シバラの町のリース
彼が生まれたのは、深い森の奥、獰猛な動物や危険な魔物が跋扈する過酷な環境だった。
そこに生きる生物たちは、常に生きるために争い、時には逃げ、そして隙あらば逆襲し、日々しのぎを削るまさに野生そのもの。
そんな生存競争の真っ只中のひとつの種族、その一員として、彼は生を受けた。
彼の種族は、一個体としては決して強くはなかった。むしろ弱い部類に入るだろう。
しかし、彼の種族は知恵を出し、道具を使い、戦い方を学び、なにより同胞と助け合った。巨大な魔物に力を合わせて立ち向かい、打ち破る。狩りがうまくいかないときは、少ない食料を分け合って食べる。襲い来る脅威に対し、一丸となって対処する。
もちろんすべてが上手くいくわけではない。狩りに失敗したり、逆に襲われたりすることで、傷つき命を落とす戦士は後を絶たず、どうしても食料が足りないときは、同胞を間引くこともあった。
それでも彼らは悲観することもなく、この世界を懸命に生き抜いていた。
そんな親や先達の生き様を見て、彼は育っていった。
☆
「はい。こちらが今回の報酬、小銀貨八枚と大銅貨三枚となります。ありがとうございました」
受付嬢のミレルが笑顔で渡してくる硬貨を、リースは受け取った。
この金額を、三つ星冒険者の一日の収入としてみるとき、高いか低いかで言えば十分に高い。
まあ、高いと言っても半人前扱いの三つ星にしては、だ。一日の宿代と食費でほとんどが吹き飛ぶ程度でしかない。
それでもリースには満足できる成果だ。
「いやー、リースさんは仕事が丁寧で助かります。常駐依頼は新人さんの仕事ですけど、新人て若い子がほとんどじゃないですか。子供って落ち着きがないし、冒険者になろうって子は特にそういう傾向がありますからね。どの薬草も適当に根っこから引き抜いて、みたいなことがしょっちゅうなんです」
困ったものです、とミレルは頬に手を当てて溜息を吐いた。
「薬草ごとによって薬効成分のある部分が変わってくるし、雑に引っこ抜いて成分のある葉や茎の部分を傷めたりで、結局むだになっちゃうものも多いんです」
「二つ星に昇格するときに説明されてるはずなんですけどね」
「そーなんですよー。せっかく説明してるのに、あれ絶対聞いてないですよ。それで適当に摘んできて、報酬が少ないってぶーぶー文句言ったりするんですから、まったくもうですよ」
憤懣やるかたない、といった感じの受付嬢は、一転して笑顔になった。
「その点、リースさんは文句なしの優等生ですね! 採取する部位も分かってるし、丁寧に扱ってくれるから廃棄する物もほとんどないです。採取時のマナーも守ってくれてるようですし、新人はみんなリースさんを見習ってほしいですよ」
採取時のマナーというのは、採取物を根こそぎにしない、同じ場所で短期間に何度も採らない、パーティメンバー以外の同業者とはかち合わないようにする、等々である。
ちょっと考えればわかる常識的なことなのだが、そのちょっと考えることすらしてくれない新人というのは、これで結構いたりする。そういう後輩を注意したり指導するのも先達の務めではあるのだが、自分たちのことで手一杯で時間を割けない冒険者も多いので、なかなか難しい。
むしろちょっとだけ先輩で、同ランク程度の分かっているひとに同行してもらって、一緒に仕事しながら教えてもらう、というのが理想的だとミレルは思っている。
そして、その理想的なちょっと先輩が、目の前にいるわけで。
「う~ん、どこかに新人のインストラクターやってくれる親切なひととかいませんかねぇ」
さも困ってますという態度を取りつつ、チラッチラッとあからさまに思わせ振りな視線を寄越してくるミレルに、リースは苦笑する。
「居ないのではないですか、そんな殊勝な方は」
「……ですよねー。リースさんがやってくれればいいんですけど」
とうとう直球で言われた。
「私もべつに生活に余裕があるというわけではありませんから。まあ、報酬次第では引き受けることもやぶさかではありません」
「あ、報酬次第では受けてくれるんですね」
ミレルはちょっと意外に思った。
新人をぞろぞろ引き連れて、冒険者の心得やらマナーやらを教えるのは骨が折れる。なにせ前述したとおり、新人というのはちょうど生意気盛りといった年頃なのがほとんどだ。そんな面倒な子供の不平不満に耐えながら、懇切丁寧に我慢強く教えるなど、多くの人にとって苦行だろう。
そんな仕事、いくら金をもらったからと言って積極的にやりたいと思う者は希少だ。
そしてリースは、どうやらその希少な人物らしい。
とはいえよくよく考えてみると、そこまで意外というわけでもないかもしれない。
彼女は冒険者には珍しい非常に穏やかな性格で、正直怒るところというのが想像しづらいくらいだ。どことなく子供好きっぽいし、教え方とかすごく優しく教えてくれそうだし、しかもこんなきれいなお姉さんになら、思春期の少年は本気で反抗するようなこともしづらいだろうし。
というか考えれば考えるほどパーフェクトじゃない?
