第1話 転生...か?
「びばばいでんびょうか?」
目が覚めた時に一度は言ってみたいワード一位のセリフを言ったつもりなのだが声にならなかった。
しかも見えているのは天井ではなくすぐ目の前に四角い小さな窓らしきものがありその窓越しに天井の灯りらしきものとなぜか3色積層情報信号等の真ん中の黄色が点灯しているのがぼんやりと見える。目の前の窓以外、周りは何かで囲まれておりまるで棺桶の中に横たわっているようだ。
ただ一つ違っているのは、奥〇は魔女だったわけではなく、棺桶の中が何かの液体で満たされていることだ。そうまるで、なんちゃらプラグの中にいるようだ。
「ピー、87番の魔装体の意識レベルが回復しました。」
目の前の窓越しにくぐもった電子音と音声メッセージが聞こえてきて同時に黄色だった積層情報信号灯が3回点滅してから緑色に変わった。
あっ、あれ?確か魔王と戦っていて…死んじゃったはずなんだが、電子音?合成音声?3色のライト?一体全体どうなったんだ?もしかしてギリ生き残って元の世界に帰って来られたのか?
でも、元の世界にもこんな培養層みたいな液体に浸かって回復する装置なんてxリーザ様の宇宙船とかに積まれていた奴とかくらいで実用化されていなかったはずなんだが?
むむっ、誰か来るのかな?一応魔力感知と気配感知は、働いているようだ。ただちょっと範囲が狭いのは、棺桶の中に居るからなのかな?
”シュー…キュ、キュ、キュ”
近づいてきていた誰かがそのまま部屋の中に入ってきたようで自動ドアが開いたような音に続けて硬い床の上を柔らかい靴で歩く音がする。まっすぐこちらに近づいてくると仰向けに寝ている棺桶の頭の上側に来て何かごそごそし始めた。
「ユージレンさん、お加減はいかがですか?まだ体が動かないと思いますが、心配しないでも大丈夫ですよ。」
むむっ、確かに体がどこも動かせない。かろうじて目線がちょっとだけ動かせているかな。
「んー、記憶の定着率がだいぶ低いけどこのまま起動しちゃって大丈夫かしら。」
お、おい。なんか頭の上の方で不穏なこと言っているぞ。こら、ちゃんとやれ。
「でももうどうしようもないし。シカタナイヨネ。えい。」
えいじゃない。えいじゃ。
”ポポーン、魔装体の起動シーケンスを開始します。”
どうやら何かが動き出すようだ。
すると、視界の左下に黒いウィンドウが開いて緑色の文字でメッセージが流れていく。グ、グリーンディスプレイなのか。しかも起動したのuーbootじゃん。バージョンが偉いことになっているけど。俺ってばLinuxで制御されてんの?リアルタイム制御には向いてないはずなのに。
”OSの起動が中止されました。”
あ、あり?ブートが止まっちゃった。
えーなになに
『周辺魔素濃度が規定濃度に到達しておりません。現在の内蔵魔素コンバータの変換効率ではマナの供給が不足しOSの初期起動に失敗する可能性があります。』
『外部ジェネレータに接続するか周辺魔素濃度を上昇させ十分な魔素を供給するなどで起動に必要なマナの供給量を確保してください。』
あー、起動時に各モジュール初期化するから定常状態に比べてマナ?の消費量が大きくなるのかな。予想される最大のマナ量に対して搭載している魔素コンバータ?周辺魔素からマナを生成する装置?の変換量が足りなくなると。その原因は周辺魔素濃度が低いから必要量がコンバータに取り込めないのかな。確かにこの部屋の周辺魔素は、前の魔王が居た世界と比べるとだいぶ薄いけど。というか元の魔法がなかった世界みたいにほとんど魔素を感じないもんな。
だからもっと周辺魔素を濃くして変換効率を上げるか外部ジェネレータに繋げるとかして供給量を確保しなさいと。
「ユージレンさん、聞こえますか?最初黒の四角い窓が出てきたかと思います。その後、色々な絵や画像が流れてその後絵が描いてある四角が並んだ状態になりましたか?」
どうやらOSが正常に起動するとアイコンが並んだ画面が出てくるんだ。
「んーこれだけ待って起動が確認できないということはOSの起動は失敗しているのかな。あ、ブート・シーケンスがタイムアウトしましたね。」
さっき部屋に入ってきた誰かさんが、頭の上の方で棺桶越しに何か操作して居たはずだが、どうやらOSの起動シーケンスがタイムアウトしたことを確認したようだ。棺桶の装置からのブート要求に対してOSが正常に起動したら応答でも返す仕組みだったのかな。ブートで止まってちゃっていていつまでもOSから応答が帰ってこないから棺桶側の待ち時間がタイムアウトしたんだろう。
