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第24話 攻撃開始

『いでよエシュロン』


『だからエシュロンじゃねえって言っているだろうが』


いつものように適当にアレスを呼び出していつものやり取りを済ましてから本題に入る。


『まあまあ、細かいところは気にしない気にしない。ところであそこに展開している戦闘車両の特徴教えて?』


『まったく、お嬢様の我儘にも困ったものです。』


そう言いつつそれぞれの車両の特徴やら弱点やらを教えてくれる。中でも驚いたのがあの2台のMAが戦闘用ではなかったことだ。


『あの形は、工兵隊に配備された土木作業用のMAですね。』


『重機ってことか。』


『はい。ただ多少改造されているみたいで所々装甲が追加されています。』


『こいつで打ち抜けそうなところはあるか?』


『マテリアルライフルでですか。そうですね。股関節辺りでしょうか。HEATで打ち抜けば、ぽっきり行って歩けなくなりますよ。』


ウーム、股関節にHEATか。停まっている状態だけど、当たるかな。ちょっとずれて急所に当たるとこっちまでひゅってなりそうだが、方針は決まったかな。


用が済んだのでさっさとアレスをSleepさせながら、隣りで周囲を警戒しているラッセン中尉を伴ってバイクを止めたハンボーホの街側の廃墟の入り口付近まで一旦下がってから作戦行動に関して彼女と話す。


「攻撃は多くても5発です。5発撃ったら敵に捕捉される前に速やかに撤収します。」


「はい。」


「5発全弾発射して着弾結果を確認するか途中でも私が合図をしたら、ラッセン中尉は観測に使ったスコープを回収したら速やかに後方に下がってバイクに乗って逃走の準備をしてください。」


「えっと、どういうことでしょう?」


「スコープで録画した映像を戦果の証拠とするので街に戻るまでは、私はスコープに触らない方がいいでしょう。なのでスコープだけはラッセン中尉に回収してもらいたいのですが、私はそれ以外のライフルと三脚を回収します。その間にバイクを取り出してエンジンをかけてすぐに発車できる状態で待機していてください。帰りの運転はラッセン中尉に任せようかと思っていますので。」


「...」


「私もすぐに後を追いますので。ではこの起動キーは、あらかじめ預けておきますね。」


そう言ってバイクの起動キーを彼女に渡す。


「いかにして、この場を素早く撤収できるかが、今回の作戦における生存のカギですから、期待していますよ。敵の戦車に見つかって追いかけまわされるのはまっぴらごめんですから。」


「はい。」


うん。とっても嬉しそうだ。多分、ここ一番の見惚れる様な笑顔をしているのだろうと気配は伝わってくるのだが、残念ながら目出し帽の下だった。



ラッセン中尉との最終打ち合わせをして再度狙撃ポイントに戻ってくると敵側の陣地ではすっかり野営の準備が進んだようで食事の準備なのか煙が上がっていたり兵士がくつろいでいる様子が見て取れる。これならすぐに逃げればさほど苦労することなく追っ手を振り切れそうである。


お互い無言で頷き合ってから配置に着く。腹ばいになってバイポットを開いたライフルを構えスコープを除くと先ほどの配置のまま2台のMAがこちらを向いた状態で並んで見える。

しかも警戒心が緩いのか2台のMAが2台ともコックピットハッチを開けた状態でこちらを向いている。何やら整備中なのか向かって左側のコックピットに一人が座ってもう一人がそこをのぞき込んでいる。あの服装はさっきMAから降りてきた二人のパイロットだな。よし、撃ちぬこう。ちょっと絵面がグロくなりそうだがラッセン中尉には我慢してもらおう。


ボルトを引いて初弾を薬室に送り込んでセーフティを外してスコープをのぞき込み向かって左側のMAのコックピットに狙いを付ける。

うーむ、手前でのぞき込んでいるパイロットがむしろ邪魔だな。シートに座っているパイロットに当てないとコックピット手前で榴弾が弾けてしまい中まで被害が及ばないかもしれない。


”カヒュン”


手前のパイロットが邪魔で奥に座っているパイロットのヘッドショットはムリだったので喉の辺りを狙い撃つ。魔導銃なので発砲音は、まったくしないと言っていいほど静かだ。

撃鉄が落ちる音だけが辺りに響く。エネルギー弾なので風きり音もしない。狙撃には持って来いに見えるのだが、残念ながら曳光弾の様に光跡を引くので弾道をたどられて位置バレする欠点がある。

しかしさすがの威力だ。シートに座っていたパイロットは上半身がバーンてなっちゃったし、外から覗いていたもう一人の方は衝撃で片腕が吹き飛ばされてそのまま結構な高さから地面に落下してしまった。

すぐさまボルトを引いて排莢し次弾を装填する。次は右側のMAのコックピットだ。こちらは誰も乗っていないのでシート奥側に見える箱みたいな装置に打ち込んでおく。


三発目は再度左側のMAの今度は左足股関節を狙う。MAの重量を支えていると思われる骨格部分を撃ちぬくのは多分無理なので筋肉に当たると思われる油圧シリンダーみたいな部分を狙い撃つ。


