Mobius Cross_メビウスクロス24:夜の闇
修練に励んでいたルナ達。吸血魔の被害はとどまることを知らない。はたして見つけ出すことができるのか。そこはできるやろ。
☆登場人物
·ルナ:主人公の少年。かわいいだけじゃない。
·マナ:車輪靴を履いて舞う様に闘う異国人。元気。
·マホ:双剣で舞う様に闘う異国人。ぽや〜ん。
·シャハネさん:美人のお姉さん。一緒にお風呂に入ってくれる(洗礼)。
·ランス:主人公の救世主。銀髪のイケメンちょっとツン。
·ルナベレッタ:通称ベル。囚われてたシスター。自分を責め過ぎる癖がある。
·魔神ギルト:ルナベレッタの一部に宿り、罪を喰って力を増す。
·ガリア:拳の救世主。巨漢でクールな力持ち。ちょいコワ男前。
·スクード:盾の救世主。長身軽口兄貴。女性に甘いハンサム。
·パーニャ:貧血と陽に当たれない病気の少女。夜な夜なヴァンと共におさんぽする。
·ヴァン:意思を持つ吸血の魔剣。夜な夜なパーニャと共に血を求め回遊する。
·ゴルゴーン:蛇術館の主で全身甲冑の謎の彫刻家。美しい女の裸像は命が凍りついたかの如き出来栄え…
·ヒュオラ:蛇術館の侍女長。メガツインテールの幼女。館の召使い達は誰も彼女に逆らえない。
『Mobius Cross_メビウスクロス24:夜の闇』
ついにルナ達出動の時が来た!
ランスが指揮を取る。
「よーしガキども!作戦を復唱しろ!」
ルナが積極的に答える。
「はい!僕とマナ、マホを3人一組の捜索班とし、師匠と二手に分かれて吸血魔を捜索します!ガリア様が市民街北門付近で捜索、スクード様が市民街と貴族街を繋ぐ南門で捜索。師匠が貴族街、僕らが市民外から広範囲を捜索し、師匠が見つけた場合は実力で拿捕。僕らが見つけた場合はマナが近い門の救世主を呼びに行く。僕とマホで命大事に吸血魔を足止めします!」
「よし!合格!次、マナ!」
マナもマホも作戦は頭に叩き込んでいた。
吸血魔による被害はついに市民街にも出始め、その手口はより凄惨なものになってきているらしい。
一刻も早く止めなくては…。
ランスが激励する!
「よしお前ら、昼間はよく寝たか!」
「はい!!」
「厠は済ませたか!」
「おー! (お風呂場でしたのバレないよね…)」
「晩飯は腹半分しっかり食ったか!」
「はい〜! (七分くらい食べちゃったかも…)」
「…まー盛り上がっても良くないな。
冷静に、命大事にしないやつは死刑な。
よし、行け。」
メシア教団、出動!
ルナ、マナ、マホは周囲を警戒しつつ市民街を捜索していた。
吸血魔の噂がこちらでも広がっており、夜が更けるに連れ人出は如実に無くなっていった。
3人は修練の成果について話しながら捜索していた。
「マナも師匠に認められたってことはシンを活かせるようになったの?」
「もっちろん!ベルとギルト様に左手使わせたよー?
ランスに“コレ使いこなせたら結婚しようぜ”なんて言われたら頑張るしかないよねー♪」
「…そんなこと言ってなかったんじゃ…」
「ルナはどうなの?赤い模様減ってなかったように見えたけど。」
「背中側はだいぶ減ったんだけど…まだまだだ…」
「ふーんまーあ?
1日2日で見切れる男じゃないしねーランスは♪」
「…うーん。マホはどう?」
「予も慣れてはきましたが、まだまだでございます〜。
よく参加させてもらえましたよね〜…。」
「状況が状況だからね…。被害の規模も、範囲も…。
…なんとかして…ヴァンを止めないと…!
…パーニャ…もう関わってないでくれ…」
ルナが深刻な表情で思いを馳せているとマナが突然訊いてきた。
「…あれ…?
