第10話 打ち上げ
「「カンパーイ」」
二つ隣の街のスタンピードも貴族様のMA(魔導鎧)が出動して、ようやくひと段落したようだ。
なんかキメラっぽい四つ足のデカい魔物が暴れたのが原因で、オーガやオーク達が追いやられてきたのが今回のスタンピードの状況だそうだ。
街の貴族様所有のMAと追加支援に来た2台のMAの計3台がかりでようやく倒したらしい。
その際に追加支援2台のうちの1台は結構ボコられた上に、街のMAの方は大破して動けなくなっちゃったらしい。キメラ強すぎだろう。
まあ、そんなことはこちらの街には関係なく、例の赤いオーガの討伐後も何日か周囲を警戒していたが、それ以降スタンピードで流れてきたと思われる魔物は確認できず、赤いオーガの討伐をもってこちらの街のハンターギルドからもスタンピードの終息宣言が出され強制依頼もようやく解除となった。
解除後のあれやこれやの処理も終わり参加したハンターに報奨金が支払われた今日はギルド主催の打ち上げ会となった。
ギルドとしても結構な数のオークが討伐できたお陰でそこそこの収入になったのと厄介なオーガを討伐したことで周囲の街のハンターギルドに自慢できるらしくギルド長がご機嫌でこの打ち上げも主催したらしい。ただギルドのおごりではなく会費はきっちり取られているのだが。せこいな。
ソロでコミュ障なうえに下戸なので飲み会は遠慮したかったのだがオーガ討伐の主役が出席しないのは、いかがなものかと諭されて結局顔を出す羽目となった。隙を見て逃げ出そうとしているのだが、現在進行形で両脇をきれい処の受付嬢に固められているので逃げるに逃げられないでいるのは、嬉しいやら嬉しくないやら。遠くでこちらを見ながらニヤニヤしているギルド長はいつか殴ってやろう。
徐々に酒が回ってきてだんだんとカオスな状況を呈しているのだが、いつの間にかきれい処は退散して気が付いたらオーガを擦り付けてきたパーティーメンバーに挟まれてた。解せぬ。
チーム暁とかいうパーティーでリーダーのデリンジャーと支援職のダフネ君に左右を挟まれた。さらに目の前には細身な癖にさっきから酒には手を付けずに黙々と食べている斥候職のスコットと対照的に無言で飲み続けているドットこと盾職のドルトムント氏が陣取っている。なんだこれ、非常に暑っ苦しいんだけど。
「いやー、ユージはほんとに命の恩人だ。あの赤いやつにぶん殴られたときは、俺はもう死んだとおもったよ。」
はいはい。それ7回目だからリーダー。やだもう帰りたい。
「ちゅもーく、そろそろ時間だからいったん終了な。2次会行くやつは程々にな。それじゃー解散」
ギルド長のさっくりした閉めの挨拶でようやくお開きとなった。2次会はパーティーメンバーか知り合いのパーティーがいくつかにまとまって流れていくようだ。やれやれ、ソロな俺はここで無事解放されそうだ。ソロなので。大事なことなので2回言ったが決してボッチではない。
「おーい、ユージどこ行くんだよ。」
店の外に出たところで気配を消してフェードアウトしようと思ったのだが回り込まれてしまった。
「おいおいユージよ、まだ助けてもらったお礼が出来ていないんだから逃げるなよ。」
なんかスコットがなれなれしく肩を組んでウザがらみしてくる。こいつ飲んでないのに酔っているのか?こいつもこちら側か?
「でもリーダーがもうへべれけだろ。あれちゃんと連れて帰れよ。」
そう、あの後2ターン繰り返していよいよ10回目のループに入りそうだったリーダーは支援職君の肩に寄りかかってようやく立っていられる状態だ。
「あーダフ、リーダーは任せた。」
「コクコク」
「おうふ、いつのまに...」
いつの間にやらスコットの反対側にはドットがいてコクコクうなずいている。どうしてこうなった。
「スコットさん、そりゃないですよ。俺だってユージさんにお礼したいのに。」
「いいから、そこは俺たちに任せておけって。」
「コクコク」
ぐずるダフネ君をスコットとドットがリーダーごと追い返す。俺も帰りたいんだけど。
支援職君とリーダーが見えなくなるとスコットだけでなくドットも身を寄せてきた。
「ユージよぅ、お前、結構生身だよな。こう見えておれもドットも下の方は生身だから、やっぱ討伐の後とかヤベー戦闘した後だとこう、たぎるものがあるだろ?な?な?」
いや、そんなお前にも分かるだろ?見たいな目で見られてもあれから何日たっていると思ってんだよ。
まあ、お前らが言いたいことも判るけども。
でも、お前らあの後三日間入院して修理ポットの中だったじゃんかよ。いつの話をしてるんだ。
「ユージもあっちはいける口だろ?」
肩を組んだままのスコットが声をひそめて聞いてくる。
「...あっちって、あっち?」
しかし急に始まった下ネタにスコットとドットの間をキョロキョロと目線を泳がすと、二人そろってコクコクとうなずいている。あっち?