おー、踏ん張りがきかなくなったのかゆっくりと隣りのMAを巻き込んで倒れていく。


四発目は手前の軽戦車の後部ラジエターファンの蓋っぽいところを狙うが効果は今一つの様だ。

上向きのファンの上についているブラインド状のひだひだになっている鉄板は貫通して扇風機の羽の部分も破損したようだ。その奥にあると思われるラジエター部分位までは貫通したようだが、動力が停止していたので何処まで損傷を与えられているかが判らない。

だからと言って動き出すかをゆっくりと確認している余裕はない。


最後に焼夷徹甲弾を奥に留まっているトラックっぽい車両の荷台に打ち込んで積み荷が燃えることを狙ったのだが、こちらも火の回りはいまいちっぽい。まあ、戦果としてはMA二台とも動けなくしただろうから最低限は挙げられたかな。


排莢した魔石薬莢五つを拾って中腰になりバイポットをたたんで銃を背負うのだが、隣りのラッセン中尉がスコープ覗いて固まったままだったので肩をたたいて撤収を促す。

ようやく状況を思い出したようで、自分の分担であるスコープを取り外してケースにしまい後方のバイクの所まで走っていった。こちらも遅れないように残りの三脚をさっさと畳むと、騒がしくなってきたような気配がある野営地に背中を向けて中尉の後を追いかけていった。


先を行くラッセン中尉にようやく追いついた時には、丁度隠していたビルの陰からバイクを引っ張り出して跨る所だった。始動キーを刺してひねって魔力が供給され始めるのが【魔力探知】スキル経由で見える。

魔導エンジンなのでセルもキックも無いのが、電動バイクみたいで味気ない。エンジン音もしないし。いや、本当に寂しすぎて最初はスーパーバイカー付けようかと本気で思ったよ。

出発準備ができたのか、中尉がハンドルを握った状態でこちらを振り返る。


「おまたせ。」


そう一言、声を掛けながら半分引っ込んでいた後ろのステップを出しつつ後席に乗り込む。


「準備OK」


女性らしい華奢な背中から腰に手をまわしてつかまりつつ出発を促す。


「行きますよー。」


そう言うとアクセルをひねってそこそこの加速で発射する。うん、ちゃんと学習している。練習で最初に乗ったときはアクセル開け過ぎでウィリーしてたし。

廃墟から街までの道路を通って馬鹿正直にまっすぐ西門に戻るようなことはせずに、南側の稜線裏をぐるっと回り込んで街の反対側の東門経由で戻ってきたのが功を奏したのか追っ手に捕捉されることもなくラッセン中尉の運転のまま無事に街まで戻ってこられた。目出し帽を被ったまま忘れていたので東門の入り口で止められたのは、まあお約束ということで。


ようやく街に帰ってこられたので、一旦ジャンクヤードに行きバイクからここまで乗ってきていた軍の車に乗ってラッセン中尉は、作戦の完了と戦果の報告の為に軍司令部に戻ることになる。

なので、戦果が確認できて報酬が用意出来たら呼んでねってお願いしておいた。


「申し訳ないのですが、途中で貴方の証言も聞きたいと言って召喚されると思います。」


「えー、俺の話なんてこれっぽっちも信用しないくせに無駄無駄。それよりラッセン中尉の録画ログがあれば十分でしょ?」


「え、録画していたことに気づかれてましたか?」


「だってそのために付いてきたんでしょ?こちらとしてもきちんと記録が残せて戦果確認してもらった方が報奨金も払ってもらえるしね。」


「そう言って納得していただけたのならば...助かります。」


「ふふ、最後までまじめちゃんだね。帰りの道でヒャッハーとか叫んでいた部分は見られないようにね。」


「な、な、な、何のことでしょう?」


おや、自覚無いのかな。帰りの道でどうやら追っ手もなさそうなので休憩したことでようやく緊張から解放されたのだろう。

そこからは嬉しそうにバイクを運転していたのだが、路面のアップダウンで車体が浮くたびに”ヒャッハー”って叫んでいた。

何処の世紀末だよと思ったけれど多分緊張していたんだろうなと思ってそっとしておくことにしたんだ。こっちはそのたびにあそこが”ヒュッ”ってなるし腰につかまっていたら振り落とされるので結局タンデムベルトとグラブバー握って軽く【身体強化】掛けつつ固まってたよ。


「まあ、楽しかったならよかったんだが。無事に帰ってこられたし。」


あちこち目が泳いでいたが、ややするとこちらを真っすぐに見つめながら、敬礼した後に右手を差し出してきた。


「お陰様で無事任務を達成できました。これで少なくとも敵の進軍は停まるでしょう。」


いやいや、結果を論ずるのはやや早計だって。MAは動けなくしたけど、まだ戦車隊が残っているし。しかもなんか照れ臭いが、流石に差し出された手を放置するのは、人としてどうかと思うので仕方なく差し出された右手を握り返すと軽く引っ張られた。


「また今度、バイク乗せてくださいね。」


悪手仕立てを引っ張りながらラッセン中尉から体を寄せてきて耳元でそうささやく。


「では、失礼します。」


パパッと離れてまた敬礼すると軍用車に乗って帰っていった。


おれ?いやもういらないでしょうと言って宿に帰って飯くて風呂入って寝たよ。家?帰れないし。


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