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6.光る令嬢

 ここはどこ……? 目の前でマルシアお姉さまによく似た金髪の女の子が、ショートヘアの女子生徒に水を浴びせた。


「オーッホッホホホ、なんて哀れな姿。びしょ濡れじゃないの」


 女子生徒はうつむいたまま、ふるふると肩を揺らしている。


「……ぁぁ」


「あら、泣いてしまったわぁ。彼に色目を使うのがいけないのよ」


 もしかしなくとも、これは前世で言うところの『悪役令嬢』というやつなのでは!? 尻軽ヒロインに男を奪われて、嫉妬に狂うっていう巷で話題の!……現実で王子やら宰相やらがそんなにチョロかったら国なんかすぐ滅ぶわ! そもそも悪役令嬢さんだって、そんな女に引っかかる男なんてこっちからフッてやればいいのに。


「キャーッ! マリーたんに水を……はぁはぁ、ご褒美です」


 ん?


「あ、貴女。何を言って」


「もう我慢できない、愛しのマリーたん。もっと罵って下さい!……じゃなかった、私とお友達になって下さい!」


 んんんん???


「は? 誰がわたくしの婚約者のアーク様を奪った女なんかと友達になるものですか」


 アークっていうのかそのクソ男は。というかマルシアお姉さまそっくりの容姿で、マリーって名前……まさかお義母様!? ということはロリお義母様ってことじゃないですかヤダァ、目に焼き付けよっと。


「誤解だよ、マリーたん。アークソ……じゃなかったアーク様はストーカー。私自身はマリーたん一筋だから! ずっと変わってないから!」


「ストーカー? どういうことよ!」


「そのままの意味だよぉ。あのゴミ『お前には俺が必要なんだ』『俺の女になれ』だのずっと言ってきやがって邪魔で邪魔で。丁重にお断りしたら『俺は侯爵の息子だぞ? 男爵令嬢ごときが逆らえると思っているのか?』と脅されるわ付きまとわれるわ……。私に必要なのはマリーたんだけだし、あのゴミのための女じゃなくてマリーたんのための奴隷になりたいのに!」


 あーわかる! 私もマルシアお姉さまとシエスティーナお姉さまのためだったら何でも出来るよ。つかアークとかいう粗大ゴミ、マジモンのヤバイやつじゃん。お前には俺が必要だ、とかどんだけ自己中なんだよ自分大好きちゃんかよ。それで断ったらストーキングとか、怖いわ。怖いしか出てこない。あれ、お義母様、そんなヤバい奴と婚約してるの!? 逃げて、超逃げて!


「え……えぇ?」


「本当はあんな男、私のレーザーで焼き殺してやりたいんだけど、愛しのマリーたんが悲しむから出来なかったの。こんな感じで」


 女子生徒はお義母様が持っていたバケツを指差した。すると指の先が強く光り、金属製のバケツを貫いた。……。え”、なんじゃありゃぁぁぁぁあああああ!


「あ、貴女……何者よ」


 そうだよね、急にロボットが放つみたいなレーザーが持ってたバケツを貫通したら驚くよね。あの子一人だけ世界観が違くない!?


「え? 私はラプンツェル・トリム。ただの男爵令嬢だよ」


「んなわけあるかぁぁぁあああ!」


 超激レア、お義母様のツッコミいただきました! ラプンツェルって髪長いアレじゃん。こっちのラプンツェルさんは髪短いけど。つか、メルヘンな名前してビーム出しまくるとか、ゴミ男とは別方面でヤバいな。……あれ、この人どこかで。

 どんどん意識が遠のいていく。あと少しで思い出せそうなのに……。




「……ッかあさまじゃねえか!」


あまりにも印象が違いすぎて思い出すのに時間がかかったけど、あの名前はかあさまだ。同姓同名の別人であって欲しいけど、あの声はまちがいなくかあさま。あの声で子守唄を何度も歌ってくれたもの。


「おぉエラ、目が覚めたのか!」


 気がつくと私はベッドの上に居た。あぁ夢か……ロリお義母様はともかく、かあさまは最早別人だったもんね。そういえば昨日、マルシアお姉さまに水を掛けられた後、倒れちゃったんだっけ。私の周りにはとうさまとお義母様、マルシアお姉さまにシエスティーナお姉さまと白衣のおじさん。多分お医者さんかな? みんな私のために集まってくれたみたい。心配掛けちゃったなぁ。

