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生徒vs理外の力

学園長視点

これからはアイディールが表に出ている間は全て別視点でお送りするつもりです



どうも、ミリータです。学園長です。

現在私は決闘の立会人をやっています。戦うのは生徒のうちの1人、クーデレランス家の長女のアリナ・フォン・クーデレランスさん。

対するは我が学園の誇る優秀な教師ーーーーーー……と思いたいサイカ フワさんです。


始めの合図をしたのは私ですけど、正直今からでも止めたい気持ちでいっぱいです。


私の目にはフワ先生は人類には見えません。はい、ぶっちゃけ怪物にしか見えません。

今まで、少しの間ですが私は彼女の上司として接してきました。

機嫌が悪いと見ればすぐに頭を下げることを辞しませんでした。

クラスを1つ受け持ちたい、なんて願望を言われた時にはなにを企んでいるのかとも思いましたが、まだ初日ですので問題は発見できていません。

いや、問題は現在進行形で発生しているような気もしなくはありませんが、あれは精霊の存在を否定したアリナさんが悪いんです。

私の目には精霊が見えているからどっちが間違えているのかわかります。


それにしてもフワ先生、私のようなものしか知りえない知識を何の惜しみげもなく生徒に教えているんですね。

教師としてはいい人材だと思います。ええ、思いますとも



フワ先生はなにも悪くありません。だから私はフワ先生の味方です。

ですので、何卒、私に怒りの矛先を向けないでくださいね。





開始直後、アリナさんが炎の槍でフワ先生を射抜いた。

それは防がれることはなくフワ先生に直撃。

大して効いていないみたいだ。

というか、あれ、ただの魔術が通用する相手に見えない。


効果がなかったことにアリナさんは焦る様子はなかった。

今度は強力な魔法をお見舞いするという風に呪文の詠唱に入った。

アリナさんの魔法が完成するまで、フワ先生はなにもしませんでした。これが強者の余裕というやつかな?


アリナさんから強力な炎の魔法が放たれた。

私としては、先ほどの炎の槍の術式の出力を上げたら良いのでは?と思わなくもない。

やらないということはできないのかもしれないが。


この魔法も、直撃。


フワ先生は炎に飲み込まれてしまった。


「学園長、もう止めた方がいいんじゃないでしょうか?」

不意に、カルマ先生が私にそう聞いてくる。


「えぇ……私としても大ごとになる前に止めてしまいたいです……」

「ですな。あの新任教師も、学園長が選んだから悪くはないのでしょうが、今回は相手が悪かったということで……」

「カルマ先生はそう思いますの?」

「ええ、実際、手も足も出ておらんではないですか。私なら問題なく勝てた相手ですが、教師の中にも苦戦するものはおるのではないでしょうか?」

「………そう、もういいわ」

「では、止めてまいりまーーー「座っててちょうだい」」


私が目を凝らすと、炎の中に包まれながらもまっすぐアリナさんを見据えて魔法の詠唱をしているフワ先生の姿があった。

私はその詠唱を聞き逃さないように、風の精霊に音を拾ってきてもらう。



「土精さん、私の魔力を使って私の前方12メートル先に半径1メートル、深さ2メートルくらいの穴を一瞬で開けてくれるかな?」


聞こえてきたのは詠唱、というよりかは指示だった。

確かに、魔法が精霊によって成されるならその方がより正確な魔法が使えるだろう。

それでも、従来の詩的な詠唱文に慣れてしまっている者たちには理解できない詠唱だった。

フワ先生が精霊への指示出しを終えると、土の精霊がフワ先生から膨大な魔力を貰って言われた通りに作業をこなしていた。

アリナさんの足下の土が消えるようになくなり、そこにいた彼女は落ちていく。


「なんだ? いきなり穴が空いたぞ? あれが新任教師の魔法か?」

「というかあれ、大丈夫なのか? 落ちて大怪我とか」

「大丈夫でしょう。穴の深さはきっかり2メートルしかないようですので、打撲程度で済みます」

「おぉ、さすが学園長。一瞬でそこまで分かるなんて」


カルマ先生が私を持ち上げるように言うが、私としては聞いたから知っているだけだ。あの魔法の指示は確かに魔力の効率やイメージに即した魔法が使えると言う利点もあるが、今みたいになにが起こるのかを他の者も詳細に知ることができるという欠点もあるみたいだ。


