始まりの村 - 2
「…ハッ!……フッ!……ハッ!…」
迎えた15歳の誕生日。
朝目覚めた俺は自宅の裏庭で、日課である剣の素振りをしていた。
この家には現在母と2人で暮らしている。
父は素質 : 剣士を授けられ、母と出会うまでは冒険者として世界を旅をしていたようだ。
母と結婚してこの村に移り住んでからも冒険者ギルドからの依頼を受け、魔物を討伐し、生計を立てていたらしい。
それなりには強かったと聞く父だが、ある日依頼先で強力な魔物と出会い負傷。その後その時の傷が原因で還らぬ人となったそうだ。
まあつまり、父は俺が物心付く前に死んでしまったのだ。
もしもの時は自分が母を護らないといけないと思い、毎朝剣の素振りを始めた。
それは例え成人になる誕生日であろうと変わらない。
10年程続けた結果、それなりに鋭い剣筋になっているであろうことは本人である俺にもわかる。
「199っ!……200っ!!……ふぅ…。」
毎日の日課を終えた俺は家の裏を流れる川の水を浴びた。
成人の儀は月に1度、王国内の数ある教会の中より厳選された、資格ある教会でのみ執り行われる。
アルケヘルト王国の首都『アルケヘルト』
北部に位置する魔法が盛んな都市『グリムメッツ』
東部に位置する鍛冶が盛んな都市『シュミトベルク』
西武に位置する機械が盛んな都市『マシーヌディフィス』
南部に位置する剣術が盛んな都市『エペルパルク』
ここアルケヘルト王国では、この5つの都市で成人の儀が執り行われることとなる。
成人の儀当日は、その月に成人を迎えた少年少女が王国内各地よりこの5つの都市の教会へと集まり、神より素質を授けられる。
ギルも他の新成人たちと同じく都市へ向かい成人の儀を受けることとなる。
ギルが住むアルバ村は王国の南部に位置しており、アルバ村から1番近いエペルパルクへは乗合馬車で3日の距離だ。
エペルパルクへ出発する日、アルバ村の村人たちは総出でギルを成人の儀へ送り出す。
「小僧!いい素質をもらってくるんだぞ!」
「当たり前だ。俺だぞ。」
「ギルが成人か…、立派になって…」
「俺は生まれた瞬間から立派だ。」
「ギル!気をつけてね!」
「うむ、ユーリ好きだ。」
「ギル、これを渡しておくよ。楽しんでおいで。」
そう言って手を差し出す母から、小袋を受け取る。
中を開けると金貨1枚と銀貨が数枚入っていた。
母が苦労して少しずつ貯めてくれていたお金であることはギルにはよくわかる。
「ありがとう母。俺はいい素質を授る。そうしたら母に美味いものを食わせてやろう。」
そう言って村を出た。
振り返れば皆がまだギルへ手を振っていたので手を振り返した。
途中で成人の儀を執り行う教会への乗合馬車に乗り込む。
空を見上げる。頭上に広がる雲ひとつない空は女神から私への祝福なのだと、ギルはその時そう信じることにし、持ってきた干し肉をナイフで小さく千切り口へ放り込んだ。