「ユージレンさん。大丈夫ですよ。OSが動かなくてもある程度は、体が動かせるはずなので。ただ最初はあまり上手に動かせないのでできるだけゆっくり、そっと動くようにしてくださいね。」
ブートローダーだけでもそこそこ動かせるけど細かい制御は出来ないのか。まあ仕方ないよね。
「では、今から培養液を抜き取っていきますのでまだそのまま動かないでくださいね。5分ほどで抜き終わります。そうしたら魔装体の換装装置の上部カバーを開けますのでそれまでそのままお待ちください。」
どうやら棺桶を満たしていた液体が抜け始めたようだ。まあ5分だからすぐだろう。そういえばブート動作のあと体の左側の存在が感じられるようになったし なんか右側とつながっている感じがする。
「ぐぇふぉ、ぐぇふぉ、ぐぇふぉ」
無事に培養液の排水が終わって棺桶の上蓋が空いた時にそこにいたのは、肺に残った培養液に思いっきりむせている俺をアイスピックのようなとがった冷たい目で見卸しているバブルの頃の商社OLみたいな制服を着たお姉さんだ。
「ダイジョウブデスカー
話できますかー」
いや、ダメでしょう。結構無茶を言うなこのお姉さん。
棺桶いっぱい培養液で満たされていた時は感じなかったのだが排水が進んで顔が水面からでて大気を吸い込んで肺が水で満たされていると感じたとたんに違和感が発生し思いっきりむせた。これ、大丈夫な人っているのかな。
それに未だに体半分に違和感があって寝返りどころか首を傾けるのもひと苦労繰である。
「もうそろそろお話しても大丈夫でしょうか?」
ようやく落ち着いてきたころにやれやれな待ちくたびれたぜーな感じでお姉さんが話しかけてきた。未だに右肺には違和感が残っているけれどいつまでもお待たせしても悪いのでかろうじて動かせる右手と目線で先を続けるように促した。
「ユージレン・ボブレーさん。どこまで覚えていらっしゃるか判りませんが、貴方は第二魔導炉の修理作業中に爆発事故に巻き込まれて左半身を全損した状態で、ここ魔装体換装センターに運び込まれました。このセンターで魔装体の移植手術を受けようやく一命をとりとめた所でございます。あ、申し遅れました。私はユージレンさんの換装を担当する管理官のマリッサ・ラングレーと申します。」
どうやら今回は、前回の異世界ファンタジーへの転移でもなく赤ん坊から再スタートの転生でもなくユージレンさんの体を乗っ取ってしまったようだ。
確かにおじさんとして2度目の異世界転生をした俺の意識のほかにユージレンとして生きてきた記憶が薄っすらと残っているのだが、色々おかしいなこの世界。
この部屋だけを見ると一見進んだ文明の世界に見えるのだが、ユージレン君の記憶によるとこれらの装置は旧文明時代の遺産で使うだけで手いっぱいで新たに作りだすことはもちろん維持することもままならない状況らしい。
そんな中でユージレン君は、自前の【金属操作】スキルを生かして劣化した魔法回路の修復を行う仕事をしていたようだ。その業務の一環で出張修理サービスに訪れた第二魔導炉の入り口で受付をしている時に起きた爆発に巻き込まれた結果、今に至るようだ。
しかし魔装体か。
ユージレン君の記憶に引っ張られて何となく落ち込む。旧文明時代の進み過ぎた魔装体技術の反動でどうやら魔装体に対する差別意識があるようで 魔装体に換装すると人として扱われなくなるらしい。しかも魔装体技術の影響で人類の生殖機能は、すっかり衰えてしまっており殆どの人々が人工授精と培養槽による養殖人類なのだ。もちろんユージレン君も自分の親の顔を知らない養殖人類だ。
もっとも一般市民は100%養殖人類で天然物は貴族の間で維持されているだけらしい。いるのか貴族。
それでも生身100%が尊ばれ、もし体の一部でも魔装体となると3等市民に落とされてしまい、これが半分以上魔装体となるとその市民権すら剥奪されて物扱いされるらしい。
とはいえ特に迫害されたり奴隷扱いされているわけではないのだが、市内の中心部に入れないとか一般的な職業に就けないとかの差別が付いて回るようだ。ユージレン君の元の職業のサービスマンも魔装体では就けない職業なので 結果ユージレン君はニートとなるみたいだな。
巻き込まれた異世界人の次は、知らない世界でニートスタートとは、なんで俺の異世界生活はこんなハード・モードでのスタートばっかりなんだ。こんちくしょう。
お読みいただきありがとうございました。