俺の青春には四神姫様がついて回るようです。
初の短編、初のラブコメの初連発のこの作品ですが、どうかよろしくお願いします!m(_ _)m
「なぁなぁ湊さんよ。俺はたった今大変なことに気がついちまった......」
朝のホームルーム前の空き時間。
俺の机に肘を置いて、一人の短髪の男子生徒がそう言った。
その体制は、まるでヱヴァンゲ○ヲンのあのシーンを彷彿とさせるようだ。
さも重い空気を作り出すかのようにしているコイツは本多 智也。
俺の幼稚園からの腐れ縁で、親友だ。
クラスでは元気なお調子者として、ムードメーカーになっている。
「あー。大変なことってなんだろーなー。教えてほしーなー」
智也がこんなことを言うのは、いつもの事なので表情を変えず、適当に言葉を返す。
「お、おい......そんな冷たい反応は、流石に傷つくじゃないか......黄瀬司令官」
智也は心にダメージを受けたかのように、胸に手を当て、苦しむ振りをする。
「いや、司令官やってたのは俺じゃなくてお前じゃねーか......ったく。それで、今回はどうしたんだよ」
話を進めるためにツッコミべきところにだけつっ込んで、勝手にボケて勝手に傷ついた(フリ)親友に話を続けるように促す。
すると、智也は何事も無かったかのようにすぐに態勢を元に戻し、先程の雰囲気をもう一度作り出す。
「ああ。よくぞ聞いてくれた。それはな......我が校の四神姫がやはり偉大だと言うことだ!」
そう言って智也は机を叩き、俺に訴えてくる。
またか......
四神姫。
それは、この神野高校に在籍している四人の美少女の総称だ。
性格はまぁ......いろいろだが、容姿はとてつもなく優れているので、そう呼ばれている。
この四神姫と呼ばれるようになったのは、とてもシンプルな二つの理由がある。
一つ目は、高校の名前だ。
この学校、神野高校の読み方は(カミノコウコウ)。
つまり、神の高校と読めるのだ。
そして、二つ目の方が四神姫の由来として大きい。
それは、四人の美少女の家が丁度この高校を中心にして東西南北に別れているからだ。
四神ーー古代中国に伝わる、天の四方の方角を司る霊獣。
誰が言い出したかは知らないが、少女達の家の位置を知った誰かがその神話に重ね合わせたのだ。
神の高校に相応しい、神のような優れた容姿。
そんな少女達が東西南北に分かれて住んでいる。
この2つの奇跡ともいえる理由があって、四人の美少女は四神姫と呼ばれるようになった。
「またその話か......何回目だよ。それで、今回は何を見たんだ?」
この愚かな親友は、四神姫の内の誰かが善行を行っているのを見る度に俺に報告してくる。
別にめんどくさいとか思っているわけではないのだが、流石に飽きてきたというか、何というか......
とにかく俺は、四神姫のことを智也から毎回、耳が腐るほど教えられているのだ。
「ふっふっふっ~。友よ! 今回のネタは一味違うぞ! なんていったって、今回はその場面を写真に収めることができたのだからなぁ!」
「な、ん、だと」
智也の堂々とした意気込みにノリで反応した。
空気はしっかり読む俺である。
「では、ご照覧あれ。これが現物だっ!」
スッとポケットからスマホを取り出し、画面を俺に見せてくる。
そこには、四神姫の『玄武様』が猫に餌をあげているシーンが収められていた。
「な、んだ。これはっ」
ノリで反応してはいるが、写真の中の美少女の笑顔に引き込まれ、少なからず衝撃を受けていた。
餌やりというシチュエーションに美少女の満遍の笑みも加わるとなると、それはもはや一種の起爆剤だ。
写真一つにここまで引き込まれるとはっ!
うちの四神姫恐るべし!
「この写真はな。俺が今朝、登校中にたまたま見かけたんだよ。玄武様が裏道に入っていくから、なんだろうなと思ったら、この場面だったんだ!」
智也が状況の解説をしてくれる。
確かに智也の家は玄武様方面なので、遭遇することもあるだろう。
だが......
この写真には問題があった。
愚かな親友の表情と態度を見る限り、全く気がついていないようだ。
伝えるのは心苦しいが、言わねばなるまい。
親友として。
「そ、そうか。なるほどな......でもな、智也」
「ん? どうかしたか友よ」
智也がキラキラとした笑顔でこちらに顔を向けてくる。
俺は今からこの笑顔を無くしてしまうのか......
本当に心苦しいが、言うぞ!
決意を固め、俺はその問題点を口にする。
「その写真、盗撮だぞ?」
案外、スラッと言うことが出来た。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
一瞬にして親友の表情がこの世の終わりとも言える表情に変わり、声にならない悲鳴を上げ出した。
頭を必死に机に叩きつけ、現実を受け入れまいと必死に足掻いている。
「そ、そんなバカな......ハッ!ということは、この写真はもしかしなくても......」
「あぁ。消すべきだろうな」
「ドスン」
親友が机に突っ伏した音のはずなのに、感情が壊れたような音に聞こえたのは、俺だけだろうか?
