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閑話2 私、転生しました。

「ドーン」


仕事帰りの駅前ショッピングモールにある休憩スペースでソシャゲ”僕執事”をやっていたのだが、急に大きな音と共に衝撃を感じたと思ったらなぜか白い部屋に居た。周りには、親子連れや私と同じくらいの学生、店員の格好をした中年女性。ショッピングモールで周りにいた人が10人ほどだろうか。


「ここは転生の間じゃ。お前たちは、赤旗民民共和国の発射した弾道ミサイルの爆発に巻き込まれて死んだんじゃがこうして転生する機会を与えられた。」


いつの間にか現れた白い髭のお爺さんが状況の説明を始めた。転生?そうしたらあのお爺さんは転生神?さまかしら。私もついに剣と魔法のファンタジー世界に貴族令嬢として転生して”僕執事”のアレス様のような執事にかしずかれるのかしら?

え、ステータスウィンドを開いてポイントを割り振れ?ユニークスキルは早い者勝ち?ちょ、ちょっとそういうことは早く言いなさいよ。

なになに、【勇者】【魔王】【聖女】【大賢者】【龍王】...【悪徳令嬢】?なんかどれを選んでも碌なことにならない物ばかりが目につく。

しかも【勇者】【魔王】【聖女】【大賢者】【龍王】は、グレーアウトしてるってことは誰か選んだ人がいるってこと?いやいやあり得ないでしょう。でもこれユニークスキルなの?どちらかというと職業が称号な感じだけど。

でも【大賢者】はユニークスキルのカテゴリか。あーでもこの辺を選ぶと派生スキルとかステータスの成長補正とかが凄いのね。でも、デメリットの方が大きそうなのよね。

残っている中で無難そうなのは【豪商】とかかしら。運のパラメータに補正大か。ああでも商人のオジサンとかに転生しても困るしユニークスキルに【悪徳令嬢】があるなら、転生先は貴族社会ってことよね。それなら執事にかしずかれるためには、そうね、この【公爵令嬢】が無難?かな。


そんなことをのんきに考えながら与えられたスキルポイントを割り振っていたのだが説明の途中なのになぜか後ろに引っ張られる感覚がしてきた。


「きゃ、なになに、キャー」


「何事じゃ」


思わず悲鳴を上げると白髭のおじいさんを含めた全員から注目を浴びる。


「な、召喚陣。わしのシステムに介入するとは。まて、その美味しそうな魂はわしの物じゃ。せっかくのデザートなのに。」


このじじい、なんか不穏なことを言い出しやがった。おっと失礼、思わず口が悪くなってしまいましてよ。ほほほほー

そうして白髭のおじいさんの説明に従って選んだ【異世界言語理解】とお嬢様御用達の【火属性魔法】を選んだだけで魔方陣に吸い込まれてしまった。


********************************


「びばばいでんびょうか?」


目が覚めると水を張った棺桶みたいなところに閉じ込められていた。しかも水みたいな液体で満たされているし。こんなのアニメでしか見たことないね。私が知らないだけで最新の治療設備としていつの間にか実用化されていたのだろうか?

でも私、死んじゃったって白髭のおじいさんが言っていたから、転生したのかしら。もしかして新しいお母さんのお腹の中で羊水に満たされているのかしら。


「ピー、88番の魔装体の意識レベルが回復しました。」


完全に水に浸かって閉じ込められている状態に混乱してたのだが気が付くと目の前にある小さな窓みたいなところから人影が見える。


「お目覚めですか?ミリエラさん。まだ、体が動かないと思いますが、心配しないでも大丈夫ですよ。」


あ、あれ?お母さんから産まれるのではなかったの?

混乱して起き上がろうとしてみたが体が動かないのでプチパニックを起こしかけていたが、どうやら今のところはこれで正常なようなのでちょっとだけ落ち着いた。


「あら、記憶の定着率があまり高くないわね。このまま起動しちゃっても大丈夫かなー。」


落ち着いたと思ったのも一瞬で覆されるような呟きが聞こえてきた。せっかく少しだけ落ち着いたのにすぐに不安になるようなことを言わないでほしい。


「でももうどうしようもないし。シカタナイヨネ。えい。」


えいじゃないわよ。えいじゃ。


「ポポーン、魔装体の起動シーケンスを開始します。」


え、え、何が起こるの。もうちょっと説明してほしいのだけれども。

すると、視界の正面に半透明な画面が表示されスマホの起動画面のようなものが表示され始めた。ただ、表示された画面は横に長いのでスマホというよりはどちらかというとタブレットが正しいのかしら。でも向こう側が透けて見えるのよね。

そういえば白髭のおじいさんの所でスキルを選択していた時も選択画面が空中に表示されていたわね。あれは向こう側が透けては見えなかったけれど。

すると今まで真ん中に表示されていた半透明のタブレット画面が左側に移動して 開いた右側にほぼ同じ大きさの新しいウィンドウが開いた。


「ミリエラさん、聞こえますか?最初黒の四角い窓が出てきたかと思います。その後、色々な絵や画像が流れてその後絵が描いてある四角が並んだ状態になりましたか?」


「もうそろそろお話しても大丈夫でしょうか?」


ようやく落ち着いてきたころにやれやれな待ちくたびれたぜーな感じでお姉さんが話しかけてきた。未だに右肺には違和感が残っているけれどいつまでもお待たせしても悪いのでかろうじて動かせる右手と目線で先を続けるように促した。


