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第22話 美人な中尉さんはスピード狂

「ヘルガ・ラッセン中尉であります。」


黒髪灰目の美人さんだが、堅物そうだ。それが彼女の第一印象だ。


「ハンターのユージレンです。よろしく。」


「どうだ、うちの隊一番の美人だ。彼女なら文句ないだろう?」


ハンターギルドに来ていた3人の軍人さんのうち一番偉そうだった人が呼び出して押し付けてきたのが彼女だ。


「自分は何のために呼ばれたのでしょうか?」


偉そうな軍人さんの言い草に女性蔑視を感じたであろう彼女が不満気に問いただすのは仕方がないのだが何故こちらを睨む?


「彼の作戦の成果を確認する人員を付けたいのだが、一人の方が動きやすいと言ってな。仕方がないのでうちの隊で一番優秀なものを付けることで何とか妥協してもらったので君に来てもらった。」


明らかにとってつけたような言い訳をしているが、彼女の表情を見るにバレバレである。このオッサンは普段からこんな軽いノリなのだろう。


「えーと、ラッセン中尉と呼んでも?」


「はい。」


「このおっちゃんが言った通りこの後、MAの攻撃任務に出るんだけど」


「おっちゃん呼びは、流石に酷いけどそういえば名乗っていなかったな。ロバート・パウエル大佐だ。」


今更感があるが、大佐か。偉いんだろうなとは思っていたが、ハンボーホの軍隊の中では実際どうなのだろう。


「ラッセン中尉にはこの後、彼についてヤリタ軍のMA攻撃作戦に同行してほしいのでそのつもりで。」


いやいや、そんなこと急に言われても彼女も困るだろう。


「作戦内容は、ざっくり言うと今から街の外、大体10km地点の狙撃ポイントまで移動、敵部隊が野営の準備を始めたら日没直前辺りで狙撃を実施後、敵の反撃を受ける前に速やかに撤収する予定ですのでその想定で準備をお願いします。」


まあ、俺の説明も大概なのだ。

おそらく内勤をしていたのだろう今の彼女の格好はスカートタイプの女性軍服で靴もパンプスっぽいしで、街の外での戦闘に適しているとは到底いいがたいので野外活動用に着替える必要があることだけでも認識してもらえれば良いのだが。中尉だけど軍人さんなんだから行軍とかするよね。野外戦闘の準備あるよね。


「は、了解しました。最速で出動準備出来次第、再度出頭します。」


うん。きれいな敬礼だ。


「えーと、それまでは私はどこで待っていればよいですかね。」


「最初にいた来場者用の待合室でいいだろう。ラッセン中尉もそこに戻ってきてくれたまえ。」


「は、了解しました。では、一旦失礼します。」


あぁ、行っちゃった。あんな少ない情報で大丈夫かね。まあ服装だけ変えてくれれば、後は最悪手ぶらでも平気かな。


「所で、狙撃ポイントまでの移動はどうするつもりかな?」


待合室まで案内してもらいながらの廊下でパウエル大佐が、移動手段を確認してきた。


「あー、そうですね。なんか乗り物借りられます?バイクとか。」


「バイクはないが、魔道車両ではだめかね。」


「下手したら戦車に追いかけられるので機動力が高い方が良いのですが...ではそれは自前で用意します。」


「おや、自前のバイクを持っているのかね?」


「ジャンクヤードの発掘品の寄せ集めですがね。」


「そういえば、最近再生品の魔導バイクが売り出されていたな。」


「あー、それは私が組み上げたものかもですね。」


「ほう、そんな特技があるのか。どうかね。この作戦が無事に終わったらそのバイクを私に譲ってはくれないか?」


うわー、なんかフラグっぽい?バイク壊れちゃう?ああ、戦車に撃たれたバイクが粉々になる未来が僕にも見えるよララー。


「いやそれは、勘弁してください。そういえば、ラッセン中尉はどうしよう?やっぱ邪魔だよな。」


「そんな邪険にしなくてもいいじゃないか。」


「お待たせしました。自分の名前が聞こえてきたのですが何の話をしていたのでしょうか?」


そんな話をしていたらいつの間にか着替え終わったラッセン中尉が戻ってきていた。どうやら自分のことが話題になっていたのが聞こえたようでまた少し険悪な感じになっている。


「おお、早かったな。今は現場までの移動手段を確認していたところでな。ラッセン中尉、君はバイクに乗ったことはあるかね。」


「バイクというとあの2輪の魔道車の事でしょうか?」


「そうそのバイクだ。ユージが現場までバイクで移動すると言っていてな。」


「自分はバイクには、乗ったことがありませんが。」


「そうか。それは困ったな。」


「いやいや、困ったなじゃないよ。そもそも一台しかないから彼女の分は、無いよ?」


いやそんなビックリした顔されても困るんだけど。


結局タンデムすることになった。逃げるときに戦車に追われて後ろから撃ちまくられる可能性があるのに いくら軍人さんとはいえ女性を後ろに乗せて盾代わりにするのは気が引けるんだけど。