それにしても、世の中残酷だ。
善行を写真に収めても、それ自体は悪行になってしまうのだから。
頑張れ智也。立ち上がれ智也。
心の中で、感情が壊れた?親友の再起を応援する。
そんなことをしていると、隣に近づいてくる音がした。
「おっはよう! 湊、智也! 今日もいい朝だね!」
そう言って、朝から天真爛漫な様子を見せるこの小柄な美少女は、朱城 花鈴。
長く綺麗な赤髪をポニーテルで纏めている、我が校が誇る四神姫の『朱雀様』枠の美少女だ。
容姿はもちろんのこと。
誰とでも分け隔てなく明るく接する性格から男女問わず、人気になっている。
ちなみにコイツも俺の幼稚園からの腐れ縁だったりする。
「おはよう。花鈴」
俺は赤髪の美少女に挨拶を返す。
「およ? 智也はどしたの?」
まぁ......智也が死んでいるように見える、この光景を見れば当然行き着く疑問だ。
俺は、分かりやすく先ほどまでに起こった出来事を花鈴に話していく。
「アハハハッ。朝から面白いね〜智也は。でも、そうだね〜。盗撮は良くないかな?」
「う、うぅぅ〜」
智也は一度チラリと花鈴を見てから、泣き出した。
本当に可哀想だ。
同情するぞ、親友よ。
だが、いつまでも落ち込ませておくわけにはいかない。
智也が立ち直るためには、やはり親友の俺が背中を押してあげなければならないだろう。
「そうだぞ、智也。花鈴の言う通りだ。そろそろ現実を受け止めて、もう一度俺と一緒に新たな青春の一ページを描いていこうではないか!」
俺は、ここぞとばかりに花鈴の発言に便乗し、泣いている親友に再起を図るように促す。
何事も失敗が大事なのだ。
そこから、どうするかで今後が決まる!
ってどこかの本で見た気がする。
すると、突っ伏して泣いていた親友が体を起こし目元を拭いながら、反応してくる。
「......そ、そうだなっ! まだまだ俺たちの青春はこれからだ! 湊。最高の青春にしよう!」
「おう!」
俺たちは強く握手を交わして、楽しい青春を過ごし合うことを誓い合う。
その光景は、どんな熱血系の漫画やドラマの名シーンにも勝るとも劣らないだろう。
そして、そんな俺たちの様子を見ていた花鈴がお腹を抑えて大爆笑し出した。
「アハハハッ! なにそれ。金○先生のワンシーンみたいじゃんっ! そんなことしてる時点でもう十分、青春してるよ湊と智也は! あ〜面白い」
そこまで面白かっただろうか?
まぁ、楽しんでもらえたのなら何よりだが。
そうしていると、丁度チャイムが鳴って朝のホームルームの時間になった。
皆が急いで、自分の席に戻っていく。
「おう! みんなおはよう! うん。席替えをしたばかりだから、なんだか景色が新鮮だな! じゃあ、早速、出欠確認から......ほら、本多。さっさと前を向け」
「はーい。リー先生」
元気よく挨拶しながら入ってきた体育会系の男性教師ーー高橋 陸斗、通称リー先生に注意されて、智也は前を向く。
周りからは少しだけ笑いが起こり、早速朝から教室がいい雰囲気になった。
席替えをしたばかりで雰囲気も少し変わるかと思ったが、いつも通りのクラスの雰囲気で少し安心する。
「っと。気を取り直して、出欠確認からだな。いないのは......桜井だけか......アイツはまた遅刻か?困ったやつだな」
リー先生がため息を吐きながら、とある生徒を気にかける。
桜井 白羽。
四神姫の『白虎様』枠の美少女だ。
とても朝が弱くて、たまに遅刻してくることがあるのだ。
今日は遅刻か。
今頃、大爆睡か?
そんなことを考えていたその時、後ろの扉が開いた。
「おふぁ〜ぁ、ようございます」
眠たげに目や擦りながら、肩まで伸ばした雪のように綺麗な白髪を靡かせて、一人の美少女が入ってきた。
そう。
コイツが桜井 白羽、ご本人様である。
いつも眠たそうで、授業も寝たりしているのにテストでは高得点を叩き出し、体育では意外な身体能力を誇るので、そのギャップが良いという可愛いもの好きの間で人気だ。
「おはようぐらいはちゃんと言わんか! まったく」
再び教室が笑いに包まれる。
そんなリー先生の言葉を聞いていないかのように、綺麗な白髪を揺らしながら、白羽は俺の隣に座る。
「おはよう、白羽」
「おはよう、湊」
実は、この白羽さんも俺の幼稚園からの腐れ縁で幼馴染だったりします。はい。
「ーーーーーー」
花鈴が前の離れた席からこちらを凝視してくるように感じる......
