『Mobius Cross_メビウスクロス42:救世主は倒せない』
倒せるわけないと思って差し支えありません。
☆登場人物 (この回に出ないのもいます)
·ランス:主人公の救世主。銀髪のイケメンちょっとツン。
·ガリア:拳の救世主。巨漢でクールな力持ち。ちょいコワ男前。
·スクード:盾の救世主。長身軽口兄貴。女性に甘いハンサム。
·シャハネさん:美人のお姉さん。一緒にお風呂に入ってくれる(洗礼)。
·シェリー:蛇術館当主魔蛇三姉妹が長女。下半身が無数の蛇。頭脳主義。
·エリー:次女。両腕が大蛇。腕力主義。
·メリー:三女。顔が蛇の奇才彫刻家。美女趣味。三姉妹合体变化で鎧の巨漢ゴルゴーン彫伯爵の完成。
·ヒュオラ:蛇術館の侍女長。メガツインテールで毒を吐く妖女。
·ヲロチ:蛇術館に召喚された東方の魔物(?)ヤマタテールで火を吐く妖女。
『Mobius Cross_メビウスクロス42:救世主は倒せない』
…バアンッ!!!!!!!! ! !
ヲロチは一瞬、雷が落ちたのかと思った。
見ると、火柱は消え去り、中心には拳を掲げたガリアが佇んでいる。
そして風が吹く。ガリアに集まるように。
…拳!?
拳の風圧で火柱を吹き飛ばした…?!
(す…ごぉい…♪)
もはや笑みと冷や汗が同時に溢れてしまっているその暇に、ガリアは数十メートル離れた位置から一瞬でヲロチの前に滑り込んでいた。
…一応、片時も目を離さず動向を警戒していたのに、だ。
「ぁ…♪」
ヲロチは表情を変える暇さえなかった。
「すごぉい…♪お兄さん、大道芸人さんね??♪」
駄目で元々!
咄嗟かつ無意識に、髪蛇は背中で隠せているので、笑い顔と容姿の力を借りて猫をかぶることにした!
ガリアは落ち着いて返す。
「…娘、こっちから強い殺気を感じたが、何か見ていないか…?」
「えー、わr…わたしこどもだからわかんなーい。。
向っこーーーーの方から火の玉が飛んでいくのが見えたけどそれかな〜…???」
「…そうか…。」
お?うまくいったかな?
「…ところで娘。
俺は自身に向けられた殺気の出どころがわかるようにできている。」
「へ、へぇ〜すごぉい…;」
「俺は、お前とよく似た背格好の妖魔と会ったことがある。」
あぁー…駄目だこりゃ…
「俺は、相手の目を見ればそいつがどんな心の持ち主なのか分かる。」
「そ、そぉなんだ〜…;;
パ、パパが呼んでるからもう行かなくちゃ〜…;;;」
「…聞かせろ。
お前の目は…
何故そんな邪悪な光を宿している」
…行かなくっちゃと言ったわりに、目を逸らすことはおろか瞬きすらできない…
ヲロチは、これではもはや蛇に睨まれた蛙だな、と思った…。
「…誰が蛙よ…ッ!!」
ヲロチは髪蛇から光線のような炎を出し、ガリアの顔面に浴びせかけた!
シュー…と髪の蛇が硝煙をあげる。
ガリアは…?
首が無い!?
かと思ったら仰け反って躱していただけでヌッと戻ってきた…!
「…攻撃してくれてよかった。正直確証が無かったんでな…。」
ガリアの目がギラリと光る…!
恐ッ…!!
ガリアは拳をブンと振りかぶった。
ボォンッッ!!!
凄まじい爆発音だがそれはガリアの拳のものではない。
ガリアの拳はあたっていない!
ヲロチは、炎を瞬間的に大出力で発射し、その反動で後ろに飛んだのだ!
咄嗟に出たヒュオラのハイドラブラスタの模倣。
そんな爆炎が直撃した筈のガリアは、一切の怯みも無く、高速で後ろに飛ぶオロチに走って追いついてきた…!
