表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/29

悪魔憑きだった生徒


「ここは……?」

真っ暗な空間、そこに入った悪魔は辺りを見渡すが何も見えない。

自分は受肉するために小さな妖精の中に入ったはず、それなのにここはどこだろうか?そんな疑問を抱いてまもなく、妾によって答えは与えられた。


「ここは妾の体の中、最近魂がくつろげるようにと作っておる最中の部屋の中であるぞ」

「あなた……もしやワタクシは誘い込まれたということですかね? ま、たとえこれが罠であろうと御構い無しに食い破るだけですが」

「あーあー、お主の自分最強はもう聞き飽きたし、その言葉はいつまで立っても真実とはならん。もうすぐお主の存在は消える故、最後の時をしっかりと噛み締めると良いぞ」

「何をバカなことを、こんな空間、あなたを滅ぼしてさっさと脱出してみせますよ」

「……」


妾はもうその悪魔に興味は持てんかった。

ものすごい速度で魔力の器が成長しておったから、どこまで強くなるのかと思って好きにさせたりしたが、大して強くならんかった。

こやつでは妾どころか妾の配下の足元にも及ばんだろうな。所詮、その程度の存在であったということだ。


悪魔は盛大にイキリ倒しておるが、妾が今言った通り奴の終幕はもうすでにそこまで来ておった。



ガシッーーーー


魂だけで妾の中に侵入してきたその悪魔は、妾の奥底から出てきた巨大な手によって掴まれた。

妾しかおらんと思っておったのだろう。予想外の位置からの攻撃に、いや、これは攻撃でもなんでもないの。ただの捕食だ。

飢餓に苛まれておる獣の捕食にすぎん。


魂をガッチリと掴まれ、動くことすらできんくなった悪魔は視点を後ろに向ける。


そこには、深淵より伸びる腕があった。

腕から先は闇の中にあり見ることは能わない。だが、妾の中におる存在だ。妾はにはそれが何なのかは理解できておった。


「ひっ、やめてくださいよ! このっ、放してください! 放して、放せって!!」


暴れようとするが、その腕はビクともせんかった。そしてそのまま、悪魔は闇の中に姿を消した。


「ああああああああああああああああ」


魂の空間に、断末魔が響き渡る。

闇は捕食を終えたからか閉じようとしておった。

その闇に対して妾は気まぐれを起こしたため、少し言葉を投げかけた。


「お主がどれほど力を蓄えようと出ることはできん。いい加減諦めよ」

【………】


妾の奥底に眠る闇は何も言わずに姿を消した。

きっとまだ足掻くつもりなのであろう。だが、いくらあがいても妾の前では無駄だということを理解しておらん様子であった。

妾は見えんくなった闇に興味を持てんくなったので、外の世界でも見ようかと考えた。


「それにしても、喰らうことによって限界まで強うなった悪魔の最後が、より上位の捕食者による捕食とは、なんとも皮肉なことであるの」


言ってみたが、誰も聞いてはおらんかった。

妾の言葉を聞くものなど、ここにはおらんからの。






外を見た。



フワはまだ森の中であった。

こやつは眠っておるアリナを抱いて森の外に向けて歩いておった。

きた時は木々をなぎ倒しながら直進したが、人間を担いだままだとそれはできん。

だから揺らさないようにゆっくりと歩いておった。


「……ん……?」


森の外に出る途中、アリナが目を覚ました。


「起きましたか? 体の調子はどうですか?」

「あなたは……フワ……先生……」

「痛いとことかはありませんか? 怪我があったら今の内に申し出てください」

「フワ、先生……私、私は……うぅう」


フワが体を慮る声をかけてやると、アリナは目に涙を浮かべてわんわん泣き始めた。

フワは突然泣き始めたアリナを見て、もしかしてどこかが痛むのではないかと思い一度近くの木にもたれ掛けさせるように下ろした。


「やっぱりどこか怪我してるのですね? どこですか?」

「…。ひっ、うっ、私、は、怪我、してないの。でも、私、あんなつもりじゃ……」

「落ち着いてください。とりあえず、息を吸ってー、はい、はいてー吸ってー吐く」

「すぅ〜、はぁ、ひっ、すー、はっ」


