自己紹介(夢語り)
入学式は恙無く終わり、フワは1ーAクラスというクラスの担任になることをその場で発表された。
フワは入学式が終わった後、一度職員室に呼ばれそこでクラス名簿を手渡された。
こやつが受け持ったクラスは総勢26名のクラスのようであった。
フワはそれを手渡されて自分が1つの城の主人になったことを実感したのか、気持ち悪いくらいに顔を緩ませておった。妾の顔だというのだから、少し複雑な気分よの。
妾、これでも1000年前はクールなキャラで通っておった故。
今日入学した者たちに伝えねばならぬことをまとめた資料も同時に受け取り、フワはスキップでもしそうなほど上機嫌で受け持ったクラスに入った。
ガラーーーっと横引きの扉を開くとそこでは座ったまま近くのものと会話をする生徒たちの姿があった。
「おっ、あれが俺たちの担任だったな」
「でもあんなに小さいけど本当に大丈夫なのかしら?」
フワが担任であるのは入学式の段階でわかっておったから、入ってきたフワを自分たちと同じ生徒と誤認するものはおらんかった。
だが、その容姿を見て不安がる気持ちを隠すつもりもないらしい。
あからさまに探るような目でこちらをみておるものが多数おった。
逆に、こちらをみておらんものの方が妾にとっては気になったがの。
黒髪の女だった。
別に黒髪が珍しいというわけではない。
珍しいと思うたのはそのものの魂の方である。
妾はもう既にフワと出会い、そしてそれなりの時を一緒に過ごしておるからこそわかる。
あやつはこの世界の人間ではなかった。
一応、注意しておいた方が良いかもしれぬと思っていらぬお節介かとは思うたが念のためフワに教えてやることにした。
『お主、気づいておらんだろうが一番後ろの席におる黒髪の女、お主と同じように異世界から来たものであるぞ』
「うん、ちゃんとわかってるよ」
『ほう、お主にも気づけておったのか』
「だってクラス名簿を見たら、ね?」
こやつは抜けておるところが多いが、頭の回転が遅いわけででも、目端が期間というわけでもない。
妾に言われるるまでもなく、自分の目でそやつが異世界の出の者であることに気づいておった。
「みんな席についてるね。これから連絡事項とかを先に話してしまうから静かにしてー」
フワは異世界人が混じっておることを気にしておらん様子で伝えるようにと言われたことを1つずつ伝えていく。
主な内容は施設の利用方法や、講義の受け方、学園生活での規則、部活動とやらについてだった。
そしてそれが終わると今度は自己紹介をするということになった。
お互いのことをよく知ることによって早めに親睦を深めさせよう。
これは今日という日が来るまでにフワが職員寮に引きこもり考えたことの1つであった。
フワは自己紹介をさせる前にそれぞれに一枚の紙を配った。
「先生、これは?」
「見ての通り、文章を書くための紙です。みなさんにはそれに将来何をしたいかを書いてもらうことにします」
「え〜なんでそんなことをしなきゃいけないの〜?」
「それは目標を明確にすることによって学園生活での過ごし方をはっきりさせるため、ですかね? とりあえず、自分が将来何をやってみたいか、どんなお仕事に就きたいかをその一枚の紙に書いてみてください」
フワはこのクラスにおいては王様だからの。生徒たちは不満を持っておったみたいであるが、入学したばかりのあやつらには抵抗するという選択は取れんかった。
下手なことをして退学にでもなったら笑い物だからの。やってはならぬラインを見定めるまでは大きな行動は取れんと思っておるのだろう。
フワは渋々といった様子で紙に将来やりたいことを記入していく生徒を眺めながら、全員の手が止まるのを待っておった。
そして手が止まった後は
「みなさんかけたみたいですね。では、回収するので後ろから回してください」
と言って全て回収した。
生徒たちは気恥ずかしさかそれを裏側を向けて他人に見えぬように回していく。
帰ってきたその紙は示し合わせたように裏側の真っ白な部分だけが見えておった。
「はい、ありがとうございます」
回収を終えた後、フワは一言お礼を言ってそれをまとめて教卓の上に置いた。
そして自己紹介を始める。
