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【処女作完結】Mobius Cross_メビウスクロス  作者: 阿暦史
【第二章】救世主と紀元の吸血鬼
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『Mobius Cross_メビウスクロス15:特別』

今夜も街へ遊びに行こう。


☆登場人物

·パーニャ:貧血と陽に当たれない病気の少女。夜な夜なヴァンと共におさんぽする。

·ヴァン:意思を持つ吸血の魔剣。夜な夜なパーニャと共に血を求め回遊する。


·ルナ:主人公の少年。かわいいだけじゃない。

·シャハネさん:美人のお姉さん。一緒にお風呂に入ってくれる。

·ランス:主人公の救世主。銀髪のイケメンちょっとツン。

·ガリア:拳の救世主。巨漢でクールな力持ち。ちょいコワ男前。

·スクード:盾の救世主。長身軽口兄貴。女性に甘いハンサム。

·ルナベレッタ:囚われてたシスター。自分を責め過ぎる癖がある。

·魔神ギルト:ルナベレッタの一部に宿り、罪を喰って力を増す。


·ゴルゴーン:蛇術館の主で全身甲冑の謎の彫刻家。美しい女の裸像は命が凍りついたかの如き出来栄え…

·ヒュオラ:蛇術館の侍女長。メガツインテールの幼女。館の召使い達は誰も彼女に逆らえない。


『Mobius Cross_メビウスクロス15:特別』



貧血の少女パーニャと吸血剣ヴァンは毎晩小一時間冒険に出掛けていた。


日常にさしたる変化は無くとも、その“夜の特別なひと時”が人生に計り知れない豊穣を齎す。

箱詰め娘として生きてきたパーニャにとって外の世界は何もかもが新鮮。

踊り、お花摘みなど、やってみたかったことも思いっきり楽しんだ。

ヴァンも紳士的にエスコートしてくれる。知らなかったことを教えてくれる。



「ねーえヴァン。今日も半分の月がキレイよ。

私知らなかったわ。あれが空を支える巨人の眼で、満ち欠けは瞬きだったなんて。」


{そうだよパーニャ。巨人が目を閉じていくにつれて少しずつ星達は数を増やすのさ。}


貴族街の屋根をフワフワと渡り歩きながら、パーニャとヴァンは語らっていた。


「ふぅん…星って何なの?」


{…あれも目なんじゃあないかと思う。

蝙蝠がぶら下がって巨人とかくれんぼしているのかな。}


「ふぅん…私てっきり蝋燭の火だと思ってたわ。」


{君がその方が素敵だと思うのならそれでいいのさ}


「ううん!ヴァンのお友達がたくさんいる方がステキよ!

あ…でも…」


{どうした?}


「お友達があんなにいるんだもの…

ヴァンはあっちへ行きたくなってしまわない…?」


{吾輩の一番星はパーニャ、君だよ。}


「…っ紳士ねっ///

あー…何だか暑い///

喉が渇いちゃった。」


{そう言うと思ってワインの匂いがする方へ向かっていたのだよ。}


「まぁ!優しくて物知りで、紳士の中の紳士ね!」


{吾輩の優しさも智識も、全ては君の為のものさ。さあワインを採りに行こう。}



「ぁはぁ♪

…ねーえヴァン!私これも知らなかったわ?


ワインが…


人から採れるなんて!」




パーニャはヴァンに掴まり屋根から飛び降りた!標的は下の道を一人歩くフードの人!

ビュオウと矢のごとく、その背中めがけて一気に飛襲する。

切っ先間近、いざ身体の中心にヴァンの刃を突き立てる!―




ヒュンッ




「…あれ?」

避けられた?


ヴァンとワイン狩りを行うようになって初めての経験…!



「っっぶねー!死ぬかと思った…!

…?お、女の子?!」

避けた方は襲撃者の容姿に驚いているようだった。


対するパーニャは避けられたことに驚いて純真無垢にこう問いかけた。

「ヴァンが躱されるなんて初めて…。

貴方は何者??」




フードをはらりと落とす。



「僕はルナ!

メシア教団だ。

君が…夜に人を襲うという…吸血魔…?」


…とても今世間を騒がせている辻斬り犯には見えないあどけない少女。

だからこそ余計異様に映る…。


その細い手に握られた、およそ人に持てるとは思えない巨大な剣…!


あの少女がどうしてどうやってあんなものを…??




