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第29話 上位の上意

ハイ。


出発を明日に控えた夜、何故か今、ユージレン君が事故に巻き込まれた現場であるマナ供給センターの第二魔導炉の事故現場位に一人で立っております。

明日この街を離れると思ったら、何故かもう一度、事故現場を見ておかないとって気になったんだよね。

実際に事故に巻き込まれたのは、ユージレン君だし、最初のこの状況を意識したのは魔装体換装センターの換装ポッドの中だったので、この現場にそこまでの思い入れは無いはずなんだけどな。


ああ、正確には一人じゃなかった。みさちゃんとあかりちゃんも一緒だ。

ここに来る途中で気づいたんだけど、この第二魔導炉、どうやら精霊を使ってマナを取り出していた精霊炉だったらしい。

経年劣化で魔導炉に精霊を縛り付けている魔方陣の力が弱まったのである程度自由になる力を取り戻せたのだろう。

脱出を図った精霊が魔方陣を破壊しようとして爆発させたのだが、完全に破壊しきれていなかった。


何故わかるかって?そりゃ、目の前で逆さまになって身動き取れなくなっている大精霊さまが説明してくれたからだよ。



今から30分ほど前、夜の闇に紛れてこっそりとやってきたマナ供給センター。近づくにつれて精霊の気配が徐々に濃厚になっている。


「何よ、また人間が来たのね。どうせまた、私のことなんか気付きもしないんでしょ。あら、なんか同族の子たちも一緒じゃないの。」


吹き飛んだ瓦礫の向こう側から何やらつぶやく声が聞こえてきた。炉にとらわれていた精霊がまだここに留まっているのだろうか。

この精霊の気配が、結構大きいんだよな。みさちゃんやあかりちゃんの比じゃない。このまま行って大丈夫かな。


何度か調査が行われたとニュースで言ったいたのだがその時には原因らしきものが何も見つからなかったと言っていたんだけど、原因ってこの精霊なんだよな、きっと。

そう思いながら足元の瓦礫に気を付けながら残ってた壁の残骸を回り込んで爆心地らしき部屋の後に入っていくとそこにはみさちゃんやあかりちゃんより成長した大人の女性の姿をした精霊らしき存在が天井に残った残骸から逆さまにぶら下がっていた。


「そこの人間、見てないで早く助けなさい。どうせ私のことは見えてもいないし声も聞こえていなんでしょうけど。」


「「あ?」」


やばい、目が合った。


「目が合った?目が合った、目が合った。」


慌てて目をそらして口笛を吹く。


「そこの人間、見えているのであろう。見ていないで早く助けなさい。何故目を逸らす。こちらを見て人の話を聞きなさい。」


気付かないふりをしたが、ダメだったようだ。


「主様?」

「マスター」


みさちゃんとあかりちゃんが仲間にしてほしそうな目でこちらを見ている。でも待ってくれ。目を逸らしたのには、真っ当な理由があるんだ。けっして面倒とか思っていないからね。思っていないよ?

そう、そこにいるのは、可愛らしいみさちゃんやあかりちゃんをそのまま大人にしたような美人さんだ。それが、逆さまに天井からぶら下がっているのだ。精霊さんだから頭に血が上ったりしないみたいだけど、何度も言うように逆さまなんだよ。


そう、いろいろがめくれあがって色々が無防備に見えちゃっているんだよ?見ちゃダメでしょう。


そうは言ってもこの状態で放置するわけにもいかず、視覚センサー情報をこっそりとREC modeにしてストレージしつつ、未だ頑固に残っていた精霊の束縛魔方陣を破壊して解放してあげてこの状況についての説明を聞き終わったのが今だ。


「正直人の子に対しての恨みつらみは積もっていますが、それを貴方にぶつけるのは違うだろうと思う理性も残っていますよ。」


良かった。八つ当たりでこちらに襲い掛かってこなくて。今まで開放した精霊さんたちの中にはこちらに襲い掛かってくる子もいたから。まあ、比較的小さな精霊ばかりだったし長く封じ込められていたから力もほとんど残っていない状態で、そんなことするから残っていた力も使い果たしちゃって消えちゃうんだよね。

彼女の状況を聞いた後にこちらの状況も、みさちゃん、あかりちゃん達と一緒に説明した。


「そう、魔法文明は滅びたのね。あの頃の人間たちの文明は進むところまで進み切って色々と自然の力まで手を伸ばしてしまっていたからきっと精霊王様の怒りに触れたのでしょうね。」


いや、なんかちょっと調べた範囲では異常気象とか謎の爆発とかではなく、進み過ぎた文明と度重なる戦争の結果として人々の活力が徐々に摩耗して自然消滅的に文明が後退していったみたいなんだけど。まあ、その辺の事情はどっちでもいいか。