おそらく白羽のことを見ているのだろう。
きっと、遅刻をしたのに座った根性で堂々と入場してきた白羽を幼馴染として避難しているのだ。
そして、白羽が花鈴の目線に気がつく。
「......フッ」
鼻で笑いましたよこの子。
花鈴からの目線を鼻で。
「!? 〜〜〜〜〜ッ!」
それに反応した花鈴が顔を真っ赤にして悔しそうな目で、白羽のことを見ている。
なんだか、妙にいたたまれなくなった俺は白羽に声をかける。
「お、おい。白羽。いいのか? 花鈴の奴、後でめんどくさくなるぞ」
俺の言葉を聞いた白羽は、軽く微笑みながら答えてくる。
「いいの。勝者が敗者に何かを言われる筋合いはないから」
なんだかよく分からない回答が返ってきた。
「? そ、そうか。まぁ、いいならいいんだけど......」
気にしても仕方がないので、気にせず前を向き直す。
「よし。全員揃ったな! そろそろ文化祭が近づいているから体調には気をつけて過ごすように!以上!」
出欠確認を終えたリー先生は、そう言い残して教室を後にした。
一限目まで、再び時間が空いた。
文化祭。
そうか......もうそんな季節か。
今は九月。
文化祭は十月の初めに開催されるので、あっという間だ。
高校一年生として、初めて高校の文化祭に参加するのでとても楽しみにしていた行事だ。
「文化祭かぁ......そういえば、クラスごとに一人実行委員を出さねーといけないらしいぜ。もちろん高一からも」
智也が俺の知らなかった情報を伝えてくる。
「へぇ〜、そうなのか。実行委員か......少し興味を惹かれるなぁ」
文化祭を回るのが楽しみだったが、運営する側としての文化祭を想像しても実に楽しそうだ。
多少は忙しいだろうけど、それで楽しさが買えるなら安いぐらいだろう。
「う〜ん。聞かれたら立候補してみようかなぁ」
そんなことを口に出した瞬間。
ドタバタとこちらに駆け寄ってくる存在が現れた。
「おっ。なんか来たぞ、湊」
俺よりも先に、智也がその存在に反応をする。
続けて俺もその存在の方に振り返る。
「おっはようさん! 皆の衆! 呼ばれた気がして参上してみたぜ☆」
前髪にヘアピンだけして、スラリと海のように透き通る青髪をロングで伸ばしている、この美少女は、七瀬 蒼。
四神姫の『青龍様』枠の少しボーイッシュなテンション高めの美少女だ。
この飛び抜けた明るさとテンションの高さから、主に体育会系の男子や女子から多くの人気を誇っている。
たまに部活の助っ人もやってたりするのだ。
そして、コイツも俺の腐れ縁で幼馴染でございます。
「いや、別に呼んでねーけど。何してのお前は」
俺は立ち上がり、脳天にチョップを食らわせながら、蒼の行動に疑問を呈する。
「いたぁ〜い。やめてよ、湊ぉ〜。と、とにかく、湊。今実行委員の話をしていなかったか?」
隣で机に突っ伏して寝ているはずの白羽の体がピクリと動く。
「いや、してたけど。なんで?」
「いや〜、うちのクラスで丁度さっきその実行委員の話がされてね......それで、湊がその話をしていたからどうするのかなぁって気になったんだ」
蒼は少し照れるように指を動かしながら、質問してくる。
つまり、蒼は俺が実行委員をやるつもりなのかを聞いているのだろう。
「なるほどね。つまり俺がやるつもりか、そうじゃないかってこと?」
「そ、そういうこと! やるなら、私も一緒にやーー」
「「ダメ!」」
蒼が何かを言おうとした瞬間、いつの間にか現れた花鈴と白羽によってその言葉は遮られてしまった。
「おっと。びっくりしたぁ〜。急になんだよ、二人とも」
いきなり出てきた二人に驚きつつ、俺はすぐ深呼吸をして、心を落ち着かせる。
「そーだよ、二人とも! 今は私と湊が話しているんだ!」
蒼が不満げな表情で、二人に猛抗議する。
だが、二人はそんな蒼の態度を気にも留めず、続ける。
「ダメだよ! 湊は文化祭は回る側なんだから」
「そうそう」
花鈴の謎の決定に白羽が頷き、同意する。
聞き捨てならなかった蒼が、二人に迫る。
「ど、どうゆうことだよ。そんなこと決まってないじゃないか!」
蒼が最もなことを言う。
全くもってその通りだ。
俺が回る側でいなくてはいけない理由などないのだ。
俺は腕を組み、蒼の発言に首を縦に振って同意する。
が。
ん? 何か忘れているような......
俺は頭を捻り、思い出そうと必死になる。
「ふん。湊は何か心当たりがあるみたいだね」
「ない方がおかしい」
花鈴と白羽がまるで自分達は覚えているような口調で言ってくる。
ん?ん?ん? 何か約束した気がするな。
確かあれは......一か月程前。
(「智也、湊、白羽。このゲームでビリで負けた人は文化祭でひたすら奴隷のように付き従うっていう罰ゲームでどう?」
「ふっ。望むところだ! かかってこいや!」
「負けられない戦いがここにあるな!」
「問題ない。捻り潰してあげる」 )
あ。思い出したわ。
昼休みにスマホでみんなとカーレースしてた時に、罰ゲームで俺が負けたんだっけ?
