第16話 現地調整
次の日、朝からバスに揺られて隣り街まで移動だ。
まあ、その道程でボチボチと魔物が出てきたが特筆するほどのことも無く、ゴブリンやらオオカミが並走しながら様子を見る程度だった。お陰で昨日買ったM27の実践テストが出来たので良しとしよう。もっとも、バスの窓からただ単に弾をばら撒いただけだったが、まあまあ当たったし威力は十分だった。
AMR?インベントリの肥やしですね。
だって昨日の晩、家に却って自分部屋で手に取って起動したら魔装体内蔵のFCSと連動しはじめて視界にはドットサイトがHUDみたく表示されるし、射線まで表示されるんだぜ。なんか別のゲームになった感じだよ。銃身長いし。
昨日の晩は、ミリエラさんに説教されながら事情を説明。ギルドに指定された依頼で別の街に出張で1カ月は帰ってこられないって話をしたんだけどそこはあっさり行ってらっしゃいだってさ。
いや別に行かないでとか引き止められても困るだけなんだけど...こう、なんかモヤモヤする?あれか?亭主元気で留守がいいってやつか。留守番してもらうからとか言って小遣いアップもさせられたしな。
まったく、小遣いが減ることはあっても増えたためしがない世の中のサラリーマンのお父さんが聞いたら怒り出すような待遇だよね。
じゃあ俺も出張中は、羽を伸ばしちゃうか?命の洗濯ってやつか。出張組も俺を入れて6人中2人が女子だし。冒険者の男女比率を考えると結構華やかだ。下手したら移動中のバスの中が、6人全員むさいオッサンの可能性だってあったんだから。
せっかくだから一緒に依頼に出かけるメンバーを紹介しちゃう?
フェイとアイリーンは昨日買い物に付き合ってもらった二人だ。
フェイの遠距離戦闘は、初めて見るが、どうやらストーンバレットを飛ばせられる杖を使っている。ただ単発式で飛距離もやや短い。発射間隔が短くて連射は利くのだが制圧力は低めな感じだ。
それと比べて、アイリーンの武器はライフルっぽい銃身が長めの銃タイプだ。銃身がやや細めだと思っていたらそこから光の矢を打ち出していた。
流石の光魔法。貫通力が高くて瓦礫の向こう側の魔物を瓦礫ごとぶち抜いてた。貫通力のある狙撃銃ってかなり怖いな。
そうかと思うと銃身が途中から半分に折りたたまれてサブマシンガンみたいになってた。その状態だと見た目通りでマシンガンの様に光の弾をばら撒いていた。何あれ、ちょっとうらやましい。
この威力でなんでパーティーを追い出されたのかと思ったが、どうやら燃費が悪いらしい。自身の魔力供給だけだとライトアローは5発打てるかどうからしい。
一応外付けの魔石を使った外部魔力供給ポットがあるが、当然打てば打つほど魔石を使うので経済的な理由で追い出されたらしい。
二人のうちのもう一人の女の子がネリスだ。
赤銅色の目を引く髪色をポニーテールにしたクール系女子で、使う武器もアイスランスを飛ばす杖だった。
飛距離はまあまあ出る感じだが、どうやらランスの硬さが足りないみたいだ。硬い魔物相手だと貫通できず苦戦を強いられるらしく貫通力の高い魔法が打てる杖があったらなとボヤいていたが、ここいらにそんな硬い魔物も獣もいないと思うんだけど。
残り二人だが、片方はチャラい感じの優男のクルトと巨漢で筋肉なロバートだ。
チャラ男のクルトは、なぜか2丁拳銃使いだ。てっきりガンフー使いかと期待したのだが、単に威力が高いが連射力がない右手と威力は微妙だが連射が利く左手の銃を使い分けているだけだった。
確かに魔導銃だから魔力が切れない限りは弾切れは考えなくていいから、こういう使い方も出来るが如何せん拳銃タイプなので射程距離が出ない近距離戦闘タイプだ。これだとボアみたいな大きめの魔物を長距離からペチペチする戦闘には不向きだよな。
その逆にロバートの方は、その大きなガタイに合わせた短めのバズーカみたいな口径の銃を使っている。
腰だめにしたその銃身からは、大きめのファイアーボールが打ち出され着弾すると広範囲に炎と爆風をまき散らすかなりの威力の広範囲攻撃になる。斜め上に向けて打てば迫撃砲みたいな弾道で塀の向こう側を攻撃することもできて殲滅力は抜群なのだが、如何せん威力が高すぎる。
これで撃ったら軽自動車サイズのボアでもコゲコゲになってとても売り物にできない。
全員がそれなりの理由でパーティーを解雇されていたが、まあ街から街を繋いている街道をバスで移動するだけなら攻撃力に関しては特に問題ないだろう。
次の日には何事もなく目的地のキヌタシティーに到着した。
到着が、夕方というにはやや早い午後3時くらいだったのでその足でキヌタシティーのハンターギルドに向かうことにした。とりあえずよさげな宿でも紹介してもらおうという魂胆だ。
街の案内板を頼りにやってきましたハンターギルド。中の作りは、入り口を入った正面に受付があって右手に依頼を掲示するボードがあり左手が酒場になっていて 元居たハンボーホの街のギルドと同じ構成で規模も一緒くらいだな。
6人でぞろぞろと入っていくと酒場でたむろしていたハンターの一人が、すかさず俺らの前に立ちふさがった。
「お前ら、見ない顔だな。スタンピードのおこぼれに預かろうってハイエナどもが。てめえらの居場所はここにはねえんだよ。よそ者はとっとと帰りやがれ。」
どうやら俺たちの事をよそ者認定した地元冒険者Aが、絡んできた。どうする?
