採用試験
採用試験は筆記、実技、そして面接と3つの方法で受験者を吟味するらしい。
妾としては実力主義を謳うのだから実技だけでよくないのかと思うのだがな。
午前が筆記、午後から実技、それが終わったら面接の順番だ。
フワは緊張した面持ちで筆記試験が始まるのを待っておった。事前に与えられた番号によって座る場所が決まっておるらしく、フワは壁際に座っておった。
深呼吸をしながら精神を落ち着かせる様子のフワに妾が何か声をかけるのも無粋だろうと思うたので妾はただ見守るだけにとどめておいた。
それから少しして、試験監督の者がやってきて試験の問題用紙と答案を一枚一枚配り始めた。
大量におる受験者に対して、ゆっくりゆっくり配るその姿は見ていてまどろっこしい気分にさせられた。
もっとパパッと配れんのか!
フワはそのことに関して何か感じておる様子はなかったが、見ておる限り妾と同じことを思っておるやつは少なくはないぞ。
それから試験中の注意事項などの確認等が行われた後、やっとこさ筆記試験が始まった。
妾はフワの視界越しに試験問題を見てみた。
ふむ、問題のジャンルは多岐にわたるみたいであるの。
でもやはり魔法に関する問題はそこそこ多いのだ。
む? 魔法に関してはかなりの数出題されておるが、術式に関してほとんど問われぬのはどういうことだ? こちらの方が戦いにおいては重要であるだろうに……
まぁ、人間の学校なぞその程度のレベルということよの。
これなら2ヶ月みっちり勉強せずとも頭の回転が早いフワなら合格できたやもしれぬ。
こやつは計算問題に関して言えば妾をも驚かせるほどに素早く解答を導き出すほどであったしな。
筆記試験に特に興味がなくなった妾は後のことはフワに任せて少しだけ眠っておった。
そして眼が覚めると試験が終わっておった。
回収される際、ちらりとフワの答案を見てみると空欄がちらほら見られた。
えっと……あぁ、歴史や宗教の問題か。それは妾たちは誰も詳しいことは知らんかったから仕方ないの。
「はぁ……テストで空欄を作っちゃったのいつぶりだろう……」
フワは落ち込んでおったが、気にすることはない。歴史など学んでも大して役に立たんし、宗教だの神話だのはくだらないにもほどがあるからの。
そして次は少しの休憩を挟んでから実技試験だった。
なんでもいいから試験監督の見ている目の前で設置された人形を壊せというシンプルなものだ。
「224番、始め!」
フワの前の男は魔力で身体を強化して巨大な斧で滅多打ちにして壊しておるのが見えた。
その迫力にフワは気圧されてしまっておった。
全く、世話の焼けるやつよ。
『お主、今のを見て怖気付いた訳ではあるまい?』
「いや、そんなことないよ。ちょっとすごいなって思っただけで……」
『全く、お主はフワであるが今は妾、アイディールでもあるのだぞ。しっかりせい』
「そうだね。私はアイディール……最凶災厄の妖精王……」
少し声をかけてやったら何やらブツブツつぶやき始めた。
妾自身から発せられたものでもあるため、妾には容易に聞き取れる。こやつ、妾をなんだと思っておるのだ?というような内容の言葉をつぶやいておった。
最凶災厄とか、大虐殺をしたとか、妾は断じてそんな物騒な存在ではないぞ?
あっておるのは妖精というところだけではないか。それも、王ではない。
「224番? 動かないようならこのまま辞退するか?」
「いいえ、ちょっと緊張してただけです。行きます!! 弾けろ!!」
フワが言ったのは『弾けろ』の一言だった。魔力を込めて発せられたその言葉は精霊に届き、込めた魔力に応じた現象を現実のものとする。
ただ、今回は対象指定がなっておらんな。
精霊は『人形を弾けさせてくれ』という願いを確かに聞き届けたが、『どこの』という指定がなく大量に魔力を込めて発動させたためーーーー
「うわぁ!? なんだ、急に魔導人形が壊れたぞ!?」
「こっちもだ!!」
近くにあった人形が皆等しく内側から粉々に粉砕されることとなった。
自分がイメージしたものとは違う結果になったからだろう。
フワはものすごく居心地が悪そうにしながら
「えっと……ごめんなさい。何個か巻き込んじゃいました」
と試験監督に謝りおった。フワ、謝ることはないぞ。確かにお主は対象指定をせずに周りの人形まで壊したが、そもそも先に対象指定を怠ったのは向こうだからな。
妾はちゃんと覚えておるぞ。こやつらは隣のやつの人形を壊してはならんと言っておらんことをな。
「あ、はい。とりあえずもういいですよ」
実技試験は微妙な形で終わった。
いや、通常の数倍の人形を壊したのだから通常の数倍の点数は入っておるだろう。
だからこれは大成功であるな!!
