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小野から見た日常。【その2】

 夕方、友からラインが来た。

とも『TT』

おの『どうした?』

とも『インフルで休校になってる時に出かけてんじゃねえ!! って親に怒られた・・・』

おの『正論〆』

とも『勝手に〆るな怒!』

 この時オレはペンタブでアニメキャラを描いているところだった。細部の染色に苦戦しているとまたラインが来る。

とも『兄さま~』

おの『オレに弟はいない』

とも『生き別れの弟です』

おの『知らん』

とも『五年前に砂浜で助けられたカメです』

おの『知らん』

とも『二年前に拾われたネコです』

おの『拾ってねえわ!』

とも『あたしよあたし』

おの『誰だよ』

とも『あたしのこと忘れちゃったの?』

おの『だから誰だよ!』

とも『好きって言ったくせに~!』

おの『言ってねえわ!』

とも『今なにしてんの?』

おの『お前の相手してんだよ怒』

とも『ありがとう』

おの『どういたしまして〆』

とも『〆るな怒!』

 オレはスルーした。

『なんかしゃべれ怒!』

おの『妹に変わる』

とも『変わるな怒!』


『こんにちは』

とも『て、どっち? 妹?』

『妹です』

とも『お兄ちゃんに変わって』

『いやです』

とも『は?』

『と兄さまが言っています』

とも『ふざけんな兄!(怒)』

『兄さまはお絵かき中です。以上』

『おーい!?』

 ここでオレは離脱した。


 そして夜は更けていった……



 (とも)とは中学の時から仲がいい。家は近いが学区が違ったので、小学校の時は一緒に遊んだことはなかった。つるむようになったのは、中学に入ってから。入学してすぐ右も左も知らないヤツばかりで不安になっていた時、同じくあいつも教室で不安そうにしていた。それから先生が来てあいつが着席したのがオレの後ろの席だった。え、あいつオレの後ろなの? 実はお互い人見知り気質だったオレたちはすでに出来上がった輪の中に入れずにいた。でも一人でいるあいつなら、と声をかけた。

「おはよう」「おはよ!」

 朝家を出る時たまたま見かけて目が合うと、ほぼ同じタイミングでオレたちの声が発せられた。そのまま一緒に学校へ向かう。話してみたら気が合ったのでそれから毎日一緒に通学するようになった。部活も中学の時は同じバレー部だったが、文化祭の時そこそこ絵が得意だったオレはポスターのイラストを担当し、周囲からの受けもよく、それをきっかけに絵に目覚めたオレは、高校では美術部に入部した。友はそれには付き合わず、バレー部に入るのかと思ったが、本人曰く実は球技はあまり得意ではないらしく、試しに陸上部に入ったらまあそこそこできたのでそのまま続けている次第だ。確かに足は速い。手足も長くてイケメンだ。

 そうはっきり言ってあいつはイケメンだ。だから女にモテる。噂で他のクラスの女子や下級生にまで告られたという話を聞いたことがある。なのになぜか彼女はいなかった。なぜ作らない? まったくそれは腑に落ちなかった。気になったオレは、直接本人に聞いてみることにした。

「とも」

 ここは教室。前の席にいる友に声をかけると

「ん?」と言って友が振り向いた。

「なんでお前、彼女作んねえの?」

 友は「は?」と言ってすっとぼけるかと思いきや、さらっとこう答えた。


「そういうのって、作ろうと思って作るのもんじゃなくね?」


 へ? 質問したオレの方が困惑する。

「じゃあ、どうやって作るんだよ?」

 すると友は、またさらっと言う。


「恋してから作るもんでしょ」


「っ……」

 なんだそのイケメンすぎる発言は……!? 経験豊富な大人みたいなこと言いやがって……お前本当に高校生か疑うぞ!? オレは友の顔をじとーっとした懐疑と嫉妬の眼差しで見た。それが15年間一度も彼女ができたことがない奴の発言とは思えなかった。こいつ、なんか人には言えない秘密でもあるのか? じゃないと変だろ? そう勘繰る。

「お前ってさあ」

「ん?」

「なんかやべえ趣味とかある?」

 その問いに友は、やっと表情を崩した。

「は? ねえよ、そんなの!」とキレる。ちょっとうれしい、とオレはほくそえむ。

「じゃあなんで彼女作んないの? モテるくせに」

「別にそんなにモテねえし」

「でも告られたこと何回かあんだろ?」

「あるけど……」

「付き合いたいと思う子いなかったの?」

「う~ん」と唸る友。なんでか気になる。早く言え~!