それに機動力も落ちるから逃げられるものも逃げ切れなくなりそうなんだよな。

まあ最悪、彼女はその場に隠れてもらって俺が囮になるしかないか。


軍の車を借りてまた荷物を預かってもらっているジャンクヤードまで二人で戻ってきた。


「じゃあ、これ着てこれ被って。」


ヤードの奥からバイクを引っ張り出すのに合わせて奥から出すふりして自分の分と彼女の分のフード付きのローブ?軍人さんだからポンチョかな?それと目出し帽を彼女に差し出す。

こいつは前のファンタジー世界にいた時にノリで作っておいた【隠蔽】やら【気配遮断】やらの隠密系のスキルを高レベルで付与した名付けて暗殺者のローブだ。しかも調子に乗って柄がデジタル迷彩になっているのだ。

作ってお披露目したときは勇者ちゃんたちにもめっちゃ受けててなぜかその場でかくれんぼが始まったのだが、結局は可愛くないの一言で勇者ちゃんたちからいらないと返された曰く付きの逸品だ。解せぬ。


聖騎士の彼だけは欲しそうにしていたのだが


「そんな隠蔽ローブを持っていたらお風呂とか着替えを覗きそうだからダメ。お前ものぞいたらモグ。」


と聖女ちゃんが言い放って彼の分も返品になったのだが、なぜか後からこっそり聖女ちゃんと賢者ちゃんの分は引き取られていった。あいつら、悪いことに使って無いよな。今更ながらおじさん心配になってきちゃったよ。


ということで残っている勇者ちゃんの分をラッセン中尉に渡して自分でもローブだけは身に着ける。


「流石に目出し帽被って街中を走ると怪しすぎて止められそうだからこれは街から離れてからな。」


「あの、これ、本当に被るんですか?」


「あ?何言ってるの?死にたいの?自然の中やら廃墟から普通に顔出していたら見つかるにきまってるじゃん。」


「わ、分かりました。」


「まあ、抵抗あるのは判るけど、諦めようね。」


そう言いながら、タイヤとブレーキと魔力残量をさっくり調べてエンジンをかける。

といっても魔力で動く魔導バイクなので構造的には電動バイクや電動自転車に近く、エンジンをかけるためのセルやキックは無いし、エンジン音がしないのでとても静かだ。


「先に俺が跨るからいいよと言ったら後ろに跨ってね。こことこっちにステップがあるから足を掛けて乗ってね。乗ったら腕をまわしてしっかりホールドして。あと膝を閉めて腿で挟むように体を固定してね。」


この世界には、道路交通法は無いのでノーヘルでも誰にも取り締まられないのだが、荒野を走るのでしっかりヘルメットをかぶってゴーグルをするし、彼女にもヘルメットを被せて顎ひもを締めてあげる。

ちょっと緊張しているのか体に力が入っているようだ。


「そんなに緊張しなくても行きは、安全運転で行くから大丈夫。」


「ええっと、帰りは?」


「え、死にたくないでしょ?だから行きで早めに慣れてね。」


心配そうにしている彼女に気付かないふりをしてバイクに跨って起こしたら後ろに乗るように彼女に声をかける。

恐る恐る跨ってきた。どうやらシートには無事乗ってステップに足を置けたようだ。


「乗った?乗ったら膝閉めて」


「こうですか?」


「そうそう。そしたら後はしっかり掴まって、ぐげー」


俺は慌てて胴体に回された彼女の腕をタップする。ギブギブ。


「ど、どうしました?」


「いや、折れるから。死ぬから。」


どうやら彼女もかなりパーセンテージの高い魔装体の様で、その力で締め付けられたら折れるから。

ほら、俺体半分は生身だし。え、何贅沢言っているのかって?黒髪美人の軍人さんに背中からギュされているくせに、うらやまけしからんって?


安心してください。


彼女との間には、ライフル君とスポッター用の三脚さんが居座っています。スリング付けて背負っております。スコープ本体は彼女に肩から下げてもらっているし彼女は彼女で自動小銃っぽいのを背負っている。


「あの、俺、半分生身なんでもうちょっと手加減してもらえると助かるんだけど。」


「し、失礼しました。これくらいでどうでしょう?」


「うん。それくらいでお願いします。まずは街中だしゆっくり行くからそんなに緊張しないで大丈夫。」


「分かりました。」


「それじゃー、出発」


流石にユージ行きまーすとか言っても通じないだろうな。


「ふふふ、フフフ」


街から出るくらいまでは、緊張して力が入っていたんだけど、街から出てちょっと開けた一本道を走り始めたくらいからなんか慣れてきたみたいなのは良いんだけど。


「ふふふ、フフフ」


背中でずっと笑っているとなんか不気味で怖いんですけど。


帰りのこともあるので途中休憩のタイミングで 彼女に操作方法を教えて乗る練習をさせたんだけど流石は、軍人さんだ。すぐに乗りこなしちゃったよ。終いには、出発するから早く後ろに乗ってください的な目でこっちを見てくる始末だ。


ビビッてしがみついてくるような、あの可愛かったラッセン中尉は何処行った?


お読みいただきありがとうございました。

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