第0話 プロローグ
久しぶりに投稿いたします。
皆様、初めまして。
私の名前は、中野雄二。しがないエンジニアのおっさんだ。
50才を前にして勇者召喚のとばっちりで異世界転生したいわゆる巻き込まれた異世界人だ。
一緒に召喚された勇者御一行は、こちらもテンプレ通りの男子高校生一人に女子高生三人の高校生四人組だった。
今、俺達は魔王の第3形態である龍魔王を前にしている。まったく、〇リーザさまでもあるまいに第3形態って王道すぎだろう。しかも龍形態だし。
彼ら異世界の勇者達4人に巻き込まれた一般人の私にはかなりキツい3年間だったが、しかしそれももうすぐ片が付きそうだ。
付くよね?第4形態とか無いよね?フラグでもフリでもないよ?
勇者のお嬢さんがいい動きで龍魔王を翻弄しつつ危なげなくダメージ稼げているしタンク役の聖騎士のお兄ちゃんのヘイトコントロールも上手く出来ている。
賢者ちゃんもここぞとばかりに温存しておいた魔力を使って大技を放っている。回復役の聖女ちゃんの魔力がちょっと心もとないがそっちはポーションで替えが効く。
テンプレ通りなら”巻き込まれた異世界人”の私は無能扱いで放逐された後、謎のスキルで異世界スローライフを謳歌しているはずだったのに勇者ちゃんの”オジサンも一緒ね!”の一言で連れまわされる羽目になってしまった。不幸中の幸いなのは、幼馴染らしい勇者ちゃんと尻に敷かれる聖騎士君がいい感じなだけで残りの二人が不干渉だったのでハーレム展開にならずに済んだことだろうか。
そう、勇者は女子高生のうちの一人で、その勇者ちゃんの幼馴染な男子高校生は、聖騎士だったよ。ちょっと意外。
「っあむもらー」
おおっと、ちょっと目を離したすきに龍魔王の回転しっぽ攻撃が聖騎士君に炸裂してこっちに飛ばされてきたが
”ぐぎゃあああー”
聖騎士君に当たって速度が落ちた尻尾を勇者ちゃんがすかさず切り落とした。ナイスである。
ただ、いつまでもタンク役の聖騎士君が倒れたままなのを放っておくわけにはいかないので 回復魔法を掛けようとしている聖女ちゃんを手で制してインベントリから取り出した自作のエクストラポーションを【投擲】スキルで瓶ごと投げつける。
聖騎士君は、丁度こちらに飛ばされてきたしスキルのおかげもあって 狙い通りに鎧の繋ぎ目にあたって割れた瓶からポーションが中に流れ込んでいった。
ゲームでは当たり前に使っていた飲んでもかけても回復する謎の液体だが、流石に鎧にかけても体は回復しない。関節部分の継ぎ目の隙間を狙って浸透させたおかげで復活した聖騎士君が、龍魔王のしっぽ攻撃が直撃しても壊れなかった盾を拾って、元気にタゲ取りに走っていった。
尻尾を切られたせいか、その後の動きに精彩を欠いた龍魔王を勇者ちゃん達が順当に削っていくと いよいよHPが3割を切ってバーサクモードになった訳ではないのだろうが聖騎士君のヘイトコントロールを無視して暴れ始めたので後衛のこっちにまででっかい岩とかが飛んでくるようになってきた。
危ない、危ない。こっちは紙装甲の一般人だ。あんな大きな岩に当たったらワンパンされてしまうのでシールド魔法を張って防御している賢者ちゃんの後ろにそそくさっと隠れる。いい歳したおっさんが女の子の後ろに隠れてなんとも情けない姿なのだが、シカタナイヨネ。
聖女ちゃんも龍魔王との間にきっちり聖騎士君を挟んで射線を切っている。まあ、その方がダメージ量が多いタンク役の聖騎士君を回復しやすいし。
”すん”
あれ、あんなに暴れていた龍魔王の動きが止まった。しかもなんかこっち見ているし。
もしかしてHPが残り1割を切ってまた攻撃モーションが変わるとか?まさかね。
止まった龍魔王にここぞとばかりに強攻撃を加える勇者ちゃんやインベントリの機能を使って盾と片手剣を持ち替えたハルバートを両手持ちしてガシガシ攻撃し始めた聖騎士君の攻撃を無視して龍魔王が大きく息を吸い込む。龍なのに今まで無かったからおかしいなとは思っていたのだがここへ来て使ってくるとは切り札なのかとっておきなのか…その両方か。
「ブレス、来るぞ」
思ったより大きい声が出た。ふっふっふ、オジサンでもやるときはやる。まだまだ若い者には負けるわけにはいかないのだよ。
勇者ちゃんと聖騎士君はブレスの射線から逃れるように左右に分かれる。賢者ちゃんはなぜかその場にしゃがむと防御魔法を四重にして鋭角に張りなおしている。お前はスウェーデンの駆逐戦車か?
