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第3話 精霊さんに出会った

なつかれた。


入院病棟地下一階の休憩室にいた精霊さんと何となく意思伝達が出来そうだったので話をしてみたところによると気が付いたらいつの間にかここに居たそうなのだ。最初からここで産まれたのだろうか。

自販機の裏側の陰になっているところから漏れ出る魔素を餌に生きながらえてきたが闇精霊のため明るいところは比較的苦手でここの廊下の灯りがなぜか24時間点きっぱなしなのでこの自販機の裏側から離れられないのだそうだ。

正確には明るい場所だと魔力の消費が多くなるため自販機から漏れ出ているだけの魔力で生きながらえてきていた彼女?にとっては、明るい廊下を移動するのはとてもリスクが高いので動くに動けず今までここに留まっていたようだ。

闇精霊なのだから影に潜って移動する影渡り的な事が出来ないのかと聞いてみたらそんなことが出来るとは気付かなかったらしく自販機の陰からこちらの影に移ってきた。


「できた」


実際に声が聞こえるわけではなく、何となくうれしそうな気配がそんな感じで伝わってくる。かわいい。

野生動物にえさを与えてはいけないことは重々承知しているのだが、可愛いのでつい体内魔力を闇属性に変換したものをあげてしまった。自販機から漏れる無属性の魔素では味気なさそうだったので。

結果、なつかれた。当たり前である。

再び自販機の陰に追いやるわけにもいかず結局自分の影に潜ませたままその日は病室に連れて帰ってしまった。


「いってくる」


「みさちゃん、いってらっしゃい。見つからないように気を付けるんだぞ。」


「うん」


あの日、病室に連れて帰った闇精霊の”みさ”ちゃんだが、何日かは普段通りのリハビリ生活を続ける俺の影に潜みつつ出たり入ったりを繰り返して周囲の状況を把握しつつ行動範囲を広げていた。

自分の行動による魔力の減り具合から航続距離をある程度把握すると覚えたての影渡りを駆使して、あちこち徘徊しては、お腹がすいたと帰ってきて闇属性の魔力をおねだりするようになった。かわいい。


つい名前を付けたら精霊契約が結ばれていた。”みさ”ちゃんがこの闇精霊の名前だ。

おじさんくらいの年齢だと”くろい”といえば”みさ”なのだ。本人?本精霊?が気に入っているかどうかイマイチ伝わってこないが…まあ良しとしてほしい。


契約したのが良かったのか、おねだりされる度にたっぷりとあげている闇属性の魔力が効果的なのか分からないが、だいぶ密度が濃くなってきた。

最初に自販機の陰から出てきた時は黒っぽいモヤというか雲というかピンポン玉くらいの大きさで向こう側が透けて見えるくらいの薄っすらとした丸いモヤだったのだが、大きさこそ変わっていないが密度が濃くなり、じっと見つめていると深淵の闇の中に吸い込まれそうな感覚にとらわれる程に闇が濃くなっている。


ややマンネリ化してだいぶ飽きていたリハビリ生活も、みさちゃんのお陰で少しだけやる気が出てきて何とか続けていたある日、片腕ショルダープレスで上腕三頭筋をウリウリしていたら珍しく日課のお散歩からいつもより早く戻ってきたみさちゃんに後ろ髪をグイグイと引っ張られた。


「え、みさちゃん摘まんだり引っ張ったりできるの?」


「できる」


最近密度が濃くなったとはいえ、もともと黒いモヤだったので、存在感自体はあって纏わりついたり頭の上に乗ったりするとそこに”居る”と分かるのだが、はっきりと触れることは出来なかったのでてっきり実体がなくて触れることは出来ないと思っていたのでとても驚いた。

だが質問に律儀に答えてくれたが、そこじゃない、いいから来い、早くしろと怒ってる?イラっとしている?焦っている感じが伝わってきた。

こんなに感情的なみさちゃんは珍しいというか初めてだ。


これはただ事ではないと思い、ダンベル体操をいったん中断してササっとシャワーで汗を流して着替えるとみさちゃんに連れられてやってきたのはリハビリ棟の隣の一般向けの入院病棟の4階にあるリネン室?

ちょっと関係者以外立ち入り禁止感があるけど、みさちゃんに連れられてこっそり中に入る。ここって確か、病院の七不思議にあった誰もいないのに明るくなる部屋じゃなかったっけ?


「お邪魔しまーす」


昼間なのでカーテン越しの窓からの日差しで暗くはないが明るくもない、灯りが落ちた室内にそっと忍び込む。【気配感知】にも【魔力探知】にも何も引っかからないのでどうやら室内は無人の様だ。

室中に入るとカーテン越しの日差しとは別に部屋の明るさが周期的に変わる気がする。

部屋の明るさが変わる原因を探ると天井に2列に並んだ電球のうち左側の列の真ん中あたりがぼやっと明るくなったり消えたりしていてその他の電球は消えている。

誰もいなくても明るくなるのはひょっとして一つだけ明るくなっているこの電球のせいなのか?