…ねーえルナ…
パーニャってさ、どんなだったっけ…?」
「ん…忘れたの?ピンクがかった白の長髪でドレス着てて…」
「でヴァンは…宝石いっぱい付いたでっかい剣…」
「…なんだ覚えてるじゃないか…ん?」
「…あれ…」
そう言ってマナが指差す方を見上げると…
「…御機嫌よう、お兄さんたち。」
パーニャとヴァンが現れた。
月光の中、ふわりひらりと、まるで舞い落ちる羽根に腰掛ける妖精のように降りてくる。
「こっちの街に居たのね!また会えて嬉しいわ♪
またあなた達とダンスやワイン狩りを愉しみたいと思ってたの…。」
パーニャがヴァンと逸れたままでいてくれたらというルナの期待を踏みにじるように、パーニャは以前より饒舌に騙る。
「あなた達に説明は要らないかしら?
あなた達はいくら抵抗してもいいの♪
私の命を奪いに来たっていいわ。森の狼みたいにね?」
ルナはメビウスクロスを構えながら言った。
「…マナ。頼んだ。」
「OK。」
マナはゆっくりと後退る。
と、それを見てパーニャが話しかける。
「あら…お姉さん逃げちゃうの?
…私お姉さんと踊るのを一番楽しみにしてたのに…」
ピクリと止まってしまうマナ。
「んー?…しょーがないなあ…♪ちょっとだけよ?」
「!…マナ!駄目だ!作戦通りに…!」
「ええ〜…♪こどもの期待に応えなきゃお姉さん失格じゃぁん?」
と言って腰をくねらせながら重心を落とすマナ。
こいつ最初からやる気だったな…?!
「姉さんは言い出したら聴きませんので…好きにさせる方が良い事ありますよ〜。
諦めて予たちも…」
ギュワワアアンッとチェインソードを回転させるマホ
「がんばりましょう〜っ!!」
しまった。このメンバーではマナが暴走した時に止められる人間がいない。
ルナは自分が連絡役になることも考えたが、能力的に捕獲に向く自分をどうしてもこの場に置きたかった。…その方が、全員を助けられる可能性が高いのだ。
少なくとも背を向ける隙や迷っている暇は無さそうだ…!
ヴァンが矢のように飛ぶ!
それをひらりと躱しながら駆け出したマナはそのままパーニャまで一気に近づく。
対してヴァンはそのままマホを飛び越えて後衛に位置するルナを狙う。
ルナとて願ったりだ。
クロスを一本飛ばし、鎖ともう一本のクロスでヴァンと打ち合いながら拘束の隙を窺う。
そこへマホも駆け寄って、唸るチェインソードで連閃を繰り出す。
ヴァンは身を引いて避けながら、マホと共に少しずつ場所を離していく。
「予とも打ち合いましょうよ〜!」
{君の新しい武器、がめつくて刃を合わせる気にならんよ!}
明らかにチェインソードに触れるのを嫌っている。
さしもの吸血剣も、あの強靭な回転鋸は警戒せざるを得ないと見え、とうとう避けざまにヒュンと上空へ逃る。
{品の無い乙女は一人で踊っていたまえ…!}
!!違う!ヴァンの狙いは別だ!
マホは気づかぬ内、皆と距離を取らされていたのだ!
そしてヴァンは、この場にいる誰よりも速く飛行することができる!
弧を描き狙うは…パーニャに向け足を振り上げる、マナだ!
「マナッ避けろーッ!」
ルナはいち早くヴァンの軌道にクロスを飛ばすが、かいくぐられてしまう!
ドスッ!
{む!?}
ヴァンが突き刺さったのは地面だった!
あの体勢から避けられるとは思わなかったヴァンだが、すかさず砂利を弾きあげながら凪払ってリカバリーを狙う。
{パーニャ!畳み掛けるぞ!}
マホを遠ざけている内にまず血を取りたい!
すかさず捕らえようとするルナのメビウスクロスも、あえてマナと混戦することで自由に動かせまいとする。
ヴァンとパーニャは矢継ぎ早に攻撃をマナに浴びせかける。
が、不自然な程当たらない。
機敏に避けながらマナが言う。
「ナメてる…?」
{フン!舐めてたらもっと優雅に立ち回るさ!}
無論ヴァンもパーニャも必死だ!
「んーやナメてるねっ!
…妾の…」
マナが身を屈めた瞬間、
「きょーだいをッ!!」
「ナメないで下さいーッ!!」
マホが姉を跳び越えて現れた!
あまりに早い到着に意表をつかれ、ギャリリリィィッ!!とチェインソードの一撃がヴァンに炸裂!
