『Mobius Cross_メビウスクロス13.5:救世主を追う』
※あとから挿し込んだ回です
『Mobius Cross_メビウスクロス13.5:救世主を追う』
「ランス様…! 帰っておられたのですね!?
また…魔物を倒してこられたんですね☆!?」
「おう。ボッコボコにしてやったぜ (適当)」
…憧れの…憧れの救世主!
ルナは今日も興奮していた。
幼き日に自身と村を救った救世主…拳と盾と鎗の三救主が! 此処メシア教会で! 目の前で一堂に会している!
動いている!!!
何か話している!!
あっ! 目があった…///!
「…てめきっしょく悪ぃな何見てやがる訓練サボんな」
ランス(鎗の救世主)師匠に怒られた//!
「まーまーランスの旦那。ファンにはもうちょっと優しくしなきゃあだぜ?」
スクード(盾の救世主)様に擁護された///!!
「ランス、スクード。そんなことより早く向かうべきだ」
ガリア(拳の救世主)様にスルーされた…/
「あぁそうだな」
ランスが歩き出す…
ルナはすかさず喰い付いた!
「お出かけですか?お供します!」
しかしランスは当たり前のように不機嫌にあしらおうとする。
「は? バカかお前。今からガチの“魔物討伐”だ。死ぬぞ」
「!! …お供させて下さい!」
尚更燃え上がるルナ。
「 (面倒臭ぇ…)お前の使命は何だ? 俺らの追っかけか? 違うだろ役に立ちてぇんだろ?」
「ランス、早く行かねば被害が拡がるのではないか」
言って聞かせようとするランスをガリアが急かす。
「そういうこった。ガキはお留守番だ。
行くぞ!」
ランスが教会の扉をガンッと開け放ち、黒い衣をはためかせて行ってしまった! ガリアもそれを追う!
「あっ…!」
ルナは扉の所までは駆け寄るが、……今日もダメか…
諦めルナ…
するとその時…
ポンッ!
と尻を叩かれた…?
横を見ると、盾の救世主スクードがニコリと目配せしながら通り過ぎてゆく…
「今日のメニューはランニングからかな?♪」
そう言ってヒュンと走り出す。
…ハッ! として、ルナは駆け出した!
追いかけだしたのだ! 救世主を!
後ろを気にして走りながらスクードは思った。
(…へぇ…♪ けっこー速いじゃねぇの…♪)
追いかけながらルナは思った。
(…は、速ッッッッッッ!;!;!;!)
(…ま、俺らについてくるにゃあもうひと工夫ってとこだな…)
そう感じたスクードは、ルナに向けて意味ありげに_チョイチョイ_っと指招きした。
そして直後、光とともに両腕に半十字の大盾を出現させ、走る速度を上げて行く…!
それは置いていこうとするアクションではない…その姿を見てルナは閃いた!
「メビウスクロス!」
ルナの両手から鎖双剣が出現! 塑創の能力 (シン)だ!
「趨れクロス!」
ルナはその短剣を一本飛ばす! 二本の剣を繋ぐ鎖は自称“メビウスの鎖”、無限に伸びる。さらにルナが触れていれば、飛ばしたクロスは燕のように自在に宙を翔けるのだ!
キュルルルルル_…ガシッ!
そのクロスを、先行するスクードの盾に巻き付けて固定する。鎖はこれ以上伸びないようにと念ずる。
するとなんとか…なんとか置いていかれないように走ることができる…! (…例え足が保たなくなっても…放さない! 引き摺られてでもついて行ってみせる…!! ……すみません失礼ですよねやりかたあってますよね間違ってたら振りほどいて下さいその時は心臓爆発するまで走ります……;;)
そんな事を念じながら必死に足を動かすルナだった。
ルナを引っ張って走るスクードは、先行する二人に追いついた。
「なあお二人さん。ちょいと後ろを見てくれ。あいつをどう思う?」
…んっ…とチラ見するランス。
「…すごく鬱陶しい。が…」
ガリアもルナを視界に入れ、
「…なるほどな。気力と知力が有る…何より体力が有る」
とコメントした。
その反応を見てスクードは嬉しげにランスに問いかけた。
「だな?♪
でだランス。今回の魔物はどうだい? 俺達で守りきれないくらい強そうかい? あんたがそう言うならやめとくぜ? でもそうじゃないなら、たまには見学するのも立派な修業じゃないかな〜と、思うわけよ」
「ナメんなよ…」
ランスは言った。
「…お前らが居て、守りきれない事があるかよ…」
スクードとガリアは、ニッッと口角を上げるのだった。
…
それから暫く走り続け、市民街から帝都を抜けて野を越え山に入った所で三救主は立ち止まった。
ルナはふぅふぅと疲れが見えるが、なんとかついてくる事ができた嬉しさで頭がいっぱいだった。
するとランスがルナに声をかけた。
「おいバカ弟子」
「っはい!!」
「体力自慢はわかったから真剣に聴け。
これから対峙するのは、“災厄の魔物”と呼ばれる超災害だ。
こないだのギルト…空腹時の魔神なんかとは比べ物にならない。
死んじまっても文句言うなよ」
_ゴクリ…_
ランスは淡々と口にするが、ルナは緊迫から固唾を飲んだ。
…知っているから…
「………オーク……あいつも…そうだったんですか…?」
ルナの口から出た言葉に、少し驚いた表情を見せるランス。
「ん? お前…オーク知ってんのか…?」
「…かつて僕の村を襲った…いや、襲われかけたんです。僕はその時救われました…」
…やはりこの人には覚えられていない…
「ほーん…そうか。んなのは知ったこっちゃ無ぇ__」
…それはそうだ…
「__オークは頭も悪いし、ハッキリ言って万全じゃなかったから参考にはならねーが__」
…だって救世主(この人)達は…
「__今から現れる奴の脅威度はそれより上。2オークってとこか。
ま、フツーだな__」
…そんな脅威から、人々を救い続けているのだから…!!
