第20話 地域紛争
ここから新章になります。
よろしくお願いいたします。
次の日、今後の相談のために担当管理官のマリッサさんの所を訪れた。
「まあ、それはお気の毒に。」
「実は、強がりでも何でもなく、正直それほどショックを受けてはいないんですよね。」
昨日、現場を間接的にだが見たときは動揺したんだけど、一晩経って寝て起きたら、思ったほどは引きずって無いんだよね。
「そんなこと言わなくても、悲しい時には泣いてもいいんですよ。何なら胸を貸しましょうか?ここではなんですから...お部屋の方で。」
それは誤解なのだが、マリッサさんの優しさが心にしみるのでお言葉に甘えることにする。やはり温かくて柔らかい二つのものに包まれるとそれだけで癒される。
ひと勝負終えて出すものだしてスッキリした後、マリッサさんと寝物語にハンボーホの街を出ていくつもりだと話をする。
借りている部屋は事故の補償で3年間は無償で借りられたはずなのだが、街から自主的に出ていくならば、その時点で解約となるそうだ。手続きはマリッサさんがすべてやってくれるとのことなので、必要な荷物を回収したら後は出ていくだけでよいそうだ。
もっとも、重要なものはインベントリに入れっぱなしだし、着替えなどは出向依頼に持って行ったのであの部屋に回収しないといけないものは何もなかった。
「わかったわ。手続きはしておくから任せてね。ただ、今は戦闘ができるハンターは街からむやみに出ていけないのよ。外からくる人もほかの街の住人だと街に入るのに結構時間をかけて調査されてたりするのだけれど。」
「え、どういうこと?昨日は問題なく街には入れたけど?ん、待てよ。そういえば、他の人は入るのに思ったより時間がかかってたりしたな。俺達は、見せたギルド証がこの街発行の物だからと言って通していたな。」
「皆さんは多分この街のハンターで依頼から帰ってきた所だからほぼスルーだったと思うわ。その代わりに出られなくなってしまうのだけど。」
「ええー、何じゃそりゃ。またハンターギルドのギルマスの横暴か?」
「んー、ギルド権限でストップ掛けているのだけれどギルマスの横暴ではないのよ。つい最近、隣の街ヤリタで遺跡からMAが見つかった話を聞いたことない?」
「あー、なんか魔導鎧が見つかって一攫千金したハンターの話を キヌタシティーに居たころに噂で聞いた気がします。それ、ここの隣り街だったのですね。」
「それがここ一月位前の話なんだけど。どうやらMA2台と魔導戦車を何台か手に入れて気が大きくなったのか、買い取るのに大金使っちゃったからなのか知らないけど隣り街の貴族がなぜかハンボーホに対してヤリタに帰属するように言って来たのよ。」
「軍門に下れと軍事的な圧力をかけてきたわけですね。」
「まあ当然断ったんだけどそうしたらMA使って攻め込んできちゃっているの。」
「ええと、それいつの話です?MAに攻撃されたって話、聞かないですが。」
「三日ほど前ね。ただ、MAを運搬するキャリアが壊れてて動かなかったらしくてMAが自分で歩いてきているから時間がかかっていてようやくヤリタとハンボーホの間の3/4ほどの所まで到達しているの。」
「なんか随分のんびりとした軍事侵攻ですね。」
「でもMA2台に魔導戦車12台だから戦力は侮れないのよ。というかハンボーホの街自体は、自分たちでMAを所有していないから殆ど対抗できないわね。仕方がないので寄り親の貴族に援軍と調停を依頼しているのだけれど間に合いそうも無くて。それで明日ハンター全員に強制依頼をかける事になったわ。何とか進行を止められないかって。」
「えー、俺らに戦争しろって?まじかー」
「この街の貴族たちの戦力も出すけど、魔導戦車が数台と魔導砲台が何門かあるだけだから 戦力としては当てにならないのよ。」
「でも、俺メインの武器は剣だし。生身の剣でMAとやり合えとか、ないわー」
「でも、このままだと街が蹂躙されて私もあんなことやこんなことされちゃうわ。」
「なんかちょっと嬉しそうなのは何故ですか?」
「そ、そんなことないわよ。そんなことにならない様にちゃんと守ってね。むちゅ」
そう言って抱きしめてくるのだが、普通ならこちらの胸に顔をうずめてくる場面だと思うのだが、なぜか自分のお胸様でこちらの顔を埋めにかかる。ああ、二つの柔らかい幸せが包み込んでくる。うん、これは守らないと。
次の日、マリッサさんが教えてくれた通りギルドから強制依頼が掛った。ハンター全員に集合をかけているので結構な人数になるはずなのだが、なぜか集合場所がハンターギルドの会議室だった。ここだと詰め込んでも30人くらいしか入らないんだけどな。