そうか。
二人ともそのことを言っているのか。
俺は一人で納得した。
「湊。思い出したみたいだね」
「忘れてもらっては困る」
さっきまで二人とも意味不明なこと言ってんなぁと思ってたのに、思い出した今では納得しかできない。
「あっ。はい。バッチリ思い出しました。あの時の罰ゲームですね」
「あー。あの時のカーレースのやつか。俺も忘れてたわ」
智也も今思い出したようだ。
「え?え? どーゆうこと?」
一人、状況を飲み込みきれていない蒼がアタフタと慌てる。
「まぁ簡単に言ってしまえば、俺がこの間とあるゲームに負けたから、その罰ゲームの為にコイツらに尽くさないといけなくなったということです」
かなり要約して、簡単に状況を伝える。
「えーと、じゃあ、つまり......湊は罰ゲームがあるから結局、実行委員は出来ないってこと?」
蒼が慌てながらも、必死に状況を整理する。
そんな蒼に申し訳ないと思いながらも、俺は答える。
「はい。そうゆうことっすね」
何ということだろう。
俺の楽しみだった文化祭が一か月程前から、地獄の罰ゲームに早変わりしていたなんて。
当時の俺はきっとこのことを忘れたくて、今まで忘れていたんだろうな。
昔の俺、束の間の休息をありがとう。
おかげで一か月、最悪な思いをせずに学校生活を送れたよ(涙)
俺が過去の自分に思いを馳せている中、蒼が口を開いた。
「そ、そっかぁ。せっかく一緒に実行委員できると思ったんだけどなぁ......残念無念また来年〜だね!.............はぁ」
なんだか誤魔化すように苦笑いを浮かべながら、蒼はガクリと肩を落として残念がった。
そんな様子を見ていると、俺は申し訳なさでいっぱいになる。
相当、実行委員がやりたかったのだろうな。
「すまん、蒼。俺もやれるならやってみたかったが......今回ばかりは俺に責任があるっぽい......来年、またやろうぜ」
今回は、罰ゲーム有りの勝負で負けた俺が悪い。
奴隷のように扱われるのには少し難色を示さざるを得ないが、花鈴と白羽が悪いわけではないしな。
残念がる蒼に謝罪をしながら、俺は来年こそは一緒にやろうと約束をする。
すると、蒼の顔がみるみる笑顔に変わっていった。
「ほ、本当!? 本当に本当ね!? 約束だぞ! 絶対だからな!................やったぁ」
俺は嬉しそうに必死に確認をとってくる少女に、無言で何度も頷いて答えた。
今の蒼の笑顔は飛び抜けて可愛い。
さすが『青龍様』だ。
いつもボーイッシュで決めているのに、こういう時はしっかり女の子を見せるからなぁ。
教室の中にいるクラスメイト達も興味ありげにチラチラとこちらを見ているのが、いい証拠だ。
「「......ぷくぅ~」」
花鈴と白羽が頬を膨らませて、こちらを睨んでくる。
そんな反応をされる覚えがない俺は、2人に問いかける。
「......どうしましたか? 二人とも? いかにもご機嫌斜めって感じの表情をされて」
実行委員よりも罰ゲームを優先したのに、どこに不満あるのだろう?
......いや、全く分からん。
不満になりそうなところは無かったと思うが......
やはり、いくら幼馴染とは言っても女心は複雑怪奇なものだな。
そう思って、頭を悩ませていると近くでその様子を見ていた智也がため息をついた。
「......この状況、少しばかりカオスすぎませんかね? chaos、CHAOS、カオス!! なのに当の本人は現状を理解できずに、全くこの状況を分かっていないと......うん、カオス!!」
前方で親友がぶつぶつと小声でカオスを連発し始めた。
お前の今の様子がカオスだ!
なんか怖いわ!
俺はおかしくなってしまった親友を正気に戻そうと試みる。
「お、お〜い智也。大丈夫か〜?」
肩を揺さぶりながら、親友を現実に引き戻す。
今も「なんで俺には、こんな青春がないんだ......」と独り言を言っている。
頑張って揺さぶり続けていると、段々と目に光を取り戻してきた智也が反応を示す。
「......ハッ! なんてことだ、俺としたことが。こんなのいつものことなのに反応してしまった!!」
こいつもこいつで訳の分からないことを......
周りでは何故か、花鈴と白羽 vs 蒼が繰り広げられてるし。
もうついていけない。
みんな、訳分からん。
キーンコーンカーンコーン。
そんな時、朝から思考停止しそうになっている俺を元に戻そうとするかのように一限目のチャイムが鳴った。
「やばい! チャイムなっちゃった! 急いで戻らないと。じゃあね、皆。湊は来年、約束だからね!」
「お、おう」
近くでシャーと猫のように威嚇している花鈴達を無視して、俺は返事を返す。
智也もまだ一人でぶつぶつ言ってるし......
朝から疲れたぁ。
自分の席に戻っていく花鈴を見ながら、謎の疲れを実感する。
一限目は......
うわっ。
よりにもよって、苦手な数学かよ。
最悪だ。
まぁ、サボるわけにいかないし、やるしかないんだけどね.......
そう考えていると、先生が入ってきて一限目の授業が始まったーー
**
現在の時刻は13時。
四限目が終わり、大半の人は昼食を食べ終えた頃だ。
食堂で昼食を食べ終えた俺と智也は、教室に戻ろうと廊下を歩いていた。
「でさー、アイツが............やべぇ、腹痛くなってきた。ちょっと食べすぎたかも」
隣で先日起こった面白話をしていた智也が急に立ち止まって、そう言った。
「おいおい、大丈夫かよ? 保健室行くか?」
腹を抱えて唸っている親友を見ながら、俺は心配する。
「だ、大丈夫だって。これは多分......大のやつだ。ちょっとトイレ行ってくるわ! 先戻っててくれ!」
ヘラヘラとしながら駆け足で、親友は去っていった。
結構限界そうな顔をしていたので、完全に腹を壊したんだろうな。
確かにいつもよりも多く、食べていた気がするし。
「じゃあまぁ、戻るか」
親友を見届けた俺は、再び振り返って教室に向かう。
廊下では多くの人が話していて、とても賑やかだ。
笑って騒いで、たまに走ってる人もいて。
俺はそんな様子を見ながら、歩みを進める。
すると......
