7.光の魔力
「エラの魔力の目覚めを祝して、乾杯」
とうさまの声でグラスを合わせる。
「魔力覚醒おめでとう、エラ」
「ありがとうございます、お義母様!」
この世界では、すべての人間が生まれながらにして魔力を持っている。しかし、生まれてからすぐに魔法が使えるようになるわけではない。成長の過程で、覚醒するそうだ。個人差はあるが大体12、3歳と言われているから、私はかなり早い覚醒だと、とうさまが言っていた。
「”年送りの会”までのあと半年で社交スキルを完璧にマスターしてもらうわよ」
「うっ! はい……」
年送りの会は、それぞれの領地を治める貴族が王城に集まって、年末に行われる王族主催のパーティーだ。私たちグランシア王国の貴族は、魔力覚醒を迎えた歳の最初の王が主催する年送りの会に出席して、成人と見なされる。子息女のお披露目の場となるため、大人たちはお披露目となった他家の子を見定めているとか。私、前世の記憶があるとはいえまだ7歳だよ? 家の名前を背負う重圧がすごい……。
「エラ、わたくしが社交界の先輩としてミッチリ指導してあげますわ!」
「よろしくおねがいします、マルシアお姉さまっ!」
マルシアお姉さまは昨年、年送りの会に出席したそうだ。お姉さまのデビュタント……見たかったよおおお! きっとお姉さまのことだから、完璧な社交界デビューを決めたんだろうなぁ。
「わたくし、エラに先を越されてしまいましたわ」
「シエスティーナお姉さまもきっとすぐ覚醒しますよ!」
「そうね。覚醒するのが楽しみだわ」
シエスティーナお姉さまはまだ9歳だ。私が早すぎただけで、覚醒していなくて当然の年齢である。
「にしても今年の年送りの会はすごいことになるぞ」
「とうさま、どういうことでしょうか?」
「第二王子殿下のデビューも今年なんだよ。殿下は王国史上最年少の8歳で魔力が覚醒したからと……ッあぁ! エラ、マズイことになった。殿下よりも更に早く覚醒したお前に注目が集まる。下手なデビューは許されない。うちは男爵家。高位貴族に睨まれたら、我が家は……! 絶対にデビューを成功させなければならない。」
えええええええっ! 家の名前を背負うどころか、私の行動が家の存亡に関わるってこと!? どうしよ、ある程度のマナーだけ気をつけて、あとは他の家の初々しいロリ令嬢を眺めながら過ごそうと思っていたのに! 私がデビューに失敗したら推しが路頭に迷う。バードウォッチングならぬ、ロリウォッチングなんてしている場合ではない。
「しかも、光の魔力の保持者は世代に1人現れるかどうか。これは半年とは言わず、3ヶ月で令嬢としてのスキルを完璧にしてもらわないといけないわ。まずは今度のお茶会よ!」
そんな、3ヶ月で完璧令嬢になんてなれない。……いやお姉さまたちの未来がかかっているんだ、やるしかない! すべては推しのためだ。やってやるぞ!
ピカーンッ!!!!
そのとき、私の身体が強く発光した。
「うわっ、眩しいッ!」
え、私光ってる!? あわわわわ、どうしよう!
「落ち着きなさい、エラ。動揺は魔力を暴走させるぞ!」
とうさまはそう言っているけど、どうすればいいの! そうだ、深呼吸!
「ヒッヒッフー! ヒッヒッフー!」
しばらく深呼吸(?)をしていると、私が発していた光は収まった。
「なんなの、その呪文は……?」
「こ、個性的な深呼吸だな……ははは」
「わたくしもそれを唱えたら魔力が覚醒するかしら。ひっひっふー」
「シエスティーナ、呪文で魔力が覚醒するなんて話はどこにもないわよ。エラ、貴女は魔力のコントロールも練習しないとダメね……」
シエスティーナお姉さまの天然属性が炸裂した。尊すぎるッ! 私にクリティカルヒット。私は気絶した……。
「みんなはもう寝たか?」
「ええ。二人にはエラは魔力の使いすぎで寝ただけだから心配しないでって言ってね……」
「そうか」
「浄化の光……。アレを使った後はあの子も、いつも倒れていたわよね」
「アレは強力だから、身体に相当な負荷が掛かっているのだ……」
「……マルシアがヤツに魔法をかけられていたわ。エラが覚醒して浄化したから大事には至らなかったけれど。もし、ラフィの予言通りなら、年送りの会の日にあの子は……ッ!」
「俺たちで、ラフィが遺したエラを守ろう。絶対、ヤツの好きなようにはさせない!」
「ええ。わたくしも最善を尽くすわ。このままじゃわたくし、ラフィに顔向け出来ないもの」
ひかりのまりょく。その ちからの ほんしつは。
_____ウチの娘が本当にごめんなさい。エラのこと、よろしく頼むわね。
つづく
「忌まわしき光の魔力の気配……いや、そんな不具合消したはず。アタシ、そんな設定、作ってないもの」