第8話 イノシシは儲かるか?
第二章となります。
「どっこらせっと」
浮遊台車から今日の成果であるボアを解体場のテーブルの上に下ろす。
「今日もご苦労さん。」
卸先の肉屋のおやじが今日仕留めたボアの周りをまわりながら状態を確認している。
「相変わらずきれいに仕留めるな。血抜きまできっちりできているし。」
当たり前である。離れた場所から魔導銃でピコピコ仕留めるその辺のハンターと一緒にしてほしくない。こちとらもう何年も討伐依頼やら食肉採取をこなして来たたたき上げのAランク(元)冒険者だ。前の異世界での話だけど。ついでに言うと一緒にいた高校生勇者たちはSランクでしたけど何か?
「良いじゃあこれが今日の買取分な。さて、やりますか。」
「毎度あり。」
いつもの買取分、ボア一匹金貨10枚をこちらに渡すと肉屋のおやじはさっそく解体に採りかかろうとしているので見ていても仕方がないし退散することにした。
ここ2週間ほどはこんな感じで街から外に出てはボアとウサギを狩って来てはボア丸々一頭は肉屋に卸して、残りはハンターギルドに修めている。肉屋の方が解体費用が掛からない分ややお得だが、どちらかというと偶に買っていくボアの熟成肉やベーコンを安くしてもらえる方が嬉しい。税金?知らない子ですね。俺たち人形には納税の義務は無いし。
リハビリセンターを退院してから半年経とうとしている。季節的には秋なのか気温がやや下がってきている。実りの秋はこの世界でも通じるのか最近は野生動物の動きが活発になってそれなりに狩りの成果が上がって生活も安定してきている。
退院してから一か月程は、ジャンク屋通いで小金を稼いで装備を整えつつハンター仕事の情報を集め、満を持しての街の外でのOS再起動で魔装体の制御を取り戻すことでようやくハンターとしてスタート地点に立てた。OS再起動の話は特に秘密にする程の事でもないので、ハンターギルドを通して広めた。
それにより、今までOSが起動しなかったため魔装体をうまく動作させられずに底辺で燻っていたハンターたちが戦闘できるようになり周辺の獣や魔物を仕留められるようになった。
結果、この街は食肉の供給元として一躍有名になり周辺の大都市からもより良い素材を求めて料理人や食肉業者が集まるようになり にわかグルメスポットとしてここ半年ほどで賑わいを見せている。
俺がボアを卸していた肉屋のおやじも三か月ほど前に領都からより良い熟成肉を作るための素材を求めて移ってきた時に知り合った。なんでも状態の良いボア肉を求めてギルドの解体場に一週間通い詰めて俺に目を付けたらしい。実際には通い始めて二日目だったらしいが。急所を一撃で倒すのと血抜きをしっかりとしていることが決め手だそうで獲物にストレスがかかる前に仕留めるのが良いそうだ。まあ、魔法銃でハチの巣にされた物よりは美味しいような気がしないでもないのだが。
大物の運搬の問題も解決した。ホーンラビットを天秤棒の前後に吊るして運んだのは今となっては良い思い出だ。なんてね。
あれに懲りてまずは運搬方法を確立しようとジャンク屋に通った結果、ジャンクヤードの奥にたくさんあった廃車の活用を思いついた。
最初はリヤカーでも作れないかと廃車をあさりに行ったのだが、ジャンクと言えど流石は魔法文明の絶頂期の乗り物だけあって車輪なんかついてやしない。どれもこれもエアカーっぽく浮いた状態で走っていたようだ。
幸いにしてボディーというか上物はべこべこだったりするのだが、ベースとなるフレーム部分はかなり頑丈な安全設計で車体を浮かす浮遊魔術式は車体のフレームに内蔵されているので術式につながっているハーネスを引っ張り出して魔石から魔力を取り出すことができる魔石ボックスか大気中の魔素を魔力に変換する魔力コンバータを繋いで魔力供給するだけで膝丈まで浮かび上がる。しかもフレーム部分だけで閉じた術式なっているようで地面がデコボコでもある程度までであれば車体が水平を保つし浮かんでいる高さ位までの段差ならスムーズに乗り越えられる。
ただ、移動するための推力を生み出す仕組みを含めた上物が正常に動作する廃車はほとんどなく同じ形の3台をニコイチならぬサンコイチしてようやく1台だけ仕上げた以外は、上物を取っ払ってただ浮き上がるだけの台車状態に仕上げた。
その状態である程度までの重量物は乗せたまま浮いていられるし浮いているので人力でも押したり引いたりして動かすことが出来るので取っ手を付ければ重量物を運搬するためのリヤカーならぬ浮遊台車の出来上がりである。
ジャンクヤードからフレーム部分の状態が良い廃車を選んで浮遊台車化した結果、普通車クラスが50台(うち1台が動力付き)、中型トラックサイズが7台、普通車の3倍くらいの長さの大型トラッククラスが1台、軽自動車サイズが12台と結構な数の台車を確保できた。
まあ、普通車2台と軽2台分以外は全部うっぱらっちゃったんだが。いや~、儲かりましたよ。
