魂の邂逅そして旅立ち
妾の配下に驚き、そして気絶した魂が再び目覚めた。
それの魂の意識がないときに確認したが、どうやら妾もやろうと思えば普通に体を動かせるらしい。だけど、なんだかつかれるので当面はこのままで行くことにした。
別に、誰かに体を使われても気にせんしな。
「うん、ここは……なにやら怖い夢を見たような?」
目を覚ましたそ奴は先程までのことを夢だと勘違いしておるらしく、再び鏡を見ては絶叫をしおった。
「うええええ!!? そうだ、私、なぜかアイディールになってて……それで確か……」
そういえば、始めの時も気になっておったがこやつ、妾のことを知っておるらしい。
となると、1000年前の魂か?それにしては貧弱そうな動きをしておるが……
妾は自分の体に入り込んだのが何者なのかを調べることにした。そのためには、まずやったもらわなければならないことがあるな。
みる限り小心者の魂であるが、いずれ通る道だと思い妾は話しかけてみることにした。
『おい、お主』
「ひゃっ、今の声、どこから!?」
『ここだここ、お主の中だ。人の体に勝手に入りおって、お主は誰だ?』
「わ、私ですか!? わたくし、西河不破と申します!一応、不破のほうが名前でございます。 お体、勝手に使わせてもらっております! 返し方はわからないのでご容赦ください!!」
サイカ フワと名乗ったその魂は妾が中におることを知ると目に見えて狼狽して平謝りをしてきおった。
『別にそのことに対しては怒っておらん。だが、悪いと思っておるなら自分の左手の薬指をみよ』
「左手えっと……指輪が付いていますね」
フワの言う通り妾の左手の薬指には指輪が付いておった。これは別に妾が既婚者ということを表すものではない。
というか、妾は少女のような姿をしておるが性別は存在しないしの。
完成された個であるがゆえに繁殖すらできん。
その指輪は一定数道具をしまっておけるという便利な道具なのだ。
『何かわかるか?』
「えっと確か……リボルバー30、でしたっけ?」
『ほう、わかるのか。では、その中から1つ、ものを取り出してもらえぬか?』
「は、はぁ……」
フワは妾の指示通りに指輪ーーリボルバー30からものを取り出そうとした。
ちなみに、この名前の由来は物が30個入るというところから来ておるらしい。貰い物なので妾にはよくわからんが。
フワは少し指輪を見た後、困ったような顔をした。
「あの、どうやって取り出すんですか?」
『どうやって、だと? お主はこの道具のことを知っておるのではないのか?』
「あの、知識としてあるにはあるけど使い方はわからないといいますかなんといいますか……」
『仕方ない。じゃあ妾のいう通りに言葉を発せよ』
「はい、わかりました」
『我が手に武器を』
「我が手に、武器をーーーうわぁっ」
妾のいう通りにフワが口を動かすと指輪の中から短剣が飛び出して来てフワの手のひらに落ちた。
リボルバー30は言葉をトリガーにその中に入っているものが出てくる収納道具だ。だが、便利さの裏側には取り出すものはランダムという欠点もある。今、妾たちの指に収まっているものには空きが1つと29の武具等が入っておる。
適当に取り出せば今みたいに武器が出てくることが多いというわけだ。
ちゃんと身を傷つけられるものが出て来た妾は満足して次なる指示を出す。
『よし、出て来たな。それならその剣で自分の体に傷をつけるのだ』
「えっ……そ、そんなこと」
『いいからやるのだ。痛くないし血も流れん。それに、傷をつけるのは少しでよい』
「それなら……」
フワはえらく妾の指示に従ってくれるの。反抗する魂でなくてよかった。
これがもし反抗的な態度であったなら、問答無用で体を取り返して魂を消しておったところだ。
フワーーというよりかは妾の体に少しだけ切れ込みが入る。よし、これで条件は整った。
フワが指示に従ってくれたおかげで無用な争いはしなくてすみそうだった。
