『Mobius Cross_メビウスクロス13:ゴルゴーン彫伯爵』
ゴルゴーンの正体を彫ってみましょう。
☆登場人物
·ランス:主人公の救世主。銀髪のイケメンちょっとツン。
·ガリア:拳の救世主。巨漢でクールな力持ち。ちょいコワ男前。
·スクード:盾の救世主。長身軽口兄貴。女性に甘いハンサム。
·ゴルゴーン:蛇術館の主で全身甲冑の謎の彫刻家。美しい女の裸像は命が凍りついたかの如き出来栄え…
·ヒュオラ:蛇術館の侍女長。メガツインテールの幼女。館の召使い達は誰も彼女に逆らえない。
『Mobius Cross_メビウスクロス13:ゴルゴーン彫伯爵』
「ゴルゴーン様。
スクード様、ランス様、ガリア様をお連れしました。」
食堂に入ると、ランス達の眼前には白いテーブルクロス、燭台、絢爛な料理が並んでいた。
そのテーブルの先にそいつは居た。
大甲冑に身を包んだ大男。遠目だが目算ではガリアより大きいかもしれない。
顔まで覆うその鎧は巨大ながら、要所の作りや装飾は緻密で、堅実なというよりはどこか高貴な印象を受ける。
三救主は鎧の伯爵を見据えている。
と、
「案内ご苦労。変わりはないか?」
と声がした。仮面兜で確認できないが、今のはゴルゴーン伯爵が喋ったらしい。
侍女長ヒュオラが答えた。
「はい。ゴルゴーン様。」
するとガリアが言った。
「こちらの馬鹿がそちらの従者を毒牙にかけようとしたがな…」
「おいおい人聞きの悪い。ねえヒュオラ?」
「あ、はい。毒牙なんてなかったです。」
大した男では無い。という含みで言ったヒュオラだが、スクードは能天気に返した。
「能ある蛇は何を隠すってね?」
ガリアが突っ込む。
「能無しを隠せてないぞ」
「頭隠して尻隠さずだっけか?」
「…もう喋るな…」
「談笑も結構だが、どうぞ食事を愉しんでくれたまえ。」
ゴルゴーンが威厳たっぷりに料理を勧めた。
それに対しランス
「お構いなく。あいにく腹の調子が悪くてな。よければあんた食ってくれ。」
と、言葉とともに自身の前に置かれた魚料理の皿をシュッと伯爵に向けて返した。
シューー…と滑り、見事に伯爵の手元で皿が止まる。
それと同時にスクードが話し出す。
「一緒に愉しもうぜ?さ、仮面取らなきゃ食えないだろ?」
「お客さま…!!」
ややドスの効いた声でヒュオラが叱責しようとすると、ゴルゴーンがなだめる。
「よい。ヒュオラ。どうせ仮面は取らん。こ奴らが泣いて頼んでもな。
お客人、顔が醜いのだ。人前に晒したくない。芸術家的にな。」
「芸術家…か。」
ランスがそのワードにつっかかる。
「あの像は全部あんたが作ったのか?」
「いかにも。彫伯の名も冠しているものでね。お気に召したかね。」
「最高だね。美し過ぎる。
そりゃあ人を石に変えてると噂が立つのも無理はない。
ゴルゴーンなんて呼ばれる訳だ。」
伯爵は気を良くしたのか初めてクフフと笑う。
「洒落が効いてるだろう?中々気に入っているよ。」
「ああ。洒落で済むように、ひとつひとつモデルと照合させてくれ。
石に変えてるんじゃないならできるよな?」
ランスの言葉を聞き、後ろで再びヒュオラの瞳孔が鋭く絞られる。
しかしゴルゴーンは余裕を持って返す。
「残念だがその照合に意味はない。
作品は売れて無くなる。モデルの中にもここを去った者がいる。」
「そうなると…実際に創ってる現場を見ていいか?」
「断る。芸術家的にな。」
「ならアトリエを見せてもらうことは?」
「断じて断る。芸術家的にもそうだが、
折角用意した料理を口すらつけぬ無礼な輩に見せるアトリエなど無い。」
「調度いいじゃねえか。今日はお互い無礼講でいこう。
あんたともっとナカヨクなりたいんだ。」
「…ふん…食えん男だ。」
いよいよ一触即発。
蝋燭の炎が息苦しそうにチリチリと揺れ、周囲の空気が張り詰めていく。
と突然。
パァンッ!!