普通車が金貨100枚、中型トラックで150枚、大型200枚、軽80枚とそこそこ強気の値付けをしたのだが完売した。
しめて金貨6830枚の売り上げとなりバックマージン10%なので683枚の収入となった。動力付きのは、なんか変な理屈をごねられた結果、普通車の台車とおんなじ価格の金貨100枚で当局に巻き上げられた。解せぬ。
売り上げがジャンク屋になるので残念ながら税金も20%近く取られて結局手元にはおおよそ500枚強の金貨が残った。
まあ、確保した普通車サイズの浮遊台車を1台連れて外に狩りに行けば軽自動車サイズのボアでも頑張れば3匹持って帰れるようになったので そこそこの収入は継続的に得られるようにはなった。
まだ、いくつも残っていた手を付けていないジャンクヤードは宝の山に見えたらしく何処かの誰かに区画まるごと買い取られたらしく その後ギルドにはジャンク屋の片付けの依頼が貼られることは無かったのだが。
一時、街中に入るのを嫌がっていたみさちゃんとあかりちゃんだが、あの後1週間もすると状態が安定したようで普通に街中にもくっついてくるようになったのだが、中級精霊に進化したことで自意識が芽生えたのか 最初にあった毛玉だった頃はあれだけベタベタとくっついて離れなかったのにあっという間に親離れして みさちゃんですら昼夜の関係なくあちこち飛び回っている。
ただ、朝と夜寝る前になると戻ってきて魔力をねだられる。
大体二人そろって膝の上に座ってその日にあったことを二人で報告してくる。うん、かわいい。
ただ、朝っぱらから二人の幼女を膝にのせてニヤニヤしている絵面は、人に見られたら事案として当局に訴えられそうである。幸いにして二人の姿はほかの人からは見えないので単に一人でニヤニヤしているだけに見えるので見られても訴えられることは無いはずなのだが、その時はなぜか周囲に一定の距離をおかれている気がする。解せぬ。
その日もいつも通り肉屋でボアを1匹卸して残りを納めるためにハンターギルドに来たのだが、いつもと違って何処かザワザワと騒がしい気がする。ボアを丸々納品するのでギルドの裏にある納品用の入り口から入ったのだが、様子がおかしいのがここまで伝わってきている。
「おやっさん、いつもの買取お願い」
「お、おお、ユージか。どうした?ああ、いつもの買取か」
おやっさんまでなんか落ち着きがない。何があったかをおやっさんに聞いてもいいんだが、どうせなら厳ついおやじより美人の受付嬢の方がいい。
「いつも通り、いい状態だな。査定額は金貨16枚だがこれでいいか?」
「ああ、それで。」
「じゃあ、この札をもって受付で引き換えてくれ。」
ハンターギルドだと買い取り手数料と有無を言わさず税が徴収されるので肉屋と比べてボア2頭で金貨16枚とやや安いがこんなものだろう。
引換券を受け取って中に入ると丁度受付に知り合いの受付嬢が座っていたので引換券を出しつつ状況を聞いてみることにした。
「カレンちゃん、ギルドの雰囲気がいつもと違うけどなんかあったの?」
「あ、ユージさん今お帰りですか?実は2つ向こうの街の近くでスタンピードが発生したらしくて先ほどギルドに応援要請が届いたのです。それでギルドマスターが現地の情勢を説明して応援の要請依頼を出したので御覧の状態になっています。皆さん応援に行くかどうするかでお話しされているのだと思いますよ。」
「スタンピード?魔物があふれるやつ?結構大ごとだと思うんだけど、こんなのんきにしていて大丈夫なの?」
「はい。あそこの街はしっかりとした結界と城壁がありますし、合成肉や野菜工場などの食料プラントが街中にある重要拠点ですので、準備ができ次第、領主様の軍が出動するだろうとのことなので。」
「そうなるとハンターはあんまり儲からないのか?」
「いえ、領主軍は魔導鎧を中心にした戦力が、軍の歩兵やハンターでは対処が難しい大型の魔物への対処を行います。残りの比較的小型な魔獣を領主軍の歩兵部隊とハンターたちで分け合う感じになります。それでもスタンピードなので魔物の数が多すぎるくらいなので獲物には困らないどころか、むしろ大変だと思います。」
「うーん、ハンターは雑魚敵を数こなさないといけないのか。そうなると面制圧できないから数をこなせない俺に出番はないかな。」
「そうですね。ユージさんはソロだし無理しないでくださいね。いずれはこの街にも打ち漏らした魔物が流れてくると思いますのでスタンピードが落ち着くまで暫くは気を付けてください。はい、こちらが引き換えの金貨16枚です。」
「ありがとうね。いつも以上に気を付けるようにするよ。」
ギルドの様子が違う原因も、その対処に自分ではあまり役に立ちそうにないことも判ったので今日の所は大人しく退散することにした。
二章開始となります。
引き続きよろしくお願いいたします。




