『Mobius Cross8メビウスクロス』
ルナベレッタが大変なことになってしまいます。(ルナはもっと大変なことに…)
登場人物
·ルナ:主人公の少年。かわいいだけじゃない。
·シャハネさん:美人のお姉さん。一緒にお風呂に入ってくれる。
·ランス:主人公の救世主。銀髪のイケメンでちょっとツン。
·ルナベレッタ:囚われのシスター。自分を責め過ぎる癖がある。
·魔神ギルト:ルナベレッタの肉体の一部に宿り、罪を喰って力を増す。
『Mobius Cross8メビウスクロス』
ルナベレッタの身に禍々しい変化が起こっていた!
左腕の肘から先は、鋭い爪が伸びた灰色の巨大な腕となった。
しかも手の甲にこれまた巨大な口がバッカリと開いている。
背中からも灰色の肉のコブが飛膜の無いコウモリの翼のような形で生えている。
翼の指からはそれぞれ極太の鎖がギャラギャラと垂れ、左翼の第1指にあたるコブに巨大な目玉がギョロリと開かれた。
その目は血走っており鬼気迫るモノを感じる。
ルナベレッタ自身はこの異形に心当たりがあるようだが、突然のことにあたふたしている。
しかし身体の制御は異形側にあるようだ。
異形はその巨大な手でルナがキズをつけ脆くなった拘束具の鎖を引きちぎり、襲いかかってきた!
ルナは咄嗟に持っていた燭台で異形の手を打ち払って跳び退いた。すると、
「いっッ…」
ルナベレッタの顔が一瞬歪んだ。
?!傷つけたのは異形部分だが…痛みはルナベレッタが負うのか!
ルナがしまったと思った瞬間、その感情はまるで煙のように発散され、灰色の異形に吸い込まれていく。
すると異形は筋肉が僅かに膨らみ、ルナベレッタの生身の手に繋がれた鎖を引きちぎった。
「こいつ…罪を喰ってるのか…!?」
「「モットダ…!モット罪ヲ喰ワセロオオォォ!!」」
拘束が解けると異形は暴れ狂いながらルナに迫る。
それに引き回されながらルナベレッタは異形、元い魔神に呼びかける
「…ギ…ル…
ッ!…ギルト様!!この人は味方です!優しくしてくれた人を傷つけるなんてッ!」
ドクン
「「グファハハッ!ウマイゾ!ヤハリ他者が絡むとオマエの罪は格別ダッ!!」」
「い、いけませんッ!」
ドクン
「ッ…逃げてぇー!!」
なんて悪循環。極悪シナジー。
望まぬ攻撃をさせられればさせられるほど、ルナベレッタは罪の意識に晒される。
それを吸って攻撃はさらに激しくなってしまう。
ルナは間一髪でいなしているが、状況が悪過ぎる。
外に逃げる?この怪物を町に放つことになるので避けたい!
ルナベレッタ本体を気絶させることはできるか?
背中をとってチョークスリーパー…あの翼の真ん中に入ったら無事じゃ済まなそう。却下!
顎や喉を殴る…そんなことはしたくない。却下!!
そもそも本体が気絶してあのギルトなる異形が止まる保証は無い。
かと言ってこのまま避け続けることは不可能…何か打開策!
彼女が罪を感じる程強くなるギルト!彼女に罪を抱かせない策!
何か!罪、罪、罪、罪!罪の逆!…
「そうか!」
ルナはひらめいた!
「ベルさん!笑うんだ!僕は大丈夫!僕の為に笑ってくれ!」
ルナベレッタは素直な娘なので笑った!引きつってるが、がんばって笑った!
すると!
なんと!
「人を襲いながら笑うなんて、私罪深い…っ!」
ドクン
「「詰·ミ♡」」
ゴッ!
ギルトの鎖がルナの足を払い、ルナはバランスを崩す。
ギルトの力が増し、ついに翼の鎖を操れるようになってきたらしい。
ルナはとうとう捕まってしまった!
巨大な掌で頭を鷲掴み、頭蓋骨がギリギリと軋む!
「ぎゃあぁぁぁッ!!!頭が…割れるぅッ!」
ルナは堪らず悲鳴をあげる。
ルナベレッタも必死に非力な右手でギルトの指を引っ張るがビクともしない。
「やめてッ!やめてギルト様ッ!」
ドクンドクン
ルナベレッタが醸し出す罪の味にギルトは酔いしれながら話し出した。
「「ンン〜ン♡コウシテルト思い出すナァ。ルナベレッタァ。
人ノ頭ヲ割る感触、ヒサシブリニ味ワッテミルカ?」」
「え…?」
ルナベレッタは意味が分からなかった。
「「忘れタカ?自責症ナ癖ニ都合のイイ頭ダナ!