と食堂内に破裂音が鳴り、エコーしている。
ヒュオラは髪の毛が一瞬ビクッと逆立ち、ゴルゴーンは一瞬鎧をガチャっと震わせた。
音の正体はガリアとスクード。
二人が両掌を勢いよく合わせた音だった。
「いただきます」
二人は同時にそう言い、料理をガツガツと食べ始めた。
サラダ、魚、ワイン、肉、フルーツと見る見る口にしていく。
あれだけ警戒していたにも関わらず、一転豪快に平らげる男達にゴルゴーンも絶句していた。
さらに何を思ったかガリア、食べ終わった皿を手に取り、ゴルゴーンを刺すように睨みながらカチリと齧り…
バッキャと割ったかと思うとそのままビスケットでも頬張るようにガリゴリと咀嚼しワインで流し込んでしまった。
圧倒的奇行を前に、ゴルゴーンは青ざめた声で言った。
「…い、異常だ…。貴様ら一体何者だ…。」
ランスは答えた。
「お前らが世に仇なすなら滅す。
そういう存在だと思ってくれていい。」
ゴルゴーンは長い溜め息をついて静かに言った。
「…わかった…。これからはナカヨクしよう…。
館の中は気の済むまで調べてくれて良い。」
観念したとも取れる発言を受けて、スクードが横から剽軽に入ってきた。
「いや〜いいさ。
お腹いっぱいになって眠いんだ。
あとはアトリエだけにさせてもらうわ。」
ガリアが呆れて言う。
「お前はまた甘いことを…」
するとランス
「いや、マジでアトリエだけでいい。あとはあんたの制作風景に興味があるだけだ。」
ゴルゴーン伯爵は呟くように応える。
「アトリエは……」
すると少し考え、コクリと頷いて見せた。
三救主はアトリエに案内された。
中は、制作途中の像を中心に、物が煩雑に置かれ、ホコリや汚れ、食べ残し?のような物まである。
想像より遥かにきちゃないが取り立てておかしな所もない。
これを見られたくなかったんだとすれば、鎧の伯爵にも可愛い所があるものである。
作り方やこだわりについてランスが訊ねるが、伯爵はどこか歯切れの悪い回答ばかりだった。
「…満足したかね?」
不満そうにゴルゴーン伯爵が訊ねた。
「ああ。今日のところはこの辺で勘弁してやる。
が、最後に二つ訊きたい。」
ランスがエラそうにそう言った。
伯爵は不服そうに聞く。
「…なんだ?」
「ヒュオラの像が無いのはなんでだ?あんたのお気に入りじゃないのか。」
「!…」
伯爵はシーンと考え込んでいるようだった。
すると不意に、やや浮ついた声で答えた。
「ヒュ、ヒュオラは思い入れが強い分一筋縄ではいかなくてな。。どうやったらその…幼さと女らしさと、可愛さと美しさとエロスとタナトスを表現できるか…何度も作り直している。」
咳払いをして焦りが見えるが、彫伯の一面が出た答えだ。
ランスは好感を持って続けた。
「なるほどな。
じゃ最後に、作品を一つ譲って貰いたい。」
伯爵は再び不服そうな溜め息をついて答えた。
「…居直り強盗め。持っていくがいいわ。」
「おぉいちょっと待て誰が居直り強盗だ?
ちゃんと金は払う。」
近くにいたヒュオラはきょとんとした。
誰もが差し押さえだ!とか言ってせしめて行くものとばかり思っていたからだ。
恐らく伯爵も。
驚く伯爵と侍女をよそにランスは悠々と語り出した。
「いいか?
例えば俺がお前らから作品を奪ったとしよう。それが続いたとしよう。
お前は作品やクオリティを生み出すモチベーションを維持し続けられるか?