そう思いながら会議室に入ったのだがやっぱりそれほど人がいない。ギルマスとギルド職員が数人、あとなぜかガルムのパーティーとギルマスの息がかかったパーティーが1組、それにキヌタシティーの出向組の5人に俺と軍服っぽい制服を来た知らない人が3人ほどか。
「よく来てくれた。それではハンターギルドの戦力による防衛作戦を発表する。まずこちらのガルムのパーティーと他2組がハンターギルドの主戦力として軍と協力してヤリタ側の西門に陣地を築いて防衛にあたる。そしてキヌタシティーで活躍した君たちには、遊撃部隊として移動中のヤリタのMAを含む戦車部隊を攻撃しこの侵攻を止めてほしい。」
「何、寝言言ってんだこの馬鹿は。」
おおっといけない。つい本音が口をついてしまった。
しかしギルマスはここまで馬鹿正直に反論されるとは思っていなかったのか呆けた顔してフリーズしている。
ただ、軍人さん3人が射るような目つきでこちらを睨んでいる。
「俺たちの普段の武装は剣だぞ。お前はこれでMAやら戦車を倒せると本気で思っているのか?」
そう言いつつ、椅子から立ち上がって軍人さんにも見えるように腰から下げたライジングスター(笑)を鞘の上からポンポンと叩いて見せる。
「だとしたら、頭の中お花畑だとしか思えない奴が上に立って指揮するとか勝てるわけがないけど」
そう言ってこちらをにらんでいる軍人さんに本当にこんな作戦了承したの?って感じで目で訴えかける。
「うむ、我々は君たちがキヌタシティーで起きたスタンピードの時に活躍したと聞いているのだが。どういうことかね?マルクス君」
こちらの目線にこたえるように一人の軍人さんが、ギルマスに説明を求めた。
「ええっと、はい、いいえ、その、彼らはキヌタシティーからの討伐依頼に出向して見事に依頼を果たしたとキヌタシティーのギルマスからお墨付きをもらっているのは確かです。はい。」
「その割には報酬がピンハネされてキヌタのギルマスに聞いていた額の半分だったけどな。」
「そもそも討伐対象は、残存したオークやゴブリンの殲滅でしたし。」
「戦力的には、普段から大口径の銃ででっかいボア相手にドッカンドッカン撃ちまくっているガルム達の主力パーティー(笑)の方が、まだ効果が期待できると思いますね。」
最初のギルマスのやらかしからようやく復帰してきたキヌタシティーの出向組のメンバーからも追撃が入り始めた。フェイなんかちゃっかりガルム達の事を主力パーティー(笑)とか言ってるし。
「ぬぐぐ、い、いや、だからこそ我らが主力パーティーで虎の子の魔導砲台を守らないとなのだ。」
「うーむ、魔導砲台の防衛戦力は多い方がいいのは確かだ。だが、剣を扱うハンターをMAに向かわせることになんの意味があるのかね。マルクス君」
「あー、えー、そのー、ほ、ほら、彼らだって銃を持っているわけですし。」
そう言って俺のことを指さしている。人を指さししてはだめとママに教わらなかったのかこいつは。
「これですか?こんな豆鉄砲で戦車に穴が開きますかね。」
そう言って今度は、右わきに吊るしてあるPDWをホルスターの上からポンポンする。
「軍事車両には対魔導弾用のコーティングがされているから魔導銃程度では効果は期待できないな。」
「う、うるさいぞ、お前たち。街の危機なんだぞ。グダグダと口答えばかりせずに俺の言う通りに行動しろ。」
あー、ダメだこいつ。本気で俺たちに万歳突撃させる気でいるよ。軍人さんも呆れ顔してマルクス君の事を見ているし。
「へいへい。要するにヤリタからの侵攻部隊を何とかして引き帰えさせればいいんでしょう?で、報酬は?」
「今回は街からの依頼で西門に達する前に退却させられた場合、成功報酬が金貨で300枚だ。」
「で、やれ税金やらギルドの手数料やらで半分ピンハネされて手取りは150枚ですか?安すぎますね。」
「待て。今回は、街からの特別依頼で報酬に税金はかからないぞ。それにそもそも西門到達前に退却させた場合の成功報酬は、金貨1000枚を提示しているはずだ。これはどう行くことかねマルクス君」
何とビックリ。既にピンハネ済みの価格設定だった。しかも依頼主の目の前で。
「いえその、えーと、ほら3人ずつ2チームに分けるとギルドの手数料が1割だから成功したチームが一人あたり300枚ということですよ。はい。」
うわー、苦しい。言い訳が苦しい。しかもちゃっかり手数料取っているし。軍人さんたちもジト目で見ている。
「君たちは、3人で1チームなのかね。」
