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3つのプロローグ

新作始めました。よろしくお願いします

1つ目



パラ、パラ、とページをめくる音だけが部屋の中に響いていた。

私はベッドで上半身だけを起こした状態で本のページをめくる。読んでいる本は最近ノーベル文学賞をとったとされた本。文学作品ということでどこか堅苦しく小難しい書き方をされたその本は読むのにとても時間がかかる。


だが、私にとって時間がかかるというのはいいものであった。


ここは、病室だった。


誰もいない空間で時間を持て余している私にとって、時間を消費する趣味というのは非常に助かっていた。

パラ、パラ、と私はページをめくりながらその本の内容に思考を寄せていた。

すると、気づけば窓の外から入ってくる光が赤みがかっていることに気がついた。

もう夕方、そろそろくるかな?


私が少しだけ期待に胸を寄せながら病室のドアの方を見ると、私の予想通りと言うべきか希望通りと言うべきか、病室のドアが開き看護師と2人の男女が現れた。


男性の方は年齢は40歳はある見た目をしている。

しかし彼は実際にはまだ30代なことを私は知っていた。

彼は私の夫だ。


そして女性の方はその娘。つまり私の娘ということにもなる。

2人は会社や学校から早く帰ってきてはそろって私のところに顔を見せてくれる。

まだ小学生の娘にはわかっていないかもしれないが、医者から聞いている夫の方は私の死期が近いことを重々承知していた。


いつも心配そうな目で私の方を見てくる。

私は心配させないようにできる限り笑みを見せる。

もう、3ヶ月も続いたやりとりだ。


それから、私は2人と暗くなるまでお話をした。

外が暗くなった時、2人は帰ると言った。


まだまだと駄々をこねる娘に、夫はお母さんも疲れているんだから休ませてあげなさいと諌めて病室から出て行った。

私は………ここで体力を使い果たしてもいいから、あなたたちと話し続けたい。

心のどこかでそう思っていた。


思えば、夫には迷惑ばかりかけてきた。妻らしいことは何もしてあげられなかったというのに、彼はそのことに不満を一切口にしなかった。

私には、もったいないほどいい人だった。


娘も、いい子だった。

お父さんの血が色濃く出ているのだろう。昔から病弱だった私とは違い、娘は快活に育ってすごく安心したものだ。


暗くなり、静かになり、寂しくなった病室で私は体をベッドに横たえた。

読みかけの本は近くの台の上に放置した。電気は看護師さんに言って消してもらった。


私はそのまま目をつぶり眠りに落ちた。














そして、その体はそのまま起き上がってくることはなかった。

私は幸せだった。いい夫や娘、両親に恵まれ、みんなに迷惑をかけ続けた私は自分の人生に文句を言う資格はなかった。

いや、文句を言うつもりもないんだが……


でも、一つだけ、心残りがあるとするなら、最期は2人に看取って欲しかったなぁ………



こうして、私ーーー西河 不破の人生は、静かに幕を下ろした。




……はずだったのだが









あれ?


ここ、どこ?


なんだろう?からだが、うごかない?


て、あし、うごかない?



というか、ない?


あ、もしかして、しんだ?


ひとって、しんだらこうなるの?


わたし、これからどうなるの?


したいは、やかれるよね?


じゃあ、これからやかれる?


もうやかれた?


わからない


わからない


わからない………


何も見えなくて、何も感じない状態の私は混乱していた。

でも、この状況でも何かできることはないかと必死になって体を動かそうとした。

だが、動かない。私は躍起になって手足を伸ばそうとした。無駄だとわかっていても、意識があるなら足掻こうと思った。


そして、それは実を結んだ。


ーーーブチュッ


なにかを突き破るような音とともに、手が動くようになった。


ーーーブチャッ


次は足が、そしてあがき続ければ頭が飛び出て世界を見ることに成功した。


そして、そこで私が見たものは経年劣化が酷い家具以外何もない石壁の部屋と球体から手足と頭が生えている状態の私だった。


「うえええええええええ!!?」


びっくりした私は体を大きくのけぞらせた。

そして後ろ向きに地面に倒れて後頭部を打った。

痛っ、、くはない?


後頭部を結構な勢いで打ったのにあまり痛くはなかった。

まだ混乱は抜けきっていないが、私は状況を確認することにした。

まず第1、ここは病院ではない。

そして第2、これは多分、自分の体じゃない。


手足の長さがまず違うし、頭から生えている髪の毛がまっしろけっけだ。

そこでふと、部屋の端の方に鏡を見つけた私はそれで自分の体を確認してみた。


そしてーーーー


「えええええええええええええ!!? なんで私、アイディールになっちゃってるのおおおおお!!?」


そこでみたのは、今はもうサービスが終了してしまったゲーム、『イデアクロニクル』で自分が作ったキャラクターであるアイディールの姿そっくりの自分であった。

そして、そうやって声を上げていたのがいけなかったのだろうか?