「...行きましょう。わが密教は無敵です。」
どっかの生臭坊主のセリフを吐きながら二人のお誘いに乗った。いやー、気にはなっていたんだけどこっちの下の事情って判らなかったんだよね。聞ける人いなかったし。まさか、換装センターの女性職員やギルドの受付嬢に聞くわけにも行かないし。ようやくこちらの世界の下事情が聞けそうだ。このチャンスを逃す手はない。
どうやらこの世界では、出生率の低下により少子化が進んだ影響で、自然な子作りをしているのはお貴族様くらいなもので一般市民は出生管理センターでの管理の下で人工的に生み出されそのまま一括管理された状態で子供のうちは集団で育てられており、ユージ君も記憶を探ると生まれた時のことはともかく、子供のころに集団生活で育った記憶が残っている。
で、今、目の前にあるのが種子収集センターで、機能を有した一般男性から種を収集するための行為をするための施設なのだそうで、そのためのあれやこれやの行為が無料で利用できるとってもナイスな施設となっている。
勝手知ったる感じでスタスタと入り口の自動ドアを抜け居てくスコットとドットの後をおっかなびっくりついて中に入るとすぐに自動改札機みたいなゲートにお出迎えされた。
「いらっしゃいませ旦那様、市民証をタッチしてそのままお進みください。」
なんかファミレスとメイド喫茶が混ざったような微妙なご挨拶の機械音声が流れている。
「ここは、まあ三級市民と俺らみたいな人形が使うセンターなんだけど市民証は俺らは持っていないからギルド証で大丈夫だ。」
「コクコク」
そういって二人ともギルド証をタッチするとゲートの中に進んでいくので俺もあわててギルド証を取り出してタッチして着いていく。いやー自動改札なんか久しぶりだから止められないかとちょっとドキドキしたが無事に通れた。
「ここでは、選べる3つのコースがあるからまずはコースを選べ。コースを選んだらそれぞれのコースの中から好きな女の子を指定すればいい。3つのコースは、リアルコースって俺らと一緒で魔装体の子がお相手してくれるものが一つ、もしくは魔装体の機能を使ったVR?専用のポットに寝転ぶだけであとは仮想現実の中で行為を促してくれるトリップコース、残る一つのギャルゲーコースは人口無脳の女の子が相手をしてくれるやつの3つだな。」
なんじゃそりゃ。リアル?VR?でもってギャルゲーって。
「じゃ、俺らは推しの子がいるんで、ここで解散な。でもって、後は個別にお愉しみってことでヨロシク。緑のランプがついている扉が空きだから中に入ってコースを選べばOKだ。はい、説明終わり。よし、ドット行くぞ」
「ふじこちゃーん」
うぉ、ドットがしゃべった。しかも、よりにもよって”ふじこちゃん”って。
あ、しまった。出遅れた。うーん、どうしよう。さっきの改札口は入り口のみの一方通行でこのまま回れ右は出来なさそうだしとりあえず空いている部屋に入るか。
ちょっとキョドりながら緑のランプが付いた部屋を物色していたのだが、ふと後ろに誰かの気配を感じた瞬間、
「ユージレン様、ようやくこちらの施設をご利用いただけますのね。フー」
「うひょーう」
そういって耳に息を吹きかけつつ腕を取ったのは、魔装体換装センターとその後のリハビリセンターで担当管理官のマリッサさんだった。なぜに?
こうして何処からともなく現れたマリッサさんに腕を取られたまま、VIPルームっぽい奥の部屋に連れ込まれるのだった。
ありがとうございました。