脇にあった机を弱弱しく明暗を繰り返している電球の下まで引っ張ってきて机の上に乗って天井からそっと電球を外す。


あれ、この世界の灯りって何で光っているんだろう?魔力か?それだと電球じゃないな。魔球?大リ〇グボールか。まあ、それは置いておこう。


どうやらこのリネン室は、物置も兼ねているようで交換用の電球っぽいものがあったので代わりに差し込んでおく。よく見れば脚立も立てかけてあった。まあ、それも置いておこう。

この新しい電球もだけど天井にくっついているほかの電球も光ってないんだよね。切れているのかな。

入り口脇の壁にあったスイッチを入れると交換した電球も含め天井の電球がすべて点くのを確認してすぐに消す。これで七不思議の一つ、誰もいないのに点く明かりの謎は全て解けた。


このままリネン室で調べているところを見つかると犯人扱いされそうなので、動かした机をもとに戻して証拠を隠滅し外した電球は懐にしまってそっと部屋を後にする。

来る時は、みさちゃんの焦り具合にびっくりして油断していたのだが、幸いにして人目に付くことなくここまで来られた。運が良かったな。

帰りはちょっと冷静になったこともあり【隠蔽】に【気配遮断】と【認識阻害】までスキルを発動したお陰で誰にも呼び止められることなくアウェーの入院病棟からホームのリハビリ棟に戻って来られた。


ただ病室も巡回などで割と人目に付くので誰にも邪魔されずにこっそりと謎の電球を調べるために一旦地下一階のみさちゃんと出会った人気がない休憩室に行くことにした。


「みさちゃん、黙って持ってきちゃったんだけどこれでいいんだよね。」


「いい」


「えっと、この電球?をどうしろと?」


「なかま、たすけて」


え、仲間なの?この電球?


「この電球みたいなのが闇の精霊なの?」


”フルフル”


そう聞くと左右にふるえる。あれ、違った?


「ひかり、でもなかま」


ひかり?光の精霊ということだろうか?え、この世界の電球は光の精霊が光っているの?


「この電球みたいなものは光の精霊なの?」


「なかにいる。でもきえかけてる。」


どうやら電球の中に閉じ込められているようだ。まじかー。しかも消えかけているって、灯りじゃないよな。存在?

とりあえず前の世界で得意であった【土魔法】の発展系の【金属魔法】と【錬金】スキルの【変形】を併用して電球をパーツごとに分解していく。しかしこの電球、精霊を封印できる謎物質で出来ているのだがちゃんと【錬金】スキルで【変形】できた。スキルスゲー。

中の精霊に影響しない様に口金の部分の金属を少しづつ慎重に変形させ外していく。


”パキ”


口金を外したので精霊を閉じ込めておくための封印術式が壊れたのか、結界が壊れる音がした。半透明の外郭の中にあった白い球状の結界が崩れると中から弱々しく点滅するモヤが出てきたので両手でそっとすくい上げる。


「まりょく、ちょっとずつ、ながす」


「了解。光属性でいいんだよね。」


”コクリ”


首も無いのにうなずいた感じがした。


「一度にたくさんじゃなくて、ちょっとずつでいいんだよね。」


”コクリ”


やっぱりうなずいた感じがした。かわいい。

そんなみさちゃんを見てニタニタしていたのだが


「はやく、きえちゃう」


怒られた。どうやら結構緊急だったようだ。慌ててつつも焦らずにちょっとずつ光属性の魔力でモヤがひたひたになるくらい手のひらを満たしていく。

絶食していた人に急に食べさせると胃が受け付けないみたいなことだろうか。うっすらとした魔力で満たしてあげると薄いモヤ状のものの点滅間隔が短くなった?いや、周期は同じだけど明るさがやや明るくなって光っている時間もやや長くなったか。感覚的には十秒間隔のうち一秒明るくなって残りの九秒は光らなくなっていたのが二秒光って八秒消えるようになった位か。


暫くそうしているとやがて落ち着いたのか点滅が収まって、夜中の点灯していない蛍光灯位の存在感で漂っていたと思ったら霧散してしまった。あれ、間に合わなかった?そう思って慌ててみさちゃんを見ると


”フルフル”

「まにあった」


「うひゅう」


首に引っ付いているみさちゃんがフルフルしたので変な声が出てしまったが、どうやら間に合ったらしい。

そう言われると頭の上にうっすらと何かが乗っているような気配がある。省電力モードで今は消灯しているだけなのだろう。


「よし。部屋に戻るか。」


「うん」


どうやら闇精霊にとっては苦手なのか、光属性の魔力を出していた間、首の裏に隠れていたみさちゃんを肩に乗せて自分の病室までリハビリを兼ねて歩いていく。


「ひいい、ユ、ユージさんの肩に黒い影が」


むむ、どうやら霊感おばさんに肩に乗ったみさちゃんを見られてしまったようだ。



お読みいただきありがとうございました。

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