「アイディ、今ので不合格になったらどうしよう……」
だからそんな泣きそうな顔をするでない!!
それからまた少しして最後は面接の試験だ。
1人ずつ呼ばれるので呼ばれたら部屋に入室していくつか質問を受けてそれに答えるというやつだな。
待機室で見ておる限り、出てくる早さに差があるのは面接官が興味を惹かれたか否かの問題なのだろうな。
フワは先程のを失態として処理しておるので、どうにかしてここで取り返そうと気を張り詰めておった。
ま、精々足掻くとよい。
それにしても、大量の受験者に一人一人面接していっておるが、これ、今日中に終わるのかの?
妾の感覚ではもう夕方なのだが……フワの番号は224番。見た限りでは400人は試験を受けに来ておるから、全員終わる頃には日をまたいでおるかもしれぬな。
ちなみにいまは218番だ。
つまりそろそろフワの番だな。
当人はちょっと引っ張ればすぐに切れてしまいそうなほど張り詰めておるから、下手に声をかけんでおった。
こやつほど緊張しておるものは他にはおらんかった。どうやら、フワは前世の記憶から面接を重要視しておるらしいが、他のものはただ質問に答えればよいと思っているようであった。
すこしして、フワの出番がやってきた。
番号を呼ばれたフワは何やら堅苦しい動き方をしてノックをして了承を得てから面接の部屋に入室、そして了承を得てから着席するという動きをしておった。
うえぇ…面倒なことをしておるの。
妾だったら扉を蹴り開けて椅子には勝手に座っておるぞ。
これが、異世界人とそうでないものの違いかの?
面接官はエルフの女だった。
いや、訂正だ。
エルフではなくハイエルフの女だった。その種族ゆえにそうは見えんだろうが、軽く500歳は超えておるだろうな。
見た目は人間に置き換えれば20代と言ったところかの?
「あなた、お名前は?」
「はい、西河 不破と申します」
「なぜ我が学園に?」
「ここならコネなどがなくても実力で採用されると思ったし、完全実力主義というその理念に感銘を受けたからです」
うわっ、理念に感銘なぞ心にもないことをいうておる。よくおくびにも出さず平気で嘘をつけるものよの。
「あなたはなぜ教師になりたいと思ったの?」
「はい、私は自分が学校に通っていた時に担任の先生との会話を通して教職というものに興味を抱きました。そこから調べているうちに、これが私が望んだ職業だと思うようになったからです」
こういう質問が来たらこう答えると事前に決めておったのだろうな。
すぐ慌てるフワにしてはスラスラと言葉が出てくる。そしてそこに込められた薄っぺらな意思にこれは本心からの言葉ではないと容易に理解させられる。
あのハイエルフも、これが本心などとは思っておらなんだ。
「はい、よく分かりました。では、あなたの長所と短所を教えてください」
「はい、長所は地道な作業が得意なこと。短所は運動が苦手なことです」
「よく分かりました。ありがとうございます。最後に質問等ありますか?」
「いいえ。ありません。ありがとうございました」
フワは立ち上がり退出をしようとした。
入ってきたときのような動きでドアの方まで行き、一度くるっと振り返ってお辞儀をして
「失礼しました」
と言って扉を開き出て行こうとしておった。
だが、そのとき不意にあのハイエルフが質問を投げかけてきた。
「ちなみに、参考までに聞きたいのだけどあなた何歳?」
「あ、はい。私は今年で34歳になります!」
フワの答えを聞いたハイエルフの女の顔はどこか引きつっておった。
この試験の一月後、フワの泊まっておる宿に採用通知が届いた。
フワは夢を叶えられたと泣いて喜んでおった。
全く、これからが重要だろうにまた終わったような顔をしおって。
だが、無事採用となって妾も鼻が高いぞ。どれ、褒めてやろう。
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