「ギャッ!?」
前方に紙をばら撒いて、盛大に転んでいる黒髪の少女を見つける。
周りの人達は驚いて、誰一人として笑っていない。
ただ、転んだ当事者の方を見てギョッとしている。
なんだかいたたまれない空気が流れていた。
いつまでもこんな状況にしておくわけにはいかないので、その少女の後ろ姿に見覚えがあった俺は、助けに向かう。
「お、おい。大丈夫か〜?」
「うぅ〜〜〜。ん?............湊!?」
おでこをおさえて、涙目でこちらに振り向いた彼女は、如月 凛奈。
艶やかな黒髪を背中まで伸ばした、雰囲気だけは立派なうちの『玄武様』だ。
The大和撫子って感じで、名前の通り凛とした態度が特徴的な美少女。
一年生にして生徒会の書記を任されるほどの秀才であり、周りの生徒からの信頼も厚い。
でもって彼女も俺の幼馴染なんです。
そんな少女が俺に気がつき、すぐに立ち上がって反応してくる。
「べ、べ、べ、別に何も起きてない! 大丈夫よ! ん? 何かあったかしら? アハハハー」
凛奈よ。
さすがにそれは無理がある。
こんなにも多くの人が見ている中で、その言い訳は苦しすぎるっ!!
おそらく恥ずかしすぎて、頭が回っていないのだろう。
誤魔化したつもりで必死に頑張って足掻いている結果が、これなのか......
なんだか見ていてとても恥ずかしい。
共感生羞恥に襲われた俺は、とりあえずこの場から避難するために凛奈に話しかける。
「と、とりあえず、この場は離れよう。人目も多いしさ。行き先は生徒会室だろ?......っと、行くぞ」
周りに散らばっていた紙をかき集めて、凛奈と一緒に生徒会室に向かう。
とても気まずい。
凛奈も一言も話さないし、一刻も早く生徒会室に着きたいっ!
その思いで、早足で行き生徒会室に到着した。
「コンコン。失礼しまーす」
俺はノックをして、恐る恐る中を伺う。
誰もいないようだ。
扉を開けて入り、机の上に紙の束を置き終えた俺は、凛奈の方に振り返る。
「相変わらずだなぁ、凛奈さんは」
「うぅ〜。だって、仕方ないじゃない。転んじゃったんだから」
両手で顔を隠すように黒髪を触りながら、凛奈は恥ずかしがった。
別に今回の事件と関係あるかは分からないが、うちの『玄武様』は基本、運動が苦手である。
品行方正で学業優秀なイメージにつられて、スポーツもできる! なーんて想像している人がいたらそれは、大間違いだ。
凛奈さんは生粋の運動音痴で、たまにドジってしまう子なのだ。
まぁ、普段は猫を被ってるからなぁ。
そんなことを考えていると、恥ずかしがっている凛奈が口を開いた。
「......まぁ、えーと、そうね。助かったわ......ありがと」
小さな声で感謝を伝えてくる。
「大丈夫。いつものことだから気にすんな」
「そう?......っていつもじゃないわよ!!」
俺の弄りに過剰に反応した凛奈は、強く俺に言い返してくる。
ガミガミ言い返している凛奈は、今にも殴ってきそうな雰囲気だ。
ん? 殴ってきそう?
「ちょ、ちょうど良いわ。今、恥ずかし過ぎて死にそうだし、ちょっとやりきれない感があったから......湊、犠牲になって?」
顔を真っ赤にして、無理やり笑みを作りながら凛奈は言ってくる。
「ちょ、ちょっと待て! 何故そうなる!?」
少しだけ煽ったはずが、今日は運悪くサンドバッグをご所望だったらしい。
まずい。
本当に殴られるっ。
段々と近づいてくる幼馴染から後ずさりしながら、俺は窮地に立たされる。
そして、俺は壁に追い詰められて目の前に凛奈が到着した。
あー、やられるっ。
そんな時、俺に名案が舞い降りた。
これでいくしかないっ!!
「あ、あー。そういえば、智也が今朝お前が猫に餌をあげている写真を撮ってたなぁ。」
必殺、なすりつけである。
攻撃目標を変えようという俺の最後の賭けだが......
「......なんですって?」
うまくいったようだ。
「あー、何でもーー」
「本当なのね?」
なすりつけただけではさすがに智也が可哀想なので、少しフォローをしようとした瞬間、すぐに反応した凛奈に遮られてしまった。
前髪に隠れて、表情が全くうかがえない。
だが、有無を言わせぬその圧迫感に思わず、怯んでしまう。
「ほ、ん、と、な、の、ね、?」
ゾクリと悪寒が背筋を襲い、首元に冷や汗が流れる。
緊張の一瞬だ。
だ、だが、親友のため俺は!!
「あっ、はい。マジです」
お、俺の口ぃぃぃぃぃぃぃ!!
感情よりも先に恐怖で口が動いてしまったとでもいうのか!
そ、そんな馬鹿な!
俺としたことが!
ハッ! そんなことより凛奈は......
