親愛なるひまわりに背を向けて
「あなたの好きな色は何ですか?」
僕は耳を疑った。
担任ではない、よく知らない教師と二人きりの教室。
最高気温は38度、傾きかけた西日が窓から差し込む。
「僕の好きな色は……黄色です。」
わざとらしく、その教員がうなずく。
清潔感を演出する短い髪から、半袖のワイシャツにまた一粒汗が垂れた。
対する僕はというと、真夏だというのにブレザーを羽織っている。
夏休みの面接練習。
三回目の今回は本番さながら、僕は真冬に行われる‘それ’の正装というわけだ。
突飛な質問に、僕はマニュアル通りに結論を先に述べた。
さて理由だ。
「……ひまわり」
ふと、学校の花壇に植えられたひまわりを思い出す。
……これだ。
「ひまわりは太陽のほうを向き、陽の光を一生懸命浴びてまっすぐに育ちます。
いつでも上を向くひまわりは僕に元気や勇気を与えてくれると感じます。
そんなひまわりを想像させることから、僕は黄色が好きです」
面接官役の教員は、再び大きくうなずいた。
我ながら上出来だった。
それからいくつか質疑を繰り返して、面接練習は幕を閉じる。
僕のことを、きっと『学級委員』という代名詞でしか把握していないその男性教員は
さすがですねと声をかけて職員室に戻った。
「ありがとうございます」
そう笑顔を向けて、季節外れのブレザーを脱ぎあと半年で去ることになる校舎内を歩く。
下駄箱にきれいに並べられた、はじめは真っ白だった運動靴も今日は一段と汚れて見えるような気がした。
校庭に出ると
練習後の片づけをしている後輩が僕を見つけては帽子を外して頭を下げる。
なぜか、さっきの自分の言葉を反芻してしまった。
『ひまわりは、陽の光を一生懸命に浴びてまっすぐに育つ』
意味もなく喉が詰まったような、そんな感覚が押し寄せる。
まっすぐにまぶしい西日のほうを向いた、誰かが植えた花壇のひまわりは
1ミリも間違いじゃない僕の15年間を静かに見守っているようだった。
40%くらい実話です。