フワ先生がアリナさんに降参を促す。

アリナさんがそれを拒否すると、次は穴の深さを倍にして突き落とした。

魔力で身体を強化しているアリナさんはこの程度では大した怪我はしない。

しかし、フワ先生は次は穴を埋めると宣言した。

生き埋め宣言とは、かなりエグいことをしている。

だが、私の目に映るその姿の方が圧倒的にエグいので笑って見ていられた。

それにしても、フワ先生は見た目に反して優しいですね。私なら精霊のことを教えてあげた生徒が嘘つき呼ばわりして決闘を申し込んできたら問答無用でボッコボコにしていたかもしれない。

フワ先生は脅迫して降参を促しただけで他は何もしなかった。


おや? 実はフワ先生は悪い人ではないのではない?

人を見た目で判断してはいけない。エルフの森を出るときに長老にそんなことを言われたような気がする。

なぁんだ。見た目に怯えて神経質になっていただけか〜。

もっとお話ししてみれば、ちゃんと優しい妖精さんだって分かるかもしれないわね。


私は見た目で勝手に恐れていたことを心の中で謝った。

その時だった。



強烈な爆発音、そして吹き飛ばされる2つの物体。

その2つとは決闘をしていた2人のことであった。

なんと、アリナさんが敗北条件に「参った」というは入っていないという屁理屈でフワ先生に一撃入れたのだ。


フワ先生は、至近距離でのかなり強い爆発を受けて倒れていた。

きっとすぐに立ち上がるのだろうが、怒ってないか心配だ。優しい人ほど、怒ると怖いと言うからね。


………フワ先生はすぐには立ち上がりはしなかった。



「学園長、勝負はついたみたいですよ」

「だな。俺が医務室まで連れて行ってやった方がいいか」


カルマ先生とアングマール先生の声が両脇から聞こえてくる。

その言葉通り、勝負はついた、そんな雰囲気が訓練場に漂っていた。

騒ぎを聞きつけて集まってきていた生徒たちも、もう終わったと思い訓練場から出る用意をしていた。


あれ? 本当に、終わったの?

わたしにはわかりません。あの化け物が、あの程度の術で仕留められたの?

これもまた、わたしが見た目で判断していただけ?


みればアリナさんは高笑いで倒れたままのフワ先生を見下している。

私としてはその見た目の怖さから絶対にできない行動だ。


「じゃ、ちょっくら行ってくるわ」

カルマ先生がフワ先生を回収しようと立ち上がろうとします。

その時だった。


ブワッーーーーっと、会場が震えたような気がした。

一瞬、強烈な威圧感がどこかから発せられたような。

訓練場内にいた者は皆漏れなくキョロキョロしていた。

そして、次の瞬間。


「さて、ここからは妾のターンであるな」


フワ先生は立ち上がった。

そして、突如として辺りの精霊たちが騒ぎ始める。

これは何!?


精霊には意志というものはないはず、それなのに慌てるように飛び回っていた。


「あら? あなた、まだ立てたの。でももう限界が近いんでしょうから、寝かせてあげますわ」


アリナさんを今すぐにでもぶん殴って土下座させたい気分だった。


(もう無理です。さっきから汗が止まりません。フワ先生が起き上がってから、黒龍王が可愛く見える威圧感が私に降りかかってきます。


アリナさんは不感症なんでしょうか?

どうして気づかずに要られるのです?)

