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守る力を得るために

更新再開今回から2章の部分です

「アイディ、私、強くなりたい。少なくともアイディに頼らないで生徒たちを守れるくらいに…ねぇアイディ、どうやったら人って強くなれるかな? どんな特訓をすれば私は生徒たちを守れるようになれるのかな?」


件の悪魔騒動から一週間が経過したころ、もうその日の仕事は終了し帰宅して風呂に入っておったフワが唐突にそんなことを言い始めた。

そして、妾は解答に困った。妾はそもそもの話負けぬ性質を持った体を持っておるから最強であり無敵であるし、その体を借りておるフワは最強とまではいかずともこの世界においてはそれなりの強さを持った存在であるのは一つの事実であるのだ。少なくとも、今かしておる妾の体を使いこなせば負けることはないだろう。


加えて、妾は自我が芽生えたときから最強であることを義務付けられた存在である故、どうすれば強くなれるかを知らんのだ。


『急にどうしたのだ? 妾の体を使えるだけでは不満と申すか?』

「いや、別にそういうことじゃないんだけど、私もアイディみたいに強くなりたいって思ってここ一週間、いろいろ試してみたいんだけど効果が出なくてね」

『あぁ、お主がここ一週間、何やら奇妙な動きをしておったのはそのためであったか』

「奇妙な動きじゃなくて筋トレね」

『はぁ、一応知っておるとは思うが妾の体は体こそは人間の形をして居るが、中身は別物であるぞ。人間のような筋力トレーニングが意味をなすはずがなかろう?』

「そうなんだよね。筋トレに意味がないことに気づいて、それで何をすればいいのかわからなくなったの。だからアイディ、何かいいアイディアない?」

『うむ、アイディだけにいいアイディアということであるの。しばし待て、考える故』

「いや、別に掛けてないから…」



ふむ、強くなるためのアイディアであるか。

何かあったかのと妾は思案する。妾は強うなるために何をすればよいか知らんが、思えば妾には便利な配下が30もおったはずだ。

そ奴らに特訓をつけてもらうのはどうかと妾は提案してみた。


「アイディの配下ってこの前の本の人のこと?」


フワは一度、魔術について学ぶ際に知恵の魔本と対面したことがある。その時のことを思い出し、そしてあやつの姿を想像したのか首をかしげておった。


妾としては別にあやつでもよいが、フワに魔術を学ばせても大して津陽は慣れんだろうなと予想したのだ。

その理由であるが、フワは想定外のことが起こるとすぐに慌てる習性がある。

魔術とは繊細なものだ。魔法ならともかく、術式は一つのミスが破滅を招くことも少なくはない。肝っ玉が小さいフワに魔術はむかんだろうなと思うた。

だから妾は別の配下を提案する。


『あやつでも構わんが、妾としてはこの前使うた無魔の剣、もしくは終戦の刀あたりに師事してもらうのがよいと思っておる』


そこの2人は妾の配下の中でも能力より技術に秀でた者たちである。

そして、この二人は魔術を使わんから魔術の才能がなさそうなフワにぴったりだと考えた。妾がそう提案すると、フワはこれまた首をかしげる。



「あれ? あの剣ってお喋りする機能なんてついてたの?」


フワはそんなとぼけたことを言いおった。やはりというべきか、こやつの知識はところどころ間違っておる部分や抜けておる部分があるためか、妾の所有する武具に対する知識も適当であった。

仕方ないので妾は揺り籠ことリボルバー30の中身とその所有者がどうなっておるのかをざっくりと説明してやることにした。



『剣自体にはそんな機能はついておらん。あの状態でしゃべれるのは件の魔本くらいである。そうではなく、お主がよう使うておるそれらの武器はかつての英雄が強大な邪と戦った時、己の魂を具現化させた、文字通りの英雄の遺産である』

「うん、それは私も何となく知ってる」

『ゲームとやらの知識か? まぁそれはよい。ともかく、武具があるということはそこには魂もあるということだ。だから逆に武具から魂を引きずり出せば、その武具となった本人を呼び出せるということだ。そしてそやつらを妾は便宜上配下と呼んでおるのだよ』