さらにマナの蹴りもヒットする!
チェインソードの掘削を避けようと後ろに飛んでいた勢いも相まって、パーニャを巻き込みながら抱きかかえられるように吹っ飛ぶヴァン。
そこへすかさず飛んできたメビウスクロスは地面から跳ね飛んでなんとか躱し、上空まで逃げるヴァン&パーニャ。
{く!妹にあんな速力は無かったはず!!どういうことだ!?}
ルナも驚いていた。
まずマナは、踏み切らなくても動けるローラーブレイドの特性を活かし、蹴りのモーション中も軸足だけで移動し、避けたり打点を変化させたりしているのだ。
ただでさえ変則的なマナの舞闘が本来有り得ないタイミングや方向へ自在に動くとなれば、対峙している者にとっては通常の数倍速く動いているように感じるだろう。
そしてマホも、チェインソードの回転を攻撃だけに使うのではなく、峰に乗って地を駆ける、というスピード面をカバーする技を編み出していたのだ。
「凄い…!二人とも…!」
進化した立ち回りで圧倒しつつ、それぞれの有利な間合いに持ち込んでしまった!
しかも吸血魔コンビはマナマホのコンビネーションには及ばない!
あとはメビウスの鎖でパーニャとヴァンを同時に縛ることができれば…無血制圧できる…!
上空で、ヴァンに掴まりながら嬉しそうに見下ろすパーニャ。
「すごいわ…!お姉さんたち…!」
{ああ…獲物の戦力を見誤ったな…}
ヴァンは危惧していた。
ここからの展開、マホの刃でパーニャを狙われると非常にまずい。
撤退を提案しようかと思った矢先
「コレなのっ!んーー♪っこれでワインを採れたら、最高じゃない?!」
ここに来て、そんな最高の笑顔を見せられたら…
{…この期待に答えねば、紳士失格だな…!}
ヴァンは腹をくくり、打って出る!
{お嬢さんがたッ!素晴らしいッ!!我が姫君もお喜びだッ!!
拍手を贈らせて貰おうッ!!}
…剣が拍手…?
マナ達が小馬鹿に笑った
次の瞬間…!
「うっ…!!ああーーーーー!!!」
悲鳴をあげてマホが倒れた!
マナもルナもギョッとする!
何が起こったのか思考が硬直!
その隙をつき、ヴァンはマホのもとへ飛来してグサッと横腹に突き刺さった!
マホも慌ててチェインソードで振り払うが、ヴァンはすぐに突き刺さった剣先を横に振り抜き、右腕ごと深く斬りつけ離脱する。
パーニャのもとに戻るヴァン!
「させるかあーーッ!!」
ルナのメビウスクロスが二本飛び回り、マナも凄まじい速さで壁を三角飛びして猛襲する!
絶対にパーニャが血を飲む隙を作ってはならないと、嵐のように攻め立てる!
{く…!パーニャ!やるぞ!!}
「うんっ!!」
猛攻の中、ヴァンが攻撃を躱しつつ剣先からエキスをシャッと手裏剣のように飛ばす!
ルナの鎖がパーニャの腕を捕らえたのとほぼ同時に、パーニャは飛んできたエキスを口で受け取った…!
ゴクリ…
場が凍りつく。
倒れたマホを塞ぐように構えながら、ルナとマナは、上空に逃げたパーニャとヴァンを睨んでいた。
「…マホ…大丈夫…?」
ルナがマホを心配する。
致命傷は避けたものの横腹と右腕を傷つけられ、出血に加え、嘔吐でローブを汚していた。
「ふえぇん…予の…ローブぅ…」
そこ…?
マナがちょっと強めの口調で問い詰める。
「マホ!何くらったか言える?!」
「ふえぇ…急にめまいがして…耳鳴りがして、ローブが破れましたぁ…」
「…ごめんねルナ。
マホね、ローブが傷つくとへなちょこになっちゃうの。
流石に治ってると思ったんだけど…妾のミス。ゴメン。」
{フン。悠長に話している場合か…!}
ヴァンは密かにまたマホを襲った攻撃を放った!
