Light Magic Armor)まで大きいものやら小さいものやら、各種取り揃えられていたらしい。
これらは旧文明のロストテクノロジーであり、これの所有台数が貴族様の家の発言力に直結するみたいなのだが、いずれにしても我ら魔装体の人外には関係のない別世界の話だ。
その時の魔獣は、体高10m位のキメラだったそうだ。20m級の魔導鎧3台で当たったのだがうち1台が大破したらしい。しかし貴族様の矜持で町が魔獣に襲われたなら防衛しないとダメなのでやむを得ない損害なのだろう。そのまま隣町が抜かれたら次はここか領都が襲われる可能性が高かったので隣町で食い止めざる負えなかったのだ。
そんな前のファンタジー世界には存在しなかった魔導鎧に厨二心をくすぐられながら旧道沿いにしばらく歩き街からの視線が切れるくらいのところまで進む。旧道とはいえまだ魔素除けの結界が作動しているのでここいら辺は比較的安全である。
ここから右手は、ハイリスクハイリターンな4番出口方面なので割と強い魔物に出会う確率が高くなる。
左手は領都に続く街道なので周辺を定期的に騎士団による巡回で魔物は討伐されているためそこそこ安全が保たれている。
ただ魔物でない狼やら蛇やらの野生の獣は徘徊しているのでまったくの安全とはいかないのだが。
ある程度歩いて街の門から見えないところまで進んだので、ここいら辺から街道を離れて、比較的安全な左手に外れて歩いていく。
”ゆわん”
街道から10m位外れると柔らかい膜のような物を抜ける感じがした。一気に周辺魔素濃度が上がった所を見ると魔素除けの結界を抜けたようだ。
『!!』
影の中に潜ってついてきていたみさちゃんが急に飛び出し、透明化して肩に乗っていたあかりちゃんも実体化した。
漆黒の毛玉と光るモフモフの毛玉が目の前に浮かんでいる。漆黒は深く深く、モフモフも柔らかいながらも明るさを増していくと一気に広がり暗闇と光に包まれるという何とも不思議な感じに一瞬とらわれた後には、ぷかぷか宙に浮かぶ黒ゴスと白ゴス服を着た二人の人型精霊さんがそこにいた。
「え、えーと、みさちゃんとあかりちゃんかな?」
「ん、マスター」
「主様、ご機嫌麗しく」
二人がそれそれ挨拶してくる。マスターにご主人様か。確かに名前を付けた時から繋がっている感じはあったんだけど特に主になったつもりはなかったのだが。
「はい。こんにちは。お二人さん。でも二人の主になったつもりはないんだけど…」
判らないことは素直に聞いてみる。
「んー、魔力をもらっているからマスター」
「みさの言う通りですわ。魔力をいただいておりますので主様となりますわ。」
「今まで通りの気安い感じでいいんだけどな。それにこれだけ周辺魔素があれば、もう俺から魔力を貰わなくても独立して自由に生きていけるんじゃないの?」
「マスター、見捨てるか?」
「主様は、もう私を必要としていないのですか?」
今までの病院や街の中では、街を守るように囲んでいる魔素除けの結界が街の中に魔素が流れ込んでくるのを防いでいるせいで、街の中の魔素濃度が非常に薄くて精霊の二人が存在を保つ為にご飯代わりで闇と光の魔力を渡していたのだけれど 街から外に出て一旦魔素除けの結界から抜けた周辺魔素の濃い場所まで来たらあとは自由に自活できると思っていたんだけど。
「え、自由を愛する精霊なら魔素さえ補充できるようになったら自由に飛んでいきたいのかと思っていたんだけど…」
「マスター、見捨てないで」
「主様、見捨てないでください。」
二人そろって上目遣いのうるうる目で訴えてくる。ひ、卑怯な。何たる破壊力。
「あー、ん-、一緒にいるでも自由に飛んでいくでも君たち二人の好きにしていいんだよ?」
「マスター」
「主様ー」
安心したように二人そろって頬ずりしてくる。うん、かわいい。