 お医者さんは私の健康を確認してすぐに、帰っていった。


 なにやらマルシアお姉さまが何か言いたそうにこちらを見ている。


「そ、その……昨日はごめんなさい」


「うん、平気だよ(むしろご褒美だし)。それよりお義母様とは話せましたか?」


 マルシアお姉さまは頷いた。そっか、なら良かった。お義母様はマルシアお姉さまの横で微笑んでいる。これで万事解決だね。


「やっぱりエラはラフィの娘ね」


「そうだな。ラフィも光の魔力を持っていたからな。まさかこんなに早く覚醒する(めざめる)とは思わなかったが。今日はお祝いだ!」


 はい? かあさまも持っていた光の魔力ってどういう……あ。あのビームじゃん。ちょっと、私もスー○ーロボット大戦しちゃうわけ? そもそも、この世界には魔法があるの!?


「エラが寝ている間ずっと光っていて、とても興味深かったですわ……光の魔力についてもっと知りたいわ」


 シエスティーナお姉さま、私を実験動物か何かだと思ってませんか! お姉さまにあんな実験やこんな実験をされるのは嬉しいですけどッ!


「そうだ! ラフィがエラが覚醒したときに見せるようにと遺したものがあるんだ」


 とうさまは透明な水晶を持ってきた。そして何やら呪文を唱えると、水晶から光が溢れ出した。


「これは……映像?」


『エラ、魔力が目覚めたのね。おめでとう……なんて堅苦しいのは止めよ止め。エラの前では教育に悪いと思って頑張って自分を繕っていたけれど、本当はこんなチャランポランな人なの。威厳のある母でなくてごめんね。エラ、もし私が死んだあとで困ったことがあれば、マリーたんを頼って。マリーたんは私の最推し、ええっと、マジ神、じゃなくてこの世で一番好きな人よ! あ、もちろん、とうさまも好きよ? でも一番はマリーたんだから! マリーたんはツンデレ……ええっと性格がキツそうに見えるけど、本当はすごくいい子なの! 私が困ったときもなんだかんだ助けてくれて。もし誰かわからないって言われたら、”貴女がバケツの水を掛けた女の娘です”って言えば絶対わかるわ。きっとマリーたんは顔を真っ青にして……でもそのときには私はもう居ないのよね。最後に光魔法の活用法を見せるから、参考にしてね。』


 そして映像は牛のような異形の怪物の姿を写す。それをかあさまが剣の形をとった光で切断。次の場面へ。切断した怪物の肉の表面をかあさまが光で焼いている。そして次。かあさまが肉を頬張りながらカップに入ったお茶を温める姿。最後は光でデフォルメしたお義母様を作って息を荒くするかあさま……。


 そして水晶から溢れていた光は収まった。


「エラのお母様って、なんというか……」

「個性的、ですのね」



「ちょっと! 俺は!? ラフィがマリーさんのことが大切だったのは知っているけど、俺についてはなんもないのかよ!」


「ラフィらしいわね。忘れていたけれど、ユーディーンは一人称が俺だったわね。学生時代に戻ったみたい」


「ずっとエラの前では”私”で通して来たからな。この雑な扱いも懐かしいな……」


 あの夢に出てきたの、やっぱりかあさまだったのか。

 私のかあさまが怪物を斬るようなアクティブな人だった件。しかもオタクだし、推しとかツンデレとか知ってるということはかあさまも、もしかすると転生者ってことじゃない? そして、とうさまがひたすらに不憫……。見てはいけないものを見た気分だ。





 ひかりのまりょくにめざめ、ははのしんじつをしってしまったエラ……とうとうバレちゃったわ。()はいつでも貴女を天国から見守っているわ。いつでも貴女の側に……極力いるようにはするけど、マリーたんの方にいたら許してね。だって神の目線で推しを見るなんて、オタクの夢じゃない! ゴホン、()()はいつでもおまえをみまもっていますよ。

                             つづく。

「エラ、わたしのかわいいむすめ。いい子でみんなにやさしくするのよ。そうすればいいかみさま(=マリーたん)が、おまえをたすけてくれる。わたしは天国からおまえ(とマリーたん)を見ていますよ。ずっとわたしはおまえのそばにいるから、だから……かなしまないで───」(1.可哀想な少女 より)


 こういうことでした。

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