「ふーん。へー。智也ねぇ〜。フフフフ」
そう呟きながら、極悪の笑みを浮かべて生徒会室を後にしようとする凛奈の姿があった。
あー、これは逆らっちゃいけないやつだ。
そう、直感で悟った俺は何も言わずに凛奈を見送ることに決めた。
後で、智也には埋め合わせをしよう。
ありがとう、親友よ。
これから生きて会えるか分からない親友への感謝の念を抱きながら、凛奈を見送る。
すると、凛奈が振り向いて最後に言ってきた。
「じゃあ、私は行くけど......さ、さっきの光景は忘れること!! いいわね!? あ、あと。猫のやつも忘れて!!」
凛奈が少し頬を赤くして、恥ずかしそうにしている。
「ああ、分かったよ。綺麗さっぱり忘れる」
「な、なら、いいのよ。じゃあね」
そう言い残して、黒髪の幼馴染は去っていく。
ふぅ......
さて、今度こそ教室に戻るか。
そうして生徒会室を出た俺は、再び教室へ向かった。
**
キーンコーンカーンコーン。
毎日お馴染みのチャイムが鳴り、六限目が終了した。
あとは、帰りのホームルームをして、放課後に突入する。
「今日の授業終了だ〜。放課後はどうします? 闇堕ち智也さーん」
「ガタガタガタガタ。俺は何もしてない。俺は何もしてない。俺は何もしてないんだ。何かの間違いだ。そうに決まってる。だ、だから......だからぁ!!」
体をガタガタ震わせて、まるで死神にでもあったかのような様子だ。
まぁ会ったんだろうな、凛奈という死神と。
昼休み。
俺が生徒会室から戻ってくると、まだ智也は戻っていなかった。
しっかりお腹を壊していたようだから、トイレに篭っているのかと思ってたんだが......
戻ってきた智也は魂が抜けたように顔面蒼白で、歯を小刻みに震わせて怯えていた。
その時から智也はずっとこの調子で、恐怖に身を震わせている。
その様子を見た瞬間に俺は察したのだが、あまりの怯えように聞くのを躊躇ってしまった。
それでいつ話しかけようか考えているうちに、いつの間にか六限目が終わっていたのだ。
「と、智也〜。そろそろ生き返れ〜。授業終わったぞ〜」
目がうつろになっている親友に俺は声をかける。
だが、反応はない。
どうにか反応はしてほしいが......
こんな状態にしたのは、俺のせいなのであまり強く出ることも出来ない。
今の状況に頭を悩ませていると、不意に横から声をかけられた。
「湊、智也はどうしたの」
雪のような白髪の少女が、俺に質問してくる。
どう言えばいいものか......
悩んでいると、教室にリー先生が入ってきた。
「よし、全員いるな。会議があるからパパッと大事なことだけ言って解散にするからよく聞けよ? えーと、そう、文化祭の件だ。毎年一クラスから一、多くてもニ人ずつ実行委員を出すことになっていてな」
実行委員の件のようだ。
俺の中では、既に解決した問題なので聞き流してもいいだろう。
リー先生が続ける。
「やりたい人がいたら、どんどん俺に言ってきてくれ。回る側も楽しいが、運営側も楽しいから是非挑戦してみて欲しい。あとは......そうだ」
リー先生が言うことを思い出して、手を叩き一呼吸置いて続けた。
「文化祭まで後1ヶ月とちょっとだからな。知らないって人がいると思うから言っておく。まぁ、先輩から聞いているって人もいるかもしれんが、聞いてくれ」
俺は部活動に所属していないので、知らない話だ。
「うちの学校では文化祭が終わった後に毎年、裏イベントとして後夜祭をやっているんだ。その名も神夜祭! 景品ありの抽選会だったり、燃える炎の周りでのフォークダンスだったり、色々やっているな!」
その言葉を聞いた瞬間、隣の白髪が揺れる。
花鈴の方を見てみれば、若干前のめりになりながらリー先生の話を食い入るように聞いている。
景品ありの抽選会かぁ。
なんだか心が惹かれる。
夢があって、とてもいいイベントだ。
きっとみんなもそう思っていることだろう。
花鈴なんか目をキラキラさせて聞いているからな。
「よし! 俺が伝えるのはここまででいいだろう。ここからはお前達の方が詳しいだろうからな。『とある場所に行けば、必ず抽選会で当選する』とか『フォークダンスのジンクス』などなど。若いお前達の方がこの辺の情報を知っているだろう?
では、以上だ。解散!! また明日だ!」
そう言って、リー先生は教室を後にする。
帰りのホームルームが終わった教室内は先程の話もあり、騒がしくなっていった。
「ねぇねぇ知ってる? フォークダンスのジンクスって......」
「えー!? そうなの!? 本当ならスゴい!」
「いいなぁ、そう言うの。憧れるなぁ」
女子達はフォークダンスの話をしているらしいが、声が小さくてうまく聞こえない。
「知ってるか? 抽選会で大型テレビが当たったりするらしいぜ」
「マジかよ!?」
「俺は、テレビ以上の物も当たるって聞いたぞ!!」
「凄すぎだろ!」
な、んだと......
俺は近くで話し合っていた男子達の話に衝撃を受けていた。
そんな、豪華なものまで当たるのか!!
神夜祭。
最高のイベントじゃないかっ!