「ああん、何だてめぇは。」
「よせ」
チャラ男ことクルトが、小物感丸出しの三白眼でメンチ切りながら吐き出したお決まりの台詞を遮って一歩前に出るところを止める。
お約束とはいえ、せっかく狙った通りのこちらに好都合なコメントを頂けたのに無碍にしてはだめだろう?
「おお、そうかそうか、帰っていいのか。そりゃ~良かった。俺たちも来たくは無かったんだが、うちのギルマスが強制依頼だとか、断ったらギルド証剥奪だとか言いやがって、仕方なくこうしてでばって来たんだが、帰って良いのか。イヤー良かった良かった。」
「え、え?」
絡んできた地元冒険者Aの肩をポンポンしながら同意してやったら思っていた反応と違ったのかプチフリーズしている。
「じゃあ、受付だけ済ませて俺ら帰るわ。」
「え、ちょ、ま」
「すいませーん、依頼証に受領のサインを...」
そう言って地元冒険者Aの脇をすり抜けて事を良しなに進めてくれそうな若干ベテラン感漂う受付嬢の前に行く。
若干藍味がかったグレーの髪に切れ長の碧眼でこちらを見ている?いや、そんなに睨まないでよ。
「ハンボーホから依頼されてきていただいたハンターの皆さまですね。何かすぐに帰るとか不穏なことをおっしゃっていたのが聞こえてきたのですが。」
「え、はい。あの方にいらないからお帰り下さいと言われたので帰ろうかと。」
「子供ではないのですからそんな言い訳が通用しないこと、理解できていますよね?」
うう、凄い目ぢからで圧を掛けてくるなこの受付嬢。
「我々も請われて来たはずなのにこの扱いなので戸惑っているのですよ。歓迎されていない事は明白ですし。」
ちょっと圧に耐えて反論してみる。こちらを射殺す勢いで睨んでいる受付嬢と目が合わせられないのは見逃してくれよ。
「はぁー、このような恫喝など、万年Dランクのチンピラ冒険者の挨拶みたいなものでしょうに。そのくらい貴方にも分かっていますよね。分かっていて私を困らせようとしているのですか?」
「トニーも毎回毎回、出張してきていただいた皆様に絡んで私の仕事を増やさないでください。」
凄いな。サラっと地元冒険者Aさん改め、トニーをディスって来たぞ。しかもこちらへ向けている目線で切り殺しにかかっているぞ。あぁ、何か新しい扉が開きそうだ。
「ごめんなさい。」
素直に負けを認めました。ここで新しい扉を開く訳にはいかないので。
「...分かればよいのです。」
素直に謝ったので不意を突かれたようで目が泳いでいる。いい感じに圧も下がった。さっきまでの切れたナイフみたいな時とギャップがあって意外と可愛いな。やっぱり扉が開いちゃいそうだ。
「ううん。ええと、では状況を説明いたしますので会議室の方に移動していただけますか?」
おぉ、咳払い一つで立ち直ったぞ。流石ベテラ…
”ギン”
”ひぃ”
不穏なことを考えたのが見抜かれたようだ。また眼から殺人光線がこちらを射抜いてくる。気を付けないと。
どうやら依頼の内容というかこの街の状況を説明してくれるようなのだが、このキヌタシティーには、さっき着いたばかりなので出来れば今日は宿でゆっくりしたいのだが。
「えーっと、長くなりますか?我々、さっきこの街に着いたばかりでまだ宿も取っていないのですよ。出来れば明日に回してもらえると助かるのだけれども。」
おや、今度はパシパシ瞬きして目を丸くしている。表情がころころ変わって、やっぱり可愛いな。
「それは失礼しました。では、明日の朝10時にもう一度お越しいただけますか?」
明日の朝10時か。まあ、ゆっくりめなのは朝一番でギルドが混んでいる時間帯を外す為だろうか。待てよ。そういえば、俺一人で勝手に話を進めていたな。
なんか今更な感じではあるが、みんなに確認すべく振り返ると何となく呆れたような感じはあるものの概ね合意といった感じか。
「明日は一日観光したいなーとか」
”ギン”