ボロボロと涙を流すアリナ。何が言いたいのかがわからんフワはとりあえず落ち着かせることにした。

それから数分、つきっきりであった。

背中をさすったり、深呼吸をさせたり、涙や鼻水を拭いてやったりと色々やっておった。

アリナはかなりの時間泣いておった。だが、フワの必死の介護のおかげかようやく落ち着きを取り戻してきおった。


そこで改めて何が起こったのかを聞いた。


「ごめんなさい先生、私が間違っていましたわ」

アリナははじめにフワに謝った。何に対して謝られたかわからんかったフワは、とりあえず悪魔をその身に降ろしたことを反省しておるのだろうと納得した。


「いいんですよ。きっと何か、悩みでもあったんでしょう?」

「悩み、というほどのことではありません。でも、兄と違って私は家を継ぐことはできない。だから必死に魔法を勉強して、家の力に頼らなくたって生きていけるって証明したかった。それで、初めて受けた講義で私の学んできたことと全く違う理論を聞かされて、自分の実力を周りに知らしめたくって先生に食ってかかって、それが失敗してみんなに変な目で見られるようになって……それで、カッとなって……先生を……ってあれ? 先生? どうして生きているんですの?」

「え? どうしてって言われても……? あ、そういえば私、アリナさんに刺されたんだったっけ?」


フワは今の今まで刺されたことを忘れておったらしい。どうやら、こやつの記憶は上書き保存式の記憶らしいの。一度大きなことがあればすぐにその前にあった問題を忘れて新しい問題に目がいくようであった。


「その節に関しては、本当に申し訳なかったと思っていますわ。私、今思えば冷静ではありませんでしたの」

「冷静ではない、という理由では殺人は認められませんけどね。いいえ、どんな理由でも殺人は認められることではありませんけど」

「えぇ、そのことを今回、私自身が悪魔に体を奪われてはっきりとわかりましたわ。自分の意識が消えていくあの感覚、あのまま先生が悪魔を追い出して下さらなかったら私はきっと2度と起きることはなかったと思われますわ。改めて、お礼を言わせてください。そして、あぁ、忘れるところでしたわ」


アリナはその体に纏っておった外套を脱ぎ去った。

そしてそれをフワに手渡す。


「アリナさん、これは?」

「悪魔の外套、クーデレランス家に伝わる魔道具ですわ。これの管理を先生にお願いしたいんですの」

「どういうこと?」

「この外套には悪魔が取り憑いていますわ。そしてこれを使った人間に語りかけてきて、ことば巧みに誘惑してきますの。私もその口車に乗せられて、あのような姿になってしまいましたの……」

真っ黒な外套であった。しかし、妾が見る限りもうその外套には悪魔は宿っておらんようであった。それどころか、魔術的な効果の1つも残っておらんぶっちゃけいえばただの黒い外套に成り果てておった。

おそらく、そこに入っておった悪魔を妾が食ろうたのが原因であろうな。

フワはそれを恐る恐る手に取った。ものすごく怖がっていたので妾は少し脅かしてやることにした。


『力が……力が欲しいか……?』

「ひゃっ!? あ、悪魔ぁ!?」

「やっぱり、そこにいるんですのね」


ちょっと声のトーンを抑えて妾だとわかりにくくしたら引っかかりおった。フワは反応が良いから定期的に驚かしてやりたくなるの。


『今のは妾だ。悪魔はその中にはもうおらんから恐れることはないぞ』

「そう、それでアリナさんはそれでいいの? これってお家に伝わる道具なんでしょ?」

「いいんです。私、実は悪魔に完全に乗っ取られる前は意識がありましたの。私から伸びた触手が級友に向けて伸ばされて、殺しかけるのも、先生の体に突き刺さるのも全部覚えておりますの……あれ? 本当にどうして先生生きていられるのですの? ともかく、こんな悪魔に心を売り渡す道具、我が家には必要ありませんわ」

「わかったわ。これは私が管理します。……でも、人を危うく殺しかけたのはわかっていますよね?」

「はい……どんな罰でもお受けしますわ。今回のこと、私は本当に反省していますの」


アリナという小娘はえらく丸くなっておるの。悪魔に精神を蝕まれてなにやら大切な感情でも抜かれたのではなかろうな?

