第17話 地下探索
キヌタシティーに出向討伐に来てから2週間ほどたちました。
はい。こちら現場のハンターのユージレンです。ただ今、キヌタシティーの東側に広がる丘陵地の林に一人で来ています。独りではありません。ボッチでなくソロなのです。
キヌタシティーに着いた次の日、約束通りヒトマルマルマル時(の5分前行動)にハンターギルドに再集合した我々は、用意された会議室で、キヌタシティーのサブギルドマスターのライラさんから依頼内容の説明を受けた。
内容は、まあ簡単に言えば討伐である。大型の魔獣やオーガの様な比較的強力な魔物は、お貴族様が魔導鎧を駆使してほぼほぼ討伐してあるのだが、数が多い雑魚扱いのゴブリンやオーク、コボルトといった魔物や魔狼、魔猪、シカ系やクマ系の魔獣に関しては、まだまだ残っているため、これらの雑魚敵をひたすら討伐してほしいとのことだった。
最初は、出向組6人で行動していたのだが、クルトが索敵して、見つかった魔物が一体だけならアイリーンが遠距離で、複数だったら少し近づいてフェイとネリスが連射で倒し、討伐部位をはぎ取ったらロバートが死骸を焼いて片付けるので剣で至近距離の俺の出番が無かったのだ。
もちろん最初は、この日のために買い込んだM27を使っていたのだが、役割がフェイとネリスに被るためどうしても誰かが余るんだよね。そうなると、ソロでもやっていける俺が抜けるしかないかなと。
「マスター、今日はどうする?」
「主様、何か目的はございますか?」
そう、”みさちゃん”と”あかりちゃん”がいるからソロだけどボッチではないのだ。この二人と一緒にいるためにはソロの方が都合がいいし、ほかにもジャンクで買ってお蔵入りしているAMRとかもお試しできるしで言うことなしなのだ。
AMRを試してみたが、魔物や獣相手だと使い勝手が今一つだった。
これって、射程距離から考えると大体1KM以上2.5KM以下程度が有効射程範囲だ。バイポット使って伏せ撃ち姿勢でしっかり狙わないと当たらないししっかり狙っても動いている魔物やら獣相手だとまず当たらないし餌を漁って止まっている猪に当たったら威力があり過ぎて粉砕しちゃったし。これではお金にならない。
持ち歩くにも背負わないといけないから何気にM27とどちらか一方しか持って歩けない。当然インベントリにしまっておいて必要な時に取り出せるが、インベントリの存在を隠しているから、取り出すとそれ何処に持っていた?ってことになっちゃうんだよな。
んー、腰か脇に吊るせる拳銃タイプの魔導銃でも買おうかな?
「今日は、この丘を越えた先にある岩稜に行こうと思う。」
「ん、分かった。」
「主様、岩稜とはここから見える岩山の辺りの事ですよね。あのあたりは、むき出しの岩肌の斜面が続いて落石や滑落が発生しやすく植物も無いので魔物たちも住みにくいのではないでしょうか?」
「あかりちゃんの言う通りで、獲物はあんまりいないかな。ただねぇ、このあたり一帯は、なだらかな草原が続く丘陵地帯なのにあの一角だけぽつんと岩稜になっているのが気になってね。何かが隠されているんじゃないかと。」
「では、討伐依頼はどうなさいます?」
「討伐は、行きかえりの道で見つけたら適当に捌いてお終い。今日は、息抜きで岩山探検しようかと。もう2週間も働きっぱなしだからね。」
「もしかして...討伐、飽きました?」
「仕方ないでしょ?来る日も来る日もゴブリンだオークだコボルトなんかの魔物達を自動小銃使ってちぎっては投げちぎっては投げするだけの簡単なお仕事なんて。それに斥候役のみさちゃんとあかりちゃんが優秀過ぎてソロで探索始めた1週間前の討伐数がぶっちぎり過ぎて目立ち始めたし。ここ何日かは周りに合わせて手を抜いているけどそれでもソロだと考えるとやり過ぎなくらいだからね。」
「なるほど。理解しました。」
「そういうわけで、いざ冒険の旅にレッツラゴー」
「おー」
みさちゃんはノリが良かった。あかりちゃんは、ちょっと引いていた。まああかりちゃんの方が普通の反応だよね。
実は昨日晩ご飯に牛丼っぽい丼物を選択したのもよくなかった。いい加減討伐ばっかりで飽きたし以前のサラリーマン時代よろしく13連勤の社畜と化していたことに気付いてしまったのだ。
我ながら何の違和感もなく社畜生活をしていたことに少々へこみながらボソボソと牛丼を食べていたのだが、先に食べ終わっていた隣に座っているオッサン二人の会話が聞こえてきた。
「そういやー、近所の何とかって街の傍で新しい遺跡が見つかったって話聞いたか?」
「おう、あの動く状態の魔導鎧が見つかったって奴だろう?」
「そうそれ。魔導鎧2体と魔導戦車が12台だとよ。何でも街の貴族が買い取るってことで見つけたハンターが一生遊んで暮らせる大金を手に入れたらしい。」
「そうそう。ただ、その後見つけたハンターを見たやつがいなってか?ぎゃははは」
「そうそう。そこまででセットだよな。ガハハハッ」
お、おう。そこ笑う要素あったか?