リースにしても、新人の教育には多少の自信があった。その根拠として、
「これでも私、昔はやんちゃな人たちを指導したりもしていたので」
そう、軍人として、厳つい荒くれ軍人どもを率いていた実績があった。さらにエッジブレイクという修羅の一族の教育ノウハウ持ち。
泣く子も黙る、というか泣く子の涙が枯れ果てるまでしごき上げる、驚異の育成法を用いれば、小生意気な少年少女などすぐにでも聞き分けがよくなること請け合いだ。
その時、ミレルの背筋を、野生的な第六感めいたものが走り抜けた。いわゆる悪寒である。
――なぜだろう、この人に教育とか訓練とか、その手の事を任せてはいけない気がする。
なんの根拠もないまま、確信に近い予感を覚えるミレル。
「……まあ、これはあくまで私の思い付きですので、ギルドから依頼して行うというわけではないんですけどね。少なくとも今は。それで、ですね――」
ミレルは一度周りを見渡して、ほかに並ぶひとがいないことを確認してから続けた。
「リースさん、ギルド職員に興味あったりしません?」
「ギルド職員、ですか?」
「そうです。これはさっきの話とは違って、ギルド長にも話が通っています。リースさんさえよければ、軽い筆記試験と面接だけで採用されますよ」
この申し出は意外、というわけでもなかった。
自分でも職員からだいぶ好意的に思われていることは自覚していたし、冒険者稼業にこだわりがあるわけでもないことは、普段の仕事からも分かることだ。いつかは勧誘されるかもしれない、とは予想していた。
ただ、思ったよりも随分と早かったという思いはある。
「私、この町に来てまだ半年も経ってないのですが。そんなあっさり誘ってしまっていいのですか?」
「問題ないですよー。リースさんたら読み書き計算ができて、ほかの冒険者に仕事を斡旋する手際からも事務能力に問題なし。おっさん冒険者どもの下品な冗談にも、笑って受け流せるくらい柔軟で、仕事ぶりも真面目そのもの。しかもすっごい美人! 住んでる期間なんてどうでもいいくらい文句なしです」
思った以上の大絶賛に、リースは嬉しく思う。過去を振り返ってみても、戦闘以外の事をここまで褒められたことはなかった。だが、
「ありがたい申し出ですけど、遠慮させていただきます」
「ええ~、なんでですか~?」
断られたことがいたく不満らしく、ミレルはぷくーと頬を膨らませた。彼女はリースよりも年上のはずだが、こういう子供っぽい仕草が愛嬌として似合う外見だった。
それはともかく、リースには定職につくには気が引ける理由があった。
「正直、いつこの町を離れることになるかわかりませんから。定職に就いてしまうと、その時が来たときにほかの職員方に迷惑が掛かってしまいます。ですから気ままな冒険者という立場が、一番いいのです」
詳しくは語らなくとも、これが理由のほとんどだ。
シェルファリース・エッジブレイクの名は近隣諸国に轟いている。ある程度はその容姿も。
いつリースの素性がばれるとも知れず、国の上層部に知れたりしたら、それはもう様々な手練手管で勧誘して来るに決まってる。
なにせリースときたら、防衛戦力としてはコストパフォーマンスがとんでもなく良い。一般人の恨みを買いまくってる帝国はともかくとして、それ以外の国なら喉から手が出るほど欲しい人材なのだ。
もしもばれるようなことがあれば、その時は即座に逃げる。一切躊躇せずに国外逃亡する所存だ。
そういう訳で、身軽な冒険者であることが最善の状態なのである。
あとは、せっかく自由な身の上となったのだから、もっと世の中を見て回りたいという思いもある。
ミレルはいつ町を離れるかわからない理由というのが気になったが、それを詮索することはマナー違反だということも重々理解していた。深い溜息を吐いて、肩を落としながら、こう言うのが精一杯だ。