「へー、わかったようなわからなかったような。それで、その武具の人たちに訓練をつけてもらえばいいってこと?」

『それも一つの手である、ということだ』

「でも狙ったものを引くのって難しくない?」

『強うなりたいのなら確率の壁くらい優に超えてみせよ。ま、一度取り出せれば後はだしっぱでもよいしの』

「わかった。頑張って引いてみるよ。えーっと、無魔の剣か終戦の刀だね。どっちも知ってるやつだ」


フワはそううなずいてから湯船から脱出して脱衣所においてあったタオルで体をふき始めた。


体をふき終わったフワは素早く寝間着に着替えると右手を前に突き出して


「我が手に武器を」

と口にした。

リボルバー30を起動するための鍵言葉トリガーワードだ。実はこれ、武器を呼び出しているという意味さえ理解できる言葉ならばどんな言葉を紡いでも起動する。

妾に限った話ではあるが『従僕、仕事であるぞ』とか『役に立て』とかでも呼べたりする。実はあれらの武具となった英雄たちは武具という器だけを指輪の中に常駐させ、呼び出されたときに妾の奥底から外の世界に飛び出してくるのだ。


む?  ややこしくてようわからんか?


つまり、リボルバー30というのは外の世界に出るための扉であり、妾の配下たちを呼び出すための受付、また外に出るための器を保管しておくための倉庫の役割を担う何気に高性能な、妾でさえほかに見たことのない魔道具ということである。

ま、その高性能っぷりはほかの物にはわからんだろうがの。


フワが一番初めに呼び出せたのは50cmほどの杖であった。

残念ながら外れである。外れであるから一分後に召喚――――――外れ―――――召喚――――外れ――――――召喚


フワは根気よく指輪から武器を取り出し続けた。


『お主、ここぞというときには有用なものを引くが、こういう時には引くほど運がないの』

ちなみにもうすでに半分の15回を終えたところだ。

無魔の剣も終戦の刀も出てきてはおらん。フワは取り出した武具はしまわずに次を引いておる。こうすれば母数が減るから必然的に確率は上がっていくはずなのであるがの。


「くっ、これが物欲センサー……ガチャの闇か……」


フワはこの引きの悪さに勝手に納得して淡々と武具を引き続けた。

そして結局、25回目と26回目で目的の二つを取り出すことに成功した。


「やったー!! 30回目になるまでに引けたー!!」


フワは喜んでおった。きっと、あのまま最後の一つを引くまで引かねばならんと思うておったのだろう。

そんな風に無邪気に喜ぶこやつを見ておると、妾は正直に真実を話すつもりに離れんかった。

フワよ、よく聞け―――――いや、聞くな。

リボルバー30はな、最後の4発は固定されておる、つまりお主は―――――ちゃんと最後まで引き切ったのだ。



その事実を知っておる妾は笑顔のフワを直視しようとは思えんかった。

妾が半ば憐みの目でフワを見ておるとフワは目的の二振りだけを残して後は全部指輪に返した。

ちなみに、呼び出しはインターバルを挟む必要があるが格納はいつでもできるぞ。


室内には剣と刀が一振りずつ。

フワはそれをベッドの上に並べて横たえて腕を組んだ。そして「むむむ…」と少しうなった後、妾に話しかけてくる。



「アイディ、ここからどうすればいいの?」


フワには魂云々の話はしたが、取り出し方の話はしておらんかった。これは教え忘れたわけではなく、あえて教えんかった。

そしてこれからも教えることはないだろうなと思いながらも、困り顔のフワに応える。


『あとは妾の一声で元の姿をとれるようにはなるのだが……お主、もうこんな時間であるが、今から訓練を始めるつもりかの?』


「それもそうだね。明日はちょうど休みだし、明日の朝から始めた方がよさそう」


妾の言葉に納得したフワはベッドの上に横たえておった器をそっと部屋の隅に置いた。

というかこやつ、ベッドの上に武具を置くとは常識の欠如も甚だしいの。

いや、考えなしと言うた方がよいか?



