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【処女作完結】Mobius Cross_メビウスクロス  作者: 阿暦史
【第二章】救世主と紀元の吸血鬼
28/66

『Mobius Cross_メビウスクロス26.5:黎明』

二章最終話です。

「夜 オルゴール」等のBGMを流しながら書きました。

『Mobius Cross_メビウスクロス26.5:黎明』



 ルナ達からは離れた。

 貴族街の屋根の上。

パーニャは動かなくなったヴァンを抱き、座り込んでいた。


「…ヴァン…だめじゃない…ヴァン…

ほらしゃんと飛んで…?

私も飛べるようになったのよ…?

また…一緒に夜空をお散歩しましょう…?」



ヴァンを地面にそっと立て、ゆっくり手を離す…






カラン。






視界が涙に歪む。



「ん…。


ん〜ん…!!


んんんんッ…!!!」




駄々をこねる幼児。

ヴァンの折れた刀身をカリカリひっかいたり揺すったり、叩いたり。


それでもヴァンはもう喋らない。

あのヴァンが…暗く狭く短い人生の中で、一番の温もり、一番の語らい、一番のときめきをくれたあのヴァンが…自分の呼びかけに応えてくれない。



「や…ヴァン…じなないで…!じなないで…っ!!」



ヴァンにすがりつき、顔を寄せる。



「…ヴァン…」


パーニャは口づけした。ヴァンと初めて会った、あの夜のように。



 すると…刀身から甘い幽かなワインの風味。




それと共にヴァンの魂が流れ込んできた。






{…パーニャ。ありがとう。最後に吾輩に口づけをくれるとは淑女だね。}


「ヴァン…!生きてたのね!」


{…いいや。やはり、剣の命は刀身に宿るようだ…。

吾輩は間もなく消える。わかるんだ。}


「イヤ!そんなの…!」


 {聴いて…。だから君に、このまま吾輩の力を…

魔力を…魂を…永遠に譲渡したい。

ただ消えて朽ちる、その前に。}


「…ヴァン…っ力なんか要らないから…お願い…置いていかないで…。」


{…お願いだパーニャ…!

ただ物言わず朽ちていくより…吾輩が最期に残せるものを君に…

受け取って…欲しいのに…}



「……。

わかった…。

私…淑女だもの……」



 {なんて素敵なレディなのだ…。

…では、魂を結びつける為の約束を…

吾輩の力を得る代償…


人生に制約を一つ課しておくれ…。


なるべく不自由で…重い枷の方が、より強く吾輩の力を受け継ぐことができる筈だ…。}




「…じゃあ…


太陽の光で灰になる


…なんてどう?火傷じゃ済まない。

これなら、残酷なわりに私にとっては今までと変わりないでしょ?

きっと神様も許して下さるわ…。」


{名案だ…そうしようか…。

…それなら永遠の命も…夢では…。

……。}



「ヴァン…?」




 {…そろそろ…時間のようだ…}





「…ヴァン…。ヴァンは…寂しい?」






{ハハ…まさか…これから一つに溶け合ってずっと一緒なんだ……


…寂しくなど…

寂しくなど…




…駄目だ…。


寂しい…!寂しくて堪らない…っ!

パーニャともう話せないなんて…!

触れ合うことも、見つめ合うことも出来ないなんて…!!

嫌だ…!死にたくない!死にたくないよ…パーニャぁ…}


「ヴァンっ…!大丈夫…ずっと一緒よ。一人にしないわ…。

ヴァン、私のこと好き?」



{…好き…だ…}


「私のこと、愛してる?」




{…あい…し…て…}


「私のためなら…」






「ヒねる…?」


 吸っても刀身から味がしなくなった頃、ヴァンの魂の声も聞こえなくなった。

パーニャの最後の問いかけが、黎明の空に虚しく溶けた。


ヴァンの亡骸を抱き上げ、語りかけるように

「…私は…ヴァンのためならシねるよ…。」

そう言ったパーニャは、静かにじっと座っていた。




 そして朝日が世界を照らす。


独りぼっちの部屋…

好きだった絵本…

苦手だった食事…

大好きな人…

ワイン…

あやめた人…

助けた人…

助けてくれた人…

全ての思い出を消し去るように。




「…お父様お母様…ごめんなさい…

お手紙…嘘になっちゃった…



御機嫌よう」























 バサッ!!


「?」


「ゴキゲンようお嬢ちゃん。」



「…いつかのステキなお兄さん?

…邪魔しないでくれる?私ヴァンの所にいくの。」


「バカかお前。

お前みたいな羽ついた化け物がそう簡単にシねるわけねーだろ。

神はそんなに甘くねーよ。償って生きろ。」


「神様なんてキライよ。

ヴァンと一緒に居るっていう私の選択なの。

誰にも邪魔される筋合いは無いわ。」


「バカかお前。

死んでった奴の居場所を間違えるなよ?死んだらあの世に行くとでも思ってんのか?」



「?…じゃあどこに行くって言うの?」

さぞかしロマンチックな答えがあるのだろう。しかし何を言われてもパーニャは決意を曲げる気は無かった。



「何処にも行かねえよ。死んだら皆等しく土になるだけだ。何の意思もないただの土くれにな。」



「…何それ…。ロマンが無いわ。」


「そうさ。そこでクエスチョン。

ヴァンは始めから土くれだったか?お前はただの土くれに惚れたのか?」



「!…そんなわけないでしょう!?

ヴァンは土くれなんかじゃない!思慮深くて強い、世界一の紳士よ!」


「じゃヴァンの生きた証は何処に在ると思う?俺の中には無いぜ?」



「…!

私の…中…?」



「正解。お前が生きてることが、ヴァンの生きた証になるんだ。

生きる方がロマンだろ。」



 「…私が…ヴァンの生きた証…。」


「そ。死者の世界なんて無いが、強いて言うなら生きてる奴の中にだけあるんだ…エデンが。」



「ふぅん…知らなかった。」


「ひとつ賢くなったな。」



「ねーえ。もう一つきいていい?…これ…何?」


「これか?俺が作った展開式の傘。」


「え!手作りなの?すごぉい♪」


「俺はこう見えて手先が器用なんだ。

ヴァンに一つは勝てたか?」


「…ヴァンと張り合う気?

ざーんねん♪相手が悪いわ?」


「フ…そいつぁ残念。

これの名前どうしようか迷ってんだが、古い言葉で“太陽を封じるもの”って意味の、パラソーニャってのはどうかと思ってる。」


「…変な名前。

ヴァンブレラの方がかっこいいわ?」


「そいつはやるよ。好きに呼びな。」


「ありがとう。大事にするわ…。

?…貴方のことは…なんて呼べばいーい?」


「俺は、ランス。

お前…これからどうする?」


「んー…しばらくは一人…ヴァンと二人っきりで過ごす…。」


「…大丈夫かぁ?まだおもりが要るんじゃねーの?」



 傘の影の中、パーニャは振り返って八重歯をちらり微笑んだ。

「…吾輩っ、もうへーきよ?

ヴァンの為にも長生きしてみようかなって思う。こればっかりは…ランスのおかげ♪」



「…そうか。達者でな。

長生きしてみりゃわかるかも知れないぜ?

この世界には、ヴァンよりイイ男も居るんだってな。」




「そうかもね。でも、


初恋は特別なの」




 朝日で輝く街並、黒い蝙蝠傘を揺らして、少女は去って行った。


【第二章 おわり】


to be continued

ここまでお話を読んで頂き、真に有り難う御座います。

出逢い、別れ、おやすみ、ヴァン。

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