「それじゃあ仕方ありませんね。でも気が変わったらいつでも言ってくださいね。歓迎しますから」
「その時はよろしくお願いします。では失礼します」
「はい。本日もありがとうございました。お疲れ様です」
ミレルの労いの言葉を受けて、リースは冒険者ギルドを後にした。
夕暮れにはまだ少し早い時間帯の街路を、リースはひとり歩く。
目的は特になく、ただ街並みを眺めながら歩いているだけ。ただの散歩である。
仕事の後の、宿で夕飯を摂るまでの空いた時間で町を散策することは、彼女のちょっとした日課というか趣味であった。
この半年弱で、すでに町の大体のところは見て回っている。あと行っていないのはスラム街くらいか。
どんな町にもそういうところは存在するもので、このシバラも例外ではない。さすがにリースといえど、物見遊山で貧民街に足を運ぶのははばかられた。
今歩いているところは、主要な大通りからは外れた小路だ。人通りが少なく、少し寂しい雰囲気がする、情緒があふれる裏通りだ。こういう場所に構える隠れた名店とか、怪しげな道具店とか、なんだかワクワクしてしまう。
ささやかな楽しみではあるが、これまでのほとんどの年月を殺伐とした環境で過ごしてきたリースには、とても貴重な時間である。
その日は特に何か変わったものが見つかることもなく、散策タイムを終了。中央通りに戻って帰路に就く。途中で顔なじみになった露店のおじさんから果実水を購入、ほかにも色々な露店商の人たちから声をかけられた。
もうすっかり顔を憶えられていた。毎日のように練り歩いているうえに、リースは紅い髪が特徴的なとにかく美少女だ。物腰も平民とは思えないような丁寧さで、印象に残りやすい。話しかければきちんと応対してくれる気安さもあり、住人の一人として認知されていた。
日が暮れる頃、彼女が住処として常用している食事処兼宿屋〈熊と羊亭〉に到着。中に入れば、熊のような体格の主人と、羊のようなフワフワヘアと雰囲気の女将さんが出迎えてくれる。
「あら、おかえりなさい、リースちゃん。すぐにごはん食べるかしら?」
「ただいま帰りました、メルベルさん。いただきます」
自分の家のような会話であるが、半年近くも泊まり続けていれば、単なる客以上の親しさが生まれるのも不思議ではない。
熊のような主人であるベクマスとも挨拶を交わして、部屋の鍵を受け取る。
熊と羊亭は大概の宿屋と同様に、一階が食堂、二階が宿泊部屋となっている。部屋には鍵が付いていて、造りも頑丈、手入れも行き届いている。料金は朝食込みで一泊小銀貨六枚。
リースの一日の稼ぎの大半が吹き飛ぶ金額ではあるが、防犯を考慮して最初からこの宿を利用している。
全財産を使用人たちに明け渡し、わずかな路銀しか持っていなかったはずのリースが、なぜ冒険者になる前から泊まることができたのかというと、この町にやってくる前に稼いでいたからだった。
これまでの旅の途中で、盗賊に二度ほど襲われたことは述べたが、返り討ちにしたのはもちろんのこと、先立つものが心許ないことを思い出したリースは、逆に盗賊からアジトの在処を聞き出し、逆に襲い掛かってため込んだ彼らの財産を奪い取った。さらに殺さず仕留めた盗賊どもを、立ち寄った町に突き出して犯罪奴隷として売り飛ばし、褒賞金としてせしめていたのである。それを二回。
どっちが盗賊だがわからない所業だが、リースには良心の呵責は一切なかった。護国の剣として在り続けたリースからしてみると、この手の犯罪者というのは一番赦せない存在だった。
餓死しそうな者が食料を盗むのであれば情状酌量の余地がある。働きたくても働けず、食うに困って犯罪に手を染めるのは、本人だけの責任ではなくその地を治める領主の責任でもある。
