冒険9 勝負
「まぁーた一個も売れてないのかぁ?」
「ちょっと千鶴ちゃん。なにこの人?」
佳恩が小声で千鶴に聞く。
「石無 仁。…さん。わたしの雇い主に雇われた方です」
千鶴が一度、『さん』をつけずに名前を言い、『さん』を付け足したが、気にしないでおこう。
佳恩は佳恩で素直に石無の感想を言う。
「立場一緒のくせにエラソー」
「しょうがないんです。そういう人間なので」
「千鶴ちゃんちょっと怖いよ…?」
佳恩が引きつった笑顔で言うと、千鶴はそんな佳恩を無視し、石無に反論する。
「いえ!今日はちゃんと売れてます!それに、布の数え方は『個』じゃないです!」
「ほぉーん??じゃあ何円売れたんだよ?」
「30万円です!」
千鶴がフフンと得意げに言う。
「なっ…!30万だと…!?俺の店でも最高10万しか売れてないっていうのにっ…!」
「勝ったぁぁ!」
よっしゃああぁあ!と千鶴はガッツポーズをする。
「千鶴ちゃん…あんな態度で大丈夫かな?多分20歳位年上だよね?」
「それ佳恩が言う?」
「誰だ!?その客はどこのどいつだよ!こんなボロっちい店でたかが布ごときに30万も払う奴いるわけねぇだろーが!」
「・・・たかが?たかが布ごときぃ?30万円分布買ったのは私達!30万円分の布を買った奴が今アンタの目の前にいますぅ!」
「地雷踏んだー……」
海がボソッと呟く。
「布を馬鹿にするな!」
「おいおい嬢ちゃん俺にそんな口聞いていいのかぁ?俺はここらじゃ一番強ぇぞ?それにスライムなんか連れて、どういうつもりだ?」
「だから何なの?強いからなんなの?スライム連れててなにが悪いの?それにこの子の名前はスーちゃんだし!」
(確かに、なんでスライム連れてるんだろう?)
千鶴も今やっと佳恩がスライムを連れている事に気づいた。
久しぶりのお客様に、久しぶりのお買い上げ。
色々と見る余裕がなかったのである。
「ちょっと佳恩ちゃん…その辺でやめといた方が…」
「布を馬鹿にされて、黙ってられないです!」
なぎさが止めようとするが、もう間に合わない。
「じゃあ勝負するか?」
「勝負って…どんな…?」
佳恩がニヤァと笑いながら聞き返す。
「ちょっと佳恩ちゃん!危ないよ!」
なぎさの心配をお構いなしに佳恩は続ける。
「勝負の内容によっては、あなた死ぬよ?」
「死ぬのは嬢ちゃんの方だ!」
「おー殺す気満々?」
「勝負内容は、今ギルドにある依頼の中で、一番難易度が高い依頼を1つずつ受けて、先に達成できた方が勝ちだ!勝った方の意見が正解って事だ!たかが布か凄い布か決めてやる!」
「いいね…その勝負乗った!なぎささん!今ある依頼全部見して!」
「じゃ、じゃあギルドに戻ろっか」
なぎさが、急に自分に話が振られ、ぱむっと手を合わせる。
「なんだよ、そっちの嬢ちゃんギルド嬢かよ?」
「ギルド嬢だからなんなの!?」
佳恩はまだ先程の言い合いが脳に残っているようだった。
ギャンっと石無を睨みながら反論する。
「ちょっ、佳恩ちゃん…!」
(((なんでこんなくだらない理由で命が賭けられるんろう…?)))
晶、海、スーちゃんの3人はそう思っていた。