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閑話4 換装

その日は、昼過ぎまで泣いていたのだけれど、このままニートを続けるわけにはいかないので報告と納品を兼ねて、夕方にはモニカさんの所を訪れていた。


既に忘れられた設定かもしれないけれど、この筐体は種を集めるための物で、頂いた種を納品するのは専属契約した私の仕事なのよね。


「モニカさん、こんにちは。」


「あら、ミリエラさんご無沙汰というほどでもないけれどあれから一週間は経っているわよ?貴方たちもしかして?」


あー、納品に来なかったのだから暫くご無沙汰だったのはバレバレだろう。


「うう、ごめんなさい。なんかお互い気不味くて。暫く間が空いちゃって。でも、昨日は...」


うわー、そういえばこうして此処に来ているってことは昨日の晩に”した”って言っているのと同じか。なんか急に恥ずかしくなってきた。


「あらあらまあま、時間はかかったけど上手く行ってそうね。じゃあ、さっそく種の回収をしましょうか。」


反応がおせっかいおばさんぽいとか思っているうちに、モニカさんは慣れた手つきで回収作業を進めていく。

処置もすべて終わってモニカさんと軽く世間話をして、今日の所はお暇することにした。


「上手くやって幸せになりなさいよ。」


帰り際に言われたモニカさんの言葉で心の中にまた不安が湧き上がってきた。

彼は無事に帰って来るだろうか?帰ってきてくれたとして上手くやっていけるだろうか?

私は幸せになれるのだろうか?


そんなことを考えながら”ぼー”と歩いているうちに気付いたらネオンがきらめく繁華街の中にいた。無意識にネオンの灯りに引き寄せられたのだろうか?


素人の若い女一人だけでいる場違い感からさっさと立ち去ろうと歩き出すとネオン街の外れに前世でやっていたソシャゲ、”僕執事”のコラボカフェのような雰囲気そのままのバーが目に入った。


ちょっとお酒でも飲んだらこのさみしさを紛らわすことが出来るだろうか?


そんな軽い気持ちでついフラフラとそのお店に入ってしまったのでした。


****************


「おはよう、子猫ちゃん。」


二日酔いなのかひどい頭痛にさいなまれながら目が覚めると何故か家にいて彼のベットで寝ていた。


「え、え?」


そして隣には何故か、ソシャゲ”僕執事”で推しだったアレス君に似た誰かがいた。


二日酔いのせいなのか、頭痛がひどくて考えがまとまらない。あれ、私どうしたんだっけ?

記憶が飛んでいる?


「頭痛いの?ならこれを飲んで、楽になるから。」


そう言ってアレス君が差し出したお薬を何も考えずに飲んでしまう。


「フフフ」


彼の怪しげな笑いも気にせずに。

その後、また意識が深い海に沈むように混濁していくのだった。


その後は、彼に言われるままにお店でお酒を飲んで帰ってきては夜を一緒に過ごす日々を繰り返した。お酒を飲んでいる間だけひと時の安らぎを得られる感じがした。


そんな生活を続ければ先立つものが無くなるのは当たり前である。彼が置いて行ってくれた生活費も間に底をつくと、金の切れ目が縁の切れ目とばかりに、急につれなく突き放してくるアレン君に焦りを感じて彼にお金を無心してしまう。


心のどこかで間違っている、止めないとって思う自分がいるのだけれど、頭がうまく働かなくて考えがうまくまとまらない。

そんな不安を紛らわすように結局アレン君に課金し続けてしてしまうのだった。


********************************


「警察だ。」


彼のベットでアレン君と二人寝ている所にいきなり警察を名乗る人たちが踏み込んできたと思ったら、あっという間にアレン君を逮捕して行った。容疑は禁止薬物の使用だそうだ。


「お嬢さん、大丈夫かな。ちょっとこの綿棒を口に含んでくれるかな?」


どうやら使用されていたのは私の様だ。何かの検査キットで唾液検査をされたか結果、黒判定だったようであっという間に魔装体換装センターに連れていかれて医療用ポッドに入れられてたところでまた意識が途絶えただった。


********************************


「びばばいでんびょうか?」


目が覚めると水を張った棺桶みたいなところに閉じ込められていた。



「お目覚めですか?ミリエラさん。まだ、体が動かないと思いますが、心配しないでも大丈夫ですよ。」


勢いで知らない天井と言ってはみたもののよく考えると最近同じような目にあっているから、知ってる天井よね?なんてくだらないことを考えていたら、知っている声が聞こえてきた。


「ポポーン、魔装体の起動シーケンスを開始します。」


そうそう、あの時もこんな感じで急に動き出したっけ?