{失礼な。パーニャはただの吸血少女だ!}


「わ!剣が喋った!?」



{吾輩はヴァンブレラヘルスレイヴ。蝙蝠だが、魔物の汚名は私が頂こう。

さて、自己紹介も済んだな。

消えて頂こうか…!}


ヴァンはパーニャの手を離れ、ルナに向けて飛び出した。



「メビウスクロス!」

ルナの手の中に輝きとともに出現する鎖双剣。

ヴァンを受け流し火花が散る。



重い…!


見た目通りの重圧、さらに素早く連続で刺突を繰り出してくる。

受けては分が悪いか、ルナは回避しながら隙を窺う。

刃は鼻先、脇腹を掠めるばかりだが、これもヴァンの作戦。

あえて剣の域を出ない挙動、

間合いで立ち回ることで相手に“ここまで身を引けば避けられる”と思わせる。



そして意表を突いて突く!突き入れる!

ルナの双剣を擦り抜け、その首元に!



カギン!ギャララララーッ


間一髪、メビウスクロスの鎖でヴァンの尖撃を逸らした!

ヴァンはそのまま飛び抜けて距離を取る

が、



「趨れクロス!」


ヴァンの体にルナの双剣の片割れと鎖が巻き付いた!


{クッ!なに!?}


「生憎、宙を趨る剣の扱いは知ってるんだ!捕えたぞ!」


ビィーンと張るルナの鎖。


{!…坊や…!中々力が強いじゃないか…!}


後ろのパーニャは初めて見る相棒のピンチに心配の言葉をかけ寄ろうとする。

「ヴァンっ!?大丈夫…?!」


{案ずるな…パーニャ。

こやつ手練だ。下がっていなさい…!}


ヴァンがパーニャに気を移したのは一瞬だったが、ルナはその隙を逃さなかった!

鎖を引く手をクンと振るうと、鎖に一つ波が起こった。

その波はヴァンに向って徐々に大きく、徐々に捻れて打ち寄せ、渦を成してヴァンに巻き付いた。

巻き付く鎖が増えると、ヴァンはジリジリとルナに引き寄せられていく。

巻くほどに強くなる拘束力…このまま雁字搦めにし捕らえる…!


闘いながらルナは、ヴァンとパーニャの関係性について考えていた。

ここまでのやり取りから察するに、パーニャ自身には悪気も危険性も無い。

ヴァンという悪魔が、剣の姿で幼い彼女を唆している!

ならば狙いは一つ!ヴァンを捕らえ破壊する!



{甘いぞ坊やッ!!}

突如ヴァンが体を高速回転!


鎖を振りほどきドリルのように突っ込んできた!


「なにッ!?」



ガキャアッ



辛うじて残ったクロスで致命傷は避けたが、右腕を少し刳られてしまった。

ボタボタと血が落ちる。


{あぁ…勿体ないが致し方ない。

君の血…いやワイン。

できることなら身体の中心に突き立って余すことなく飲み干したかった。}


「…くっ…本気じゃなかったって言うのか…!」



{おかしなことを言う。

君は狩るか狩られるかで考えていたのかもしれないが、真実はそうではない。


“吾輩達が君をどんな風に狩るか。”