この話には、さすがに魂が抜けていた親友も黙っておらずに。
「らっしゃぁぁぁぁぁ!! 当選するのはこの俺じゃぁぁぁぁ!!」
先ほどの状態からは考えられないほどに熱く燃えていた。
それが、聞き捨てならなかったクラスメイト達が対抗する。
「何言ってんだよ、本多。当たるのはこの俺だ」
「ふざけんな! 俺に決まってんだろ!!」
「いやいや、俺だって!!」
そんな盛り上がりを見ながら、俺も一人内心で興奮する。
今から文化祭の日が待ちきれないっ。
「ねぇ、湊」
後ろから声をかけられたので振り向くと、花鈴と白羽がいた。
クラスメイト達はその光景に一瞬だけ驚いたが、相手が俺と智也だと分かるとすぐに安堵した表情になる。
何故だ?
そう考えていると、花鈴に再び声をかけられる。
「部活行こ」
そこで、俺は異変に気がついた。
いつも天真爛漫な花鈴が大人しいのだ。
白羽も心なしか、少し態度が違うような......
「お、おう」
とりあえず、返事だけして様子を伺ってみよう。
俺達が所属している部活動に向かうことにする。
クラスメイト達に挨拶をして、俺達四人は部活に向かう。
そして、いつも使っている教室にたどり着いて入る。
中には、既に蒼と凛奈が座って待っていた。
蒼と凛奈も何故か真剣な雰囲気を纏っており、さすがに心配になってしまう。
「ど、どうしたんだよ四人揃って。なんかあるのか?」
すると、花鈴が口を開いた。
「あ、のね。さっきの話なんだけど......」
「「「ッ!!」」」
花鈴の発言に周りの三人も体が反応する。
「ちょっと花鈴? 突っ込みすぎなんじゃない?」
「そうそう。花鈴、突っ込み過ぎ」
「そうだぞ。落ち着こうじゃないか」
「む?」
四人の間で幻の火花が見える。
バチバチしているのが見えるぞ。
すると、隣に腰掛けた智也が全てを察したかのような表情になった。
なんなんだ一体。
「そーいえば、湊は文化祭どうするつもりなんだ?」
「「「「!!!!」」」」
智也が質問したタイミングで四色の髪が同時に揺れて、四人が一斉に俺の方を見る。
「どーするも何も、俺は罰ゲームあるんだし。自由はないだろ?」
当然のことを口にする。
蒼の誘いを断ってまで奴隷になる決意をしたのだ。
ここまできたら、逃げずにやってやる。
「だよね! だよね! そうだよね! 罰ゲームあるもんね! うんうん。そうだよ、そーゆうことだよ!」
「そうそう。罰ゲームがある。主人が絶対。奴隷は従うのみ」
花鈴と白羽がここぞとばかりに活気を取り戻し、盛り上がる。
だが、蒼と凛奈の反応はバラバラだった。
「ぐぬぬぬぬぅ」
蒼は何故か悔しそうに花鈴と白羽を見ている。
「え? 何? どういうこと!?」
凛奈は状況が飲み込めていないようで、若干パニックになっている。
なので、俺が罰ゲームの話をすると......
「そ、そんな......嘘よ......」
途端に落ち込み出して、意気消沈してしまっている。
何かまずいことを言ってしまっただろうか。
最近は普通にしていても、他の人を落ち込ませたりしているので、気をつけないといけないな。
そう思っていると、智也が再び言った。
「でも、確か......神夜祭は文化祭終了後のイベントだよな? 神夜祭は関係ないんじゃないか?」
「なに!? それは誠か!?」
ここにきて、衝撃の事実が発覚した。
それは、つまりーー神夜祭はこき使われないということか!
最高じゃないか!!
神夜祭バンザーイ、バンザーイ。
「「............え?」」
俺が歓喜する一方で、花鈴と白羽は絶句していた。
今日は随分、感情表現が豊かな日だな。
「そ、そうよね! 神夜祭は文化祭後のイベントだからね。罰ゲームにはならないわ!」
「うん、そうだね。神夜祭は罰ゲームに含まれていない!」
「「ぐぬぬぬぬぅ」」
今度は花鈴と白羽が悔しがり始めた。
そんな様子を見ながら智也はクスクスとずっと笑っている。
ふむ。
花鈴と白羽は罰ゲームが神夜祭まで続いて欲しかった。
一方で
蒼と凛奈は罰ゲームが神夜祭まで続いて欲しくなかった。
つまりは、どちらも神夜祭に俺が欲しいということだろう。
ということは......
そうか!
分かったぞ!
コイツらがさっきから言い争っている理由がっ!!