先ほどまでギルマスを責めていた軍人さんではなくその左側にいた階級が上そうな襟章をつけた人がこちらに聞いてきた。
「いいえ、基本的には普段、我々は皆、ソロで活動しているね。キヌタシティーでは、こちらの5名と彼が一人の2組に分かれてましたね。」
そうフェイが説明するとなぜか軍人さんが三人とも俺の事残念な子を見るような目で見てきた。解せぬ。
「そう言うことなら今回は街から君たちに直接依頼をしよう。もし西門に達することなく奴らを撤退させられたら成功報酬金貨1000枚だそう。それとは別に撃墜報酬も出そう。魔導戦車1台当たり金貨100枚から300枚、MAは1台当たり500枚だ。」
「それは、随分と大盤振る舞いですね。ところで魔導戦車の報酬に幅があるのは何故ですか?」
今度は、アイリーンが魔導戦車の報酬のことを確認している。確かに報酬に幅がある理由は確認しないとだな。
「偵察部隊の報告によれば敵の魔道車両にはいくつかの種類があり戦車だけでも大、中、小の3タイプが確認されており、ほかにも軽装甲車や装甲トラックなども確認されている。なので主力の大型戦車タイプで金貨300枚、中・小型戦車が200枚、装甲トラックは、まあ100枚位が妥当だろう。どうかな。やってくれるかな。」
なるほど。種類の違う戦車が確認できているのか。でも装甲車に毛が生えたような軽戦車相手ならまだやり様もありそうだが、見てわからるほどの重戦車相手となると歩兵の携行武器で破壊することはまず無理だろう。軍人さんからの破格な提案に フェイが我々の中では割と武装に火力があるアイリーンやロバートを見るがどちらも首を横に振っている。うん、よく自分の力を分かっていらっしゃる。
「大変魅力的なお話なのですが、私たちの火力では装甲車両には通用しないね。」
「よ、よし。それなら俺らがその依頼を受け…むぐぅ。」
「ばか。よせ。死にたいのか。」
「お前いい加減にしろ。」
依頼の報酬に目が眩んだのか、なぜかガルムがやる気になっているが、パーティーメンバーに後ろから止められている。やっぱあいつ馬鹿だな。
「うむ。流石に無理か。こちらとしても軍人でない君たちに死ねとは言えないからな。ただ、このままでもいずれは戦わないといけないのだがな。」
どうやらこの街の貴族や軍人さんは、まともな様だ。そもそも、うちらハンターにそれほど期待はしていなかったのかな。3人で頷き合ってそろそろ締めようとしているようだ。うーん、報酬が良いから試してみてもいいんだけど。
「あのー、その依頼、試してみてもいいんですが、失敗時のペナルティってありますか?」
うへ、会議室全員が急にこっち見たよ。まあ、空気読まずに発言したから仕方ないのだけど。とはいえ侵攻の足止め程度であれば出来そうだが、撤退にまで持ち込めるかは五分五分くらいだけど。
「む、何か作戦があるのかね。街に被害が及ばないなら途中で攻撃する分には特にペナルティは無い。むしろ失敗しても侵攻を遅らせて多少なりとも時間稼ぎができるなら上出来なのだが。」
「それは、調停のための援軍が到着するまでの時間稼ぎということでしょうか?」
「そうだ。それなりに足止め出来た場合にも報酬を出せるか検討しておこう。」
お、足止めだけでも報酬貰えるのか。ただ、調停のための人員が到着するまでに街が落ちたらその報酬って、流石にもらえなくなるだろうな。それどころか下手にちょっかい出して損害与えていたのが俺がやったってバレたら、逆に取っ掴まって監獄行きになりかねないけど。
「では、やるだけやってみますね。」
「そうか。受けてくれるか。ちなみにどんな作戦か教えてもらえないか?」
「え、馬鹿が何しでかすか判らないので、ちょっとここでは言いにくいのですが...」
と作戦内容を聞かれたのだが、軍人さんたちとは連携をとるためにも教えてもいいんだけどギルマスとかガルムが、無駄に足を引っ張るために何をしでかすか判らないからな。
「うーむ、そんな懸念もあるのか。ままならんのう。ええと、君は?」
「はい。申し遅れました。ハンターをしておりますユージです。」
「うむ。ではこの会議はここまでとしよう。皆、集まってくれてありがとう。解散してくれたまえ。では、ユージはこの後、軍司令部まで一緒に来てくれ。」
「ぬぐぐ、分かりました。」
うーむ、軍司令部か。緊張するな。ちょっとやだけど行かないわけにはいかないよね。仕方がない。諦めよう。
グダグダな軍とハンターたちの作戦会議は、こうして終了し俺はギルドに来ていた軍のお偉いさんと一緒に軍司令部に拉致られる結果となった。