そう疑うくらいにはしおらしくなっておった。以前までのこやつなら「私は悪くありませんわ。悪いのは周りの人間ですの」とか言いそうなのだがの。

ま、反省するのは良いことである。妾も、反省しておる相手には過剰な報復はせんようにしておるからの。


「そうですね。罰は追って伝えるから、とりあえず今日は帰りましょう。アリナさんも疲れてるでしょ?」

「え、えぇ……」

「歩ける?」

「頑張りますわ」

「歩けないんだね。じゃあ私が担いで帰るよ」

「えっ、ひゃあっ!? 先生!?」


フワはアリナを横抱きにして森の中を歩き始めた。

外見の年齢的に見れば妾たちの方が圧倒的に年下なのだ。側から見たらとんでもない絵面になっておるだろうな。

アリナが目を覚ましたからかフワは先ほどまでよりは歩く速度をあげておった。

多少揺れておるが、意識が戻り体を自分で支えられるようになっておったアリナは落ちることはなかった。

程なくして、フワは森を出ることができた。

森から出て、そこに生徒たちが待っておるというようなことはなかった。まぁ、フワはもう生徒視点では死んでおる扱いなのかもしれんの。

仕方ないからそのままアリナを街まで、そして学園まで運ぶフワ。

妾がちらりとアリナを見ると、どこか安心した顔で運ばれておるアリナがおった。こやつ、少し前まで暗殺するほどまでに突っかかってきおったのに、どうして今、恋する乙女のような目でフワのことを見ておるのだ?

言っておくが、妾の体は性別その他諸々が存在せんから結婚以下はできんぞ?


フワは学園に戻り、今からアリナを医務室に運ぼうとしようとしておった時であった。


「フワ先生?」


呼ばれたフワがちらりと声がした方をみるとそこにはフラヴィデオのやつが信じられないもんを見るような目でフワを見て、目に涙を溜めておった。


「フラヴィデオ君、中村君は無事でしたか?」

「あ、うん。そのえーっとナカムラ君と、後のもう一人も医務室で休んでるけど、それより先生!! 先生だよぉ、俺のせいで先生が犠牲になったって思って、ずっと怖くて……でも、生きててよかったぁ……」

「あなたのおかげで中村君は助かったんですよ? もっと胸を張ってください!」


フラヴィデオはそれだけ言い切ると堰を切ったように泣き始めた。

そんなフラヴィデオをフワは慰めた後、医務室へ向かった。

途中、フラヴィデオのようにフワのことを死んだと思い込んでおったやつが何度も話しかけてきておったが、流石にいちいち足を止めるわけにも行かんかったようである程度はスルーであった。


医務室に着くとそこには寝かされておる黒髪2人とそれを見て顔を青くする黒髪、後保険医が1人おった。

起きておった2人はフワがアリナを抱えて入室するとちらりとそちらの方をみる。



「先生、無事だったんですね。2人を助けてくれてありがとうございます」


黒髪異世界人は丁寧に頭を下げる。


「フワ先生大活躍だったみたいじゃない。それで、その子も巻き込まれた子?」


保険医は見たことのあるやつであった。確か今年採用のベルナータというやつである。

そ奴はフワに担がれておるアリナを見てベッドに案内しようとする。

そこで、倒れておる者たちを見て罪悪感が湧いたのかアリナはフワに言うて降ろしてもらった。


そして降ろしたフワはアリナがどんな気持ちなのかを察して、アリナの背中を小さく叩いてから耳元で言った。


「みんなにはちゃんと謝らないとね。でも大丈夫、日本人はちゃんと謝られたら首を横には振れないから」

そう言ってその場から立去るフワの笑みはどこか悪魔的な雰囲気を醸し出しておった。だが、本物を見た後だとどこか霞むな。

ま、本物も大したものではなかったがの。


フワはアリナを医務室においた後は早々に退出し、仕事があるからと職員室に向かった。

フワは今回の騒動で死人が1人も出んかったからか、非常に満足しておった。



ブックマーク、pt評価をお願いします。

次回はアリナ視点で何が起こっていたのかの話になるのかな?

多分明日投稿

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