「_適当に守ってやるが、俺達だって絶対じゃねえ。下手して死んだら諦めろ_」
…わかりません。あなた達は絶対です。
…そしてわかっています。救われた僕が特別なんじゃない…救う……絶対に救う救世主達が特別なんだ……!
「_来るぜ」
その時、眼前の山肌に亀裂が入り、天に向け炎が吹き出した!
…噴火?!…と一瞬思ったルナだが、そうではなかった…
赤々と爛れゆくその大地の創口から、巨大な“蹄”を掛けてソレは現れた…!
山羊の胴体…大蛇の頭を持つ尾……そして………前に“獅子”、後に“山羊”の双頭…
ルナは戦慄した。
どんな猛獣とも違う。
並の魔物など比較にならない。
御伽噺にしか聞かないような伝説の化物·キメイラーの姿がそこにはあった。
そんな怪物を前に、ランスが指示を出す。
「ガリア、折角だ、出方待て。弟子にもちっとは意味ある見学をさせねぇとな」
それを聞き、拳の救世主ガリアも腕に力を込めて闘気を滾らせつつ、相手を凝視し“待ちの態勢”を取る。
…!
…師匠は見て学ばせる気だ! 恐怖はあるが有り難い…! さあ化物! 救世主相手に、できる事があるならやってみろ…!
その時、“動物的な呻き”と、“谷に吹き込む風の唸り”を合わせたような怪音が響いた!
ッ…!!
…そんな禍々しい咆哮なんかじゃビビらないぞ! ……少なくとも救世主は…
…やや?! 咆哮する口が光り始めたぞ!?
そう思った次の瞬間。
感じた事もないような熱の風、そして見た事もない量の炎が迫ってきていた…
…まるで山火事の炎を束ねて一つの嵐にしたような……超災害…
…あれ…?
…これひょっとして…
……死ぬのでは……??
「よし、動くな」
大気が焼き切れるような焼音の中、いつの間にか背後にいたランスがそんな事を言う。
肩を押さえられ動けないのだが…盾になれってことかな…。。
しかしそんな肉盾の前に立ちはだかるのは、本物の“神盾”…スクードだ!!
両の手に持つ半十字の大盾を前方に構える。スクードの長身をすっぽりと覆うほどの巨大な正十字の完成! 凄まじい安心感!
前方から迫るのは、故郷の村くらい一瞬で飲み込みそうな炎の嵐だけど…
…大丈夫…きっと大丈夫…よく見るんだ…! こんな機会は一生に何度もない!
…一生が今日で終わりませんようにっ!!
ルナは祈った。
炎が、スクードの盾と触れた瞬間…
___カッッ___
と世界が暗転した…。いや、凄まじい逆光に包まれたのか………気がつけば、目の前に迫っていた炎の嵐は、それ以上の火炎の大嵐となって目の前から離れていった…。
その時は理解が追いつかなかったが、あとから考えれば、あれは『炎の嵐を弾き返した』んじゃないかと思う。
そしてその大炎がキメイラーを飲み込み、山肌を削って空に消えると、跡には消炭になった蹄と頭蓋骨…が風に朽ちて、何も遺らなかった。
「まだだ。上と下!」
ランスは警告した!
何とかして炎を逃れたキメイラーの一部…山羊の首が、鋭い角を向けて上から襲いかかって来ていたのだ!!
それをめがけて既にガリアが跳んでいた。その首はどうなったかわからない。痕跡は残らなかったから_
_そして、ルナは必死だったから_!
「メビウスクロス…!!」
上に逃れたのがヤギの首なら、下に逃れたのは尾の大蛇!
疾風のように這い回るそれに、ルナがメビウスの鎖を巻き付けていた!
…見物客(見てるだけ)ではダメだ…! 役に立ってみせる…! 僕は、その為に来た!!