しかし、この賊というのは違う。暴力で脅し、真面目に働いている人たちの成果を掠め取り、命すらも奪う。あるいは賊に身を堕とす理由もあったかもしれないが(実際に捕まえた盗賊たちは家族のために仕方がなかった云々などと言い訳していた)、それを理由に許してしまえば苦しくても品行方正に生きている人たちに申し訳が立たない。
どんな理由があったとしても、他人を食い物にした時点で相応の罰を受けてしかるべきなのだ。
そんな訳で、盗賊団二つ分の金品と褒賞金を得たリースは、実は結構小金持ちだったりする。
部屋に入って荷物を置き、外套を脱いでハンガーにかけ、鍵を閉めて一階に降りる。そのまま食堂には入らずに外に出て、裏庭の井戸で水を汲んで手を洗う。
それを終えれば食堂に入り、定位置となっている片隅のテーブルに腰かけた。なにぶん目立つ容姿をしているので、なるべく人目につかない場所をと望んだ結果だ。
席に着けばすぐにメルベルさんが夕飯を持ってきてくれた。メニューは白パンがふたつ、野菜を何種類も煮込んだスープ、葉物野菜の上に乗せた豚肉の薄切り焼き。高級レストランでもない限り、メニュー表のようなものはなく、あるものを出すというのが一般的だ。
女性が一人で平らげるにはやや多めの量だが、リースは健啖家だ。だてに何年も軍人をやっていたわけではない。
いただきます、と感謝の言葉を言ってから、ナイフとスプーンを手に取る。それからものの十分ほどですべての皿が空となった。かなりの早さで食べているにも関わらず、下品どころか上品に見える食べ方は、はたから見たらそこだけ時間の進みが早まってんじゃないかと思えるようだ。
食後の余韻に浸ってゆっくりと水を飲んでいる間に、食堂の中が随分と騒がしくなってきていた。どうやら今日は大入りらしい。
そうなると決まってメルベルさんからお声がかかるのだが、
「リースちゃん、おねがいできるかしら?」
案の定、エプロンを差し出しながら要請された。
何のことかというと、給仕のお手伝いだ。この熊と羊亭はベクマスとメルベル夫婦で切り盛りしているが、流石に夕飯時となると手が回らなくなる時がある。それを見かねたリースが、自分から手伝いを申し出たのだ。ちなみに、一回の手伝いで、夕飯一食分。破格の安さではあるが、リースは気にしなかった。ちょっとした善意のつもりであったし、給仕という仕事に興味もあったからだ。
「お、今日はリースちゃんがもてなしてくれんのか。ラッキーだな」
エプロンを身に着けると、常連客のおっさん連中からそんな声が上がった。
「あらあら、わたしじゃ不満だったかしらぁ?」
メルベルのほわほわした中に妙な凄みのある笑みを受けて、いやいや、と慌てて手を振るおっさん客。
「女将にはほら、すでに大将がいるだろ? 旦那がいるのに手ぇ出すわけにゃいかんだろ」
「いつも言ってますけど、リースちゃんに不埒な真似は禁止ですからね」
「フッ、そいつは無理ってもんだぜ。そこに美人の尻があったら、手を出せねぇほうが失礼ってなもんだ」
「……全敗のくせに」
「くっ! だが今日こそは必ず!」
「本人の前でよく痴漢宣言ができますね」
目の前でしょうもない会話を繰り広げるメルベルと客たちを尻目に、リースはいっそ華麗とすら思えるような動きで料理を運び、食器を下げ、テーブルを拭いていく。
「おう、ありがとよ、リースちゃん。――そして隙あり!」
「ありません」
その間にセクハラおやじどもの臀部に伸ばされる魔の手を、軽やかに避ける。隙のない身のこなしと、鮮やかな足運び、さらに手に持ったお盆による鉄壁のガード。
結局、その日も誰一人として触れることができずに、リースの就業時間を終えた。