思案点はそこだよ。

さぁ、動き回られても面倒だ。次は足を貰おうか…!}




そこからは一方的だった。

ヴァンは血を得てパワーもスピードも増していた。

加えて、先程までは刺突系の攻撃ばかりだったのが、斬撃も織り交ぜるようになった容赦ない攻めで、とうとうルナは足を突き刺されてしまった。


「ぐああっ…!」


さらにヴァンは、そのまま血を吸い上げる。


「…く!…このッ!!」

ルナの苦し紛れの反撃に、ヴァンはズポッと抜け飛んで躱した。

{宝石を狙うとはマナーがなってないぞ。正々堂々とキバに打ち込みたまえ。}


「…足狙っといてよく言うよ…」


{はん?目玉刳られたいか…?}



この後に及んで憎まれ口を叩く。

生意気な態度に違和感を覚える。やけをおこしたか、何か秘策でもあるのか…。



「…どうした。かかってこないのか?」

ルナは尚も挑発する。


が、ヴァンはすーっとパーニャのもとへ戻る。




{…パーニャ、一息入れよう。喉が渇いてるだろう。}




唐突。




パーニャ自身忘れていた。

そう言えば喉が渇いたから狩りを始めたのだった…。


「うん、そうね。喉がカラカラだわ。。」


ルナにとってはまさに荒唐無稽の言動。

「…どういうつもりだ?!」


{どうもこうも。血をこの娘に飲ませるのさ。

その為に坊やを襲っているのだから。}


ルナは身震いした。

「…血を…飲ませる…?!正気かっ?!」

そんなルナを構わず、


「ヴァン、…おにぇにゃい…」

そう言いながら口を開けるパーニャ。


ヴァンはその口に咥えられた。



「ま、待てッ!!」


{何を喚いているんだ。

心配せずとも吸わせ終わったらちゃあんと残りの血…もといワインも頂く。

言ったろう?そちらはどうせ狩られるのだから、

こちらは一杯やろうが口付けしようが自由だ。}



「やめろォ!!」

ルナは見かねてクロスを飛ばした。 




ガシッ




クロスを止めたのはヴァンではなく、パーニャだった。

高速で飛んでくる短剣を、柄の部分ジャストで掴み取ったのだ…!



{パーニャ…?}

「…紳士淑女のスキンシップに水を刺すなんていけない人…」



そう言った直後、ルナは身体が宙に浮いた。

「え…」


パーニャに引っ張られて跳ね飛んだなどと誰が思うだろうか。

ヴァンを置き去りにしてパーニャも跳躍。

ルナには一瞬で目の前に現れたかのように感じた。

意識が収束しスローモーションに見える中、パーニャはルナの耳元で囁いた。




「私と踊りましょ?」




ドボッ


パーニャの膝がルナの腹に入った。

地面に落ち、無声で悶絶するルナ。

パーニャも降り立ち、優雅にステップを踏みながら近付いてくる…!

いきなりなんだこの豹変ぶりは…!


{どうやら坊やは突っ走る質のようだな}


…意味はわからないが否定はできない。


{ブラッドタイプさ。パーニャは吸った血に応じて性格が変わることがあってね…。}


ルナを優雅にどつき回しながら、パーニャも解説してくれた。

「ちなみにっ!味もっ!違うのよ♪

貴方のはっ!ちょっとっ!酸っぱくてっ!特別元気が出る味っ♪」


ルナはクロスこそ手放していないが鎖は辺り一面無造作に伸び散らし、ボロ雑巾のように横たわっていた。


そこへさらに押し倒すように両手をつくパーニャ。

「…直接飲んでみようかしら…!」

そう言ってルナの首筋めがけて口を開く。



{まったく…。坊やのようなブラッドタイプを飲むと積極的過ぎていかんな…。}





「……そうして突っ込みすぎて痛い目見る…知ってるさ!!」



ギャラララ…!ビシィッ!

突如辺りに伸びていた鎖が横の柱を巻き込んで張り、パーニャは中心でぐるぐる巻になっていた!


「…!あっあれ?動けない…」

力を込めても抜け出せないパーニャ。


「滑車の原理さ。柱を咬ませて拘束力を高めてる。少しの力で君は逃げられない。」

ほんとは結構ギリギリだが。

「そんなことはどうでもいい!パーニャ!

君は、こんなことして良いと本気で思ってるのか!」



突然の問いかけにパーニャは困惑した。


{貴様ッ!}

ヴァンが切りかかってきた!

ルナは鎖を引き絞りながらなんとかクロスで受ける。そして問う!



「ヴァンも聴けッ!!パーニャは普通の女の子じゃないのか?!

こんな残虐なことをさせて心は痛まないのか!?血を飲む魔物にしたいのか!」




ルナの言葉にピクリと反応したあと、ヴァンの重圧が高まっていく




{…貴様の言う“普通”とやらが何かは知らんが、パーニャは心優しいただの淑女だよ…!

嗜むものがただの血か、ただのワインかの差だ…!}




ルナの右腕が限界を迎え、クロスが抜け落ちてしまった。

鎖が緩み、パーニャは解かれた。

残った左腕もブルブルと震え、少しずつヴァンの刃が迫る。


「…血なんて…飲んでいいわけ無いだろっ

…血は…魂の器…。

魂を啜って愉しむ者が…魔物じゃなくて何だってんだ…っ」

ルナが最後の希をかけて絞り出した言葉に、パーニャはこう問い返した…



「…さっきから何を咎めようとしているの?


…豚や山羊のだって血や内臓を食べたりするでしょ?


それが人間のだとだめなの…?」




ルナの意識が遠のく。





「…ねぇ教えて…?



…人間は何か…特別なの…?」





to be continued

次回、ルナ死す!

クロススタンバイ☆

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