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教師vs生徒


生意気な娘っ子がおらんくなった後に残されたフワたちは解散の流れとなった。

その際にフワはそそくさと立ち去ろうとするミリータに話しかける。


「学園長、お聞きしたいことがあるのですが」

「あ、あらフワ先生何かしら?」

「ちょっと調べ物をしたいんですけど、図書室ってありますか?」

「蔵書なら5号間の2階にあるはずですわ。よかったら案内しましょうか?」

「そこまでしていただかなくて大丈夫です。ありがとうございました」


図書室の場所を聞き出したフワは言われた通り5号間の2階に行ってみた。

初めは正確な位置がわからずにフラフラ歩き回るだけであったが、途中で壁に案内板があったのを見つけてそれからはまっすぐであった。


フワは図書室に入るとまっすぐ受付に行き

「歴史のお勉強をしたいのですけど、どこらへんに資料がありますか?」

と問うた。

受付にいた1人の女が懇切丁寧に説明をする。フワはそれに従い歩き、目的である歴史の書物をいくらか手にすることができた。


こやつがこのような行動をとったのは妾が調べてくれと頼んだからであろう。

妾の気分としては空いておる時間があったらでよかったのだが、こやつは仕事より先にこちらを優先しおった。

もしかして、未だに妾の体を使わせてもらっておることに負目でも感じておるのかもしれんの。妾が良いと言っておるのだからすぐに吹っ切れれば良いものを……


フワは放課後まで時間をかけてここ1000年の歴史が記された書物を漁りまくった。

どれが重要な情報なのかはこやつには判別できん。

故にどんな些細な情報でも見逃さないように心がけておった。

これだけ頑張って調べてもらっておいてなんだが、本当は目の前で本を開いてもらうだけで妾の方にも情報が入ってくるからお主が読む必要はなかったのだがの。


ま、やる気になっておるのだ。

言わぬ方が良さそうだ。


「う〜ん、わかったことと言えば1000年前に邪神が居なくなって、それで世界に平和が訪れた。そして戦いの必要がなくなったからそっち方面の技術が廃れていった……って感じかなぁ?」

『それにしては、魔法の適正を調べる方法すら物珍しいものとして見られるというのはどういうことだ? それに、魔術師が精霊のことや術式のことすらよくわかっておらんのも謎だ』

「こういうのって大概、戦闘技術が発展されたら困る人が一度文明を崩壊させた〜みたいなのが定番だと思うんだけど……そんな記述は一切ないしね」

『お主、案外どえらい予想を立ててくるものだな。妾としては人間が愚かすぎて技術の継承がうまくいかずに自然消滅した説を推すかの』

「いや、アイディの記憶ではそこらへんは一般常識だったんだよね? っていうことは意識せずとも継承は途絶えないと思うの。何か別の原因があるはずよ」

『魔術師だけでなく武術家も質が落ちておるように見えたからの……そこは戦いが終わったとかなんとかでわからんでもないが……そもそも、邪神とはなんぞや?』

「え? 知らないの?」

『そういうお主は知っておるのか?』

「私が知っているわけないじゃん」

妾とフワは図書室から出て少しひらけたスペースで意見を交換しあった。

頭脳労働は苦手な妾であるから、こういうのはいい人の意見を取り入れた方が効率よく先に進むのだ。

それにしても、邪神か……妾が眠ったすぐ後におらんくなったとされておるが、そもそもそんなやつおったかの?


妾からすれば妾以外の者は全て弱者にすぎんが、流石に邪神と呼ばれるものが存在しておれば気づきそうなものなのだが……

邪神がいなくなった理由はラメイシスの初代の王が激闘の果てに倒した、とされておる。


ラメイシスが妾の知っておるあれであり、それが激闘を繰り広げる程度の相手であるならそもそも世界にとって大した脅威でもないとも思うがの。

ま、人類に対しては脅威だったのかもしれぬが。ともあれ、この段階ではこれ以上考えても仕方なさそうだ。妾は話を終えることにした。


『妾も知らぬのだからの。それよりお主、決闘とやらは良いのか? そろそろ時間ではないかの?』

「あ、そういえば……」

『きっと遅れていけば五月蝿いぞ。さっさといけ。それとも、逃げるか?』

「いや、行くよ」


ほう、戦いに対して積極的ではないこやつが今回は逃げずに戦うと申しておる。

みると前回森で魔物と戦ったときに比べて明らかに気合が入っておった。

相手が人間であるからかの?だとしたらこやつは妾のような人外の考え方が似合いそうであるの。


フワは小走り気味に訓練場に向かった。


着いてみるともう既に相手は準備完了しており、遅れてきたフワをこれでもかと罵倒する。

当人は忘れていたなどと言えるはずもなく、ただ言われるがままであった。だが、その胸の内の闘志は高まっていく。

会場には立会人の3人と決闘者2人だけではなく、どこかから話を聞きつけてきた他の生徒たちや暇にしておる教員までもが見にきておった。



「決闘のルールを確認しますわ。と言っても、ルールなんてあってないようなものですけど、相手を殺さなければ何をやってもオッケーだから、怖気付いたなら今のうちに地面に這いつくばって許してくださいと命乞いをしなされ」