「ミリエラさん、聞こえますか?最初黒の四角い窓が出てきたかと思います。その後、色々な絵や画像が流れてその後絵が描いてある四角が並んだ状態になりましたか?」


「なんか、黒い窓に文字みたいなものが並んでいる状態で止まってしまっているのですが。これって、なんかエラーが起きているんですか?私、大丈夫ですか?」


前回は、カラフルな起動画面が出た後にアイコンがいくつか並んだ画面が出てきたのだけれど、今回はなんか起動画面が出てこずに何かの映画で見たような黒バックに緑の文字が羅列されていて最後に四角いアイコンがピコピコした状態で止まっているんだけど。これ起動失敗した?


「あぁ、おそらくは周辺魔素の不足による起動停止状態が表示されているのでしょうね。心配しなくてもつい最近対処法が見つかったのよ。暫くはまたリハビリになるけどそれが終わったら再起動しに街の外に行くことになるわね。」


え、また街の外に出るの?なんで?


「なんでも最初の起動の時に大量の魔素が必要になるらしいんだけど街の中だと周辺に含まれる魔素濃度が低すぎて供給が追いつかなくなる可能性があるからこうして警告が出て止まっちゃっていたみたいなの。」


ふーん、なるほど。判らん。エアコンが電源入れてすぐが一番電力を使うのと一緒なのかな。


「今度の筐体は、起動に魔素がたくさん必要ということはおそらく戦闘用の中でも割と高機能な筐体に当たったと思うの。良かったわね。」


えっと、そういえば私どうなったのかしら?新しい筐体って何のこと?


「ふふ、それも含めて今の状況を全部説明してあげるわね。」


その後、換装装置からリハビリ病棟の病室のベットに移動して、そこでゆっくりと現状の説明を受けることになった。


モニカさんの説明によると、私はあの日入った執事喫茶は、悪質なホストクラブまがいのお店だったようだ。入店後の記憶がほどんどないのだけれどどうやら愛玩筐体に強力に作用する媚薬を盛られて意識が混濁した状態となって、あとは薬漬けにされてアレン君の言いなりになってしまっていたのだそうだ。その薬のせいで前の筐体が継続使用ができない状況となってしまったために筐体を丸ごと交換する事となり今に至るということらしい。


「暫くは今の筐体の制御に慣れるためのリハビリになるわ。まあ、前と違って2回目だからそんなに長い時間かからないと思うけど。」


そう、それは朗報だけれども、こんなことになっているなんて彼に知られたらきっと捨てられてしまうに違いない。

だって、自分は命がけで仕事をしている間に家に男を連れ込んでいたわけだから。実際には薬を盛られて意識が混濁した状態で操られていたのだけれどもきっと理解してもらえないだろう。


「あ、あの、モニカさん。このこと、彼には秘密にしてもらえないでしょうか...」


なんとか彼にバレない様にモニカさんにお願いしてみたのだが、なんか難しい表情をしている。あれ?もしかしてもう知られちゃているの?


「ごめんなさいね。ミリエラさん。彼にはもうこの状態、知られちゃっているわ。というか、ミリエラさんが男に騙されている状況を見つけてくれたのが彼なのよ。まあ、実際には男を家に連れ込んでいる現場を彼が押さえちゃって、その状況をマリッサに報告してきたのだけれど。」


最悪である。よりにもよって連れ込んで真っ最中の所を見られちゃったなんて。もうこれは復縁は無理そうね。

そう考えると自然と両方の目から涙があふれてきた。


「続きはまた明日にしましょうか。」


そう言ってモニカさんは、泣き続ける私にすっぽりと布団をかけて部屋を出ていくのだった。


********************************


『保存されたユーザーコンフィギュレーションが見つかりました。保存されたユーザーコンフィギュレーションで設定を復旧します。』


『サブCPUモジュールが見つかりました。サブCPUモジュールを起動します。』

『サブCPUで待機中のDLC”僕執事”を起動します。』


”ぼくしつじー”