ホラコウシテルト思い出すダロウ?!」」
尚もギリギリとルナの頭を握りつぶさんとするギルト。
「ひっ…!」
ドクンドクン
心覆いそうな自責の念も沸いたそばから吸い立てられ、冷静になってしまう思考。
するとなんということか…
確かに覚えがあるのだ。
この、手の中の、生卵の殻が今にも破れてしまいそうな感触に…。
おぞましいことにその先の、殻が破裂し崩れるように指先が掌を叩く感触や飛び出た中身の鮮景まで先見できてしまう。
「はぁ…はぁ…いや…」
ドックン
「「イヤジャナイ!思い出セ!コウシテ潰しタダロ!?敵モ!味方モ!」」
「ッや…!だめ…!」
ドックン
「「ダメジャナイ!思いダサセテヤルゾ完全ニ!アノ時ノ味ヲモウ一度!!」」
ガジャァンと凄まじい音を響かせ、床を羽の鎖で叩きつけることで飛翔したギルトとルナベレッタ。
手にはルナが握られたままだ。
「…だめッ!だめッ!!ダメェエッ!!!」
空中で、魔神の左手はルナを軽々と振りかぶると、ルナベレッタの叫び声ごと急降下!
グガシャアンン!
確実にルナの頭が最初に地面にぶつかった鈍音を鎖の雨の大重音がかき消して鳴り響いた。
魔神の手の下にはドクドクと鮮血が広がっていった。
「「ッカチ割ったアアアア!!!ツイニ割っちまったなルナベレッタァ!」」
あまりの悲劇に瞳を震わせたまま、ルナベレッタは下にあるルナの体に焦点を定めようとした。
ルナはピクリとも動かない。
「……ルナ君…?…ルナ君…?…お願いへんじして…?…ルナ君…ルナ君…」
ルナベレッタは半ば放心状態のまま生身の右手を血に染めてルナをゆすゆすして名を呼んでいる。
「「…ッ〜ッ…!!!」」
ギルトは何とも言えない興奮に包まれていた。
美味い。絶対に美味い。
ここまで高めた罪が不味い筈が無い。
今はまだ極上の肉を舌の上に乗せた状態!肉汁を溢れさせる為には歯を入れてやろう…!
「「ルナベレッタァ。トドメサシタナァ?」」
ルナベレッタは動きが止まり、ゆっくり首を傾げる。
「ッ…?」
返事はするが混乱で喉が詰まって声が出ていない。
「「知らないノカァ?
頭ヲ打った人間ヲ揺らすト、頭蓋内ニ血が溢れて脳ヲ圧迫シテ潰しちまうンダゼ…?」」
ッジュワッ
ドクドクッ
ドックン ドックン ドックン
「ハァッ…ハァッ…ハッ…ハッ…ッ…ッ…ッッ!!!!」
ルナベレッタは過呼吸で絶叫した。
罪の激流に飲まれ、肺と心臓が豆の大きさまで押し潰されたかのように苦しい。胃は息み過ぎて吐血しそうだ。
だというのに、
ギルトと感覚が繋がっているルナベレッタは感じてしまう。極上の旨みを味わわされてしまう。
精神を破壊しそうな罪悪感が心の中に吹き出しているというのに、その美味さにとろけそうになる。
眩瞑と快感が同時に押し寄せる未知の感覚、強いて表現するなら絶頂しながら嘔吐しているような感覚。
気絶することも許されず吸い取られ続けるルナベレッタに向かって、礼拝堂の入口から一人の男が鎗を思いっ切り地面に
ギャアンッ
と打ち鳴らして注目させる!
ランスだ!
外光を背に浴び、銀の十字鎗を携えてそこに立っていた。
ルナベレッタはハッとなり、ギルトもギョッとする。
ランスは視線をルナベレッタの下で横たわっているルナに向け、厳しい表情のまま口を開いた。
「おい…。悪い予感がして戻ってみりゃ…
何ネてんだよ…。」
僅かに我に返ったルナベレッタは震える声で言う。
「ランスさん…私…私…
ルナベレッタが言葉を絞り出している途中だがランスは巻き舌気味に言い放った。
「こうなっちまった以上は腕の一本ぐれぇは覚悟しろ。心配すんな俺が一生面倒見てやる。」
…ルナ君を…ルナ君を…ッ」
ルナベレッタの目から涙がこぼれる。
ドクン
ギルトが臨戦態勢に入る!
と、
ガシッ!
ギルトの爪を握る手がある!
ギルトは再びギョッとして手の方へ視線を落とす。
するとなんと、ルナが上半身を起こしてギルトの爪をガシリと握り取っている。しかも万力のように強い。
ルナベレッタは右手で口を覆い、再び言葉を失っているが、その目からは涙が止めどなく溢れて苦しそうな表情だ。
生きていて良かった、謝って許される状況ではない、大怪我させてごめんね、ここから守る術が無い、今度こそ死なせてしまうのではないか…
ルナベレッタの感情はぐちゃぐちゃだった。
「…ッ君゛…は…ッ」
額から顔面にかけて真っ赤に血を流しながら、ルナの目がギラリと輝き言葉を発する!
「君はッ!悪くないじゃないかッ!!」
ルナベレッタはびっくりしながらとうとう声を出して泣けた。
ルナは続けた!
「護るッ!コイツから!全ての罪から君を護る!!」
ルナの両手が輝き出す。
それを見てランスは呟く…
「!…覚醒める…!」
眩い光と共にルナが立ち上がると、その両手には十字架を模した短剣(✝クロス✝)が握られていた。
さらに両剣の柄を光る鎖が繋いでいて、その鎖は重力の影響を受けず羽衣のごとくたゆたっている。
ルナが其の名を叫ぶ!
「✝メビウス∞クロス✝!!」
to be continued
このタイトルを8話目に持ってきたくてオーダーを変えたりしたものです…
ルナ、かっこいい(真顔)