妾は傷がついた体を確認しながら一言唱えた。
『叛逆術式』
叛逆術式は自分の受けた傷を代償にして使う妾の最強の技だ。
これと妾の身体の特性があわされば、たとえ相手が邪神であろうと相手にならん。それほど強力な術式である。
加えて応用力も高いのが評価点だ。
妾はそれを使って妾の体に傷つけて来たその魂に対して叛逆する。
まっ、小難しく言わずとも言ってしまえば精神干渉で精神鑑賞する、というやつだな。
妾はそのものの記憶を情報として手に入れ、そして信じられないような事実に己が術式を疑った。
こやつ、この世界のものではない。
それにもうすでに死んだ者の魂だ。
ふむ、それに加えて、こやつは生前でげえむというやつで妾と似たようなきゃらくたあを作って遊んでおったという過去もある。
そこでは妾に詳細な設定を追加していくフワの記憶も見えた。残念ながら外れておる部分も少なくはないが、偶然にも大部分は一致しておったのだ。
この者の記憶を見た妾は大変興味深いと思った。
フワは妾の術式の代償に消えてしまった指先の傷を見ながら首を傾げておった。
そんなフワに妾は話しかけた。
『うむ、協力感謝するぞ。それにしても、お主は興味深いな。まさか異世界から妾の体に魂が流れてくるとはな』
「えっと、ありがとうございます?って異世界?」
『む、気づいておらんかったのか。お主は別の世界で死んでおる。そして死んだことによって肉体から解放された魂が次元を渡り、妾の体に住み着いた状態、というところかの? 細部はわからんがそんなところだ』
「えええええええええ?! 私、そんなことになってたの!?」
フワは死んだこと、異世界にきたことに気づいておらんかったらしく妾のカミングアウトに心底驚き、もう聴き慣れたと思う叫び声をあげた。
本当に騒がしいやつだ。
だが、無理もあるまい。
『驚くのも無理はないぞ。妾も珍しく驚いておる。それで、お主はこれからどうするのだ?』
「これから、ですか?」
『そうだ。妾が飽きるまではこの体の主導権をくれてやると言っておるのだ。こう言ってはなんだが、妾になれればなんでもできるぞ? 生前は病弱で満足できなかったみたいじゃないか。好きに生きてみればどうだ?』
「前世は、満足できてなかったわけじゃない。でも、好きに生きる……ことが、できるなら、私、やってみたいことがある。」
だんだん状況が飲み込めて来たのか、フワは妾の体を貸してやるという言葉を受け入れてやりたいことを口にした。
「私、学校の先生になりたかったの」
ほう、教師とな。妾は誰かに教えを請うことはなかったため、それがいかほどのものかわからんが、まぁ、そもそも妾にとってこれはたまの暇つぶしにすぎん。
それもいいだろうと思った。
『そうか。ならばまずは人間の街に行かねばならぬの。ほれ、出口は今向いておる方向とは逆側にある。目標を決めたらすぐに実行するのが吉だからな。疾く立てい』
「うん、わかった。ありがとう」
『体を貸したことに感謝するのはいいが、そう思うなら妾が退屈せんように生きることだな』
「うん」
始めはビクビクした感じに妾と話しておったはずのフワだったが、いつの間にやら口調が砕けたものになり始めておった。
きっと、妾が危険な存在ではないと理解したのだろうな。
素早く立ち上がって出口を発見し、そのまま妾が自己封印のために用意したこの部屋を出ようとしたフワ。
妾は忘れてはいけないことを忘れていなかったのでそれを呼び止めた。
『これ、そこにおいてある本も持って行け。そ奴は妾の配下であり、便利な奴であるぞ。教師になりたいなら必ず役にたつであろう』
「えぇ……」
そういえばこやつ、始めあの本を見たときに気絶しておったな。
妾は嫌そうな顔をしながら本を回収したフワを見ながらあの臆病はなんとかした方いいかも知れんと考えはじめたのだった。
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