「「「「「あ、」」」」」
聖女ちゃんの動きが止まっている。聖騎士君がブレスの射線をかわすための右に飛んだので龍魔王の真ん前に取り残された形になっている。
まずい。間に合うか?あとどれくらい溜めに時間がかかりそうかと横目でちらっと龍魔王の方を見ると何となくニヤリと笑っているような気がした。
せっかくここまで来たのにここで回復役が倒れるとか、最悪パーティーが瓦解するじゃないか。あー、ここで犠牲になっても影響がないのは…俺か?
「よっこらしょっと」
そんなことを考える前に体が動いていた。龍魔王と目があったのか棒立ちで動けないでいる聖女ちゃんの腕をつかんで振り回し投げ飛ばす。ちょうど賢者ちゃんの張った防御魔法の後ろに入るように。
ふっふっふ、オジサンでもやるときはやる。
朝から夕方まではまじめにレベルアップに励んでいた彼らだが、まだまだ学生気分が抜けないのか放課後くらいの時間になると割と自由に過ごしていた。
そんな青春している彼らを横目に社畜のオジサンは当然、
”定時何それ美味しいの?あーぁ、それって顧客からの問い合わせも同僚からの割り込みも無くなってよくやく自分の仕事を進められる時間の事ね”
ってな感じで、この世界でもようやく自分の時間になったかと一人もくもくと終電ぎりぎりの時間までサービス残業しているノリでレベリングを続けていた。
そのお陰で何とか勇者ちゃんたちに付いて行けるステータスをギリギリ維持していたのでこれくらいは何とかできる。レベル的にはオジサンの方が倍くらい高いのにステータス的には、だいぶ負けているのだが…解せぬ。
”ごうー”
聖女ちゃんを投げた反動を利用して龍魔王のブレスの射線から逃れるべく反対側に飛んだのだがギリギリ飛距離が足りず巻き込まれて吹き飛ばされた。とっさに体内魔力を高めて身体強化を掛け魔法抵抗力を上げつつアースウォールで防御したお陰で、かろうじて生きているがどうやら左半身を持って行かれたようだ。
「おじさんが、おじさんが、半分になっちゃった」
不穏なことを口走りながら聖女ちゃんが泣きながら駆け寄ってくる。あーあ、鼻水垂れちゃってせっかくの美人さんが台無しだ。
吹き飛ばされて地べたに転がったままの俺に回復魔法最高峰の【再生】を掛けようと翳された聖女ちゃんの手を両手で押し戻そうとして伸ばした手が右手しかない。あれ、心臓まだあるのかな。
「魔力ヒュー…むだにヒュー…使うな。ヒュー魔王…倒してヒュー…生きて…帰れ」
残っている右肺から息を絞りだし切れかかった声帯を動かしてこれだけ言い切った。
何とかこのまま龍魔王を倒して彼らだけでも女神様に元の世界に戻してもらえると良いんだが。
そういえば、とっさに張ったアースウォールは豆腐並みの垂直に立っていたのだけれど、これを傾斜装甲にしたらブレスをもう少しうまく逸らせられたかな?
ブレスで焼かれた左半身から徐々に冷たくなる感覚を感じながらそんなことを考えていた。
お読みいただきありがとうございました。