私は心の中だけでそう呟いた。


「おい、カルマ……」

「アングマール、てめえもか?」


ちらりと見れば立会人として呼ばれている他の2人も何かを感じ取ったのか首を傾げている。しかし、恐怖を感じている様子ではなかった。

見物に来た生徒たちも、何か違和感を覚えながらも恐怖は感じていない様子だ。


結局、フワ先生を怖いと思っているのは私だけだ。

何が他の人と違うのか?


「さて、あやつはなるべく傷つけんようにしておったからの。妾が壊してしまってはいかんだろうし……」

フワ先生はまっすぐアリナさんへ歩き出します。

アリナさんはそんなフワ先生を的としてしか見ていないのか、魔力をありったけ込めた術式を叩き込んだ。

最初に見せた炎の槍、それの強い版だ。


フワ先生はそれを当然といった様子で体で受ける。

皮膚が火傷を負っているのが見える。だが、フワ先生がそれを問題にした様子はない。


「しかし、武器が使えんとなると殺さんようにするのも苦労しそうだ……む、いい方法を思いついたぞ」


風の精霊が轟音の中でもフワ先生の声だけは拾ってきてくれた。

さっき指示を出してしまったからだね。私にはそれが聞けるのが逆に恐怖を煽られる結果になってしまっている。


アリナさんは倒れる気配もなく進んでくるフワ先生におかしいと思いながらも、攻撃の手を緩めなかった。

しかし、表情にはだんだんと焦りが見え始めている。

その時には、もう遅かった。いや、決闘を始めた時点で遅かった。


叛逆術式リベリオン:視覚消失」


聞き覚えのない言葉が、聞こえた。


直後、アリナさんの術式が制御を失いこちらに飛んでくる。

私はそれを煩わしいと思いながら魔力を纏わせた手で跳ね除け、アリナさんに何が起こったのかを確認する。

彼女の体に見た感じ以上は見られなかった。


だが、突如として彷徨うようにあたりをうろうろし始める。


「暗い……あなた、闇魔法の使い手だったのを隠していたのね!」

「ふむ、これでは懲りぬか。では、音も奪ってやろう」

「何!? 急に声が出なくなった!?」


声が出なくなったと言い始めるアリナさんは側から見て異常であった。

フワ先生の声だけは詳細に聞こえている私には、彼女に何が起こっているのかが推測できた。

アリナさんは今、目と耳の両方を潰されたのだ。

私がされたわけではないので正確なところはわからない。

だが、おそらく彼女は今何も聞こえない闇の中を彷徨っている感覚にとらわれているだろう。一体、どんな魔法、どんな術式を使えば他人の五感を奪うことができるのだろうか?

私には想像がつかなかった。


しかし、魔法や術式はその効果の大きさによって必要な魔力が変わってくる。

五感を奪うほどの力を使っても一切消耗を見せないフワ先生は端的に言っておかしかった。

もしかしたら、感覚を奪うのはそれほど消費がないかもしれないが、使えるものがいないため確認はできない。


「はっ、はっ、」


額からとんでもない量の汗を流しながら、アリナさんは訓練場をよろよろと歩いた。


そして、端っこまでたどり着き壁に激突する。


「痛い! 何これ!? 壁!!? くっ、卑怯な。でもこれを伝っていけばーーーー」


自分に聞こえていなくても周りにははっきりと聞こえる声で叫ぶアリナさん。

彼女は壁伝いに歩き始める。

野次馬の生徒たちはおかしくなってしまったアリナさんが近づいてくると道を開けるようにしていた。


「ふむ、まだ折れぬか。ではーーーー」


それを見ていたフワ先生が何かをやろうとしていた。


「フワ先生!! ストップ!! ストップです!!」


だから私は待ったをかける。

フワ先生はアリナさんを殺さないと言っていた。だが、このままやれば確かに体は死なないだろうが心が死んでしまう。

フワ先生はそれでもいいのかもしれないが、学園にて生徒を預かる身としてはそれは防ぎたかった。

私は恐怖で心がいっぱいになりながらも、これも学園長の義務と自分に言い聞かせて待ったをかけた。


「む? 何か?」


フワ先生の視線がアリナさんからこちらにチェンジする。

その目は私に対して何の価値も見出していないかのような、仮にもエルフの王族で魔法技術の最先端である私を、路傍の石でも見るかのような目で見ていた。


一瞬、恐怖で体が身震いする。


彼女は、いつもこんな目をしていただろうか?