ぐは。ちょっとふざけたら、目ぢからによる圧力が、また一気に高まったので慌てて敬礼して返答する。
「明朝ヒトマルマルマル、全員出頭いたします。」
「よろしい。では解散。」
このギルドの受付嬢は、意外とノリが良かった。
先ほどの受付嬢はリサさんというそうだ。
とりあえずリサさんに聞いたギルドお勧めの宿に向かって 俺らハンボーホギルドからの出向者一行はギルドを後にした。
宿を確保するにあたり今回の出向依頼の期間も確認したのだが、最低でも一か月は見てほしいとのことだった。
「あー、みんなすまんな。なんか勝手に話を進めちゃって。」
結構勝手に話を進めた感じだったので一応謝っておく。協調性は社会人としての常識だし。相談することも重要だ。
「まあ、いいよ。おすすめの宿も聞けたし。」
「そうね。なんか自元冒険者に絡まれたけど何事もなく終わったし。」
「しかし、リサさんだっけ?あの受付嬢なんかすごくね?」
「あー確かに。でもギルドの受付嬢なんて多かれ少なかれあんな感じじゃないの?ならず者のハンターたちを渡りあわないといけないし。」
「とりあえず、今日の所は宿取って飯食って、早めに休もうぜ。」
「そうだね。明日はヒトマルマルマル時に出頭しないとだしね。」
「あー、あれね。ユージさんたら、あの受付嬢に睨まれたとたんに敬礼しちゃうんだもの。」
「ははは」
「ひひひ」
「ふふふ」
ちくせう。みんな笑いやがって。
「いや、あれはしかたがないだろうまったく。眉間に穴が開くかと思ったんだぞ。」
「そんなの、あのタイミングで観光したいとか言いかけたユージが悪いんじゃない。」
「そうそう、自業自得よね。」
「ぬぐぐ」
一応反論してみたが、ネリスとアイリーンの女性陣に簡単に切り替えされた。正論過ぎてなんもいえねぇ。
そんなくだらない会話を交わしながらしばらく歩くとギルドで紹介された宿屋の”山猫亭”に到着した。なんでも値段そこそこでご飯が美味しいらしい。
この世界に転移してなにが有難いって前のファンタジーな世界と違ってポストアポカリプスなこの世界には、普通に部屋に水洗トイレとシャワーが備わっていて風呂もそこそこ普及している。
御多分に漏れずこの宿にも部屋に水洗トイレとシャワーが備わっているらしい。
「部屋も確保できたし一安心ね。」
依頼期間は一か月以上と言われたが、馬鹿正直に一か月と言わずお試しで一週間ほど確保した。この宿が気に入れば延長すればよいし、仕事だけでなく宿も一緒だとお互い気を遣うしで、落ち着いたらそれぞれが新しい宿を探してもよいわけで、この一週間の間で様子を見る訳だ。
「この後どうする?」
「今日くらいは、一緒に晩飯食べるでいいと思うけど時間的に中途半端ね。」
「あー、俺は部屋で昼寝かな。」
「今から昼寝かよ。まあいいけど。」
「私はちょっと周りのお店を見てみたいかな。アイリーンはどうする?一緒に行かない?」
「良いわよ。歩いている途中に気になる杖のお店があったし。」
「えぇー、杖のお店?うーん、まあいいか。」
どうやらアイリーンは相変わらずの杖マニアっぷりを発揮しているらしいが、ネリスはそこまで杖に興味は無いようだ。
「では、いったん解散して、そうだな、ヒトキュウマルマル時に再度ここに集合ということでいいね。」
「「「よろしい。では解散。」」」
最後の解散のセリフが自然とそろっている。しかも全員こちらを見ながらニヤニヤしていやがる。
そうして俺らの間でしばらくは、時間の自衛隊読みがプチブームとなった。
ちくせう。
お読みいただきありがとうございました。
この続きのお話はなるべくまとめてアップしたいので
次話の投稿まで気持ちお時間が空いてしまうかもしれませんが
2章の最後、キリが良いところまでは書きあげてますので
気持ちご猶予を頂ければと思います。
続きを投稿する際には、何話かをまとめて挙げることが出来ると思いますので
お待ちいただければと思います。