閑話:私が見たもの
前話のハイエルフの面接官視点です
私は学園都市ヒュグロに存在する国立ヒュグロ学園にて学園長を務めるハイエルフのミリータ・E・L・ララントスである。
学園長と言っても大した存在ではない。ただ学園のまとめ役というだけで、基本的な運営は下の者たちがやっている。
そんな私が一番忙しくなるのは年度終わりのこの時期ーーー新規の教員を採用する季節になるときだ。
我が学園は毎年前年度に減ってしまった人員の補充のために新規の教員を雇うことにしている。
人員の欠損は様々な要因が挙げられる。引き抜きや汚職による追放ならまだいい方だ。なぜなら最悪死亡してしまうこともあるからな。
私の経営方針は完全実力主義だ。
それゆえ、この学園では実力のないものは淘汰される運命にある。
それが教師であってもだ。
そう言った様々な理由から減った人員を補充するために毎年採用試験を執り行い、そしてその最後の試験である面接は私直々に行うことになっていた。
今年もこの季節がやってきた。
たった1日だけだが、何百という志望者を一人一人見ていくのは毎年骨が折れる。
だが、これは必要なことだ。私自らの目で人材を見定めることによって、不出来なものを学園に入れないという大切な作業なのだ。
私は始める前から少し疲れながらも、新たな教員候補を見つけるために面接官としてその席に座った。
午前の筆記、午後の実技を終えたらあとは私の仕事だ。
午前の筆記試験は恙無く終わった。
午後の実技試験では何かトラブルがあったらしいが、ここでは毎年なんらかしらは起こるから気にしない。
そしてやっと私の仕事がやってきた。番号1番のものから順番に品定めをしていく。
やはりというべきか、この面接はあまり重要なものと思っているものがいない。
なぜなら明確な点数が出る前2つと違って、これは私がどう感じたかという曖昧な判断基準しかない。そのため、いくら頑張っても結果がわかりにくいからだ。
実際、私もよっぽど性格に難がある人間でなければ優秀でさえあれば学園に迎え入れるつもりではあった。
流れ作業のように次々と入ってくる志望者たちを事前に提出してもらった書類を見ながら品定めしていく。
今のところ、優秀な人材がちらほら見かけるが眼を見張るほどのものはいなかった。
「ふぅ……あと半分くらいかな?」
「そうですね。もう折り返し地点は過ぎています」
独り言のつもりで放った言葉は、志望者をこの部屋に招き入れる役割を担ってくれている部下の1人に拾われた。
そうか、もう半分終わったのか。
そう思いながら私は次に面接するものの事前書類を見た。
名前は サイカ フワ
年齢 33歳、種族は妖精族とあった。
「ふむ、妖精族とは珍しいな。ほとんど個体数はいないはずだけど……まあいい。呼んできて」
妖精族というのは空気中を漂う自我のない力の塊である精霊が自我を持ったものである。
その特性は元となった精霊に大きく影響される。
また、妖精族の特徴として力は弱いが魔力を多く蓄えられるというものがあった。
私はハイエルフという種属上、そこそこ妖精という存在に詳しかった。
ーーーーコン、コン、コン
私が部屋で待っていると面接室の扉がノックされた。
結構丁寧な妖精さんなのねと思いながら私は
「入っていいですよ」
と入室許可を出した。
「失礼します」
その妖精さんはお辞儀をしながら入ってきた。
見た目は本当に可愛らしかった。透き通るような肌に、真っ白で腰まである長い髪。
パッチリと開いたお目目に、柔らかい表情。
それらの見た目的な要素だけ並べれば可愛らしい女の子と思うだろう。
もし、見るものが小さな女の子が好きな変態だったら魅了されてもおかしくはない。
だが、そんな可愛い女の子の妖精を見た私は今にも吐きそうになっていた。
うげえええええええええ、という声をなんとか心の中だけにとどめた私を褒めてほしいものだ。
このサイカ フワとかいう妖精……いや、妖精なのこれ?
絶対何か別の生き物でしょ!!