命を奪えないルールであるのに命乞いをするのか。

人間とは面白いことを言うの。


「逃げませんよ。私は」

「そう、それなら完膚なきまでに叩き潰してあげますから、覚悟しておきなさい」


「それでは両名揃ったみたいなので、最終確認をーーーー」


そこからはルールの確認。

相手に致死量のダメージを与えてはいけない。

今回は魔法戦のため、武器の携帯は不可。ただし、魔法の威力を高めるための触媒は使用可能。

それだけであった。立会人3人の下、ついに決闘が始まる。

3人を代表してミリータが開始の合図を訓練場内に響くほどの大きな声で宣言した。


「先手必勝、私の最速の魔法を喰らいなさい!」

開始直後、相手からものすごい速度で炎の槍がフワに叩きつけられた。

これは初講義の時に使ったものと同じものだ。

しかし速度は今回の方が圧倒的に速かった。

これは多少術式に対して割り振る魔力の割合を変えるだけでできるから、一見違うものに見えるかもしれぬが同じものである。


妾には見えておる故、騙されることはない。


ただ、フワはそもそも講義中に使われた遅い状態のものですらも回避できんかったから、正直言って威力を削って速度を出した今回のあやつの判断は愚策とも言えるの。

やるなら威力をあげるべきだった。


あの娘っ子は経験が足りておらんようであるの。

とりあえず、で魔術を扱っておる感じだ。


「きゃっ!!」


フワはとっさに手を前に出すが、同じ生身で受けるなら防御行動をとるべきではなかろうに、こやつも経験不足だな。

威力を抑えられておったためフワは吹き飛ぶことはなくちゃんと二本の足で地面に立っておった。


それを見た相手は次の一手の準備に入る。


「我が手より生み出されし紅蓮の魔力よ、今こそ煉獄の炎となりて、歯向かう敵に滅びを与えよ!! 焼き尽くせ、インフェルノぉ!」


うむ、あれはただの魔法であるな。

炎の精霊が手に集まってせっせと魔力を炎に変換しておる。

しかし、詠唱としては3流もいいところだ。


我が手より生み出されし紅蓮の魔力よ、


の部分の『紅蓮』はいらんな。なくても同じ効果が出るから言うだけ無駄だ。そして、この詠唱文だと手のひらにある魔力しか変換してくれん。

ということは、いちいち魔力操作で自分の手に魔力を集めておかねばならん。


今こそ煉獄の炎となりて


の部分は表現が曖昧だ。

煉獄の炎とは? と、精霊がなった場合には精霊の自己判断に任せることとなる。

結果、威力が安定せん魔法になりかねん。


歯向かう敵に滅びを与えよ。


の部分も誰にが抜けておるし敵が誰なのかを指定しておらんからの。

今回のような場合では問題はないが、戦場のど真ん中で使ったらあらぬ方向に飛んで行くぞこれ


ということでこの詠唱は20点くらいかの?もちろん100点満点だ。


色々な問題があるからか、その魔法は込めた魔力に対して8割程度の力しか発揮できておらんように見えた。

いや、あの詠唱で8割超えておるのだから良い方か? 本来なら6、7割くらいに収まりそうであるからの。


そして、宣言通り手のひらの魔力だけを集めて作られたそれなりに高温の炎がフワの身体を焼いた。

妾も一緒に業火に焼かれておる。

皮膚が焼けそうであるの。妾、最強ではあるが防御力は出来るだけ下げておるから、こんな風に素人でも全力で攻撃すれば傷くらいはつくのだ。


『微妙に焼けておるようだが、治すかの?』

「終わったらお願い」


うむ、フワは炎の中でも自分を見失っておらんようだった。

それどころか、炎の音に隠れながら詠唱を始める。


「土精さん、私の魔力を使って私の前方12メートル先に半径1メートル、深さ2メートルくらいの穴を一瞬で開けてくれるかな?」


相手の詠唱はえらく詩的なものであったが、逆にフワの詠唱は必要な情報を詰め込んだだけの事務的なものであった。詩的な詠唱でも悪くはないが、妾としてはこうした方が効率が良いのでこれを教えた。



