『Mobius Cross_メビウスクロス18:stray bat』
救世主、吸血魔を追う。昼間に。
☆登場人物
·ルナ:主人公の少年。かわいいだけじゃない。
·マナ:車輪靴を履いて舞う様に闘う異国人。元気。
·マホ:双剣で舞う様に闘う異国人。ぽや〜ん。
·シャハネさん:美人のお姉さん。一緒にお風呂に入ってくれる(洗礼)。
·ランス:主人公の救世主。銀髪のイケメンちょっとツン。
·ルナベレッタ:通称ベル。囚われてたシスター。自分を責め過ぎる癖がある。
·魔神ギルト:ルナベレッタの一部に宿り、罪を喰って力を増す。
·ガリア:拳の救世主。巨漢でクールな力持ち。ちょいコワ男前。
·スクード:盾の救世主。長身軽口兄貴。女性に甘いハンサム。
·パーニャ:貧血と陽に当たれない病気の少女。夜な夜なヴァンと共におさんぽする。
·ヴァン:意思を持つ吸血の魔剣。夜な夜なパーニャと共に血を求め回遊する。
·ゴルゴーン:蛇術館の主で全身甲冑の謎の彫刻家。美しい女の裸像は命が凍りついたかの如き出来栄え…
·ヒュオラ:蛇術館の侍女長。メガツインテールの幼女。館の召使い達は誰も彼女に逆らえない。
『Mobius Cross_メビウスクロス18:stray bat』
…
「別の国にも災厄の噂が轟いちまったか…。
俺もまだまだだな。」
白昼、ランスは一人貴族街に調査に出ていた。
災厄の気配を便りに吸血魔の足取りを追う。
ここ最近、貴族街で犠牲者が多数報告されている。
時間は夜のみ。
ある者は全身の血を抜かれ、またある者は無残に喰い荒らされた姿で見つかるという。
吸血魔を恐れ、夜は人出がかなり少なくなったものの、昼の街はいつも通り賑わっている。
むしろ情報はよく集まったのだが…
行動範囲はとんでもなく広く、一晩のうちに街の北と南で同時に被害者が出ただの…
空を飛ぶ人影を見ただの…
血を集める貴族がいるだの…
ニンニクか十字架を持っていれば大丈夫だの…
きな臭い噂話で持ち切りだった。
いったいどんな化け物なのか…。
ルナが起きたら容姿の特徴を検めよう。
ランスは腹が減ったので調査を切りあげようとした時、ふと路地から気配を感じた。
普段なら、昼時の喧騒に紛れて気づかないような幽かな物音。
それが妙に気になって、ランスは暗い路地へと入っていった。すると…
少女が独り蹲っている。
「おい、迷子か。孤児か。」
ランスは声をかけた。
「…っ御機嫌よう…ステキなお兄さん…。」
「お前は機嫌よくなさそうだな。」
「…っ大切な人が迷子になっちゃったの…」
「はいはい。お嬢ちゃんが探してる側、ね…。」
「っヴァンがいないと私…私…」
「あー泣くな泣くな。探すの手伝ってやるから。
名前は?」
「…っ私はパーニャ。貴方がヴァンを見つけてくれるの…?」
「バァカ俺そいつ知らねえよ。
あくまでお前が見つけんだよ。」
「ふえ…私もう動けないのに…」
泣き塞ぐパーニャ。
するとランスは、不機嫌に少女の手を掴むとグイッと引き上げ立たせてしまった。
唖然とするパーニャ。
「…お前なめてんのか。
子供だからってグズグズ言ってりゃ良いと思うなよ。
“お前の”大切な人だろ。お前が諦めてどうすんだ?
そのヴァンに何かあったらどうすんだ?」
「…っそれはイヤ…ゴメンナサイ…」
「わかったら行くぞ。
お前みたいな子供は無茶して怪我しないようにしろよ。」
「…っどっちなの?おかしな人!」
パーニャは少しだけ笑った。
ランスが手を引き路地を出ようとした時、パーニャは突然制止した。
「っあ!待って待ってっ…!
私ね…太陽の光を浴びると火傷しちゃうの…なんとかならないかしら?」
それを聞き、ランスはおもむろに黒い衣を脱ぎ、ぶっきらぼうにパーニャに被せた。
「おら。これで1個怪我から守ったぞ。いけるか?」
「…っ大丈夫だと思う…
…
っ紳士的な匂いがするわ…♪」
路地から出ると、表通りは夏の日差しと相変わらずの活気で賑わっていた。
人混みの中、やたら薄着の男が小柄な布のおばけのようなものをおぶって歩く。
「…っこんな中から…見つかるの…」
不安を漏らすパーニャにランスは声をかけた。
「俺の手を握ってそいつを想いながら歩け。」
ヴァンを想うパーニャ。
「…っヴァン…ああっ…ヴァン!
ヴァンが居ないと私何もできないのに…!早く出て来て、ヴァン…っ」
迷子パニックを起こすパーニャ。
「…おい。」
ランスの呼びかけもきこえなくなっていた。
するとランス、布がかかったパーニャの頭を鼓を打つようにポンッと叩いた。
「っ?!?」
音と勢いの割に全く痛くはない、が、生まれて以来初めての衝撃に目がチカチカするパーニャ。
ずれそうになった布を中からあたふた押さえ、ランスを見る。
「お前、もしヴァンって奴がもう死んでたらどうする?」
「…っ!?!
…っそんなの…無理に決まってるじゃない…
ヴァンは死んだりなんかしないもん…っ!