「なるほど。今の状況は理解しました。人間、助けてくれてありがとう。私は水の大精霊、名前はまだない。助けてくれたお礼に暫くあなたと行動を共にして力になりましょう。長年封じられていたので殆ど力を失ってますが、それも一緒に行動しているうちに徐々に取り戻せるでしょう。」


「大精霊なのに名前がないのですか?」


「いえ、ありましたよ。過去に呼ばれていた名が。」


「ではそれではだめなのですか?」


「大人の事情に慮ったのですが?」


「参考までに聞かせていただいても?」


「ウンディーネ」


「それはあまりに有名すぎますね。」


「ルサルカ」


「ああ、それは今季放送をみると時期的によろしくないかと。」


「レイカ・ブルーウッド」


「それは、大きなお友達に怒られますね。」


「...」


「分かりました。何かぐぐります。...ともか」


「それはもしかしなくても水の妖怪ではないですか。でもまあいいでしょう。」


「では、ともかちゃんで。」


「この年でちゃん付けはどうかと思いますが、まあいいでしょう。ではユージ、貴方に試練を与えましょう。」


「へ?」


「行く先々で、私の様にとらわれた精霊たちを解放しなさい。そのためには私の力の一端を貸しましょう。」


「あ、あぁ、ありがとうございます?」


試練とか言い出した時はどうなることかと一瞬ビビったが、内容的には問題ないな。どうせ言われなくても助けられる精霊はなるべく助けようと思っていたし。みさちゃんにもあかりちゃんにもだいぶ助けてもらっていることだし。


「では、手始めに悪意ある者たちを懲らしめて見せましょう。」


そう言い放つとともかちゃんの周囲に4つほど水の弾が浮かび上がりそれが俺の後方に飛んで行ったかと思うと暫くして水の中に黒ずくめの男を一人ずつ封じた状態で戻ってきた。宿から俺の後を付けてきていた連中のようだ。多分キルクの手下か依頼を受けた闇バイトの人たちだろう。まだ4人とも息があって水玉の中でもがいている。


「あー、その辺でやめてあげて。」


さっそく自分の存在感を示そうとしたのだろうか。せっかく捉えたのになんで?って顔しているが、無言のまま水玉を消してくれた。


「「ごほ、ごほ、」」


宿を出たところから付けてきていた4人に間違いなさそうだ。ザコい気配しかしなかったのでそのまま放置しつつここまで来られても面倒なので、途中で【隠形】と【気配遮断】を使って撒いたんだけど幸か不幸か当りを引いたらしくこっちにフラフラと向かってきていた所をともかちゃんに見つかっちゃったんだろうな。未だに自分たちに起こったことが理解できずに呆けている。


しかしある意味、ともかちゃんは力がある分、みさちゃんやあかりちゃんより厄介かもしれない。色々と社会常識について勉強してもらわないといけなさそうだ。

まあ、この社会も前のファンタジー世界と一緒で結構命が軽いから彼ら闇バイトの人たちに何かあっても、キルク男爵以外は誰も騒がないだろうけど、そうでない見張りの人とかと区別がつくのだろうか。ああ、心配だ。これが大きな力を持った者の責任、”ノブレス・オブリージュ”って奴だろうか?しらんけど。


「まあ、害ないから。じゃあ、放置して帰ろうか。」


そうして再び【隠形】と【気配遮断】を使って移動する。彼らからしたら目の前から突然消えるように居なくなったように見えているはずだ。

明日は、朝からガイラが迎えに来るし。早く寝ないと。久しぶりに空飛ぶ乗り物に乗るのに寝不足でそら酔いとかシャレにならないし。


「待ちなさい。」


「どうしたの?」


放置した追跡者達から見えなくなったところでともかちゃんが、声をかけてきた。


「この先の街中は、魔素が少ないので力を失っている今の私では、存在を保ち続けるのにあまり適しているとは言えません。かといってその子たちの様に存在のための魔力供給をユージから受けるとなると、貴方が干からびる可能性があります。」


は、何それ怖い。大精霊って存在するためにそんなにたくさんの魔力が必要なの?

大精霊っていったいどれだけの魔力を持った存在なのだろう?