たまたま近くを漂っておった土の精霊はその指示を忠実にこなす。

その代償として魔力を持っていかれたが、そんな出費あってないようなものだった。


「なっ、いきなりなんですのおおぉ!? ふぎゃぁ!」


文字通り一瞬で作られた穴に娘っ子は落ちていきおった。

回避するそぶりすら見せんかったの。


娘っ子は落ちて尻でも打ったのか情けない悲鳴をあげる。

そして何が起こったのかを素早く察知して穴から這い出ようと穴の淵に手をかける。

だが、手が穴の淵に引っかかった直後、上から降ってきた影を見上げることとなった。


「降参しますか?」


「誰が! ちょっと不覚をとったけど、今すぐにでもあなたを倒して差し上げますわ!」


「そうですか……では、先ほどの土精さん、作ってもらった穴ですが、もう2メートル追加でお願いします」


フワがそう言うとまるでそこに最初から土などなかったかのように娘っ子の足下の土が消えた。

フワは穴を作る方法の説明を精霊にせんかったから、強引に土を壁に押し付けて体積を減らすことによって穴を拡張するのが妾には見えた。

そのせいで穴の壁はカッチカチだ。

一瞬を指定しておったから消費魔力がとんでもないことになっており、人間では使えない魔法になっておるがフワは気づかない。


「土精さん、仕上げです。今、掴まれている穴の淵を液状化してください」


「えっ!? ちょっ、ちょっと待って!!」


無情、フワの魔法によって穴が突然深くなったことによって掴まっておった手を離すことができなくなったところへ、掴んでおる場所をドロドロにして下に叩き落としおった。


穴の深さは4メートル、魔力で身体を強化すれば大した怪我はせんだろうが、問題は穴から脱出できんことにあるだろうな。


ぬるっと滑るように落ちていた娘っ子の声が穴の下から聞こえる。


「ちょっと!! 出しなさいよ! 私にこんなことをしていいと思っているわけ!?」


「負けを認めてくれたら出してあげますよ。ほら、参ったって言ってください。言わない場合は穴を埋めます」


「くっ〜〜〜〜〜、ま、参った!! 参りましたから穴を埋めるのをやめて私をここから出しなさい!!」


「はい、よくできました。土精さん、先程作ってもらった穴を下から持ち上げるようにして周りの地面と同じ高さまで上げてください」


敗北宣言をした娘っ子は無事に穴から脱出することができた。

フワは誰も怪我をすることなくこのトラブルを解決できてよかったという風な顔をしていた。


「かかったわね!! 喰らいなさい!」

そこに、娘っ子の術式が直撃する。今度は至近距離から、威力重視の一撃であった。

それも、頭部への一撃だ。


妾の体故、この程度の一撃で頭が弾け飛ぶことはないが、顔に火傷を負うくらいはするだろう。

その一撃であるが、あまりに至近距離であったため術者本人もそれなりに爆風を受けてダメージを負っておった。


弾かれるように吹き飛んだ先で、娘っ子は肩で息をしながらフワを睨みつける。


「参ったって言えば負けなんてルールはありませんわ!! おーっほっほっほ!! 策に溺れましたわね!」


渾身の一撃であったのだろう。そして、それが頭部に当たったことで勝利を確信したのだろう。

吹き飛んだ後、立ち上がらないフワを見下しながら高笑いしておった。


まっ、派手ではあったがどうこうという攻撃ではーーーーーっておいお前様よ、どうして寝ておるのだ?

ってあれ? ……なにやら引っ張られる感覚があるの?


何故だ?


魂が引っ張られておるような感覚があり、それに対して不思議に思うてフワを見てみたらなんとこやつ、気絶しておった。

………まさかとは思うが、こやつ、先程の至近距離での光と爆発にビビって気絶したとは言わんだろうな?

ダメージで、というのはありえんし……



ぬ? 引っ張る力が強うなってーーーーー




「あっ……」


どうやら、フワが気絶すると妾が強制的に外に出されるようだ。


気づけば妾は自分の体をの主導権を握っておった。

………仕方ない、不出来な弟子の尻拭いだ。ここから先は妾が少し手ほどきをしてやるとするか……

伝え忘れていましたが、投稿ペースは基本的に1日1話、時間はランダム、でいこうと思っております。

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