私の目は特別性で、通常では見えないものも簡単に見える。
例えば精霊、魔法を使うために手を貸してくれる良き隣人は普通なら見えないが私の目には捉えることができた。
私はその目のおかげで魔法に対して他より高い理解を得ていたし、それを昇華させた技術ーーー術式も少しだけど使えるようになった。
だが、今だけはその特別な目を呪った。
私の目の前に現れた妖精??? は普通なら可愛い女の子に見えるのだろう。
だが、私の目にはありとあらゆるものを磨り潰して固めた人型のナニカとしか言いようがないものに見えていた。
私がまだ100歳にもなってない頃、運悪く黒龍王と遭遇して命からがら逃げ帰ったことがあったけど、目の前の妖精はその時のことを思い出すほどの威圧感を秘めていた。
私はこの400年間、余裕というものを崩したことがないことをちょっとした誇りに思っていた。
どんなことがあっても、黒龍王と出会った時と比べるとマシ、あの時もなんとかなったのだから今もなんとかなる。
そう思うことでどんなものにも立ち向かうことができた。
黒龍王よりマシというのはもはや私の口癖にすらなり得るほど心の中に浸透している言葉だった。
だが、目の前の妖精にはその言葉を使う気にはなれなかった。
それよりむしろ……黒龍王の方が何倍もーーーー
私は考えるのをやめた。
そして用意した座席の右斜め後ろで立って待っている妖精に座っていいと許可を出した。
上から目線だとキレられるかもしれないと内心ビクビクしていたが、なんとか表に出さないように努力した。
そして、私にとって地獄のような面接がスタートした。すぐに終わらせたかったため、掘り下げずに最低限のことを聞くことにした。
「あなた、お名前は?」
「はい、西河 不破と申します」
「なぜ我が学園に?」
「ここならコネなどがなくても実力で採用されると思ったし、完全実力主義というその理念に感銘を受けたからです」
どうやらこちらの質問にははっきりとした声で礼儀正しく答えてくれた。
だが、油断などできるはずもなかった。今もその巨大すぎる力が見えているがために私は恐怖に押しつぶされそうになっていた。
私は自分が打ち立てた完全実力主義という方針を今日ほど呪った日はなかった。
過去の私も、こんな厄災みたいなものがくるとわかっていたなら他の学園と同じような貴族贔屓の学園にしていたことだろう。
「あなたはなぜ教師になりたいと思ったの?」
「はい、私は自分が学校に通っていた時に担任の先生との会話を通して教職というものに興味を抱きました。そこから調べているうちに、これが私が望んだ職業だと思うようになったからです」
まるで私がこう質問するのがわかっているかのように、明らかに用意した内容の答えを口にするフワ。
嘘だ。絶対に嘘だ。
きっとこいつは私の学園をめちゃくちゃにするためにここにきたのだ。
質問に対する答えが嘘くさかったので私はそう結論づけた。
とりあえず次が最後の質問だ。
ここさえ押さえておけばあとは私のさじ加減でいつでも面接を終わらせられる。
「はい、よく分かりました。では、あなたの長所と短所を教えてください」
「はい、長所は地道な作業が得意なこと。短所は運動が苦手なことです」
地道な作業って何!? プチプチ人間を潰していくことだったりする!?
あと運動が苦手? 妖精だからーーーーと言いたいのだろうけどあなた絶対妖精じゃないよね?
心の中でツッコミを入れながらも、早くこの妖精???には離れて欲しかったので退出を命じた。
するとその妖精???はスッと立ち上がって流れるような動作で扉の方に歩いていく。
その姿を見て油断はできずとも少しだけ安心していた私だったが、直後、くるりとこちらに体を向けられて少しビクッとなった。
あれ? 私何か気に触ることした!? 何か失敗したの!? 私のエルフ生ここで終わっちゃうの!?
そう思ったが、その心配は杞憂だったようで彼女は
「失礼しました」
と言って退出しようとした。
扉をあけて出て行こうとする妖精???に私は1つ、質問を投げかけた。
ぶっちゃけ、出ていってもらえるなら早く出ていってもらいたかったが、これは確認するべきだと思ったからだ。
「ちなみに、参考までに聞きたいのだけどあなた何歳?」
「あ、はい。私は今年で34歳になります!」
はっきりとした声で妖精???は今は33、今年で34と答えた。
そしてそのまま部屋から出ていった。
張り詰めた緊張の糸がプツリとキレてしまったような感じがした。
そして
「いや、33って絶対嘘でしょ! あれ、絶対3000年は生きて何億人と殺しているはずよ!!」
妖精は例外はあるが、その身に魔力を蓄えれば蓄えるほど力を増す。
そして魔力を蓄えるには時間がかかる。つまり長く生きた妖精ほど強い妖精になるのだ。
あれが妖精かと言われると私は真っ先に首を横に振りたいと思っているのだが、もし仮に自己申告通り妖精だった場合、あれがどれほど生きてどれほど力を蓄えているのか、想像するのすら怖かった。
それから先の番号の者たちを見たが、あの妖精???よりヤバいやつは当然ながらいなかった。
そして全ての面接が終わり学園長室で私は1人、頭を掻きながら息を荒くしていた。
「はぁ、はぁ……アレを、不採用に?? 出来るわけがない!! そんなことして不興を買ったら何をされるかわかった者じゃない! でも、学園に入り込まれるのも………」
私は名前の欄にサイカ フワと書かれた書類を机の上の広げながら1人葛藤を繰り返していた。
そして寝ずに考え続け、日が昇ったのを窓から入ってくる朝日によって気付かされた時、憔悴しきっていた私はこのサイカ フワを学園に招き入れ、なるべく機嫌をとろうと決めた。
その後、国から異世界からきた者を何人か引き取ってくれというお達しがあったが、そんなものより絶対にやばいものをすでに引きれる覚悟を決めたあとだったのですんなりと話が進んだ。
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