まあ、あんなに大きな魔導炉で魔力を吸い取られ続けても存在を維持できたくらいだからとんでもないくらいの魔力量なのだろう。


「私は失った力を取り戻すために居心地が良い場所を探してしばらくそこに留まる必要があります。」


”ポン”


「なのでこの子を付けましょう。」


ポンという音とともに ともかちゃんから小さな光の玉が浮かび上がった。


「その子は、私の一部です。その子だけでは殆ど力を持ちませんが、その分維持するのに必要な魔力量は微々たるもの。そこの闇と光の子たちを維持しても大丈夫なユージなら問題なく維持できるでしょう。」


ほほーう。この子は、ともかちゃんの一部、いわゆる分体って奴なのだろう。


「その子は私の一部。その子が見聞きしたものは、私にも伝わりますし念話で話もできます。」


「なるほど。この子は、人格的には独立ですか?それとも、ともかちゃんと同体というか、ええっと」


うーん、どう説明すればよいのやら。


「どういう意味でしょう。その子は私の一部ですよ?」


「えっと、どう呼べばいいのかな?と。この子もともかちゃんでいいのかな?それとも正体的には独立した存在になるなら...別に名前を付けた方がいいかなーって。」


「ふーむ、さて、どうでしょう。私もこうして一部を分けたことは今までなかったので。今はそのこもわたしなのですが、何とも言えませんね。」


むむ、完全に独立した存在ではないし将来的にも別人格になるかもわからないのか。


「そうですか。そうなると別の名前を付けてしまうとそれをきっかけに別の人格が形成されたりするかもだね。どうする?」


「ふふふ、そうですね。ユージ、貴方はどうしたいですか?」


おや、質問を質問で返されちゃったよ。んー、俺がどうしたいか?か。さてどうしようかねぇ。


「そうですねぇ。では、この子の名前は、モカちゃんで。今でさえみさちゃんとあかりちゃんの二人が力を貸してくれているだけで十分なのに更にともかちゃんまでとなるとちょっと手に余るかも。特に自分の魔力供給だけで存在を維持できない大精霊の力となると人の手には、過ぎたる力かな。だから、モカちゃんが一緒に来てくれるだけで十二分過ぎる位だよ。」


「ふふふ、ユージならそう言うと思いましたよ。では、そのように。」

「モカ、ユージにかわいがってもらいなさい。」

「ユージよ。モカをよろしくね。それと私とも、モカを通じて繋がっているのですから必要ならいつでも声を掛けなさい。今すぐはそれほどの力は出せませんが、協力は惜しみませんよ。」


「ありがとうございます。モカちゃんをともかちゃんと思って大事にしますね。」


「なら、私はこのままここを離れて住み心地が良い場所でも探して引きこもることにしましょうか。では、ユージとモカ、それにみさとあかり、達者でな。」


そう言い残すと、ともかちゃん本体は霧となって文字通り霧散した。きっと魔素濃度の濃い場所にある泉でも見つけてそこに引きこもるのだろう。


『ユージ、お腹すいた。』


おや、これはモカちゃんの意思かな。直接はしゃべれないみたいだが念話が伝わってきた。


「マスター、晩御飯。」


対抗意識を持ったのか、そう言ってみさちゃんが頭の上にへばりついてきて、魔力供給をおねだりしてくる。うん、かわいい。


「主様、私もよろしいでしょうか?」


左肩に乗って、首に手をまわしながらあかりちゃんもおずおずと聞いてくる。こっちもかわいいな。

遠慮がちに浮いていたモカちゃんを空いている右肩に乗せてあげて、少し体内の魔力循環を強めるとじわじわと漏れ出てくる魔力を三人で吸収するように取り込んでいる。

頭の上が闇属性、右肩が光属性で右肩が水属性か。これは属性の使い分けが、なかなか難しいぞ。


「さて、今度こそ帰って寝ないとだな。」


そう誰にともなく独り言?をつぶやいてやや急ぎ足で宿への帰路に着く。


明日はいよいよ飛空母艦に乗ってキヌタシティーまでの空の旅だ。

その後は、いよいよ領地となる未開拓の遺跡探索に向かうことになる。


未開拓の遺跡とはどんなところなのだろう。そこにはどんな危険が待っていてその危険を乗り越えた先には、どんなお宝が眠っていて俺らが行くのを待っているのだろう?


大精霊様から受けた精霊開放の使命を胸に、この後に続く冒険の日々を思うとワクワクし過ぎてちゃんと眠れるか心配になる。


次の日は、結局寝不足のまま乗り込んだ飛空母艦で、前半こそ元気に客用のラウンジからの空の景色に はしゃぎまわっていたものの、後半は乗り物酔いで虹色に光る何かを吐き出しながら這う這うの体でキヌタシティーにたどり着いたのだった。


お読みいただきありがとうございました。

これにて第三章終了となります。


キリが良いのでここで一旦完結設定させていただきます。


もし四章書きあがりましたらまたよろしくお願いいたします。

ただ、まだ影も形も無いのですが。


執筆のモチベーションになるかと思いますので

良ければコメントなど頂ければ幸いです。


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