それもそのはずか。そもそも、こやつはこの世界の人間ではなし、少し見た感じ戦いがほとんど起こらん平和な世界におったとか。

それを知っておるから多少は大目に見てやってもよいか。

フワはベッドに横たわり部屋の灯を落としてから目を閉じる。それから数分も立たんうちにスー、スーと寝息を立て始めた。

真っ暗な部屋の中、妾の魂だけがその場に取り残される。

………フワが眠ってしまったから、妾もやることがなくなってしもうたの。


フワが眠ってから少しして、妾の魂も休息に入った。



そして朝になり、妾は目を覚ます。

窓の外に意識を向ければ太陽が山から顔を出すころであり、つまりはまだ薄暗い時間帯であった。


今日は確かフワが強くなるために特訓するのであったな。

それを思い出した妾はまだ体ごと眠っておるフワの魂に呼びかける。


『朝であるぞ。そろそろおきんか』


「んんぅ~~…まだ朝じゃないぃ…」

寝ぼけておるフワは幼子のようである。普段もしっかりしておるとはいいがたいがの。

そしてこやつは妾を目覚まし代わりに使うておる。仕事を得てから寝坊したら大変だからと「明日の朝起こしてくれない?」と頼まれてからずっとだ。

妾はおぬしの母親ではないのだがの。

渋々であるが妾はその役割を負ってやっている。これも気まぐれである。


『嘘をつくでない。もう朝である。時刻に置き換えたら5時くらいにはなっておるぞ』


フワがごねるときは根気よく言葉を投げかける。

物理的な干渉が難しい現状、妾にしてやれるのはそれだけだからだ。

妾が声をかけ続けると、やがてフワの意識が覚醒してくる。そうなれば妾の出番はしまいである。あとは勝手に着替えて勝手に飯を食って勝手に仕事に行くだろう。

最も、今日は休日故仕事にはいかぬが。


フワは目を覚めるといつも通りに身支度を整える。

そして昨日市場で購入した食材を切ったり混ぜたり焼いたりして料理を作りそれを食す。

分解――――人間でいう消化は妾の仕事だ。腹の中に入ったものをせっせと魔力に変換する妾はちらりとフワを見た。

あやつは昨日の夜、部屋の隅に置いた二つの器をまじまじと眺めておった。


「ねぇアイディ、これってどうやったら元の姿に戻るの?」


フワは早速特訓に取り掛かるつもりであった。妾は分解作業を一時中断する。


『それは妾がやろう。して、どちらに師事をお願いするのだ?』


「え? 2人ともじゃダメなの?」


『残念ながら、一度に外に出してよいのは一体までと決まっておる。故、好きな方を選ぶがよい』


「そうなんだ……って言われても、どっちが好きとかないんだけど……」


フワはそう言って並べた二つをまじまじと見つめた。

ちなみに、一度に一体しか解放できぬというのは事実であって事実ではない。やろうと思えば全員を一度に外に出すこともできなくはないだろう。

だが、安全性を考慮して一度に一体までという約束を英雄たちにしてあるのだ。


フワは少しだけ悩んだ後、無魔の剣を手に取り持ち上げて言った。


「この剣の人にお願いしようと思う。この前助けてもらったお礼も言いたいし」


『うむ、わかった。では英雄を呼ぶとしよう。もう一方は片付けておいてくれ』


「うん」


フワは終戦の刀を指輪に戻す。

その間に妾は無魔の剣の持ち主の魂を呼ぶことにする。妾は自分の奥底に向けて言葉を放った。


『T、出番であるぞ』

妾がそう投げかけると、一人の男が妾の目の前に現れた。そやつはほとんど歳を食っておらん人間のようで、さわやかな好青年という感じがする男だ。

こやつの名前はT、突出した技能こそないものの目的達成のためにあらゆる手段を模索する踏破者Tだ。

妾の配下、総勢26名からなるイニシャルナイツはこやつのように呼び名となる文字を一文字しか持っておらん。本来の名前は別にあるのだが、ここでのこやつの名前はTなのだ。


『選ばれたのは俺様でした……なんてね。ところでエクシミリア卿、この部屋はなんですか?』


Tは妾の魂が存在する部屋に入ってくるとともにそう言った。配下のこやつにとっては妾は主人にあたる存在なのではあるが、最低限無礼にならない程度だけわきまえてあとはラフに接してくる。