『おう、起きたのか?』

鏡の前に落っこちてた本が私が動いていることに気づいて話しかけてきた。

その豪華な装丁の本の表紙には巨大な一つ目と口、そしてギザギザの歯が付いていた。


「きゅ〜」


そのあまりの見た目と、いろいろなことがありすぎて脳の処理が追いつかなかった私は気絶した。








2つ目


ラメイシス神聖王国の会議室は重苦しい空気に包まれていた。

原因はつい先ほど、満身創痍で帰ってきた1人の男の存在にあった。帰ってきた男の名はジェイル・アルバート、最強の斥候として名高い男だった。

ジェイルはひと月ほど前から勇者と呼ばれる男とともに魔族が統治する土地に赴き、魔王と呼ばれる存在を打ち倒すための決戦に赴いていた。


今代の勇者は歴代最高とまで呼ばれており、名だたる魔王軍幹部たちを破竹の勢いで倒し、ついに魔王にまで手が届いた。

勇者は魔法使い、聖女、騎士、そして斥候の5人で魔王に挑み、見事に勝利した。

そこまでは良かった。だが、問題はその次に現れた1人の魔族だった。


魔王の息子を名乗るその魔族は、魔王にとどめを刺そうとしている勇者の前に立ちふさがった。

魔王を倒しはしたが、消耗は少なかった勇者たちは露でも払うかのように魔王の息子を切り捨てようとしたーーーーーその時だった。


勇者たちは全員もれなく、血しぶきを上げてその場で倒れ伏した。

斥候と聖女だけは比較的傷が浅かった。

だからその2人だけは生きていたが、勇者と騎士、魔法使いは即死していた。何をされたかジェイルには皆目見当はつかなかったが、彼はとっさの判断でまだ生きている聖女を連れて逃げ出したのだ。魔王の息子は、追いかけてこなかった。


ジェイルは息も絶え絶えになりながらも神聖王国の王都トーラに戻ってきて聖女を教会に預けた後、最低限応急処置をした体のまま報告をした。

聖女はジェイルによって教会に預けられる直前には意識を取り戻していた。そこで伝えられた内容も、ジェイルはそのまま国に伝えた。それが故のこの重い空気であった。



彼が伝えた内容、それは魔王より強い敵の能力ーーーー過去に受けた傷を全て同時に再現する能力だった。

国の重鎮たちは揃って頭を抱えた。


魔族を倒すためには強い人材が必要だ。しかし、強い人材は育成段階でどうしても怪我をする。

小さなものならまだしも、重い傷を全て同時に再現されてはひとたまりもない。

ジェイルと聖女が生きていたのだって、その2人が傷を負うことがほとんどないからだ。

それであっても満身創痍は免れなかった。


強きもので箱入りのように怪我をしたことがない。という無理な条件を突きつけられた人間の国はその情報に振り回された。

そこで、ラメイシス神聖王国は1つの決断をする。



それは、異世界から勇者を召喚することだった。


数日後、異世界の日本という国から30人ほどの男女が同時に召喚された。

彼らは『スキル』という特別かつ強力な力をそれぞれ宿しており、安全な国で生まれ育ってきたという望む条件にぴったりであった。


少々平均年齢が低めだったが、概ね問題ないとされ、大量の勇者の誕生に国は湧くことになった。








3つ目


妾、アイディール・F・エクシミリアは最強の個である。

妾に勝てるものなど存在せぬし、妾はどんなことがあろうとも死ぬことはない。

だが、最強といえど弱者ーーーつまりは他の者たちを虐げるつもりも毛頭ない。

妾がその力を振るうのは、ムカついた相手を殴る時、もしくは攻撃されたときくらいだ。


かつて、妾がこの世界に落ちてきたとき、妾の力を危険視した馬鹿どもが襲いかかってきたから返り討ちにしたということもあった。

何万の兵を集めようと、そもそも格が違いすぎるのだ。それを理解せずに襲いかかってきたやつは例外なく返り討ちよ。

そもそも、なぜ襲われるのか?


それは妾の見た目が少女のような華奢であること、それにもかかわらず強大な力を持っているということが関係しておるのだろう。

正直、他のものが何を考えて襲いかかってきたのかはわからなんだ。


でも、初めから勝てないと理解している賢者のようなものもおった。

その中でも一番顕著であったのは英雄とまで呼ばれた男、ラメイシスだろうな。


奴は妾を見るとすぐに頭を垂れた。


他のものには絶対に屈しない奴であったが、なぜか妾にだけは真っ先に負けを認めた。

まっ、おおよそ見た瞬間にその実力差に気づいたんだろうな。

襲ってこなければ特に何かするつもりもない妾は無視したんだがな。

ともかく、そうやって襲ってくる馬鹿どもを蹂躙し続けて妾は疲れた。

丁度、誰も妾に手を出そうと思わなくなった頃であったし、眠りにつくことにした。


妾の眠る部屋には厳重に封印を施した。

そして、起きた時に状況を確認できるように1人ーーーいや、1つの配下も配置しておいた。


それから約1000年ほど眠ったときだった。



何やら、体の感覚がおかしくなったのだ。

それに少し不快感を覚えて意識を覚醒させてみると、勝手に体が動いておった。勝手に口が情けない悲鳴をあげておった。


鏡を見て絶叫しておった。

そして妾が配置した配下を見てびびって気絶しおった。


つまりーーーー1000年の眠りから覚めたら何か別の魂が妾の体に入り込んでおった。

どうしてこうなったのか?

妾にもわからん。



そしてこれは、体に別の魂が入り込んでしまった妾の物語である。

心して聞くが良い。


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