そんな疑問が私の中で渦巻いた。

今まで私が接してきたフワ先生は、見た目は怖くとも優しげな、希望に満ち溢れた目をしていたような気がしていた。

だが、いまの彼女からはそんなもの微塵も感じられなかった。

まるで別人みたいだった。

私は、何が彼女をここまで変えてしまったのかと不思議に思った。


「これ以上は危険です。だからフワ先生の勝利ということで終わりにします」

「危険とはいうが死ぬことはないぞ? それに、あやつは負けを認めておらんみたいではないか」


フワ先生は口調まで変わっていた。

アリナさんは未だに壁伝いに歩いている。目から光が失われた状態で歩く彼女に、生徒たちはだんだんと怖いものを見るような目で見るようになっていた。


「彼女はもう戦えるような状態ではありません。それに、降参できるような状態でも。そんな彼女にこれ以上何をするつもりなのですか?」


精一杯強がって私はフワ先生の前に立っていた。


「次は触覚を奪うつもりであったの。ま、終わりというならそれはせんでよいか」


よかった。

フワ先生が終わりを受け入れてくれたので私はひとまず安堵した。

私がため息をついていると、フワ先生が訓練場の地面を一部掴み取った。

ここ、訓練場だから一応地面にも防御魔法が貼ってあるんだけどなぁ……


岩のようなものがフワ先生の手のひらに乗っかっている。

彼女はそれを手に乗せたまま呟いた。

叛逆術式リベリオン:抹消」


すると、一瞬前まで手の中にあったものが次の瞬間には影も形もなく消え去っていたのだ。

何が起こったのか、私には分からなかった。

私は驚き、反射的にフワ先生の顔を見た。


「ーーーーーーーっ!!?」


そして息を呑んだ。


先程まであった身体の傷が全て消えていたのだ。

それは、私の目をもってしても何が起こったのか欠片もわからない現象であった。

石が消えたと思ったら、傷がなくなる?そんな現象あっていいはずがないのだ。


魔法や術式は基本的には等価交換だ。


魔力を支払い、それに見合っただけの価値のある現象を引き起こす。

支払うのは魔力でなくてもいいが、価値のあるものでなくてはいけない。

例えば生物の体、世の中には自分の身体の一部を神に捧げることによって力を得る人間がいると聞いたことがある。それはわかる。

他の例で言えば宝石なんかが挙げられる。宝石は基本魔力を多く蓄えることができるので、これは当然とも言える。


だが、金銭は微妙である。その価値は人類が勝手につけたものであるから、素材としての価値にしかならない。


そして、本来傷とは魔法や術式を用いて治すものだ。

だから傷とは価値のあるものではなく、価値を支払ってでも消したいものに分類される。

それを多く持っていれば、生命という名の価値が消えるからだ。


それを知っているから、私には傷も石も同時に消えた理由がわからなかった。

石に価値はない、傷に至ってはマイナスだ。

明らかに理に反した力に、私は頭が混乱した。


そして、恐怖した。

もし、この相手が敵に回ったら。


石ころ1つ消すだけで傷がなくなる、触れることすらせずに感覚を奪える相手が敵に回ったらと思うとゾッとした。


「どうしたのだ?」


「いいえ、とりあえず決闘は終わりです。一応聞きますが、アリナさんは治るんでしょうね?」


「うむ、軽くやっただけであるから1時間もすれば勝手に治るはずだ」


未だ闇の中を彷徨い続けるアリナさんが治ると聞いて安心したのと、あれだけやってまだ軽いほうなのかと戦慄したの、どっちが大きかったのかは言うまでもないだろう。




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