「あバカ…!」とランスが言った時には、
ルナの体は宙を舞っていた。
本体を失ったにも関わらず…その大蛇は信じられない力で、自身に巻き付く光る鎖に驚き、引っ張りながら逃げようとしたのだ。
「ぅわわわッ伸びろ伸びろ伸びろ_ッッッ;;!!」
ルナは空中で咄嗟に鎖を伸ばすよう念じ、地面に受け身を取って転がった。
「…良い判断だ」
瞬時に移動したガリアが、メビウスの鎖を握ってルナの前にいた。
「止めろ」
「ッはい!」
ルナが鎖の延長をストップすると、ガリアがクンッと引っ張る…
すると、もう遥か下の方…素早く逃げ回っている蛇が、さっきのルナの3倍以上の勢いで天高く釣り上げられた…!!
だが大蛇は、ただで釣られる気は無いらしい…!
大口を開け、勢いを利用してガリアに襲いかかった!
ガブリと噛み付き、さらに体をガリアの腕に巻きつける!
…ああ!!災厄の毒牙は流石にマズいのでは…!!?
ルナの思考がその心配に辿り着く暇も無く、ガリアは自身の腕を咬む蛇の頭の上からもう一方の手で握り込むと、ミキッ…
と両腕に力を込めた…
「!?ブシャアアアアァアッ……!!」
と大蛇が悲鳴を上げ、体を鞭のように撓らせて辺りを打ち回る!
それだけで周囲の地面、岩が抉れ飛ぶもほんの一瞬…
程無くして、ガリアの皮膚に塵ほどの傷も付けられなかった災厄の毒牙がパキンと折れて弾け跳び、見開かれたままのガリアの眼球にガキンッと弾かれたあたりで蛇は動かなくなった…。
「おい山消すなよ。」
そんなランスの意味不明の注意を尻目に、蛇の軀を投げ上げたガリアが天に向けて拳を放つと……
パンッ…
という聞こえるか聞こえないかというくらいの高い音と共に跡形もなく消え去り、その背景の雲に大穴が空いた……
そしてそっちに向いて風が轟き、しまいには雨雲になって雨が降り出した……
スクードが笑い、ランスが鬱陶しそうにする中、あんぐりとしたルナは口に雨を溜めるのだった……
…
…まったく参考にならない…
メシア教会に戻って、ぼーっと風呂に浸かって濡れた体を温めた。
風呂上がりに躰を拭いていると、運悪くルナベレッタが脱衣所に入ってきて見られてしまった…。“キャア///!見ちゃってごめんなさい///”と恥ずかしがらせてしまうかと思ったら、「あらルナ君。ごめんなさい札を見間違えたかしら;」って反応だった。。
救世主と比べて自分はなんて矮小な存在なんだ…と再確認するルナであった。。。
しかしランスからは「お前けっこうやるな。パトロールくらい任せっかな」という謎の見直しを貰った。…何を見てそう思ったんだろ…この人適当すぎる…
そこで優しそうなスクードに色々聞いてみた☆!
「どうやったらあんなに強くなれるのですか?どうしてあそこに魔物が現れるとわかったのですか?僕はどうすれば強くなれますか?!」
スクードは大笑いして答えてくれた。
「わからないさ俺達は生まれた時から強かったからね♪
災厄が襲う場所がわかるのはランスの旦那のおかげさ。よくはわからないけどね♪
強くなる方法? …女の子を守る為に頑張るといい♪」
…ありがたいけど参考にならない…
こうなったら最も憧れる質実剛健、拳の救世主ガリアにお話を聞いてみた…!
「お前は敵を倒す存在になりたいのか?」
「はい! ガリア様のように…!」
「やめておけ。俺を目指すなら…俺がいればいい」
………御尤………!!
力ずくの納得を食らい、それは同時に、価値決定が下ってしまったようで、しょんぼりとするルナ。
しかしガリアは、珍しく、その硬い口で言葉を紡ぎ始めた。
「…俺のような奴は何人も要らない…。お前は頭は悪くなさそうだが、甚大な勘違いをしている」
…?
意外な言葉にルナは首を傾げた。
ガリアは続けた。
「救世主とは、敵を倒すだけの存在ではない」
ルナはハッとした。
ガリアは、ぽつ…ぽつ…と続ける。
「力だけではない。…愛も。…信じる強さ…勇気もあって初めて、真に人を救うことができる……。俺は苦手だが、ランスが不意に敵へ情けをかけたりするのも、そういうことなんだろう…。
ランスは計り知れん男だが………お前はわかりやすい。
…すまん…悪い意味じゃない。
そういう…救いの光を宿した眼をしている。…力ばかりの俺の分も……まぁ頑張れ」
愛や優しさや勇気は誰もが持てるわけではない。与えられたものは活かせ。そして人を救えと、ガリアは言いたかった。しかし口下手な彼は諦めてしまうのだった。
「! ありがとうございました !」
雨雲が晴れ始め、月が覗く夜。
この先に何が待ち受けているかはわからない。
救世主達の勇姿と言葉を胸に、ルナは今日も訓練に励むのだった。
to be continued
ふゎ…できた…(´;ω;`) 教えてくれた優しい人ありがとう(´;ω;`)