無理だろ普通に考えて。
だから俺は、良い物、欲しい物、それを生み出す者には金と敬意は払う!」
「お、おぉ…」
クズで輩な異常者かと思ったら存外まともな倫理観にゴルゴーンは頷いて感心した。
その後、スクードとランスは展示回廊から一点、鎖骨だ臍だとやや揉めながらもイキイキと選び、スクードが抱えて館の出入り口へと歩いていた。
伯爵とは回廊で別れ、見送りはヒュオラが担当していた。
するとスクードがまた軟派な態度でヒュオラに迫った。
「ヒュオラちゃん。好きな男性のタイプを訊いてもいいかな?」
「ドアを壊さない人」
ヒュオラは冷たく答えた。
「だ·と·さ、ガリア!」
ケラケラとガリアを笑うスクード。
ヒュオラはぽそっとこうも言った。
「あとワインの味がわかる人」
敷居を跨ぎ外に出ると、ランスがヒュオラに言った。
「じゃーな、また来るぜ。悪いことしないよーにな。
あとこれ、像の代金だ。」
そう言ってゴソゴソとポケットを弄る。
…が、
さらにゴソゴソ…
ランスは薄い目をして言った。
「わーり。ポケットに穴が空いてたみてーだこれしかねえ。」
コイーンとヒュオラに銅貨を1枚飛ばして渡し、
「残りは、敬意で払ったってことで!」
愕然とするヒュオラ。
ドヤ顔をキメて去っていくランス達。
ヒュオラは
「またのお越しはお待ちしませんっ」
と言って、ぷくっと頬を膨らませながらお辞儀したのだった。
…
館の中
「あ…あ、あ、あああ…んあいつらぁぁっ!!!」
報告と銅貨1枚を受け、ゴルゴーンが思わず叫んだ。
いや正確には、ゴルゴーンの鎧の仮面兜が叫んだのだ。
直後、ポロリと兜が落ちる。
それは光りながら形を変えた。
現れたのは長い蛇の髪、鱗がついた蛇顔の魔物の女。その名はメリー。
「ヒィィぃ〜…!え、エラそうなこと言って何よこの端金!?私の最高傑作がぁ〜…」
すると今度は鎧の上半身が姿を変える。
「ぎゃはははは!!あんたの変態女趣味像、銅貨1枚だって!!ドアの修理代にもならねーな!」
短い蛇の髪、腕が大蛇の魔物の女。その名はエリー。
最後に鎧の下半身が真の姿を現す。
「ぐぬぬ…何だアイツらッ!?救世主?化け物ではないかッ!」
セミロングの蛇髪を上後で束ねた下半身が無数の蛇の魔物の女。その名はシェリー。
鎧の巨漢ゴルゴーン彫伯爵とは世を忍ぶ仮の姿。この魔物三姉妹こそが真の姿である。
そしてヒュオラもまた真の姿に戻る。
髪が水滴のようにプチュプチュと結合し、次々と蛇の頭の形になっていく。
巨大な黄色のツインテールは中心部が水のように透けて、その先っぽの布袋が取れると一際大きな蛇の顔がついていた。
緊張の糸が緩み、ヒュオラは半透明の短い尻尾を振りながら主人にすがりついた。
「…メリー様。。おいたわしい。
あの人達許せません…。」
「可愛いヒュオラ…。
あのランスって男はわかり合えるかもと思ったのにこの仕打ちよ…。」
すると次女エリーがヒュオラを問い詰める。
「おいヒュオラァ?ちゃんとワインに毒容れたんだよなぁ?
あいつらピンピンしてたじゃねえかぁ?」
「はい…確かに容れたのですが…。」
「かぁー!毒も効かねえし皿も食うし!
どうなってんだあいつら!?」
メリーが思い返して慄える。
「あれ怖すぎたわよね…。私ちょっとチビッちゃったもの…。」
「あ!?冷や汗かと思ったらあれ…メリーッ!!」
怒るエリーにヒュオラが話を被せる。
「で、でも、いろいろ隠し通せてよかったですね?」
ところが長女のシェリーがそれを訂正する。
「いいや…どこまでかは暴かれておったぞ…。
皿まで食うのは毒など効かぬというあてつけ。
何よりヒュオラ、先程変身を解く際、尾が生じる感覚はどうであった?」
「え…?…ゆわれてみれば…なんだか生える感触がなかったような…。
そんな…出る前にメリー様がちゃんと隠してくれたはず…」
「あ奴らの何らかの力によって解除されていたのだろう…。
少なくともヒュオラの正体は暴かれていた。」
はっとするヒュオラ。
メリーが心配そうに言葉をかける。
「ヒュオラが尻尾丸出しで来た時には人質に取られてるんじゃないかとヒヤヒヤしたわよ…。
あいつら屠らないと!と思ったけど隙無さ過ぎて…特にランスと軽口男の二人。」
ヒュオラはうなだれて言った。
「一生の不覚。。人質だなんて滅相もありません…闘いになれば刺し違えてでもお守りします…!」
メリー
「あいつら…絶対許さない…」
エリー
「近いうちにブチコロしとこう」
シェリー
「そうだな。
“マザー”の存在が暴かれる前に…」
黄昏に映える蛇術館の尖り屋根を一瞥して、ランス達は帰路につくのだった。
to be continued
毒をくらわば皿までも。
皿食いだしたらそら怖いわ。