「コイツ…一体何で出来てる…!?」
さらに拳を振りかぶるガリア…!
…ヲロチは死を覚悟した。
バシィッ!ドシィッ!
…?
背中にクッションのような感触…。
ヲロチはヒュオラに受け止められていた。
ガリアは…拳を繰り出す前にスクードに腕を掴まれ止まっていた。
そしてヲロチとガリアの間では、甲冑姿のゴルゴーンとランスが向かい合っている。
「止めるな二人とも。
攻撃された。明らかに敵対の意思がある。
滅すべきだ…即刻!」
ガリアは血管を浮き出させ、闘気を滾らせる…!
それに対しヒュオラもいよいよ戦闘態勢…!
「…ゴルゴーン様…ご命令を…!」
「 「やめろ。」 」
ランスとゴルゴーンは同時に言った。
「おい、お前が蛇術館に新しく召喚された魔物だな。名は?」
ランスの言葉にゴルゴーンは耳を疑った。
「!?待て!何故お前がそのことを知っている?」
「予知。
救世主相手に暗躍は身を滅ぼすぜゴルゴーン。
あと他の奴は喋るな。そいつに訊いてるんだ。
名前と、何故ガリアを襲ったか説明してみろ。」
ランスがそう言うと、ヲロチは恐る恐る答えた。
「…我が名は、ヲロチ…。
主達に力を示すために…。
強者を訊いたら貴方達の名前が挙がった。
勿論主達は止めた。全て我の独断。
ほんの小手調べのつもりだった…。」
ガリアが進言する。
「ランス。そいつは見た目はそんなだが魔女のような賢しさが感じられた。
信用すべきじゃない。」
空気がピリつく。
「…謝罪、よいかね?」
ゴルゴーンが小さく言った。
「言ってみな。」
ランスは厳しい表情のまま発言を許可した。
「今回の件はすまなかった。
ヲロチはまだ生まれたばかりゆえわかっていないことも多い。
以後このようなことが無いようキツく躾ける。
許してやってくれ…この通りだ…。」
ゴルゴーンは重々しく跪いた。
「!ゴルゴーン様…!?」
ヒュオラは大層狼狽えているが、
ランスは毅然とした態度を崩さなかった。
「…で。」
ゴルゴーンは、やはりといった様子で続けた。
「やはり、不戦の証を欲するか…。」
ヲロチは歩み出て訴えた。
「不戦の証?もう戦わないわ。誓う!
だってもう実力差ハッキリしたもの…。
救世主ガリアもそうだけど、その拳を止めてる救世主スクードも只者じゃないでしょ。挑む方が馬鹿よ。救世主は倒せない。」
ヲロチは雄弁に語るが、それでもランスは態度を変えなかった。
「…だから。」
ヒュオラも申し出る。
「ならば、私の髪をお切り下さい…!この髪は蛇術館の主力兵装です!」
「ヒュオラ…
待って。愚かだったのは我でしょ?切るなら我のにして!」
「ヲロチ…!」
コショ…とヒュオラは耳打ちする。
「 (私の髪はまた発芽する!でもヲロチのは治るかどうかわからない!最悪出血で…)」
ヒュオラの頭に手を乗せ、優しく遠ざけるヲロチ。
「我が落とし前つけるのは当たり前じゃない。
ヒュオラに心配されなくてもそんなことで死ぬ我じゃないわ。」
「バカかお前?
何が当たり前だ。」
「な…!まだ足りないっていうの?!」
この外道め!とヲロチは思った。
「お前まだ謝ってねーだろうが。」
「…は…?