「まずは先生からですね。先生は西河 不破と申します。こんな見た目ですが33歳です。今年就任したばかりですので皆さんと同じ一年生というやつですね。これから3年間、よろしくお願いしますね」
当たり障りのない自己紹介だった。
自分の年齢を33というた時にはその見た目とのギャップ故かざわめきが起こったがの。
ま、33というのは魂の年齢であってその体の年齢ではないから本当はもっと歳を食うておるのだが、言わぬ方が華よの。
フワが小さく頭を下げるとバッ! っと手をあげるものがおった。
「先生質問!!」
「どうしました? モデス君」
「先生は独身ですよね?」
「いいえ、既婚者です」
そのやり取りでまた教室が湧く。どんなやつが夫なのかとか、夫はきっと変態だとか、犯罪だとか心にもないことを言うておった。
フワは特に気にした様子はない。寧ろ懐かしむような顔をしておった。
その雰囲気を感じ取って妾はこやつがもうその伴侶と出会えぬことを思い出した。
『お主、辛くはないのか?』
「大丈夫、アイディのおかげで寂しくないから」
心配して声をかけてみれば、生徒たちには聞こえんほどの小さな声でフワはそう答えた。
ふん、言っておれ。
「先生質問!! 」
「先生への質問もいいですが、先に皆さんの自己紹介を先に済ませてしまいましょう。その後に、気になることをそれぞれに聞くことができる時間を設けますので、というわけで番号1番のアウジェロ君から行きましょうか」
「はい!! 僕の名前はアウジェロ・バーツで、えっと、剣を扱うのが得意です。みなさん、よろしくお願いします!!」
「ちなみに、アウジェロ君の将来の夢は騎士団の団長で、今は故郷の村で自警団として活躍している父のようにカッコいい存在になりたいとのことです」
「ちょっ!? 先生!!?」
アウジェロとやらが軽い自己紹介をした後、フワが補足説明のように先ほど手に入れた書かせた情報を引き出して口を挟む。
突然のことであったのと、まさか真っ先に書かされた夢を暴露されると思っておらんかったのか、アウジェロは声を荒げてフワの方を見る。
それをやった当の本人は微笑みを返すだけだ。
「じゃあ次、アメリーノ君行ってみようか」
「うえぇ!? やめてくださいよ先生、普通に自己紹介するだけじゃダメなんですか!?」
「こうした方が話題が合う人が見つけやすいと思いまして……いいですよね?」
こやつ、鬼だ。
嫌々書かされた将来の夢はそれはもう本当に夢としか言いようのない、分不相応と罵られてもおかしくないほど大きなものも混じっておる。
例えば、魔王を倒す勇者とか、歴史に名を残す賢者とかの。
そして、そういう夢を描いたものに限って結構書き込まれておる。
フワのやつはそれを全て読み上げるつもりだった。
これはみておられんな。
そう思ったが、フワの選んだ道故止めることはできん。
夢の発表会となって顔を赤くしておる生徒たちを少しかわいそうと思いながらも、みておることしかできんかった。
自己紹介が終わった後、生徒たちはぐったりとした様子で机に身を預けておった。
と言っても、三分の一程度の人数であるがな。ほとんどのものは己が目標、成すべきと思うておることだ。
胸を張って自分から紙に書いた内容を言うたものもおる。そこらへんは意識の差であろうな。
妾なら……絶対にごめんだ。
「それでは、お互いのことを知ることができたでしょうし、連絡事項も話し終えています。今日やるべきことは終わったので今日はこれで終了とします。明日からは早速授業が始まりますので、みなさん遅れずにきてくださいね。それと、私は今日はこの部屋にいますので明日からのことなどで何かわからないことがある、また私に質問がある人は積極的に質問にきてください」
「「「は〜い」」」
これで初日にやることは終わりとなり解散となった。
フワは宣言通り教室に残り、明日の授業に向けてのおさらいをしておった。
そんなフワに質問をしにきたものは少なくはなかった。ただ、大体が盛りついた猿であったため特段話すべきことでもなかろう。
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