「ミリエラ・カラシコフさん。どこまで覚えていらっしゃるか判りませんが貴方は第二魔導炉の修理作業中に爆発事故に巻き込まれて左半身を全損した状態で、ここ魔装体換装センターに運び込まれました。このセンターで魔装体の移植を受けようやく一命をとりとめた所でございます。あ、申し遅れました。私はミリエラさんの換装を担当する管理官のモニカ・ゲレーロと申します。」


どうやら私は、転生でも転移でもなくミリエラさんに生まれ変わったようだ。

あーお母さんお父さん、悲しんでいるかな。先立つ娘をお許しください。でも前世に未練はあんまりないのよね。


高校卒業して大学に入学するタイミングで上京して独り暮らしを始めたころが一番充実していたかもしれない。その頃はリアルな彼氏もいたし。

一流の有名どころではないが、そこそこの大学を卒業して就職したのだが、就職先が限りなく黒に近いグレーくらいな職場なこともあり三年たった今ではすっかり会社と家との往復だけの生活を過ごすようになっていた。

休日はたまった家事をこなすので精一杯でこれといった趣味もなくせいぜいスマホのソシャゲで推しに課金する程度でそれなりに自由を謳歌していた大学自体から一変、喪女まっしぐらな生活を送っていたのよね。


そんなことよりモニカさんの話だ。どうやら元の体の主は大きな爆発事故に巻き込まれて生死の境をさまよっていたらしい。その時に重傷を負って助からない状態だった生身の体を魔装体という魔力で動く機械の体に取り替えることで今に至るそうだ。

その機械の体は、元の生身の体よりも頑丈で力も強く作られているらしく戦闘用の機械の体になった人たちは、街の外で魔物や獣と戦って食料を調達する仕事をしているらしい。何と私も機械の体で冒険者になるのか?

そう思ったのだが、どうやら違うようだ。事故や病気で機械の体になった人のうちごくまれに生身の体よりやや力持ち程度にしか強化されない愛玩用の筐体が割り当てられる人がいるらしい。魔装体に換装されるときに使用される筐体は、その人の性別、体格、遺伝子情報や怪我の具合によって換装センターの換装機により自動的に選ばれるので、今の私に自動で割り当てられたのは愛玩用の筐体だったらしい。


「知っての通り、魔装体になってしまうと社会的な地位が低くなってしまうため今までのお仕事を続けることはできないの。」


いやいや、私そんな事知らないしって、あー、うっすら残っている元のミリエラさん?の記憶にそんな感じの内容があるのが分かった。


「あら、もしかして自分のとこがよくわかっていないのかしら?」


「ぎく!」


どうやら常識的な内容に首をかしげていた私に気付いたのだろう。モニカさんがそんなことを聞いてきた。もしかして転生者だってバレたのかしら?何処でばれた?


「魔装体に換装したひとは、まれに記憶障害を起こすことが確認されているのよね。」


転生者ってバレたかびくびくしていた私に気付かずにモニカさんが説明を続けている。

どうやら魔装体への換装とは、生体脳移植がその実体らしくその過程で記憶が混濁する場合がまれに発生するらしい。

また換装時の怪我の具合によっては、脳だけではなく場合によっては生身でまだ使える部分の残した形で換装される人もいるそうだ。


いずれにしても魔装体に換装した人は一律市民権を剥奪されるので就ける仕事が、ハンターと呼ばれる何でも屋だけらしい。うーん、それって元の世界のネット小説にあった異世界転生の定番の冒険者ってやつなのではないかしら?

ふふ、私もオタクの端くれ、たしなむ程度ではあったがその手の小説もカバーしていたのよね。でも私にそんな冒険者仕事が出来るとは思えないわ。こう見えても運動神経はない方だったし武術の経験なんて当然ゼロよゼロ!。

そんな私の唯一の戦闘経験値と言えるのが、流行りのe-Sportsブームに乗ってやったFPSの銃ゲー位かしら。日頃のストレスの発散になったので一時期は時間が許す限りは潜っていたが、まあガチ勢にはとてもとてもかなわなくて、ようやくビギナーを一歩抜け出したといったレベルだったけどね。


「愛玩用の魔装体は、出力も戦闘用の筐体と比べて弱いので戦闘はあまりお勧めできませんが。」


結果、愛玩用の魔装体に換装された女性が就ける就職先の筆頭は、不特定多数の男性相手に種を収集するだけの簡単なお仕事らしい。

いや、むりだって。未経験の喪女にはハードル高すぎでしょ。え、さっき彼氏いたって、大学時代はイケイケだったって言っていなかったって?

ハイ。スミマセン。見え張りました。中学三年生の時、若気の至りで勢いで一線を越えそうになりましたが、ナニを見た瞬間ムリってなって相手の男の子を付き飛ばして逃亡したのは、今となっても誰にも言えない黒歴史だ。付き飛ばして置いてきぼりにしたケイタ君ごめんなさい。


どうしよう、お母さん。この世界、私にはハードモードすぎるかも。


ありがとうございました。


執事の名前をアレスに修正しました。


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