俺の推理が当たっているなら、ここからは修羅場になるだろうなぁ。
「も、もういいもん! わ、わ、私、言っちゃうから! ぬ、抜け駆けって言われても......言っちゃうからっ!!」
「ま、待って花鈴。お、落ち着くべき。もう少し待ってからでも..............私も言おうかな?」
「そ、そうだぞ、花鈴! 白羽の言う通り、落ち着いて......じゃなーい! 白羽まで何を言って......ま、まさか本当に? 〜〜〜〜〜〜ッ!! ず、ずるいよぉ」
「み、みんな、言っちゃうの!? わ、私まだ心のじゅ、準備がぁ......無理無理無理っ! き、緊張しちゃうじゃない!!」
朱雀様、白虎様、青龍様、玄武様。
うちの四神姫全員が顔を真っ赤にして、猛烈に興奮している。
「わ、私はどーしてもあの言い伝えをっ!! 〜〜〜〜〜〜ッ!! なんだか想像してるだけで恥ずかしくなってきちゃうぅ!!」
「「「わ、私だってそうだよっ!!」」」
最早、暴走と言ってもいいだろう。
今の四神姫は他の人に見せられるような状態ではなかった。
リンゴのように顔を耳まで真っ赤にして、四人とも自分の想像に身悶えている。
まぁ、彼女らが何を言おうとしているのか分かった俺は、照れくさくなるぐらいで、彼女達が言ってくれるのを待つばかりなのだが...............
「じゃ、じゃあみんなで一斉に言う?」
花鈴が他の三人に提案する。
「よ、四人同時!? き、緊張する」
「も、も、もう、や、やる、しか、ない、だろう!」
「うっ。ど、ドジ踏まないようにしないとっ......」
四人が覚悟を決めた様子でこちらを見てくる。
赤くなった顔を見ると今にも倒れるのでは? と心配になるほどだ。
そして、四人が口を開く。
「「「「み、湊。わ、わ、わ、私と、私と、私とーー」」」」
「もういい!! 十分だ!! みんなの気持ちは十分伝わったから」
「「「「え?」」」」
四人が信じられないと言った面持ちで、こちらを見てくる。
なんだか彼女たちを見ていて、これは男の俺が言わないといけないのではないかと思ったのだ。
俺も緊張するが、言うしかあるまい。
彼女達が恥ずかしい思いをするぐらいなら、俺が一人でその恥ずかしさを引き受けるべきだろう。
「つ、つまりーー」
俺が言おうとした瞬間、四人とも目を瞑り何か祈るような佇まいで言葉を待っていた。
俺はその光景を見ながら、その言葉を口にする。
「俺と一緒に神夜祭の抽選会に行って欲しいんだろ?」
「「「「.........................................................へ?」」」」
四人の気の抜けた声が教室に響いた。
「......ブフッwww面白すぎだろ、これ......ウッ、ゴホン、ゴホン、オエッ......笑いが込み上げてきて、むせちまった」
智也が隣で笑いを堪えようと必死になっている。
「..........」
正面には下を向いて、完全に黙った四神姫様達がいる。
「だって、罰ゲームが欲しくなるほど人手(俺)が欲しかったんだろ? いいじゃん、みんなでやろうぜ。抽選会。きっと当たるって!」
「..........」
四神姫はなおも無言。
「言い伝えを叶えたいんだろ? なんだっけ......あのー、『ある場所に行けば、必ず当選する』ってやつ。言い伝えを叶えに行こうぜ」
そう言うと、やっと無言だった四神姫様が動き出した。
「.......の..........か」
花鈴が何かを言っている。
「ん? どうした?」
よく聞こえなかったので問いかけると、花鈴は勢いよく顔を上げて、俺に言ってきた。
「み、湊のばかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「ええ!?」
白羽と蒼、凛奈からそれぞれチョークやら黒板消しやらを投げられる。
「「「信じらんないっ!!!!」」」
どう言うことだ!?
完全に脳内パニックを起こして、机の下に急いで隠れている俺に智也が近づいてきた。
「あーあー、大変だなぁ。修羅場だぜ、『麒麟様』」
「その呼び方やめろって。俺は『麒麟様』じゃねぇーよ!!」
そう。
この四人が四神姫と言われる同時期から俺は『麒麟様』という称号を獲得してしまった。
理由は一つ。
四神が東西南北を司るのに対して、麒麟が司るのは中央。
真ん中だ。
だが、俺に限っては、家の位置でこの名が使われているわけではない。
四神姫全員と仲が良くて、かつ間を取り持っているような存在と思われたが為に俺は『麒麟様』になってしまった。
ここで、一つ疑問が湧く。
どうして、同じ幼馴染である智也が麒麟様ではないのかというところだ。
智也の方がコミュ力があって、間を取り持っているように見えるのにどうして、智也が麒麟様ではないのか。
それは言わずもがな。
コイツ本人が称号をつけた側の人間だからだろう。
この愚かな親友本人から直接聞いたわけではないが、まぁ察しはつくわけで......
まぁこんなわけで、俺は四神姫に巻き込まれて平凡だったはずの高校生活があらぬ方向へと進んでしまっている。
あぁ、どうしてこうなってしまったのだろうか。
極普通な高校生活を送るつもりだったのに、いつの間にか称号まで獲得してしまった。
別に特徴的なものを持っていない俺のような一般生徒にこの現実は重くのしかかっている。
原因は完全に今も物を投げ続けている少女達だ。
そういえば、小さい頃から振り回されてたな、アイツらに。
俺は過去を思い返して、懐かしむ。
はてさて、これからどーなることやら。
俺は今も飛び交う物を見ながら、未来を想像する。
はぁ。
そうですねー。
やっぱり俺にはこの想像しかできません。
つまりは......
俺の青春には四神姫様がついて回るようです。
文字数が多い中、最後までお読みいただき、ありがとうございました!!
湊は完全な唐変木ですね~
四神姫の苦労が忍ばれます( *´艸`)
智也みたいな友達も欲しいですよね!(圧倒的主観)
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