「ちくしょうっ、なんで触れないんだっ」
「まるで後ろに、いや尻に目が付いてるかのようじゃねえか」
「次こそは、次こそは必ず!」
口々に負け惜しみの言葉を吐いて引き上げていく負け犬ども
だがこの程度の野郎どもに触らせてやるほど、リースは甘くない。乙女のお尻は安くないのだ。
「おつかれさまー、リースちゃん。今日もありがとうね」
「どういたしまして。メルベルさんとベクマスさんもお疲れ様です」
客の居なくなった食堂で、お互いを労い合う。
「これ、良かったら飲んでね」
「ありがとうございます。いただきます」
メルベルがくれたのは、少しだけアルコールが入った、数種類の果汁を混ぜ合わせたブレンドジュース。口当たりがよく、爽やかな酸味とまろやかな甘みが絶妙に絡み合った、女性に人気の飲み物だ。
こうして客の居なくなった食堂で、店主夫婦と雑談を交わすことが、お手伝いを終えた後の常だった。
「やっぱりリースちゃんがいてくれると助かるわぁ。真面目で働き者だし、お仕事の手際もいいし。わたしたちに息子がいたら、お嫁に来てもらいたいくらいよ」
「そんな、大袈裟ですよ」
べた褒めするメルベルに、リースは苦笑する。なんだか冒険者ギルドでも似たようなことを聞いた気がする。
「大袈裟じゃあないわよ。ねぇ、アナタ」
妻から話を振られたベクマスは、無言でこくりと肯いた。寡黙なひとなのである。
「ほら、夫だってそう言ってるわ。というか、いっそうちの娘にならない? それが嫌なら正式な従業員とか、ね、ね?」
フワフワした見た目とは裏腹に、メルベルさんは押しが強かった。まあ、それくらいでないと宿屋の女将は務まらないのだけれど。
もちろんリースはその程度で押し切られたりはしない。彼女はノーと言える女なのだ。
「生憎とそういうわけにはいきません。いつこの町を出ることになるかわかりませんから」
「冒険者ですものねー。でも冒険者にこだわる理由ってあるのかしら?」
「冒険者である必要性はありません。ですが、身の上から身軽な立場でいるのが望ましいのです」
「まあ、ひとには色々あるものねー。残念だけど仕方ないかー」
「すみません。ですが、ここにいる間はお手伝いは続けさせていただきますので」
「ええ、それはよろしくね! ――それじゃあ、リースちゃんも明日もお仕事でしょう? ここらでお開きにしましょうか」
「はい。失礼します。おやすみなさい、メルベルさん、ベクマスさん」
おやすみなさい、と店主夫妻から挨拶を返してもらい、リースは自分の部屋へと引き上げた。
この後は井戸で水を汲んで、濡れタオルで体を拭き、歯を磨けば就寝準備は完了だ。
今日というを日を振り返ると、色々な人たちから勧誘されたり声をかけられたりしていた。
自分はこの町から受け入れられている。それが分かる一日だった。
この世界の通貨について。
通貨の最小の単位は銅貨から始まり、大銅貨、小銀貨、銀貨、小金貨、金貨、聖貨となります。
銅貨は日本円で約十円くらいと考えていただければ。そこから十進法で上がっていきます。
ただし聖貨だけはちょっと特殊。聖貨は聖銀と呼ばれるファンタジー物質で鋳造されており、この聖銀は世界でただ一つ聖力を宿した物質です。
聖力が何かはここでは省きますが、簡単に言うと「神の力の一部」です。つまり聖銀とは神に祝福された金属ということになります。
ちなみに人造聖剣のほとんどはこの聖銀を材料に使っています。
そのため聖貨は商取引で使われることはほとんどなく、国家単位での取引の材料に使われ、聖貨を多く所有していることは国のステータスのひとつとなっています。なので個人で所持しているものは大変希少です。
以上の理由から、どれほどの大商会であろうとも取り扱うのは金貨までというのが一般的です。