”くー”
どうやらもう一人いたようだ。あかりちゃんのお腹が自己主張している。
「マスター、お腹すいた」
「主様、卑しい女と思わないでくださいね。」
みさちゃんはいつも通り、あかりちゃんは恥ずかしそうにねだってくる。うん、かわいい。
「はい、どうぞ。」
左手の手のひらから闇属性、右手からは光属性の魔力を流しだすと二人それぞれ手のひらに座り込んでそれぞれの魔力に包まれる。
人型になったから口から食べるのかと思ったけど毛玉だった時と同じように全身で吸収するようだ。
「低級精霊だったころから主様より頂いた魔力で力を蓄えていたのですが、周辺魔素を取り込んで一気に力を解放しましたのでお腹がすきましたの。」
「前の毛玉だった頃が低級精霊で今の人型は、中級精霊なのかな?」
「そう。ちょっと偉くなった。エッヘン」
「意識レベルも上がりましたのでこうして主様と話すことが出来るようになりました。」
「そうだね。みさちゃんは低級の頃でも何となく考えていることが伝わってきたけどあかりちゃんからは、”ふにゃー”とか”ほへー”とかだったもんね。」
「そ、それは言わないでください。主様のいけず。」
うん、かわいい。
「ふふ、さて二人の腹ごしらえも終わったようだけどこの後どうしよう。俺はこの後、魔装体の再起動、って言って伝わるかな。まあ、しばらく動けなくなりそうなんだけど、その間暇だろうからその辺回ってきてもいいよ?」
「うん、マスターは僕が守る」
みさちゃんは、まさかの僕っ子か? くっ、かわいい。
「主様、中級精霊になりましたのでそれなりの強さの魔法が使えるようになりましたので、このあたりの魔物には、まず負けることはありません。なので安心してお休みください。」
「みさちゃんもあかりちゃんも魔法で戦えるの?」
「光の魔法が使えますので光の刃でみじん切りです。」
「闇に捕らわれたら助かるものはいない。」
二人とも可愛い見た目のわりに何か微妙に物騒だな。しかもみさちゃん何故そのセリフでⅤサインを横向きにして目元で決めている。厨二か?厨二なのか?
「じゃあ、お言葉に甘えて周辺の警戒と安全確保は二人に任せちゃって大丈夫かな。」
「任せてマスター」
「お任せください。主様」
これで再起動中の安全は確保できそうだが流石に街道から丸見えの場所は嫌だったので更に外れて歩いていく。
しばらく行くと旧文明の建物跡のような おあつらえ向きの廃墟があった。
あちこち崩壊しているのだけれども、その中でも周囲を瓦礫やら辛うじて崩れずに残った壁に囲まれた小部屋のようなところが、見つかった。
「ここをキャンプ地とする。」
今や定番中の定番になっているF村くんのセリフを唱えたあと、ある程度部屋の中のゴミを押し出すように片付けた。少し広くなった部屋の内側をさらに土魔法の【土壁】で囲んで防御力を強化し、囲いの中にインベントリからソファーを出してそこに横たわるように座る。
ただ精霊の二人は、そこに何も無いように土壁をすり抜けて中に入ってこれるんだよな。これ、廃墟にレイスとかゴーストとか居たらあっさり中に入ってきそうだよな。大丈夫かな。
「二人とも自由に出入りできるんだ。これ、レイスとかゴーストとか壁抜けしてくる魔物が来ても大丈夫かな。」
「闇の眷属、問題ない」
「主様、アンデットはお任せください。光魔法は効果は抜群ですから。」
光魔法は効果抜群なんだ。聖属性じゃなくて。聖属性あるのかなこの世界。
「なら、安心だね。じゃあさっそく再起動するからあと宜しくね。」
「マスター任せて。」
「お任せください。主様」
うん。これなら大丈夫だろう。根拠のない自信に包まれつつソファーに横たわり二人に向かって軽く手を振る。
二人に任せておけば安心して魔装体に再起動をかけることが出来そうだ。
応援よろしくお願いします。