 わけありであることを期待する、性格ひん曲がったオレ。友は開口した。

「オレさあ」

「うん」

 そうオレが促すと友は言った。


「自分から好きになった子じゃないと駄目だから」


「はあ、そうですか……」

 こいつ親友じゃなかったら殴ってたかも、とオレは拳を握り締めた。告白してくれただけでもありがたいと思う。オレなんか女子に告られたの一回だけ。それもただの変態だった。オレが女顔だから女装させたいとか、意味わかんねえんだけどっ! あとは告られたわけじゃないが、そっち系のやつ(♂)に言い寄られたりとか、そんなんしかねえ。それに比べて友よ、お前は贅沢すぎるぞ。


「でも付き合ったら好きになるかもしれないじゃん?」

「そうかもしれないけど……」と納得いかない様子で首を捻る友。ふとオレの頭にある考えが過った。

「もしかして、誰か忘れられない人でもいるとか?」

 そう釜をかけてみると

「え?」

 思いのほか友が動揺し、ドギマギして頬を赤らめた。

「ドキッ!」とオレの心臓がざわついた。

 なにその反応? 顔めっちゃ真っ赤になってるし

 かわいい。そう思ってしまった。え、なにこのオレの感情??

 自分で自分の反応に戸惑うオレだった。ドキドキが止まらない。ともがめっちゃかわいく見えてくる。


「とも」

「……?」

 オレと友は見つめ合った。


 キスしたい――――その欲求が押し寄せる。

 めっちゃこのまま、友と……



 キスしたい――――――!!


「ん、ん? どした、小野?」

「……」

 恥ずかしくなって、自分も顔が紅潮していくのを感じた。


「あのさ、オレ……」



 とそこに天の声が降ってきた。



「兄さま!」

 頭上に振ってきた甲高いその声に、オレはパチっと目を開けた。ここは……半覚醒状態のオレの意識はまだぼーっとしていた。


「遅刻しますよ。起きてください!」

 そう急かすこの少女は……

 オレの妹。てことは

「へ? 夢?」

「もう、何寝ぼけてんですか。早くしないと学校遅刻しますよっ!」

「え?」

 オレは慌てて飛び起きると、机の横にかけてあった鞄を持って部屋を出る。

「ちょっと!」

 妹がそれを制止した。

「パジャマ来たまま学校行くつもりですか!?」と言われ

「あ! やっべ」

 オレは足を止めて部屋に引き返す。

 あ……

「何もじもじしてるんですかっ? 早く着替えてください!」

 オレはバツが悪くなって苦笑した。妹をチラリと見ると

「着替えるから部屋出てて!」とその背中を押して部屋から追い出した。

 “あんな夢”見たからだな……と俯くオレだった。



 そんなこんなで今、学校(現実の)にいる。なんとか遅刻は免れたが、夢の記憶の断片が頭に残っていて、なんだか落ち着かない。


「聞いてる?」

「え?」

 後ろ向きに椅子を挟むようにして座る友が言った。目と目が合ってオレはまた夢の時のようにドキッとした。近っ、顔近っっ!?

「わっ!」と椅子を引き摺って後退する。

「何だよ……?」

「ごめん、今日はそっとしておいて!」

 そう言ってオレは机に伏せ、腕の中に紅潮した顔を埋めた。

「なんだよそれ?」

「……~~」

 

 腕の中でギューッと目を瞑り、オレは心の中で叫んだ。


 恥ずかしくて、お前の顔が見れないんだっつーの!! 



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