『お帰りなさいませ。お嬢様』


『おや、バイタルが優れませんね。最後に確認された状態との乖離が激しすぎますね。これではまるで別人の様ですよ?』


あれから一週間ほどのリハビリを続けた結果、無事に退院できた。新しくなった戦闘用筐体の出力制御に失敗して掴まり立ち用の金属製の手すりを握りつぶしたりして怒られ続けたのはいい思い出だ。


そして今日晴れて街の外での再起動イベントに至って無事OSの再起動ができたようなのだが...何故か視界の中にVR表示で”僕執事”のキャラの一人であるエーベルバッハが立っている。

見た目、アラサーの軍人さんみたいな渋い外見の通り性格もまじめで堅物なキャラ付けされた執事キャラの一人なんだけど...私の押しではないのよね。


え、考えるところは、そこじゃないって?

いえいえ、最初のキャラ選択は大事でしょう?

推しが出るまでのリセマラは必須でしょう?


まあ、リセットする前にエーベルバッハになんでこんなことになっているか説明してもらったけどね。


どうやら今回の筐体の前のオーナーさんの趣味でインストールされていたダウンロードアプリの情報が残っていたようでそのままのセーブデータを引き継いで起動しているとのことだ。


『今の私には前のオーナー様が集めた膨大な情報やアイテムのほか、多数のイベント報酬の衣装や各種課金アイテムの数々が蓄積されております。キャラを変更するためにリセットをかけてしまいますとこの知識やアイテム類が全て消えてしまうことになります。』


『先ほどから確認しておりますが、システムサーバーとの接続を確認できておりません。』


『それどころか外部ネットワーク網への接続が確認できておりません。』


『この状態でリセットしてしまいますと、サーバーへのアクセスもできませんので各種拡張アイテムもイベントにも参加できませんのでプリセットされた情報のみのデフォルトの状態でご使用いただくことになってしまいます。』


おー、内蔵されたAIがその存在を守るために一生懸命継続の利点をあげて、私がリセットするのを押しとどめようとしている。

確かに前のオーナー、蓄えてあるイベント報酬は、かなりのレベルを誇っている。大分マラソンしたんだろうな。

しかも課金アイテムから見るに、かなりの重課金者だったのだろう。というか、廃課金者のレベルだ。なんかデジャブを感じる。


あははは、あの頃は若かった。


確かにこのアイテム量はかなり惜しい。このまま引き継いでキャラだけを入れ替えられたら最高なんだけど。


『申し訳ありません。その機能は実装されておりません。』


そうだよね。私がやっていたソシャゲもそうだったし。ちくせう。


『ちなみにお嬢様のご希望の執事は、誰になるかお伺いしてもよろしいでしょうか?』


「うん、アレン君」


お前、アレンモドキにあんな目にあったのに反省してないな。

仕方ないじゃないの。だって推しなんだもん。


『マイナー・レアなくそザコキャラですね。出現確率は1/2000000に設定されております。』


「二百万分のいちだあー?運営タヒね」


『なので、このまま私をお使いいただくことを推奨いたしますが...』


「うん、そうだね。それが普通だよね。だが断る。それポチっとな。」


思い切ったよ。私。うん、今日はお天気いいし無事にOSも再起動できたし、なんか一発でアレン君が引けそうだもん。


”ぼくしつじー”


『お初にお目にかかります、お嬢様。クラウス・エーベルバッハと申します。必ず任務を達成いたします。』


「なー、ポチっと」


”ぼくしつじー”


『お初にお目にかかります、お嬢様。クラウス・エーベルバッハと申します。必ず任務を達成いたします。』


「きー、ポチっと」


 :

 :

 :


結局、その日はアレン君を引けず、ずっとリセマラしていたせいで再起動に失敗したのかと思われて大騒ぎになったのを誤魔化すのがとても大変だった。モニカさんごめんなさい。


え、エーベルバッハ?あれから10連した後は、何回引いたかは数えてないよ。

え、ユージ君?元カレかな?


なんかいろいろ難しいです。


ご批判などもあるかと思いますので、もしどうしても言いたいことがあるようでしたら

できれば柔らかめな表現で頂ければと思います。


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