上下関係、というものを強く認識しておる者ほど、Tのこの態度は受け入れられないものと感じられるだろう。

だが、妾たちの場合はこれでよい。妾と配下たちには上下はあるが絶対ではない。

互いが互いに力を貸しあっておる状態であり、妾なくして成り立たんからこういう関係なのであって、主従関係ではないのだ。それに、英雄はみな超越者だ。

上下があったとて問題にはならんだろう。なぜなら、あやつらは物が下から上に落ちるくらいには超越しておるからの。


『妾が今体を異世界の魂に貸しておることは知っておるな? この部屋は現実世界と魂の間の境に作った部屋である。あとはわかるな?』

『わからないけど多分あっちが外なんだろうなってのはわかった』


Tはそう言って妾の体が向いておる方を―――――体ではなく魂であるが、部屋の中ではわかりやすいように魂に形を与える術式を常時展開するようになっているのでここでは体ということにする―――――向いてその先にあるものを見た。

そこにはモニターのようなものと、真っ白な扉があった。逆に妾の後ろの方には延々と闇が続いており、Tはその方向からやってきた。自分がやってきた方向を魂が存在する場所とし、この場所を現実との境とするならば、必然的にあの扉の先が現実ということになると考えたのだろう。

そしてそれは正解である。


『そういうことである。お主には今日から外に出てフワを鍛えて貰うが、よいな?』

『へいへい、任されましたよっと、んじゃ、行ってきまーす』


Tは妾の要望に軽い言葉を返して部屋の扉を開きその先に存在する光の中に消えていった。

そして、扉は自動的にバタンと閉じる。そういう仕組みにしておるからな。

そして現実世界の方では、今しがたこの部屋から現実へと旅立っていったTが顕現しておるところだった。


「呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーン、ってね。騎士団最弱候補その2、【技巧と踏破】のT、ただ今見参!!」

無魔の剣から調子のいい声が聞こえてきたと思うと、その形をどんどんと人の物へと変えていく。フワは手に持っていたそれが体積を増大させ、人の形を取り始めたあたりで驚いて地面に落としてしまった。

それを見て妾はやはりこやつに魔術はむかんなと再認識しながらその光景を見続ける。


その剣は最終的には当然ではあるがこちらを得て言ったTと同じ姿の人になった。

さわやか好青年、黒髪に紅目の男に――――――

Tは現れてすぐにフワに微笑みかけながら言った。

「話は聞いてるよ。俺が今日から君の指南役に選ばれたTだ。わからないことがあったら何でも聞いてくれ」

Tはさわやかな声でそう挨拶しながら右手を前に出した。


「えっと、フワです! 頑張りますので今日からよろしくお願いします!」

フワはTの手を取りながら頭を下げる。絵面だけ見れば妾が配下に頭を下げておる図、もしくは幼い少女を甘い言葉で誘惑する男の図かの? 

ま、ここにそれを見るものはおらんからどうでもよいがの。

それからフワは失念していたとばかりの顔になり


「あの、てぃーさん、朝ご飯って食べました?」

と問いかける。

Tは食事をほとんど必要とせんはずだが、奴は笑いながら

「まだだからもらってもいいかな?」

といった。フワは手早く作れるものをTに振る舞い、Tは久しぶりの食事に感動しながらそれをほおばった。


結局、朝早く起きたはずなのに特訓を始めるために外に出るころには太陽はそれなりに高いところに上っていた。


また、フワとTが職員寮を出ようと出入り口に向けて歩いていると、通りかかったメイドから黄色い声をあげられておるのが聞こえた。おそらく、フワとTをそのような関係と思うたのだろうな。妾は特に気にせんし、フワも気づいてないみたいだから放置したがTの奴はちゃんと気づいてから苦笑していた。

ちなみにTは既婚者だ。昔話をしたとき、

「俺には愛すべき妻と母がいるんですよ」

と言っていた。普通そこは愛すべき妻と子供ではないのか?と思ったが、何も言わぬことにしたのを覚えておる。


外に出たフワとTは学園にある訓練場に向かった。

今日は休日ではあるが、そこにはちらほらと生徒の姿があった。しかし、一人で使うにはその方がよいのか、はたまた目立つのがいやなのかはわからぬが皆、端っこの方で細々とやっておった。

それにしても休日にもこんなところに来るとは、あの生徒たちは努力家なのだろうな。

そこにおるTなんかは「休みの日なのに休まないのは怠慢だ」とか言うて絶対に休むというのに……


フワとTは堂々と訓練場のど真ん中を使う。

Tの提案である。フワはほかの者たちと同じように端っこでやろうとしておった。



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