…こ、子供扱いしないでくれる?謝ってどうこうなる問題…?」
「んなこと言ってるからガキ臭えんだよ。
こどものケンカみたいなことしやがって…
お前みたいのはまず形から。
ほれやってみな?」
「え…?ほんとにそんなことでいいの…?」
「謝罪を舐めるな。心から反省し成長するのが強さだ。
お前の主、謝んの早かったろ?あれが、年の功だ。」
「じゃ、じゃあ…
…ごめんなさい。。」
ヲロチは一歩前に出て頭を下げた。
その頭にポンポンと手を置き、ランスは言った。
「よくできました。
心からの反省にゃまだまだが、ま頑張れや。
次やったら、ゴツンだ。」
何となく良い話で〆ようとしたが、納得していない 男がいた。
「…おい待て。それで良い訳がないだろう。
人を脅かす武力が問題なんだ。せめて髪は置いていけ。」
それを聞き、やや呆れた声でゴルゴーンはランスに援護を求めた。
「おいおい…ランスよ…。
お宅のお子さんは穏便に済ませてはくれなそうなんだが…?なんとかならぬか…?」
「んー?そだなぁ…。
まぁーうちの子もこう言ってることですし…」
「あれ…?」
…
結局、ヒュオラとヲロチは髪をばっさりいかれた。…あれ?
さらに、“反省するのは子どもの役目、詫びの品で形に示すのが大人の役目”だのなんだのと言ってまた彫刻作品を一つ持っていかれた。…あれ?
ちなみに今回も手持ちが無い、とのことだった。…。
…
三救主が去ったあと。三姉妹達は蛇術館の奥でぐったりしていた。
「ふうッ…!…あぶなかった…!!」
長女シェリーは特に生きた心地がしなかったのだろう。
命がけの交渉を一手に担っているのだから当然だ。
「ケヘヘ…ヲロチぃ。てめ、バッカだなぁ?耳腐ってんのかぁ?」
エリーの蔑みにも反論できないヲロチ。
「…くっ…ごめん。。これはほんとに…軽率だった…。
てか、あいつらのぶっ壊れ具合がもう…」
聞くより、見るより、対峙して初めて分かる……いや…対峙して尚、“わからないという事までしかわからない”程の力。
何より謎なのがその心。ガリアはともかく、他の奴は何を想って見逃したのか…。ランスのあの、子供に諭すような言葉も、到底真意とは思えないのに…何故か嘘とは思えない…。
ヲロチは、主達が手をこまねいている理由を痛感した。救世主は倒せない。
今は。
「また私の傑作持ってかれたぁ…」
「メリー様…おいたわしい…。」
「ああ…ヒュオラもこんなに髪を短く切られて可哀想に… (かわいい…)」
「主メリー…ヒュオラ…ごめんなさい…。」
「謝っても失った作品は帰ってこないのよ?」
「うぅ…」
「償いとして、貴女が作品におなりなさい。その為に貴女を助けたんだから、私が満足するまでモデルをし続けるのよ…ハァハァ…」
「くっ…1度の過ちが破滅に直結するなんて…なんて職場…
モ、モデルだけよ?変なことしたら焼くからね!」
ヒュオラがまた羨ましそうに声をかけてきた。
「ヲロチ。。」
「な、何よ羨ましそうに!主従揃って…」
「それもあるけど…
無事でよかった。早く髪伸びるといいね、ヲロチ。」
ヒュオラの優しい言葉にヲロチはほっぺがむず痒くなった。
「さて、変な汗をかいたな。風呂に入りたい。ヲロチ、準備はできているか?」
シェリーがそう言った。
「あ、まだだわ。」
「…なにぃ?」
「ふふん。心配には及ばないわ!
我の火炎で湯なんてすぐに…
あ…」
ヲロチのショートヘアに皆の低温多湿な視線が集中する…。
その後慌てて風呂焚き場へ向かうと、気を利かせた先輩たちがヲロチのために準備を進めてくれていた。
「あ…ごめんなさい…。ありがとう。。」
ヲロチちゃんが謝れるようになった!…と使用人たちは喝采したんだそうな。
to be continued
ヒュオラの髪は数秒で復活します。
ヲロチの髪は自然治癒で数週間ってとこですね。