しかし遺跡のお宝で一攫千金か。夢があるんだか無いんだか微妙な話だな。
そんな訳で、やってきました岩稜地帯。
周囲には、草原が広がる丘陵地帯の中にポツンとあるので実に不自然でこの街に来てからずっと気になっていたんだよな。ただ、街で軽く聞いて回った限りでは、過去何度か調査されたらしいのだが旧文明の遺跡等は見つからなかったらしい。
うーん、でもあの不自然さ加減、どうしても何かあるとしか思えないんだよね。
とりあえずぐるっと一周してみたけど その形が一辺400m位の正方形なんだよね。東京ドーム4個分位かな。そこだけ何故か岩がゴロゴロしている。その周囲は草原というか雑草が生え放題な感じなのにだ。ただ、見える範囲には確かに遺跡や廃墟のような人工物は見当たらない。
「うーん、外れかな。でも明らかに正方形だし。」
「はずれはずれ」
「見当違いでしたか?主様」
「まあ、こうなったら仕方がないから奥の手を使おう。」
「奥のてー?」
「奥の手ですか?」
そう言って、てくてくと正方形の中心辺りまで歩いて行く。
「真ん中は、この辺かな。」
厳密に真ん中である必要も無いので凡そ真ん中辺りでしゃがんで地面に左手をつく。
「【グランドサーチ】」
別に呪文や魔法名を唱えなくても使えるけどみさちゃんたちに何をしているかを知らせるために魔法名を唱える。
この魔法は、前のファンタジー世界で勇者達の武器・防具を作る為にオリハルコンやらアダマンタイトやらの魔法鉱石を探すために開発した魔法だ。
探索範囲は込めた魔力に依存するのだが、今回は直径100mの範囲で地下100m位までを範囲に探知魔法を起動してみた。土魔法と錬金魔法の合成魔法なのでそこそこ高度で適性が必要なのでユージレン君が使えるかどうかちょっとだけ心配だったが問題なく使えているようだ。
むむ、なんだこの反応。地面から10m位までは岩石なんだけどその下は普通に土だな。やっぱりここいら辺の岩稜部分は、正方形に10m程掘り下げてそこに岩を敷き詰めた人工物にしか見えない。
しかし何のためにこんな物作ったのだろう。
「ん?」
探知範囲を少し絞って、直径10m位で岩と土の境目である地下10m位を重点的に調べていると何かが魔力に反応している。どうやら岩と土の境目部分、土の表面に魔方陣が書かれているようだ。
おお、いいぞ。【隠蔽】か【偽装】あたりの魔方陣でその下の地下建造物を隠しているのか?
どれどれ魔方陣を【魔法探知】でなぞって起動させないように気を付けながら読み取ってみる。読み取った魔方陣はユージレン君の魔道具修理の知識に照らし合わせれば解析できるかな?どれどれ
「じょ、【除草】かよ。」
なるほど。ここだけ草が生えないわけだ。この岩稜部分400m四方に植物除けの魔方陣が広がっていた。ガックし。
「ガックしー」
やめて、みさちゃん。ちょっとへこんでいるんだから。
「でも主様、ここが人工的に作られたことは、明らかですよね。そうしたらこの周囲のもう少し広い範囲をしらべてみてはいかがでしょう?もしかしたら何か別のものが見つかるかもしれませんよ。」
「そ、そうだな。この周りになら何かあるかもしれないな。うん、ナイスだあかりちゃん。」
「ふふふ、主様。もっと褒めてもいいんですよ。」
あかりちゃんのお陰でちょっと浮上したのでついでにナデナデしておく。本人も褒められてまんざらでもないようだ。
「んー、探すぞマスター」
「いてて、やめてみさちゃん髪の毛引っ張らないで。はげちゃうはげちゃうよ。」
あかりちゃんだけ褒められたのが悔しいのか みさちゃんがちょっと不機嫌そうだ。挽回したいのか岩稜部分の外側に引っ張っていく。いや、プンプンしているみさちゃんも可愛いからいいんだけど、髪の毛を引っ張ると痛いし禿げちゃうからやめてね。
岩稜部分の東西南北で順番に【グランドサーチ】をかけて回ると北側から北西にかけて建物が建てられていたようで人工物の形跡が見つかった。
「配置としては、校庭に校舎、体育館で学校の跡地っぽいんだけど」
「学校ですか?」
「うん、人間の子供たちを集めて教育する場所。」
「教育ですか?」
「1人の大人が集まった複数の子供たちに説明するんだ。一人一人に説明する手間が省けるだろ」
「なるほど、効率的ですね。」
あかりちゃんに学校について適当に説明している間、みさちゃんは
「ガッコー ガッコー、校舎、体育館、コーテー」
と岩稜のくるくると楽しそうに回っている。かわいい。
「マスター、この下に何かある~」
飛び回るみさちゃんを目で追いながらニマニマしていたら、こちらを向いて手を振る。
「お、みさちゃん、今行くぞー」
学校の話をしていたあかりちゃんに目で合図して、二人でみさちゃんのもとまで行って【グランドサーチ】を掛けると地下室とそこに通じていそうな階段っぽい通路が確認できた。
「おぉ、地下室っぽいぞ。凄いぞみさちゃん、こりゃ大発見だな。」
「大発見、凄い?」
「おぉ、凄いぞ。大発見だ。」
「そう、凄い。フフフ」
さっきあかりちゃんを褒めたとき悔しそうだったからここぞとばかりに褒めまくる。
「凄い、フフフ、凄い」
うん、うれしそうだ。かわいい。
若干うつむき加減だが嬉しそうにしながら目の前まで近寄ってきたのだが、プイと後ろを向くとなんとなく頭をこちらに向けてくる。あぁ、そうか。
「さすが、みさちゃんだ。凄いぞー、偉いぞー」
と褒めながらナデナデしてあげると、とても嬉しそうだ。かわいい。
そこそこ進みましたので投稿再開します。