私をっ…置いていったりなんか…っ」
「バカかお前。
いいか?人はいつか
か な ら ず
死ぬ。
どんっなに大切な人でも、別れはかなっらずやってくる。」
ランスにそう言われ、
ヴァンを想い過ぎてゲシュタルト崩壊していた“死”について思い出す。
ここ数日で多くの死に触れてきた。
それと同じようにヴァンが死ぬとしても、不思議は無い…
なのに、もしもヴァンが…と考えると、胸がざわざわする。いてもたってもいられなくなる。
これが不思議…
自分の死の認識を検めるように、パーニャはランスに問う。
「…っみんな…死ぬ…お母様も…?お父様も…?」
「ああ。よくわかってるじゃねーか。」
「あなたも?」
「ああ。
お前もな。」
パーニャは少し考えた。
死については間違えてない。ではこの不思議は…
「…っなのにヴァンが死ぬのだけ飛び抜けてイヤなのは何故?」
口に出してみると自然と答えが付いて出た。
「特別だから…?」
「お前にとってな。
逆の立場で考えてみろ?
お前のその特別なヴァンは、
自分が居なくなったら即破滅なお前を見て喜ぶか?」
「ううん…彼は紳士だもの…。きっとすごく心配してくれるわ…。
そんな彼だから特別なのよ…」
「そんなに特別に想うなら、依存してねえで安心させてやれ。」
「…っでも…私できるかしら…。
私ね?
貧血で体力は無いし…
昼間外には出られないし…
ものも知らないし…
歌も音楽もできないのよ」
「できないことを数えるな。今お前にできることを言ってみな。
可愛い。物が見える。歩ける。話せる。他には?」
「…っえーと…本が読める…、
あと、字が書けるわ!
あとね、踊りを始めたの!
…か、可愛い…っ?///」
「十分!まあがんばれや。」
「…っふふ、あなた中々の紳士ね♪ヴァンには敵わないけどっ!」
「妬けるぜ。…
…お前、もし本当に見つからなかったらよ…」
ランスが言いかけたその時、パーニャが突然声を発した
「あっ!!いた!ヴァンだわ!!ちらっと見えた!」
人混みの中にその人を見つけたらしい。
「…へ。よかったな。行ってこいや。その上着はやるよ。」
そう言ってゆっくり下ろしてやると、
「うん!ありがとう!
あなたのこと忘れないわ!御機嫌よう!」
パーニャは人混みの中へ消えていった。
「ふー…良い事したぜ〜。
飯食いに帰ろ。」
ランスは帰路についた。
パーニャは道端で停まっている馬車の荷台に乗り込んだ。
不細工な行商人がヴァンを抱えて入っていくのが見えたからだ。
しかし、荷台に登るために足に力を込めたのが災いした。パーニャは段差を登った瞬間、膝に力が入らなくなった。
そうして視界が勝手に天を向き、目の奥が眩んでパタリと寝そべってしまった。
「おわっ!な、なんだなんだ?!
は…?倒れてる…?」
不細工な行商人は慄いて振り返り、恐る恐るパーニャに近づき布を剥ぎ取った。
「…ガ、ガキじゃねえかおどかしやがって…。」
空腹と急な運動で、パーニャは意識が朦朧としたままで起きられそうにない。
「…お?何か良い格好をしているぞ?
しかも、女だ!ぐへへ、こりゃ服と合わせて高く売れるぞ…!
なんなんだこの街は、豪華な剣が落ちてたり女が落ちてたり、まるで俺を祝福してるみてえじゃねえか!遥々斜向かいの国から出稼ぎに来た俺への思し召しか?真面目にコソコソ働く俺へのご褒美か??
ふひひ、足がつく前にとんずらするぜ!」
不細工な行商人は荷台の入口の布をシャッとおろした。
「…とその前に…だ。
俺は真面目な行商人だからな…
シナサダメをしないとな〜ぁ…!ぐっへっへ!」
不細工な行商人はパーニャの顎をグイと持ち、顔を覗き込んだ。
口が清潔な筈もなく、ハァハァと吐息が臭い。
「…ほっ!ちと顔色は悪いが肌艶は良い上玉だっ!やはりどっかの貴族か?可哀想になぁ、せめて俺が高く売ってやるからな?へへっ…!
キズモノにしちまっちゃあ価値が下がるからな…だが、シナサダメは真面目にやらないとな…!フっヒ…!」
そう言って不細工な行商人は、パーニャの下半身に視線を向ける。
ワンピース型のナイトドレス、そのスカートの裾を摘みゆっくりと持ち上げてゆく。
真っ白な細いふくらはぎから、
膝…大腿部と徐々に露わになっていき…
「ハァハァ…」
ドスッ
「ハァハァ…
ハレ…?」
不細工な行商人が視線を落とすと、自身の胸から剣が生えている。
{下劣な前足でパーニャに触れるんじゃない。}
ゴキュンゴキュン
「かひゅっ…ひっ…へ…」
一瞬にしてミイラと化し、打ち捨てられる行商人の骸。
刃を深紅に染め、宙にフワフワ浮くヴァンと、横たわるパーニャ。
{御機嫌ようお嬢さん。}
「…っ!
御機嫌ようステキな剣さん…。」
{お近づきの印にワインは如何かな?}
「…っいただくわ。じゃーあ、私の牙に口づけして?」
{では美味しくなるおまじないをしなくちゃあね。}
「乾杯」
{乾杯}
{おかえり}
「おかえり」
to be continued
私のお気に入りキャラは不細工な行商人です。