しかしルナは突然肩から左右に揺らめいてその見えない攻撃を躱した。
{!}
「…大丈夫。
ヴァンの攻撃の正体は音だ。
さっきマホが倒れる直前、ヴァンがブレるように振動してたのを見た。
耳の位置を固定しなければくらわない。」
…ご明察。
ヴァンは刃を震わせ、柄との軋りで生じる超音波を一点に集めマホの耳を穿ったのだ。
対処法を知らぬ生物に対しては驚異の隠し技。
{ほう…瞬時に見抜くとは…
ここからは小手先の技は使えないな。
まあ、もう使う必要も無いだろうがね…。}
「…さ〜あ♪ここからが本番ね〜?」
パーニャの喋り方がおっとりしだしたことが緊張を煽る…。
準備が整ってしまったのだ…。
狩りの準備が…!
グンッとパーニャが腕に巻き付いた鎖を引く!
ルナをあの時のように引き寄せる気だったのだろう。
ガクンッ
と高度が落ちびっくりするパーニャ。
そんな…鎖はビンと張るが、今の自分が引いてビクともしないなんて…
ルナは物凄い力で鎖を握りしめ、パーニャを鋭く睨みながら言う
「…どうした。ここからが本番なんだろ?
いたずらに人を傷つけるんだろ?
…マホだけじゃない。
ここ数日…君は狩りだと言って人の命を奪ってきたんだろう…
どんどん残虐性が増し、それはヴァンだけがやっているもんだと思ってた。
…思いたかった。
でも、もういい。
僕も、覚悟を決めないとダメだ…。
だから君も…」
ギュッと鎖に圧がかかる
「骨の1本くらいは覚悟しろ…!!」
パーニャは…いや、この場にいる者全員がゾクッとした。
極限状態の野生動物が放つ殺気…
極限まで集中した人間が放つ覇気…
それらを同時に感じ、今宵ヴァンとパーニャは生まれて初めて生物に対して恐怖を覚えた。
堪らず地面に降り、パーニャは思わず逃げ腰に口走った。
「…っちょ…ちょっと待って…!」
ルナは静かに毅然と返す。
「…君はそう言われて待ったか…?
助けてと言われて…助けたのか?」
「っ待ったもん…!助けもした!
でもそういう話じゃないの…!
聴いて…!ここ数日…ヴァンも私も…
人は襲ってないの…!!}
「!…なん…だって…?」
はっきり言って信憑性の無い言葉。
口からでまかせを言って混乱させようというなら今のルナは相手が悪い。
しかしルナはこうも思った。
パーニャはそのての嘘をつけるタイプではない…
「…じゃあ…いったい…」
…どういうことなのか…
その時、路地の向こうから
「ぎゃあああ
ッーー」
という、男性の叫びが途中でブツッと切られたような声がした。
そして何かが
ボトッ テーン コロコロ…コロ…コロン…
とルナとパーニャのちょうど中間に転がってきた。
その飛んできたボールのような物とルナは、目が合った。
目を見開き戦慄するルナ
その直後…!
バクンッ!と黒い大きな口がそれを掬い上げた!
ルナもパーニャも反射で跳び退く!
まるで乗り込んだ小舟の横で突然ワニが大口を咬み鳴らしたような恐怖!
「っしまった!マホ…!」
黒い大口がマホを狙うと、ヴァンがその歯にガンッっとぶつかり一瞬咬みを遅らせた!
ルナはすぐにクロスを投げ、マホに巻きつけて引っ張った!
すると、同時にマホを助けに行ったマナとパーニャの牽引力と相まって引き寄せすぎ、4人はひと塊になって転がって行った。
マホを受け止めるように転けたルナ、身構えるマナ、転けなかったパーニャ、と体勢はそれぞれだが、距離を取った皆は、突如襲来した黒い大口の全貌を確かめる。
「…い、いぬ…?!」
「…デカいッ…!」
「…っ怖い…」
それは巨大な犬のような形だった。見るからに凶暴。
その体は夜の闇のように暗く、目と牙だけが怪しく輝く。
パーニャは狩りのことも忘れ、誰とは無く訊ねた。
「…っ何…?あれ…!山の動物とも人とも違う気配…」
マナもマホも同感だった。
正体不明の驚異。
圧倒的危険生物だということだけがわかる。
しかしルナには覚えがあった。
この、災害が殺意を持ったかのような危機感…
「…災厄の…魔物…!!」
to be continued
災厄の魔物には絶対に勝てません。




